感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

リウマチ性疾患とビタミンD

2015-10-22 | 免疫

当科は関節リウマチや類縁疾患が多いため“疼痛外来”のような感じになります。体のあちこちが痛いとまずリウマチ性疾患を考え紹介されてまいります。その中には慢性的な骨痛ともいえるような状態からビタミンD欠乏症を見つけた例もあります。RAの患者さんでも慢性的に関節以外の骨痛ともいえるような痛みを訴える方もおられます。調べますとビタミンDは骨代謝だけでなく免疫系にも関係した多面的なホルモンであり、その欠乏はRA活動性や慢性疼痛にも関連しうるようです。RA、SLE、IDDM、MS、いくつかの癌、心臓および感染症を含む多くの慢性疾患リスクを減少させるのに重要な役割を果たしていると認識されてきています。文献をまとめました。

 

まとめ

 

・ビタミンDは、一世紀前に発見され、ビタミンとして分類された。

・栄養前駆体化合物の(一般的にビタミンDと呼ばれる)cholecaliferolと、 1,25OH2D-ビタミンDホルモン形態とを区別する必要がある

・CholecalciferolはDホルモンのプレホルモンの形態で、摂取されるかまたは前駆体分子(7-dehydrocholesterol)環の一方が紫外線(UV-B、太陽光)によって分解され皮膚で生成される。

・1,25(OH)2D(現在Dホルモンとして知られている)複数の生物学的効果を持っている多面的なステロイドホルモンである

 

・カルシウムホメオスタシスおよび骨代謝回転の調節に不可欠なだけでなく、種々の細胞および組織における体内での、抗増殖、分化誘導、抗菌、免疫調節および抗炎症特性を有する

・抗原提示を減少させ、前炎症性Tヘルパー1型プロファイルを阻害し、および制御性T細胞を誘導して、免疫グロブリン産生を抑制、および形質細胞へのB細胞前駆体の分化を遅らせる、など様々なメカニズムによって免疫応答を調節すると思われる。

・Dホルモン(1,25(OH)2D)自体、またはそのアゴニスト、がビタミンD受容体(VDR)にバインドされる場合にのみこの効果を達成することができる

・同じシグナリングパターンを使用して、1,25(OH)2Dは、局所的な組織で生産、マクロファージ、樹状細胞(DC)、T細胞およびB細胞を含むいくつかの免疫細胞上のその効果を発揮しうる

・いくつかの研究では、小児リウマチ性疾患(PRD-例えば、JIA、jSLE)を持つ子どもの高い割合がビタミンD欠乏または機能不全を持っていると実証。

・疾患を治療するために使用されるグルココルチコイドは、ビタミンD代謝を調節する作用を有することができ、 これは、さらに、PRDで骨代謝回転を悪化させる

 

高齢者ではビタミンD合成の効率が低下し、ビタミンDのその活性型への腎変換の低下のため、ビタミンD状態不良リスクが高い。低い内因性産生は、食事摂取および栄養補助食品使用ことにより補償することができる。しかし英国では、ビタミンDを多く含む食品(例えば、油性魚、ニシンやサバ、強化マーガリン、肉、肉製品、卵)の高齢者での食事摂取も不良。

・骨軟化症、くる病の臨床症状がある、骨痛がある、血清アルカリホスファターゼまたはPTHレベル上昇、血清カルシウムやリンの低値では、血清25(OH)D濃度の測定は指示されてきた。

・多くの研究は、1,25(OH)2Dホルモンは、I型糖尿病、多発性硬化症および関節リウマチなどいくつかの自己免疫疾患の病因において重要な役割を果たすように思われることを示唆している。 [Virus Res. 2012 Feb;163(2):424-30.]

・ ビタミンD不足または欠乏は多く存在し、多数の慢性炎症性疾患および悪性疾患と関連し、そして死亡率のリスク増加とさえも関連することが示されている。

 

VitDとRA

 

・Merlinoらによるアイオワ女性の健康調査は、55-69歳の29368人の女性の前向きコホート研究からのデータを分析した。ビタミンDの摂取量は、RAリスクの大きな低下と関連する可能性があることがわかった。[Arthritis Rheum. 2004 Jan;50(1):72-7.]

・ ビタミンDの摂取量とRAのリスクとの関連を評価した研究のメタ分析では、研究間での異質性を伴わず、ビタミンDの摂取量とRAの発生率との関連を示した. [Clin Rheumatol. 2012 Dec;31(12):1733-9. ]

・ビタミンDの欠乏はRA患者に一般的であり、疾患活動性に関連しうる。

・Rossiniらは、ビタミンD欠乏症(25(OH)D値<20 ng/ml)はRA患者でcommonであり、全体集団の43%に影響を及ぼすとしている。またボディマス指数(BMI)及び日光曝露時間は25(OH)D値の良好な予測因子であった [Arthritis Res Ther. 2010;12(6):R216.]

・疾患活動性の高い関節炎の患者では、血清中25(OH)D濃度と28関節スコアの間には陰性の相関があった。[J Clin Rheumatol. 2015 Apr;21(3):126-30.]

・RA患者のグループで、25(OH)Dのレベルは DAS28に陰性の相関であることが見出された。  相関係数は-0.084。25(OH)Dレベルはまた、CRPおよびESRに陰性の相関であった。[Ther Adv Endocrinol Metab. 2012 Dec;3(6):181-7.]

・Braun-Moscoviciらによる研究では、85人のRA患者でビタミンDレベルと疾患活動性との間に相関は認められなかった。 しかし、それらの被験者は全体的に高疾患活動性と低い25(OH)D3レベルを有し高いビタミンD欠乏率を占め、これは研究の結果と疾患活動性との相関性の欠如に影響を与えた可能性がある。

 

・ビタミンDの補給は、自己免疫疾患の発症に免疫寛容を誘導し、従って防止するための手段として提案されている。[J Allergy Clin Immunol127: 1128–1130]   最近になってビタミンDと抗リウマチ薬の組み合わせは、RAのために提案されている。 [Med Hypotheses. 2012 Dec;79(6):757-60. ]

・ビタミンDの補給は、骨粗鬆症の予防のため、ならびにRA患者における疼痛緩和のために両方の必要とされるかもしれない

 

その他の疾患

 

・Azali らは特発性炎症性筋疾患(IIM)と健康者で25(OH)ビタミンDの血清レベルを評価し、患者にて有意に低い血清レベルを示した (median 39 (10-168) nmol/l vs 68 (19-197) nmol/l; p=0.0001)。筋炎のサブグループ間のビタミンDレベルに有意差は認められず。[Ann Rheum Dis. 2013 Apr;72(4):512-6.]

・小児SLEの疾患活動性は、おそらく低血清25-OHビタミンDレベルと関連している。 したがって毎日のビタミンD3サプリメントは、潜在的に小児SLEの疾患活動性に影響を与える可能性がある。[Clin Rheumatol. 2015 Jan;34(1):81-4.]

・Sahebari らは血清25(OH)D値とループス疾患活動性との相関を報告した記事の交絡因子に焦点を当てたメタ分析との系統的レビューを行った。交絡因子では、BMI、薬や腎臓の関与が研究者らによって報告された最も顕著なものであることを示した。[Lupus. 2014 Oct;23(11):1164-77.]

・SScの患者は、非常に低いビタミンD濃度を有する傾向があり。ビタミンD欠乏症とのSSc患者はより長い、より重篤な疾患を実証。 [ J Rheumatol. 2009 Dec;36(12):2844; author reply 2845. ]、特に肺病変合併において 。[ Clin Rheumatol. 2010 Dec;29(12):1419-25.]。

・最近の研究では、慢性疼痛、特定の筋骨格系の痛みおよび一般的な骨および/または筋肉痛を持つものと不良なビタミンD状態の関連性を示している。 65歳以上英国成人健康調査からの分析でビタミンDの欠乏はびまん性筋骨格痛に関連することが知られている。  [Br J Nutr. 2012 Apr;107(7):1080-4. ]

 

VitD欠乏症定義について

 

・ビタミンDの状態を決定するための最善の方法は、血清25(OH)Dレベルを測定すること

・2010年に医学研究所(IOM)は、ビタミンD欠乏症は、子供と大人のための<20 ng/ mLの25(OH)Dレベルとして定義されるべきであると結論付けた [Dietary Reference Intakes for Calcium and Vitamin D.  Institute of Medicine (US) Committee to Review Dietary Reference Intakes for Vitamin D and Calcium]

・内分泌学会内分泌臨床実践ガイドライン委員会は、ビタミンD不足と充足の新しい定義を提案した。 [J Clin Endocrinol Metab. 2011 Jul;96(7):1911-30.]

・現在、小児と成人の両方のため 25(OH)Dレベルで、ビタミンD欠乏症は <20 ng/mlとして、不足は21-29 ng/mlで、およびビタミンD充足は>30 ng/mLとして定義されている。

・40~60 ng/mLの間の25(OH)Dレベルの維持は理想的であり最大で100 ng/mlが安全であることが示唆。  [Am J Clin Nutr. 2003 Jan;77(1):204-10.]

・成人ではコレカルシフェロールの1000 IU/日の補充は25(OH)Dレベルを7-10 ng/ml上げることが示された。血清25(OH)Dが15 ng/ml未満である場合は、100 IUで、25(OH)Dレベルを2-3 ng/ mlくらい増加させることができると考えられている。[ J Clin Endocrinol Metab. 2008 Jul;93(7):2716-21. ] 

 

 

 

参考文献

Pediatr Rheumatol Online J. 2015 May 29;13:18.

Ther Adv Endocrinol Metab. 2012 Dec;3(6):181-7.

Arthritis Res Ther. 2010;12(6):R216.

 

 


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