脳のミステリー

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日本応用老年学会SAG-Jコラムから私のエッセイ『生きもののきもち』

2011-09-02 08:14:29 | Weblog
日本応用老年学会は産・官・学・民のあらゆる分野の方々に役立つ事を目的としています
高齢社会を営む為に必須の学問である「老年学」を、商品、サービス開発、市場開拓、 生きがいや社会貢献のプログラムを作り、ケアの手立に役立てる方法を確立する為の、 高齢社会のネットワークセンターをめざします。

日本応用老年学会 理事長 柴田 博、医学博士
現職:
人間総合科学大学保健医療学部学部長/大学院教授
桜美林大学名誉教授・招聘教授
東京都健康長寿医療センター研究所名誉所員
日本老年医学会認定老年病専門医
日本内科学会認定内科医
日本老年学会など5学会の理事、1学会の評議員
(財)すこやか食生活協会理事など
経歴:
北海道大学医学部卒業
東京大学医学部第四内科医員
東京都老人総合研究所副所長
桜美林大学大学院老年学研究科教授


ひょんな事で、ひょんな時に、柴田先生にお目にかかって以来の学会とのお付き合いです。
9月の私のエッセイをご一読戴ければ幸いです

きもち・・・きもちとは物事に接したときに生じる感じや心の中の思い、または体が置かれた状態に応じて起こる、快・不快などの感覚物事に接した時に生じる感じや心の中の思いという表現の方が解り易いかも知れません。
接すると言えばそこから離れればすぐに気持ちが変るかも知れないと思います。
でも「置かれた状態」は自力で這い上がれなければ他人の力を借りざるを得ない事もあるのです。

人間の生活の中では、生まれては消えていく色々な気持ちがあります。人間は誰でもいつでも毎日の生活の中で、ゆれ動く気持とともに生活していて、それを押さえたり、解放したりすることの繰り返しが、そのまま生きることだといってもいいのではないでしょうか。
自分の中に様々な気持が生まれては消えてゆくのだということに先ず自分で気がつくことが大切です。
哀しみ、恥じらい、怒り、喜び・・・気持には色々な名前がつきますが・・・人間の気持はまたひとつの名前でわりきれるものでもありません。

ひょんな事で『犬のきもち』『猫のきもち』・・・こんな雑誌が発刊されて久しいのですが、その前に『人のきもち』が互いに解る人間ってホントにいるのでしょうか?・・・考えてしまいます。
話はとんでもない勢いで飛びますが・・・犬って人のきもちが解るんですね、これって実感!とつぶやいた時、ある生きものの実話を思い出しました。

今年の冬、国内最高齢とされる64歳の誕生日を迎えた高齢象の花子は今、東京の井の頭自然文化園に住んでいます。
現在ではすっかり年を重ね、皺も増え、最後の歯が1本残っているだけになってしまいましたが、タイ王国から日本にきた頃はまだ2歳半の小さな可愛らしい象でした。
優しいお母さん象や、大好きな仲間とお別れをして、たった一頭で日本にやってきた花子に素敵なお姉さん象インドからがやってきたのは3週間後だったそうです。
15歳のインディラというお姉さん象は優しく賢く、8本の爪を持っていました。
インドでは8本爪の象は幸せのしるしとして貴重がられています。
そんな愉しい時も僅か5年で終わり、井の頭自然文化園が花子の新しいお家になったのです。
井の頭自然文化園は、移動動物園で来た事がありましたが、折角、インディラ姉さんと一緒に過ごして、色々な事を教えて貰おうと思っていたのに、花子はまた一人になってしまいました。
花子は、一人になるにはまだ早すぎたようです!
人間は、象のきもちが解らないのでしょう!
野生で暮らしている象のメスは集団で生活をします。
お互いに鼻と鼻でご挨拶をするのが常ですが、花子は人間のエゴからそんな愉しい習慣も7歳という幼い時に取り上げられてしまったのです。

人間社会に於いて、象の花子はある日とんでもない事件に巻き込まれました。
酔っ払いの男が、花子を驚かそうと、こっそり忍び寄って来たのです。
この男は、時々夜中に忍び込んでは、動物に悪戯をしていた人でした。
花子は驚きました。
とっても恐かったのでしょう。
象は体が大きいから強いと思うかもしれませんが、実は恐がりで、優しくて、泣もろい動物なのです。
驚き、無我夢中になった花子は長い鼻を振り回して、脚をあげ、恐怖と戦いました。
夜中の出来事で、見ていた人は誰もいなく、翌朝、象舎の溝の中で、その男は死んでいました。
人間社会では、こんな事件は「自業自得」とでも言うのでしょうか?

また、花子はこんな事故にも関ってしまいました。
あの忌まわしい事件以後、花子の前脚には鎖がついていました。
ある日、飼育係が花子の餌の上に倒れ掛かってきました。
突然、持病の発作が起こったという説や、花子の前脚に繋がれていた鎖につまずいたとか、色々推測されましたが、本当の所は今以って誰にも判っていません。
飼育係が死んでしまったと言う事で、花子は「人殺し象」と言われたり、石を投げつけられたりしました。
新聞記者や報道の人が駆け寄り、カシャカシャと写真を撮って花子は本当に驚かされました。
両前足を鎖で繋がれ、何日も薄暗い檻の中に閉じ込められていました。
餌も十分に貰えず、体を綺麗にして貰う事もなく、どんどん痩せていき、アバラ骨がみえる程になってしまったそうです。
花子が、以前のように元気な心を取り戻すのに、6年もの年月が費やされたとの事です。

動物も、人間も、傷つく心は同じです。
苛められれば、自分を守る為に心に壁を作ります。
時には、自分を守る為に相手を傷つけてしまう事もあるのです。

今現在、花子は64歳・・・私と然程年齢差がない高齢の象です。
穏やかな顔をした花子の写真を見て下さい。
とても美しく年を重ねた象さんでしょう!
私も花子お婆ちゃん象のように素敵に年齢を重ねたい!(参考文献:山川清蔵・山川宏治著書)