夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

無動寺谷

2014-03-18 23:40:30 | 旅行
日吉大社にお参りした後は、そのすぐ近くにあった「真猿(まさる)蕎麦」で昼食。
鴨なんそばを食べたが、とても美味しい。この辺りには蕎麦屋が目に付くなあと思っていたら、昔は比叡山で断食の行を終えた修行僧たちが、弱った胃をならすために蕎麦を食した、と言われているそうだ。


ケーブル坂本駅から、昭和2年開業という日本一長いケーブルカーに乗って、比叡山(848m)を登り延暦寺へ。(ケーブルカーは始点・終点とも毎時00分、30分に出発)
坂本ケーブルは、窓の大きなヨーロッパ調のデザインで、なかなか洒落ている。写真の縁号と、それとは緑赤の配色が逆の福号が、坂本側と延暦寺側で同時に出発し、中間の「ターンアウト」と呼ばれる、線路が二つに分かれる区間で行き違う。
ケーブルカーは、約2㎞の急勾配の道のりをゆっくりと、11分かけて登っていく。車窓からは、比叡の山や谷、また遠くに琵琶湖の雄大な眺めが見える。

終点のケーブル延暦寺駅に着くと既に1時過ぎであり、寺内の拝観は午後4時半までなので、この日は延暦寺の三つのエリア(東塔・西塔・横川)のうち、ケーブル駅に近い東塔(とうどう)エリアを中心に回ることにする。もともと、延暦寺を半日で回るのは無理があったと、今さらのように後悔されるが、気を取り直して、まずは無動寺谷へ。


無動寺は、比叡山の南方の峰にある回峰修行の根本道場である。円仁の弟子・相応和尚により創始され、その後、本堂(明王堂)には不動明王像が安置された。
後鳥羽院の護持僧であり、天台座主(ざす)であった慈円も、若き日にこの無動寺で千日の回峰修行を行っている。
ケーブル延暦寺駅を出て、左手に目もくらみそうな深い谷を見つつ、急な坂道を下りていくと、昔の修行僧たちが煩悩を克服し、悟りの智恵を求めるためにこそ、このような険阻な所で難行苦行に耐えたことがわかってくる。


親鸞聖人は、比叡山にいた頃には、この大乗院で修行していたそうだ。
膝の痛みに耐えつつ、人気のない山道を歩きながら思ったこと。
自分の名誉や栄達・利益・快楽ばかり追い求める、その世俗的欲望が、人を苦海に沈めているのではないか。
子どもの頃には、それでも多少は許されるかもしれないが、大人になり他人を一人でも多く救い、願いを叶えさせてやるべき立場になっても、相変わらず自己一身のことしか考えていないのは、結局自分を苦しめることになる。
他人を幸福にし、願いを達せさせられるようにするごとに、自分が少しずつ救われ、楽になる、…ということではないのだろうか。



写真は、明王堂。この辺りを歩いていたとき、不思議なくらい歌が心の中に浮かんできたので、見られる程度のものを書き付けておく。

いにしへの回峰修行を思ひつつ無動寺の谷ひたすら歩む
深き谷険(さが)しき峰をめぐりてぞまことの智恵に逢はむと思ひし
悟り得ぬ煩悩の根をたづぬればわが心から見る魔なりけり
みな人の苦しといふは苦をいとふ己(おの)が心のまねくなりけり
今ぞ知る苦を一身に引き受けてつとむるときに苦は消え失すと
愚かなり苦し苦しといひながら苦しみをなど放さざるらむ
悟り難き衆生を導くてだてとて忿怒(ふんぬ)の相をとる不動尊

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