クロアチアの風  ~茶猫の旅カフェ~

アドリア海の国クロアチアと旧ユーゴの風景をお届けします。旅行情報、写真をお楽しみ下さい。番外編では世界の猫も登場!

ドブロヴニクのちょっと変わった銀細工屋さん

2007-04-21 10:50:12 | ドブロヴニク
  
  ドブロヴニクのメインストリートを歩いていたとき
  ある店のショーウィンドウのガラス越しに
  突然、大きな炎が現れ、そして消えた。
  そして、また炎が。
  
  表通りに面したウィンドウには
  シルバーが施された美しい珊瑚のネックレスと指輪。
  どうやらここは宝飾店らしい。
  何度も通っていた道なのに、
  この店の存在に
  まったく気がつかなかったことにも驚いた。

  しかしながら宝飾店の華やかさはなく、
  ちょっとさびれた雰囲気がしないでもない。
  かなり古い店であることは間違いないだろう。

  おそるおそる扉を開けると
  入口脇の仕事台で
  白髪の交じった職人のおじさんがひとり
  バーナーで金のボタンの修理をしていた。
  炎の持ち主は彼だった。

  ここは、世界中の観光客が訪れる
  ドブロヴニクきってのメインストリートの店頭。

  そこにあっておじさんは、
  「こんにちは」でも
  「いらっしゃいませ」でもなく
  自分の世界に入りこんだまま作業中。

  商売っけのない一本気質の職人さんは
  今の時代には珍しく、凛としていた。

  仕事の邪魔をしちゃいけないと思いながら
  ちょっと邪魔をしてみたいような
  意地わる心も手伝って
  茶猫は引き込まれるように、店の中に入ってしまった。
  お店なんだから、のぞいちゃいけないはずはないものね。

  そこは、六畳ほどの小さな店だった。
  地味な焦茶色の木のガラスケースの中に
  小さなシルバーのペンダントトッブやイヤリング、
  細工を施した小さな銀細工が所狭しと並べられている。

  ほかの店とは明らかに違う。
  何が違うといっても、答えようがない。
  全体の雰囲気、ここにただよう空気そのものが違うのだ。
  華やかな表通りとは
  ずれた時間が流れる場所。

  都会の人混みや車のクラクションの中を歩き回ったあと、
  ふと通りかかった古本屋に入ったときのような
  しんとしたかんじ。
  店主は何十年も前からおきまりの場所にすわり
  新聞をひろげ、だまってパイプをくゆらせている。
  床から天井まで、うずたかく積まれた本の山があり
  古い本の匂いだけがする場所。
  そんなかんじ。
 
  「ウリモノデハアリマセン」
  ガラスケースをしげしげとのぞき込んでいた茶猫に
  職人さんは突然日本語で話しかけてきた。
  振り向くとバーナーの火は止まっていた。
  
  店にあるものが売り物ではない?
  なんでこの人、日本語を話すの?
  
  職人さんの日本語はそこまでだったけど
  英語はかなり達者だった。
  (そのせりふ、日本人に教えてもらったそうだ)

  きけばここはお客からのオーダーを受けて作る店。
  ガラスケースの中のジュエリーはすべてその見本。
  見本を見て注文してくれれば
  数日~数週間後に渡せるのだという。
  店に並べてある商品は
  すぐ買えるものばかりだと思いこんでいた茶猫は  
  ちょっとクラクラきてしまった。

  おじさんはさらに続けた。

  「でももし金(ゴールド)で作って欲しいなら、
  おたくがゴールドだけ持ってきてね。
  うちはシルバー専門だから、ゴールドは店にないんだよ。
  でもあんたがゴールドさえもってきてくれりゃあ、
  それでもって、どんな細工でも作ってやるよ」

  きけばおじさんのお父さんも、おじいさんも
  ドブロヴニクの銀細工師だったという。

  できあいの物を売るのがあたりまえのこの時代
  しかも観光客がめちゃくちゃ多いこの街で
  何日もかかる昔ながらの手作りのオーダーメイド。

  中世から続くこの街で
  中世から続くやりかたで商売しているんだね。
  
  茶猫はこの店で
  ドブロヴニクの紋章の形の
  シルバーのペンダントトップをひとつ買った。
  たまたま工房にもうひとつ見本以外のものがあったから
  おじさんがそれを磨いてきてくれて
  その日に受け取ることができたんだ。

  「またここに来たときは寄ってきなよ。
   いつでも磨いてやるからね!」

  おじさんはそんなふうに言って、
  銀のペンダントトップをケースに入れてくれた。
  もしかしてとびっきり高いかとおもいきや
  値段はたったの100クーナ(2000円)

  時代錯誤でまっとうなおじさんの店は
  この先続けていけるのだろうか。
  温かく、懐かしい、泡のような思い出を
  観光客に残すことはできたとしても。

  このペンダントを見るたびに
  今も茶猫はちょっと切なくなる。


  ※ちなみにこのおじさんの店は
   プラツァ通り
   聖フランシスコ会修道院の向かい。
   マテヤさんの店だよ。
   (おじさんの名前はマテヤさん)
 
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

  
  

  


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4 コメント

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格好良すぎますね! (fuku)
2007-06-22 19:36:12
初めまして!
こんな銀細工職人がいるなんてクロアチア良いですね~
アクセサリーは付けませんが(男なので)、こんな職人になってみたいものです。
職人さん (ちゃねこ)
2010-02-09 23:13:55
fukuさん

コメントありがとうございます。
といっても、2010年の今日、はじめてfukuさんのコメントに気がつきました(ごめんなさい!)

ドブロヴニクは昔からの街ですので
まだこんな職人さんが仕事をしているのですね。
一時期閉店のの危機に陥ったそうですが
2009年秋に訪ねた時点では、まだ営業をしていました。
後で知ったのですが、ドブロヴニクでは小さいながら、誰もが知っているようなけっこう有名な店のようです。

超惚れボレ (ルイス)
2010-02-10 00:09:41
新しい記事がアップされたのかと思いきや・・
3年前のものだったんですね。
この雰囲気・・最高です。前頭葉がシビレます。
読んでいて感動しました。
これこそ真の職人質を受け継いでいる、世界でも数少ない細工師のアトリエなのではないでしょうか。
まさに世界遺産級。

坩堝で金を溶かして作業をしている店は、カシュガルで見たことがありますが、オーダーメイドのデザインで顧客の希望に応じるという店は稀ですね。
ピレ門をくぐり抜けてすぐの噴水の傍。あんな賑やかな場所に、そのまま中世の時を封印したような空間があるなんて・・驚きです。
もし、知っていたなら、一昨年、ドブロに行った時にきっと訪ねたことでしょう。マテヤおじさんの丹精込めた手作りの品、是非拝見したいものです。

思い出の銀細工のペンダントヘッド、もし可能なら、あらためて写真をアップして頂けると、嬉しいです。(リクエスト~♪)
マテヤさん (ちゃねこ)
2010-02-11 22:28:31
ルイスさま
それが、とほほなのですが、この大切な思い出のペンダントを
昨年の旅行中になくしてしまったのですよ~

それでもうひとつ作ってもらおうと思い
昨年おじさんの店を、ドブロヴニクに行くたびにおせんべを持って訪ねたのですがいつも閉まっていて、会えなかったのですよ~

マテヤおじさんはドブロヴニクの裏通りに
もうひとつ作業場をもっています。
ひとりで店をやっているので、
おじさんが作業場にいるときはメインストリートの店は閉めていることも多く、
タイミングがよくないと会えません。

でもドブロヴニクの紋章のペンダントトップは見本にあるので
会えたらまたオーダーしようと思ってます。
ただし受け取りはその次にドブロヴニクに行くときになるでしょうね。
気の長い話です。