惰天使ロック

原理的にはまったく自在な素人哲学

竹沢 尚一郎「社会とは何か―システムからプロセスへ」

2010年02月14日 | 土曜日の本
もうひとつ。
社会とは何か―システムからプロセスへ (中公新書)
竹沢 尚一郎
中央公論新社
Amazon / 7neticon

この本は何週間か前の土曜日に買ったのだが、オススメの本にしようかしまいか迷っていた。結局こうして紹介はしているが、とっても微妙な本だということは言っておいた方がいいような気がする。

微妙と言って、中身がないとかつまらないということでは全然ない。前半はいくぶん教科書的だが17世紀以来の社会思想史を著者なりにまとめた、ところどころ目からウロコの落ちる優れて啓蒙的な内容だし、後半は後半でまた別の意味で面白いのである。

何が微妙かと言えば、前半と後半の関係が微妙なのである。ヨーロッパの社会思想史を啓蒙的に論じておいて、唐突に(としかわたしには思えない)水俣病と谷川雁の「サークル村」の話が、石牟礼道子の詩が出てくるのだ。はっきり言うと後半は、これはもう社会学でも社会哲学でもない(笑)。そぞろ忘れ去られつつあるかもしれない「公害病訴訟」の時代の一幕を描いたルポルタージュというべきものである。そういう意味ではこの本の題名(いかにも理工系大学の社会システム論の講義の題名のようではないか!)にもそぐわない。著者はいささか強引にこじつけてみせるのだが、ここから未来の社会や共同体のあり方などを見通すとか構想するとか言い出されたら、誰よりも冥界の谷川雁が目を丸くするのではなかろうか。

じゃあ看板に偽りありの本なのかというと、そこまでひどいことを言う気にならない。あまりに唐突な展開でびっくりはさせられたのだが(笑)、結果として、わたしにとってはよい「びっくり」に満ちた本だったと感じる。まあ新書で千円もしないのだ、読んであげようではないか。とても面白くて、啓蒙もされる本であることは請け合える。でもしつこく念を押すが、一再ならずびっくりはさせられる(笑)。
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