華氏451度

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首相は空き缶ポイ捨て話がお好き

2006-11-10 23:16:04 | 現政権を忌避する/政治家・政党

 ずいぶん前に、安倍首相の『美しい国へ』を読んだ感想を書いた(当時は官房長官)。何人かの方から「わざわざ読みましたか、お疲れ様」と苦笑混じりのコメントをいただき、何でも読みたがる自分の悪癖にちょっと恥ずかしい思いをしたが……読んでおもしろかった(?)とは今も思っている(立ち読みすればよかったという後悔はあるけれども)。

 この本は腹が立つこと、唖然とすることが満載。 そのひとつに、日常的なモラルと「国に対する愛」を結びつける記述がある。かなり粗雑な結びつけ方だが、粗雑であるがゆえに、うっかり読み飛ばせば納得しかねない怖さがあった。好例は「空き缶ポイ捨て話」。

【飲み終わったジュースの空き缶を平然と道端に捨てられる人は、その土地に愛着を持っていない人だ】(同著94ページ)

 空き缶ポイ捨てはよくないという話が、愛国心に結びついていくとは……と驚いたが、安倍首相は空き缶話が好きらしい。去る8日におこなわれた民主党・小沢党首との党首討論(注)でも、教育問題のところで空き缶の話を持ち出した。「子どもが海で空き缶を投げたら注意しなければならない。また、投げないよう子どもに社会規範を身に付けさせなければならない」というのである。

(注/参考=自民党公式サイト民主党公式サイト

「今起こっている問題に対応するためには新しい理念と基本的原則を示すべきだ。規範を身につけ、公共の精神を培い、社会に参画し、貢献する態度を養い、道徳、自立の精神を教えていく必要があるだろう。現行法にはそれが欠けている」と安倍首相は発言し、教育基本法改定の必要性を訴えた――そうである。

 そりゃ私だって、空き缶ポイ捨てはよくないと思いますよ。でも今の教育基本法では子供に「空き缶のポイ捨てはよくない」と教えられない……って、嘘でしょう。

〈教育基本法第一条(教育の目的)〉教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に満ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない。

 これで充分、教えられるのではありませんかねえ……。

 私は平易な表現が好きだし、物事はできるだけわかりやすく表現すべきだと思う。ただし間違ってもらっては困る。「平易でわかりやすい」ことと、「粗雑で、一見わかりやすそうに見える」のは全然違うのである。「子供に空き缶ポイ捨てはいけないと教えるには、基本法を変えなければ」と言われて「へえ、そうなんですか。なるほど」と頷くと思われているなら、私達はよほど舐められている。

コメント (12)
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