1970年1月26日（日） Ut

　Ut(ウット)が8,000ドン盗んだ。Utは11歳の可愛い男の子だ。彼が見た映画について、身振り手振りを交えながら、少しハスキーな声で夢中になって喋る様子を見るのは楽しかった。

　昨夜、彼をサイゴン病院の久保田医師の自宅に連れて行った。咳がひどかったし、首の傷を3針ほど縫ったのを抜糸する時が来ていた。久保田医師は、抜糸は病院でしようと言って、咳止めの薬だけ与えた。それには睡眠剤の働きがあるということで、Utはやがて眠くなる筈だった。夜11時頃、Utは眠りかけていた。僕とQuang(クワン)は久保田医師の同意を得て、Utを残してPham Ngu Lao(ファム・グウ・ラオ)通りの家に帰った。

　今朝、久保田医師が目を覚ますと、Utは既に部屋にいなかった。久保田医師のズボンが床に落ちていて、ポケットに入れておいた8,000ドンが消えていた。今日、Utは家に帰らなかった。