毎週の出来事をお伝えします
電話室便り
うんがにおちたうし
2017-04-26 / 本
3年越しです、このほのぼのとユーモラスな絵本をご紹介できるのは。
春になったらきっとブログに書きたい、と思い続けて3年目。
どうしてそんなにかかったかは、うーん、どうしてかしら・・・?
たぶん、このお話しのおちゃめさと和み、楽しさをどうまとめたらよいか
考えているうちに、毎年あっという間に春が過ぎてしまったからでしょう。
1950年代のオランダの田舎で草を食べて暮らす雌牛のヘンドリカの
( 牛としてはかなりの! ) 大冒険と、それに伴って彼女が引き起こす騒動を
描いているお話しです。
第二次世界大戦後の惨状からの復興やら、東西冷戦やら、宇宙事業やら、
政治ダークサイドの不穏な活動はありつつも、
オランダに限らず、世界はまだまだオーガニックで、アナログで、リアルな、
のんびりしたものだったのです。
インターネットはもちろん、電話すら行き渡ってはいませんでしたので、
現代のように、各家庭に無制限に ” 外側 ” の情報が流れ込むことはなくて、
人々は、世界各地で起きている様々な事態や、情報に驚いたり怯えたりすること
も少なくて、目の行き届く自分達の暮らしまわりの出来事を十分に味わい、慈しみ、
生きていたのでした。
この愛おしい絵本は、初刊行されてから60年経った21世紀の現代では、
もう失われてしまっているかもしれないな、とつい考えてしまうような、そういう
世の中の在り方が、子供に向けて、平明で優しいひらがなとカナカナで、
のびのびとに描かれているのです。
最近はやりの 「 世界観 」 などという、解るような、つまりどういうこと??と
突っ込みたくなるような言葉が一般には存在しなかった時代の、
誰もが心から微笑むことの出来る楽しさと可愛さに満ちているお話しなのです。
”ヨーロッパ中のヨーロッパ ” と、その歴史と美しさから
こう呼ばれるオランダの、まずは、田園ののどかな風景と、そこに代々暮らしを営む人々の
風俗と日用品、流儀、高い建物が一軒も見当たらない大きな青い空と、延々と流れる
運河と、大きな水車と木造家屋を、当時オリジナルのまま眺め入ることができます。
なぜなら、挿絵は、ピーター・スピアーがスケッチした当時のオランダの風景だからです。
過不足無く満ち足りている表情の、オランダの酪農地の人々。
ニワトリが放し飼いにされ、運河には水鳥の親子、空にはカモメです。
私達は、ヘンドリカに連れられて彼女と一緒に、田園風景から次には、
オランダの街中の風景や風俗を楽しみます。
ヘンドリカは ショーウィンドウを のぞきました。
それから、どこかの 家の 中庭に とびこみました。
自転車の においを かいで みました。
なんて めずらしい ものばかりなのでしょう!
そして、街なか探索を経て、広場に行き着いたヘンドリカ。
物語のクライマックスは、その広場での活気に溢れたチーズマーケットの
見事な描写です。
真っ白いシャツとズボンに 「 ひらひらする リボンの ついた、いろとりどりの
むぎわらぼうしをかぶって 」 いる男達が、山のように積まれた丸いチーズを運び、
商っている様子の何とも粋なこと。
そして、チーズを売りにそのマーケットに来ていたヘンドリカの飼い主のホフストラ
おじさんの、ここでヘンドリカと出くわすという、あり得ない事態に、
思わず口をついて出たセリフの素敵なことといったら!
ヘンドリカの心の中のセリフの、牛らしい、程の良い稚拙さは実におかしくて、
この感じは・・・そうです!!
機関車トーマスの原作本・ポプラ社刊 ウィルバート・オードリー作 『 汽車のえほん 』 の
中の機関車たちのセリフの感じです!
ゴードン、ヘンリー、ジェームス、トビーにエドワード、そしてトーマス・・・彼らの
” 機関車なりの ”( そして、幼い読者の理解に合わせた ) セリフ展開に通じるんです、
ていうか繋がってます。
それは、この二つの物語の著者が、小さい人と、小さい人達が愛して止まない動物たち、
愛して止まない本来は無機質なモノ達に対する観察と空想力が、いかに細やかで本物だった
かが表れる部分であり、また、それは裏を返すと、自分が ” 大人の立場 ” でお話しに接し
味わっていると判明する部分でもあるのです。
息子が保育園時代に、何度も何度も読んでやったこの絵本、先日とても久しぶりに二人で
読みましたが、 「 なつかし~ 」 と言いつつも、まだ大丈夫、正式な対象読者の範疇に
存在している様子で、熱心に聴き入っておりました。
ぜひ、小さな読者さんに、読んであげてください。
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