雑木帖

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「共謀罪」の導入は善良な庶民の生活を壊すツールとなり得る

2005-12-30 14:56:10 | 政治/社会

東京新聞 2005.12.25
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051225/mng_____tokuho__001.shtml

■『共謀罪』再び 3度止められたが…

 「現代の治安維持法」の異名もある共謀罪。法案は一昨年から計三回、国会で止められたが、年明けの通常国会で再び審議が始まる。広がる反対世論に政府は修正案で対抗しそうだ。 (7月6日など随時掲載)

 犯罪を行えば罰せられるのが、わが国の刑法。ところが犯罪を話し合ったり、目配せしただけで摘発するというのが共謀罪だ。憲法一九条の「思想及び良心の自由」、同二一条の「表現の自由」に抵触しかねない。

 二〇〇三年三月に国会に提案されたが、衆院解散で廃案。ことし八月の郵政解散で再び廃案となり、十月の特別国会では継続審議となった。

 「よく止めてこられたなというのが正直な感想」と弁護士らが話すのもうなずける。新聞労連や出版労連、日本ペンクラブなど各種団体が反対声明を出したのも三度目の提案から。それまで、その内容はほとんど認知されていなかった。

 四年以上の懲役・禁固に当たる犯罪が該当し、その数は消費税法や道路交通法まで何と六百十九種。自首した際の減刑、刑の免除規定は密告社会を助長しかねないとの指摘もある。

 反対世論をかわすため、次期通常国会では政府は修正案で対抗しそうだ。適用対象を「犯罪を共同の目的とする団体」などに限定するとみられるが、この解釈も実はあいまい。例えば、座り込みや不買運動は労働組合や市民団体がよく採る戦術だが、これを威力業務妨害罪(犯罪)とみなさない保証はどこにもない。

 ましてや、このご時世。「(共謀罪は)意思や思想を処罰するものではない」(南野知恵子前法相)というが、ピザの宅配チラシが黙認され、反戦ビラが有罪になる時代だ。前法相の言葉をうのみにはできない。

 総選挙での圧勝で勢いづく小泉政権。その権力乱用の「共謀」こそ、監視されなくてはならない。
「共謀罪」についての詳しい解説などは「なぜ共謀罪に反対するのか」のサイトを参照していただくとして、僕が懸念を持っているのは実際にこの「共謀罪」で逮捕、起訴されるという危険性よりも、その適用範囲の広さから、事実上権力による日常の”盗聴””盗撮”が無制限に公に認められてしまうということのほうだ。(有事ともなれば権力の強力な弾圧ツールとして重宝され、国民もそれを受け入れてしまうかもしれないけれど、現状では余程のことがない限り、この法律で逮捕、起訴されることに対しては許容するような国民は多くはないのではないかと思っている。むろんだからといって、こんな凶暴な法律が作られてもいいということには勿論ならないことはいうまでもないのだが)
 ”盗撮”については疑問符をつけるかたもいるかもしれないが、記事にも「話し合ったり、目配せしただけで摘発するというのが共謀罪だ」と少し書かれているように、同意の場面というのは言葉で交わすとは限らず、「目配せ」のほか、メモに筆記する、手などの身体のしぐさで表すなど、”映像”で確認するしかない場面のほうが多くなると予想されるところからの当然の帰結なのである。そもそもこういう法律が出来た時点で言葉で証拠を残すようなことをする者が果たしているのかどうかも疑問である。もしいるとしたら、ジョークで話し合っているような場合だろうが、そうすると、”盗聴”だけだと逮捕するのはみんな冤罪者ばかりとなってしまう。

 折りしもアメリカではブッシュ大統領が野放図な盗聴を大統領権限で許可したと問題にされているが、”ジョージ・ブッシュのスパイ大作戦(1)「令状なし盗聴で安心できる社会を!」(暗いニュースリンク)”が紹介している次のニューヨークタイムズ紙2005年12月20日付記事と、NBC放送2005年12月14日付報道、またカリフォルニアの例は、「共謀罪」が法律になれば日本でも公然と起こりうるものである。

FBI、市民活動を監視:新書類で判明(F.B.I. Watched Activist Groups, New Files Show)

by エリック・リヒブロー記者

FBIの対テロ対策調査員が、環境や動物保護、貧困者救済活動に関わっている市民団体に対して、多数の監視・諜報活動を行っていることが、新たに公開された文書により判明した。
(中略)
FBI文書のひとつには、インディアナポリス支局の捜査官が、「菜食主義者コミュニティ計画」の一環として偵察を行うという記述がある。他の文書には、カソリック労働組合について「予備的共産主義思想」と言及されている。
(中略)
一群の最新文書は、一部をACLU(アメリカ自由人権協会)が公開する予定だが、全部で2,300ページを超えるもので、PETA(People for the Ethical Treatment of Animals:動物の倫理的扱いを求める人々の会)、環境保護団体グリーンピース、貧困解消を唱えるカソリック労働組合等の団体に関する照会内容に重点を置いた内部文書である。
(以下略)

 ……

ペンタゴン、アメリカ国民をスパイ?(Is the Pentagon spying on Americans?)

NBCニュース入手の極秘データが「怪しい」国内グループを記録(Secret database obtained by NBC News tracks ‘suspicious’ domestic groups)


by リサ・マイヤーズ、ダグラス・パスターナック、リッチ・ガーデラ他NBC調査班

1年前、フロリダ州レイクワースのクエイカー集会所に市民活動家が集まり、地元の高校で軍の新兵スカウトに反対する活動の計画について話していた。彼等は気づかなかったが、その集会は米軍の注意を惹いていた。

NBCニュースが入手した400ページに及ぶ極秘文書には、レイクワースの集会について「脅威(threat)」と記されており、過去10ヶ月間で1,500件以上リストアップされた「怪しい出来事」の内の一件に含まれていた。
(以下略)
あなたがカリフォルニア州住民なら、さらに手厚いサービスが用意されている。同州では、FBIの監視に加えて、シュワルツェネガー州知事率いるカリフォルニア州兵部隊が、新たな諜報活動を開始している。その監視対象の一部は、コードピンク(女性反戦団体)シンディ・シーハンの組織する反戦戦死者母親の会(Gold Star Families for Peace)、怒れるおばあちゃんの会(高齢者反戦団体)・・・まあ要するに、反ブッシュ派(反シュワ知事派)の一般市民ばかりだ。
 次は『日本の公安警察』(青木理著)の中の一節である。

市民オンブズマンも調査対象

 例えば、こうした機構改革をうけて近畿公安調査局が作成した内部文書「一九九六年度業務計画(国内公安動向関係)」及び同局の「重点解明目標」は驚くほど広範な調査対象を指定している。一例を挙げれば次のとおりだ。
〔政治・選挙関係〕では「各種世論調査結果や行政要求行動などにみられる有権者、特に無党派層の政治意識、政治的関心事項の把握」「原発・基地問題などが争点となる各種選挙」
〔経済・労働関係〕では「中間管理職、パート、派遣労働者、外国人労働者など未組織労働者の組織化をめぐる労働団体の動向把握」
〔大衆・市民運動関係〕では「市民オンブズマンの行政に対する告発運動の実態把握」「産直運動、食品の安全行政の充実強化を求める運動、大気汚染・リゾート開発・ゴミ問題等への取り組み」
〔法曹・救援、文化、教育関係〕では「死刑廃止や人権擁護の取り組みの実態把握」「いじめ・不登校問題、日の丸・君が代反対などに対する諸団体の動向把握」「左翼法曹団体、弁護士会による司法改革や破防法反対の取り組みの実態把握」
 中でも、近年活動を活発化させている市民オンブズマンに対しては「運動の矛先を我が国の治安部門に及ぼそうとしていること、情報の全面公開を柱とした[情報公開法]の実現を目指していることを考え合せると、運動は今後、加速度的に、”権力中枢”へと矛先を向けていくものと思われる」と決めつけ、調査の必要性を強硬に主張。市民団体側から抗議を受けた場合には「日共や過激派等の調査に関連づけて説明できるよう訓練させている」とまで記されている。
 各分野で具体的を挙げられた団体に目を移すと、日本ペンクラブ、日本ジャーナリスト会議、日教組、アムネスティーなど、およそ破壊活動とは関係のないものにまで及んでいる。マスコミ関連団体にまで調査の触手を伸ばしていることには驚くほかないが、独善的な発想の下、「公安の維持」を名目に市民運動と呼ばれる活動すべてに範囲を広げ調査の網をかぶせようとしている実態が浮き彫りになっているといえよう。
 次のようなことも忘れてはならないだろう。
 日本の警察が、何百戸という規模の個人宅に自由にふみ込んで、没収したプライベートな記録を、いやがらせに使ったり、嘘の供述調書を作ったりすることによって、無実のものを何年も苦しめたあげく、裁判所がその無実を認めた時でさえ、なお、いやがらせ策戦が続くという現実があるにもかかわらず、評論家たちは絵に描いたようなことしかなぜ言わないのだろうか。(『続・留置場 女たちの告発』手塚千砂子著 ベンジャミン・クロフォード氏の”まえがき” より)
 日本で1999年に国会を通過した「盗聴法(通信傍受法)」は”「通信傍受」法/米国の場合 下村健一”にあるようにアメリカを手本としたものだが、そこに書かれていないことでアメリカの盗聴法よりも危険な面があった。それはアメリカでは盗聴をおこなう際、盗聴した音声の記録を全て残すという取り決めがされていたが、日本の盗聴法にはその義務はなく、いったい何を盗聴したのかわからない、盗聴の証拠が残らないということであった。これは盗聴の際、物理的に簡単に盗聴準備ができるということにもつながり、また、裁判所の令状無し盗聴も容易になるという側面もある。
 しかし、アメリカはたしか「911」のあと、その盗聴の記録を全て残すという条項も取り払ってしまったと記憶する。そして今回の大統領権限(違法だとの解釈が一般的のようだが)での令状なしの、実質的には無制限の盗聴認可である。
 実は日本では、もう一つの懸念材料がある。それは前にも紹介した”創価学会の「盗聴法」をめぐる裏取引”にもあることだが、与党に陣取る公明党=創価学会が組織的な盗聴の常習犯集団であるということだ。

 盗聴や盗撮は個人の生活を破壊する。考えてみれば、「共謀罪」なるものも、それ自体そういう性質をもつ法律だ。
 わかりやすい例でいえば、文章の推敲がある。公表前の文章には様々な試行錯誤、練り直し、思考の変遷がある。完成した時点では存在しない、その途中の一文を人から突き付けられ、お前は何々…と言われたらどうだろうか。たしかにその一文はその時点では現実に存在したかもしれないが、推敲のなかで消えたものである。それも公表してなどいないものだ。それに対し責任を持て、というのがこの盗聴や盗撮ともいえる。
 もちろん、それとは他に個人の生活が筒抜けになるというプライバシー権自体の問題も重いのは言うまでもない。
 法というものが何のためにあるかを考えれば、こんな法律などはそもそも国会に提出などされないはずだ。市民を守るためにある法律が、逆に市民の生活を破壊していくツールなどになってはならないからだ。考えるべきことは、「共謀罪」のような法律が出来ることによって誰が得をするのか、ということではないかと思う。

『暴走するプライバシー』 シムソン・ガーフィンケル著より抜粋

●プライバシーとは、運転手がハイウェーでスピードを出しすぎ、コンピュータ化されたスピードトラップにひっかかって自動的にチケットを切られ、送りつけられることではない。むしろ恋人と町を歩いたり、店に入ったりしても、行く先々で監視カメラが気になってデートを楽しめないことと関係がある。

●プライバシーとは、空港や学校、連邦政府ビルで当たり前となった身体検査や金属探知機や審査のことではない。むしろ法律をきちんと守る市民をテロリストの恐れありと見なすくせに、身の危険にさらされた市民を守ろうとしない社会と関係がある。

 …(略)…

 一方で、捜査機関はテロの脅威を口実に権力の掌握や予算の拡大を狙っている、と主張する市民権の擁護派も少なくない。第一次世界大戦、第二次世界大戦で、政府が破壊活動を口実に市民の自由を侵害したのと同じ、というわけだ。
 その一人、ボストン在住の刑事弁護士で市民権問題が専門のハーべー・シルバーグレートは、わたしにこう語った。

『あなたがいうようなテロリズムの脅威は、誇張されすぎだと思います。…権力の強化を狙う捜査当局が、わざとオーバーにいっただけですよ。いいですか。政府ではなく個人や集団が、人間の命や財産を大量に奪った歴史上の事件など、わたしにはすぐに思いつきません。個人や集団やギャングの被害など、暴走した政府の被害に比べれば、なんてことない。一個人がユダヤ人を大虐殺した史実など、ただの一つもないじゃありませんか』

 それどころか、(この章で見てきた)大量破壊兵器を開発したり改善してきたのは、ほかならぬ政府だとして、シルバーグレートはさらに言い募った。
「わたしなら、政府に無限の強大な権限を与えて個人のテロ行為を取り締まるよりは、政府そのものを厳しく取り締まる世の中で暮らしたい。個人のテロ行為にはある程度目をつぶってでも、政府の独裁主義はお断りだ」
 たとえシルバーグレートの言い分が間違っているとしても、テロリスト集団の規模が小さくなり、しかも大量破壊技術が大衆化したいま、狂人やテロリストを幅広く監視したところで、たしかにテロは防げない。ならば市民権などさっさと捨てて、プライバシーを守る権利をすべて犠牲にしてでも、この先ずっと政府にテロリストの攻撃から守ってもらうしかないと思いがちだが、100%安全という保証などどこにもない以上、一方的に損する羽目にもなりかねない。
 それならば、テロリストや狂人を監視するのではなく放射性物質を監視し、毒物やその前段階の物質の入手経路を制限するほうが、はるかにましというものだ。プライバシーを犠牲にするよりは、環境衛生への配慮を強め、抗生物質を備蓄し、細菌戦の兆侯に目を光らせるほうがいい。とにもかくにも新種の病原菌をすばやく感知する監視体制を整えれば、人工であれ天然であれ病原菌から身を守れるではないか。


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