感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

免疫不全患者でのノロウイルス胃腸炎

2014-01-21 | 感染症
前回に続きましてノロウイルスに関して。今回のアウトグレイク事件で、当院通院中の方からも万が一感染した場合どうなるか、の質問を受けました。リウマチなどで免疫抑制治療中の方は、この感染にかかった場合どんな特徴になるのか。文献からまとめてみました。 免疫不全者でのこの感染症は慢性下痢症となり冬季にかぎらず発生しうるということなので、非流行期でも念頭におくべき疾患であることになります


まとめ

・ノロウイルス感染性胃腸炎は、特徴的に自然軽快的で一般的な急性疾患ではあるが、免疫不全患者においては衰弱し生命危機的になりうる。
・免疫応答性宿主におけるノロウイルス胃腸炎の知られた特徴を比較すると、対して免疫不全宿主では十分にウイルスを排除することはできずこの感染の潜在的に深刻なアウトカムが強調される。
・長期化したノロウイルス感染症は、先天性免疫不全症、 臓器同種移植片を維持するための免疫抑制療法、 癌化学療法、 およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、の結果として免疫抑制された者に報告されている。
・研究数の増加は、免疫抑制療法は、ノロウイルス感染の危険因子であることを示している。
・腎移植レシピエントの2年間の調査では、患者の17%が慢性的にノロウイルスに感染していたことを示し、断続的下痢を持っていた。
・免疫応答性成人では、ノロウイルス胃腸炎は、特徴的に(持続時間が24時間から48時間)に深刻であり自然軽快性であるが、免疫不全の成人では、疾患は慢性化し、数週間から年にわたって持続しうる。
・一般集団にては冬季での感染の著しい優位性が記録されているが、対照的に、小児癌の症例対照研究や造血幹細胞移植患者の症例シリーズにおいては、疾病率は年間を通して変化しないことが報告。
・慢性ウイルス排出の患者からノロウイルスが免疫正常の成人へ伝達しうるかどうかはまだ明らかではないが、免疫不全疾患を持つ人がソースでの院内集団発生はまれである。
・無症候性の排泄は低ウイルス量と関連し、嘔吐や下痢は免疫抑制療法を受けている患者において高ウイルス量にリンクされている。 これらの知見からは免疫正常性宿主におけるときと同様に、ほとんどの場合はウイルスは症候性の人から伝播されうることを示唆している。
・臨床像でも慢性ノロウイルス胃腸炎は免疫不全者で特異的で、例えば、免疫抑制腎移植レシピエントにおけるノロウイルス誘発性下痢は劇的な体重減少を特徴とし、治療可能な細菌や寄生虫によって誘発される下痢よりもかなり長く持続する (すなわち、 平均9ヶ月 対 1ヶ月)。 長引くノロウイルス関連の下痢に関連する栄養失調、脱水、および腸粘膜壁障害は基礎疾患のアウトカムを悪化させる。
・コンピュータ断層撮影は、ノロウイルス感染およびGVHDの間の識別を補助することが報告されている。 ノロウイルスに感染した患者は小腸に限局した腸管壁の浮腫を顕著に示しているためで、これは腸のサイトメガロウイルス感染やGVHDの患者ではまれにしか見られない。
・感染者の糞便中に存在するウイルスの変異体の解析では、免疫応答性の人(急性期中にて感染は解決)では単一の主要なバリアントが優勢であることを示し、一方で、慢性ノロウイルス感染症は免疫不全の患者では多様なウイルス集団を持っていた。これらのデータは、免疫圧力のない慢性感染宿主内での多様なノロウイルス集団を生成することができることを示している。
・ワクチンまたは特定の抗ウイルス剤は、ノロウイルス感染を予防または治療するために現在利用可能でないが、 最近ワクチン開発において進歩があった。
・慢性感染患者におけるノロウイルスクリアランスはT細胞の回復に関連することが示されている; ある研究では、症状が増加したCD4 +カウント持っていたHIV感染患者では改善された。
・移植レシピエントにおける慢性ノロウイルス感染の長引く病気中の免疫抑制療法の調整が必要な場合がある。
・ニタゾキサニドNitazoxanide(抗原虫薬)は、大幅に免疫応答性のロタウイルスやノロウイルス患者の両方の誘発性下痢に関連する症状解決までの時間を短縮することが報告された

・厳格な個人衛生、特に手洗いは、ノロウイルス伝送に対抗するための単一の最も有効な手段である。
この対策は、免疫不全疾患を持つ小児のユニットでの環境サーベイの間に、病院の表面の80%が21の異なるノロウイルスに汚染されていることが判明した事実を考えると、重要である。

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