夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

豊島(2)

2013-07-29 23:16:22 | 旅行

唐櫃(からと)の清水から豊島美術館まではすぐ近くだったが、ここで、島で一番高い壇山(だんやま=317m)を迂回して、島の反対側にある甲生(こう)地区へ向かうことにする。
壇山の外周を、緩い弧を描いて走る、信号一つ無い道路。
島の特産のみかんやオリーブの畑を眺めつつ、自転車を漕いで行く。
アップダウンにもやや疲れてきたころ、海辺の集落・甲生が見えてきた。


クレイグ・ウォルシュ&ヒロミ・タンゴ「かがみ―青への思い」。
甲生の漁港に浮かぶ、鏡張りの廃船。空や海を映しながら波に揺れる浮き舟を見ていると、いつの間にか舟が輪郭を失い、海に溶けて消えてしまいそうな錯覚を覚える。


この作品の名前を確認しておくのを忘れた。
まるで古代の民がつくった祭祀の場のようで、もともと芸術の発生は、原始的な宗教にあったことを思う。
青染めの長い布が掛け渡された柱の間を通り、小さなお社のような建物に近づいていくときには、不思議な高揚感を覚えた。


ここに来るときと同じ道路を戻り、唐櫃の岡に向かう。
初めは、鑑賞する作品が島の離れた場所に散在していることに、やや不満めいたものを感じていたが、こうした景色を眺めながら風を切って自転車で走っていくうちにわかってきた。
アート作品を巡りながら、私たちが、名前の通り、豊かで美しいこの島の自然や風土を発見し、体験することが目的だったのだ。
豊島だけでなく、瀬戸内の島々を使ったインスタレーション、というこの芸術祭の基本性格がわかったような気がした。


私自身は現代アートに暗く、インスタレーションという言葉も、最近見た『百年の時計』という映画で初めて知ったほどである。
この映画のもう一つのテーマは、現代アートとは何かということであったが、老芸術家が走ることでん(琴平電鉄)の車両を使ったインスタレーションを発想したときに、
「できるだけ多くの人を巻き込みたい。」
と言っていたのを思い出した。
この瀬戸内国際芸術祭も、たくさんの人々を巻き込んで、アートと島の自然が交響する祝祭的な場となってほしいと思った。

…この小さな気づきが嬉しかったので、『百年の時計』の主題歌「めぐり逢い」を歌いながら自転車を走らせていたら、いつのまにか大声で歌っており、偶然向こう側から来た人に聞かれてしまって恥ずかしかった。

豊島の話題はあともう一度、取りあげる。

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