映画『スラムドッグ$ミリオネア』の原作となった本。舞台はインド。主人公はヒンドゥーとイスラムとキリストという三つの宗教を合わせ持つラム・ムハマンド・トーマスという一人の孤児。賞金1億ルピーというクイズ番組で見事全問正解、1億を獲得したと思ったところから警察に捕まるという暗転によって物語は始まる。12問の問題の答えをどうして孤児であった主人公が知っていたかを、彼の人生が転々と語られる中で、インドという国とともに見えてくる。伏線の妙、インドという国、その中の人々のうごめき。なかなかで、外交官という著者の処女作というからこれもなかなか。☆☆☆☆。
ゲッツ板谷という人のことは知らなかった。「十代のころは暴走族やヤクザ予備軍として大忙し。」とあって、なかなか大変な人らしい。ちなみに『ワルボロ』は映画になったり、漫画になったり、こちらも大忙しだったようだ。WEBサイトもあって、なかなか面白そうである。さて、『ワルボロ』。どうも青春小説というのに弱い。『青が散る』『九月の空』から『太陽がいっぱいいっぱい』ううむ。東京の立川が舞台。こんな街だったのかという街の二中の少年達の物語。元ガリ勉が中三で不良デビュー。そこで仲間が生まれていく。小さな世界で生きていたのが、一軍の連中と組み合うことに。登場人物がそれぞれに生きていて、彼らの街がやっぱり生きていて、こんな中学生ありかって思いながらも、一緒の気分になっていって。ああ面白かったで☆☆☆☆ほ。
『蒼煌』の黒川の初期の作品か。短編の題が「山居静観」「宗林寂秋」と四字熟語で5編。古美術業界のだましのテクニックが次々と登場する。それなりに興味は引かれるが、『蒼煌』のような人間は面白くないな。小悪い奴達がやたら登場するが、爽快感が無い。ということで、小説としては☆☆。テクニックの面白さで☆☆☆か。
再読シリーズ。本屋で文庫を見て買ってしまった。三羽省吾は好きな作家。父親が失踪してしまった家族。祖父。母、長男、長女、次男。中学生の次男、高校生の長女、失業中の長男、母、祖父の順でそれぞれが語っていく。それぞれが不安を抱えながら、崩壊した家庭の中で自分をどうしていいのか分からない。少しづつ家族の背景が、それぞれの生きた時代の中で語られていく。何だか凄い。ストレートでいながら、屈折と、どこへ行くのかと。家族というもの、もともとの危うさ、それがどうしたのだという中で、つながっているもの。共同幻想の家族、それぞれの幻想を突き詰める試み。部長代理と部長が帰ってきた。☆☆☆☆☆。
オックスフォードで博士論文を書きながら(ストップしているが)英語教師をするシングルマザー、その母が主人公。1970年代と1940年代を物語は行き来する。ロシア人と英国人の子、パリに亡命していた主人公の弟が死んだ。彼女は弟の代わりに英国のスパイとなる。第二次世界大戦の水面下での暗闘、1970年代との行き来の間に明らかにされていく。第二次世界大戦裏面史として面白い。ただし、1970年代の部分があまり意味を持たない気分もあるが。☆☆☆ほ。
垣根涼介の南米物。舞台はコロンビア。これも日本からの移民の子が主人公。コロンビアの混乱の中で両親を殺され、コロンビア人に育てられた主人公。その養母と家族も殺されていく。そんな男が浮浪児の女の子を育てることに。舞台は日本。そこでもコロンビアの麻薬組織の抗争が。そこに日本人の刑事たち。日本人の登場人物の中に流れる不思議な孤独。『ワイルド・スワン』には及ばない。それでも読ませるが。☆☆☆ほ。
警察小説で有名な横山秀夫。元上毛新聞の記者という。北関新聞の中堅遊軍記者悠木。群馬の地方紙の中年記者が主人公。新聞記者の世界、それも地方紙という独特の立ち位置。そこに日航機が墜落し、大久保清、連合赤軍以来の大事件となる。これに同じ北関で営業部の安西という山の仲間、そして悠木の家族などが横糸となって絡まる。新聞記者の文章というのは、無駄がそぎ落とされている。あるいはお尻が削られてもいいような、独特の構成をとる。この小説は、ぐいぐいと迫りながら、解説の人の話ではないが、細かな描写が実に心理をうまく伝えている。上手い、そしてぐさり感あり。これは映画にはしきらんかったろうなと思いつつ、☆☆☆☆☆。
知人に教えられて初めて読んだ。舞台は芸術院会員を狙う日本画家の選挙戦。二人の日本画家、一人は鹿児島の田舎から叩き上げで日本画の世界に。人格はどうしようもないがその上昇意欲と絵の腕が独特の鋭さを見せる。もう一方は絵の家に生まれ、順調に進んで来て、その穏やかな画風までもが人そのものの画家。これに中堅であがく男、それにつく女流画家、孫娘の画家などが登場。芸術院の補欠選挙の実弾が飛び交う世界、日本画によるマネーロンダリング、政界工作など盛り沢山。そこに選挙参謀となる京都の老画商がまた味がある。どろどろ、清涼感の無さも、本当だろうなと思わせるウラの世界で読ませる、読ませる。☆☆☆☆ほ。
短編集の中にあるのが表題のフロスト・シリーズの中編。クリスマス・ストーリーということで、フロストの他に、ピーター・ラウゼイのダイヤモンド警部など登場。フロストは中編でも大騒ぎ。でも長編の方がやっぱり面白い。ダイヤモンドも味が無く、長編の主人公を短編で楽しもうというのは、やっぱり無理がある。フロスト・マニアは読んでおくべき。ということで☆☆☆ほ。全体ならば☆☆☆がいいところ。
伊勢神宮の誕生、その変遷、さらに東アジア的な視点、これに戦前の国家神道など、さまざまな角度から見るが、もうひとつ食い足りない。寝床でぼんやり読んだからかも。☆☆。