感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

梅毒検査において偽陽性を示す疾患

2013-03-11 | 感染症
他院より医療処置前検査にて梅毒反応陽性と判明し、抗菌薬治療したあとも数字の下がりが悪いと当科へ紹介された。RPRとTPHAとも陽性で一見して活動性梅毒の診断で決まり、にみえるがRPRは当初から低値で推移している。 また既婚女性で夫の梅毒は検査受けて陰性、他に性感染ルートに心当たりない、動物病院に働いており動物咬傷など絶えない、感冒症状で発熱することも多い、などとのことであった。治療効果判定としては 以前のこのブログに書いたように(梅毒:HIV重複感染を中心に)非トレポネーマ抗体価の4倍の減少の欠如、とされているが、当初からRPRが低い目のときはどうするか? 諸文献で考察した。
非病原性トレポネーマはヒト体内にいるんですね。



要約

・梅毒の診断は、示唆する病変が存在する場合は、暗視野顕微鏡または直接蛍光抗体によるトレポネーマの直接可視化による確認が望ましいとされるが、殆どの場合は血清診断でなされる。梅毒血清反応は非トレポネーマ抗体検査のSTS(serological test for syphilis)法と トレポネーマTP抗体検出法、の組み合わせで診断される。両方の検査が陽性の場合、活動性疾患の確率が高い。

・STS法は原理的に梅毒に特異的な検査ではなく、偽陽性反応が多い:生物学的偽陽性(biological false positive;BFP)
 :全身性エリテマトーデス(SLE>や関節リウマチ(RA)などの膠原病,肝炎や肝硬変などの肝疾患,麻疹や風疹,水痘,伝染性単核症(IM)などのウイルス感染症,ハンセン病(特にL型)、結核、マラリア、やオウム病などの非ウイルス感染症,妊娠,麻薬中毒など、で認められる。

・トレポネーマTP抗体検査法はSTS法より梅毒に特異的であり,検査法も簡便で広く普及している。今日実行される最も一般的な抗トレポネーマ抗体テストは、 自動化されたEIAs検査、 梅毒トレポネーマ凝集試験(TPPA、TPHA、MHA-TP PaGIA)、FTA-ABS、 である

・TPPA検査は、第一期梅毒で感度 85%~100%、特異度 98~100%、二期と後期潜伏梅毒では、感度98%~100%を有している。

・TP抗体検出法(TP粒子凝集法, FTA-ABS法)での偽陽性反応も知られている。
・TP以外のトレポネーマ感染症,ネズミ咬症(Spirillum minus),口腔トレポネーマによる歯周病,レプトスピラ症(Leptospira interrogans),回帰熱などで認められる(これらスピロヘータ感染では非トレポネーマとトレポネーマ試験両方が陽性となりうる)。SLEやRAなどの自己免疫疾患,IM,マラリア,ハンセン病(Mycobacterium leprae)などでも偽陽性となりうる。

・ヒトはトレポネーマ感染症の唯一の宿主で、既知のヒト以外のリザーバはない。
・トレポネーマ属には病原性と非病原性の種の両方が含まれる。ヒトへの病原体は4疾患のtreponematosesを引き起こす:すなわち 梅毒(T pallidum subsp pallidum)、フランベジア(T pallidum subsp pertenue)、風土病梅毒(T pallidum subsp endemicum)と、ピンタ(T carateum)。
・非病原性treponemesは腸管、口腔(歯周病の原因にも)、または生殖器の正常細菌叢の一部で、非病原性菌は T.denticola、T.phagedenis、T.refringens、およびT.vincentii。

・Borrelia burgdorferi(ライム病)感染は、陽性FTA-ABS結果をもたらし得るが、非トレポネーマレアギン反応(VDRLまたはRPR)の陽性はまれにしか発生しない

・FTA-ABS法でも偽陽性反応が認められるが,TP粒子凝集法より低頻度とされる。ただし,SLEでは抗核抗体がFTA-ABS法特有の偽陽性反応を示す場合がありビーズ現象とよばれる(ビーズパターンに注目することで見分けがつくかもしれない)。

・偽陽性を区別するために最も決定的な方法はTPIテスト、PCRアッセイ、または特定T.pallidum抗原を用いた免疫ブロッティング実施、である。



参考文献

Mandell: Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed.
薬事(0016-5980)50巻8号 Page1189-1191(2008.08)
Justin D. Radolf. Bookshelf ID: NBK7716 PMID: 21413263 Chapter36 Treponema


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