感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

デング熱と駆血帯テスト

2014-03-12 | 感染症

ベトナムに2週間ほど滞在し帰国後数日で発熱、全身性発疹が出現し当院受診されました。蚊にさされた覚えはないとのこと。顔面からした全身の麻疹様発疹で、比較的徐脈(BT38.0、HR90)、Hb/Ht高く、Pltやや低いため、デング熱を考えました。さっそく駆血帯を用いたターニケットテスト(tourniquet test、以下TT)を行いましたところどうやら陽性のようです。日本では残念ながら抗体価検査は容易にできないため、症候の組み合わせとTTで診断を予測するしかないです。このTTの検査特性についてまとめました。 デング熱診断への特異度はまずまずだが感度は悪い、陽性ならより重篤な予後に関連しうる、とのことでした。以前にもこのブログ(デング熱の臨床的診断)でもデング熱は取り上げましたが、重症化予想チェックに腹部エコー検査みましたが、胸腹水や肝脾腫などはありませんでした。


駆血帯テスト(TT)について

・患者の腕に駆血帯により3分間圧迫することにより、点状出血が増加する現象を見ることである。
1辺2.5cmの正方形(1平方インチ)あたり10以上の溢血点(点状出血)を観察した場合陽性とする。駆血帯による圧迫の強さは、最高血圧と最低血圧の中間の強さで圧迫する。
(国立感染症研究所 – デングウイルス感染症情報 から)


TT性能特性について

・ウイルス分離(Rimanのテスト)がデングウイルス感染の確認のためのゴールドスタンダードであるが複雑さやコストから使用は制限されている。ELISA抗IgM-DENV特異的アッセイは、高い信頼性を有している(平均98%の特異性および感度90%) そしてこの方法は、迅速かつ安価でもある。しかし多くの国地域ではそれを買う余裕はない。(そして日本ではSRL外注も含め日常では利用できない)

・さまざまな臨床結果にもかかわらず2011年にWHOがTTをデング熱の診断基準の一つとして示している。
・TT は、多くの場合、デング熱が疑われる患者に対して行われる診察検査手技である。これは、デング熱の診断のガイドラインに組み込まれており、臨床試験で使用されている。
・TTの陽性結果は、毛細血管の脆弱性や患者における出血性イベントへの傾向を示す

・しかしTTはデング熱診断での感度は低いとする報告が多い。 またTT陽性と報告された症例の、5%や12%が非デング関連の発熱例であったことも報告している。
・TT検査陽性でのデング熱診断の特異度はまずまず良好だが、デング熱の血清学的診断陰性者で15%が陽性のTT結果を持っていたとするラオスからの報告もある。 これらの患者では、未確定フラビウイルス感染(30%)、 恙虫病(20%)、 日本脳炎ウイルスの診断を有していた。 またTTは発疹チフス例の5%、恙虫病の8%で陽性であった。

・ペルー、イキトスでの熱性疾患でのTTとデング検査室分析をしたサーベイでは、感度は52%、特異度は58%、陽性適中率は45%、陰性的中率は64%。 TTは女性、若年者でより感度は良かった。また発症後より遅れてクリニックにくるものは感度が増加した。
・タイのラチャブリ病院に入院デング出血熱/デングショック症候群の後ろ向き研究では、小児は成人よりも、より頻繁に食欲不振、TT陽性、腹部圧痛や回復期の発疹を持っていた。 全体でのTT陽性は 73.0%。

・ブラジル届出疾患のための情報システムに報告されたデング熱感染疑い例での止血帯検査の診断精度を評価するための調査。ゴールドスタンダードとしてIgM抗DENV ELISAを設定。 TTは、古典的デング熱症例の16.9%、合併症を伴うデング熱患者の61.7% とデング出血熱の症例の82.9%、に陽性であった。TTの感度と特異度は、それぞれ19.1%と86.4%であった。 TT陽性結果でないことは、感染がないとして読まれるべきではない。

・TTのための陽性結果はデング熱診断の強力な指標であるが、陰性テストはデングウイルス感染の可能性を排除できないことを意味する。
・TTは、より厳しいアウトカム (すなわち、複雑性デング熱およびDHF )のデング熱感染例でより高い陽性を示す。TTはとデング熱感染のより深刻なアウトカムをスクリーニングするための簡単なテストとして、より注視する必要がある患者に使用する必要がある。



参考文献:

Am J Trop Med Hyg. 2013 Jul;89(1):99-104.

Southeast Asian J Trop Med Public Health. 2013 Sep;44(5):772-9.

Rev Soc Bras Med Trop. 2013 Sep-Oct;46(5):542-6.

Trop Med Int Health. 2011 Jan;16(1):127-33.


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
麻疹でした (志智)
2014-03-13 19:42:35
この方の血清を国立感染研で検査していただきましたが、デング熱ウイルスPCRもIgMも陰性でした。また血清麻疹IgMが陽性で浜松保健所でPCR検査してもらい、麻疹が陽性でした。 この両疾患は臨床像も似ているし、IgM抗体価が交差陽性になることもあり注意ですね。 J Travel Med. 2012 Jul;19(4):268-71. にもデングに間違えた麻疹例の紹介があります。
教訓的ですね (jkunimats)
2014-09-06 09:40:34
貴重なレポートをありがとうございます。この発疹はデングらしくないですね。渡航歴は大事ですが、渡航歴にとらわれすぎないという教訓的な例のように思いました。またデングは顔にはこないと思います。ありがとうございました。
コメントありがとうございます (志智)
2014-09-06 13:20:51
デングの発疹は顔には来ないんですか。教えていただきありがとうございます。
今は日本でも患者発生あり、なおさら渡航歴があてにならなくなってしまいましたね。
こんにちは (天狗熱)
2015-08-19 12:42:19
1平方インチ = 6.4516平方センチメートル
のようです.
平方インチ (志智)
2015-08-19 15:07:22
ご指摘いただき有難うございます。国立感染症研究所「デングウイルス感染症情報」での ”2.5cm2あたり”の表現をみてブログにも記載しましたが、改めてGoogle検索しますとtourniquet testについて、petechiae per square inch (6.25 cm2) と書いていたり、petechiae per 2.5 cm2 (1 square inch)とあったり様々で、6.25のほうは実際の面積で、2.5のほうは1辺の長さと思われます(1インチ=2.54センチ)。私の記事でも単位はcm2ですので、6.25のほうが正確でしたね。ブログ本文を改訂いたいます。

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