警察小説ではない。プラージュというカフェと扉の無いシェアハウスの名前。そこを営む潤子、そこで暮らすのは、他では受け入れられない前科を持った者たち。幾度も視点が変えられていく。その中で、住人達のそれぞれの世界が描かれながら、物語は進む。許すということは、赦すということは、罪とは、それぞれどういうことなのか。人物の描き方が流石にうまく、シャアハウスで暮らしていくことで、それぞれも変わっていく。そればかりか、周囲の人をも変えていく。そんな不思議な物語。☆☆☆☆ほ。
サッカー小説。中学生のリュウジ。カタカナの名前だけれど、「龍」が隠れていると父は言う。フリーライターの父、居酒屋を営む母、妹。父にサッカーを叩き込まれる。日本選抜としてU16スペイン代表に挑む。そこで「恐怖」をも与えてくるスペインのサッカーに出会う。このままでいいのかといういら立ち。チャンスをつかみ、スペインに渡る。「あと20年しかない」サッカー人生20年という短さに焦りながら、スペインの地で、動く。サッカーについては実にしっかりと描かれ、スペインではチームメイトとの関係が深く描かれ、リュウジの成長が語られる。面白い。わくわくしながら、読むのを中断するのが難しかった。☆☆☆☆☆。
このミス大賞で『逃亡作法』で銀賞・読者賞の東山彰良の作品。直木賞作家でもあるのですね。一度読んでみようと2004年のこの作品。福岡の墓石屋の息子礼。強烈な親父、異母兄の冴。友人には殺し屋のクリスなんてのがいる。冴の幼馴染の翔子、その父は地下銀行を運営する。そこにその部下の密入国中国人、林傑、羅偉慈が登場し、事件が起こる。台湾生れの作家ということで、中国人、台湾人が生き生きしているが、ふり幅を越えた感じでの物語展開。というのが少々しんどくて、☆☆☆ほ、かな。
第一勧銀出身で経済分野に強い江上剛の作品。舞台は関東のH市にあるホテル。ビジネスホテルではなく、立派な、というか立派であったホテル。そこに二流大を出て、就活に失敗していた花森心平が主人公。経営危機にあったこのホテル。オーナーの孫娘が支配人に就任、再建を目指す。ところが銀行は貸し剥がしを画策。これに対抗するために、従業員だけでなく、地元も一緒になって戦う…。というものだけど、何とも、甘目で、時間があればという感じ。☆☆☆。
2005年の伊坂作品。作者の文庫版あとがきに、読者から一番好きです、と言われることが多いことが書かれている。主人公は東北大学法学部に岩手から入学の北村。クラスの最初の飲み会で知り合った横浜出身の鳥井、そこに遅れてやってきた西嶋。鳥井の中学の同級生南と冷たい美人仙台出身の東堂。彼ら五人の大学生活の物語。春夏秋冬そして春。鳥瞰型の北村は語り手として最適であり、親の金でマンションに住む鳥井に、ひたすら自身の想いを強く表に、極めて純粋で、極めて真っすぐ。大人しい南は超能力を有するがそれが何の違和感もないのが伊坂の世界。クールビューティー東堂は不器用で真っすぐな西嶋に惹かれ…。作者は自身がこんなにきらきらとした大学生活でなかったという。自分自身の大学生活も超能力が使える人間はいなかったし、とんでもない大事件は起こりはしなかったし。それでも読者が一番好きです、と言ってくる気持ちは分かる。☆☆☆☆☆。
新宿署を舞台とする警察小説。東大を5年かけて卒業し、警視庁のキャリアとなった野上は新人刑事として配属される。そこに「夜の署長」という下妻係長がいた。10年以上新宿署の刑事課に所属する下妻、その部下の筒美、古城らによる四つの連作短編。下妻というキャラがいいのだが、野上、筒美はいまひとつ。たまに誰の言葉か分かりにくくなることも。それでも結構面白く読めるので☆☆☆ほ。かな。
Low Drive Parking にエピローグという不思議な章立て。語り手は何と車。緑のデミオである。望月家の緑のデミオ。隣の細見先生(校長先生)はフランク・ザッパが大好きでカローラを愛している。宅急便の黒ニコとか様々な車が登場し、会話する。望月家は夫を早く亡くし、長男の良夫、長女のまどか、次男の亨。免許取り立ての良夫が亨を乗せて走る車に、突然女優の荒木翠が乗り込んでくる。祖父のデザインした太陽クンの著作権料で生きる丹羽、タンクローリーのような(これは読んで下さい)ヒガシ、「ヤサイ三人組」とかキャラクターも花盛り。おっとりした長男良夫、これが小学生かという次男の亨。雑誌記者の玉田憲吾は和製パパラッチ!?いやぁ、車に話を回させるって?車が人間の話を聞くだけじゃなく、車同士で話すんだよな。なんとも。伊坂ワールドには脱帽でありまして、最後のエピローグで、子供時代に子供に見えなかった亨が一番子供っぽかったりするし、☆☆☆☆☆。
『検事の本懐』の柚月の作品。牧野聡美は福祉を学び、公務員の父の影響から公務員を目指す。果たせずにいたが広島県津川市の生活保護課の臨時職員となる。職場の先輩山川の意識の高さに感じ入っていたが、その山川が殺人事件の被害者に。そこに山川の担当していた生活保護者が関わってくる。ケースワーカーとしての仕事を先輩の小野寺とともに引き継ぎ、その中で事件の中に入っていく。そして生活保護というものについて、深く入っていく。公務員の仕事について少々取材が甘い気がする。臨時職員という設定なのにそれが忘れられているような。課長の猪俣、同僚の若い女性美央。いかにもな人。いいのが刑事の若林。このおじさん刑事がいいのだ。彼を主人公としてシリーズやったら良さそうな。生活保護の深い闇の中に謎が進むのです。そして深みに。予想外の展開が後半にありまして、☆☆☆ほ。
漫画家にして映画監督にして小説家、木内の作品。主人公はミステリー作家成宮。妻が行方不明となる。三鷹警察署の若手の敏腕佐藤、まだまだ新米兼子が捜査に。成宮はミステリー作家として完全犯罪を目指し、その仕掛けによって警察を窮地に。この仕組みがなかなか鋭いのだ。殺人事件とは、裁判とは、裁くとは。考え抜かれた成宮に挑むのは…。警察小説では、登場人物のキャラクターが連作によって明らかになっていくことが多い。そうした中で深みが増していく。この作品、十分面白い。もっと登場人物が動き始めたら、勝手にシリーズ化を望むが、犯罪者の供給が大変そう。☆☆☆☆。
まほろシリーズの第二作。便利屋の多田、居候の行天。この二人を主人公とする7つの短編からなる。知り合いの街娼コンビ、「砂糖売り」の星の私生活が。代行見舞いの曽根田のおばあちゃんのロマンス。横中バスの間引き運転をあばくことに尽くす岡氏の夫人が主人公となり、小学生の由良の不思議な一日。遺品整理ではまほろ軒の柏木亜沙子が登場し、子供の面倒を見る中で行天の陰が垣間見える。盛沢山な短編集で、多田、そして行天の姿が奥行をもって描かれていく。好きだな、こういう感じ。☆☆☆☆ほ。