Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

051-逃避行

2012-11-18 21:24:53 | 伝承軌道上の恋の歌

 僕は途方にくれて、電気街に紛れて店内においてあるPC端末を触っていた。夕日はまるで壊れそうになった半熟の目玉焼きのようにじくじくとした曖昧な形をしてる。店内においてあるPC端末を触り終わって外に出ると、アノンは惚けたようにショーウィンドウの前に立っていた。たくさんの液晶テレビがそびえて壁のように並んでアノンの顔をカラフルに照らしている。まばゆいほどに光るたくさんの画面にはマキーナのCGが洗脳みたいにシンクロして同じ場面を写していた。
「…アノン?」
「うん?泊まれそうなところ見つかった?」
「ああ、行くぞ」
 僕はアノンの手を引っ張った。
「ねえ、知ってる?マキーナが逃げたのもきっとこんな日、こんな風だった…」
 アノンは足早に歩く僕に半ばかけるようにしてついてきながら明るい声で言う。
「マキーナがいたならな…」
「マキーナはいたよ…そして神話は時と場所を変えながら繰り返して現実に転写するの。イナギがそうしたように。そして私達もね…」
「イナギから聞いたのか?」
 僕は足を止めてアノンに振り返る。
「ううん、ヨミ。ヨミが全部知ってたの…」
「それじゃ、なんで僕なんかをオリジネイターだと疑ったんだ?」
「だって、私もそれに初めて気づけたのはイナギの事故のほんの少し前のことなんだ。ただ、それでも全てが明かされたわけじゃなかった。でも、この前のアキラ達の話でようやく分かったんだ」 
 幾つもの画面いっぱいに映った歌を歌うマキーナの顔が一斉に僕達二人を見つめてる。歌詞の音のひと粒ひと粒が意味をなくして色のついた音素のままただ周りを飛び回ってる。そんな中でアノンの声と言葉だけが僕にちゃんと伝わった。
‐あの夜、シルシの乗っていた車に轢かれた女の子、それがマキーナだよ
 液晶テレビの光のカーテンをバックに向きあうアノンと僕はただ黙った。マキーナの元型はあの女の子…アノンはそう言った。アノンの出したその答えは、握っていた手のひらを広げてみたらそこにあったくらいに当たり前のことだったのかも知れない。だから僕は黙った。まだ僕は真実から目を背けたかったんだ。いつしかマキーナの姿はなくなって、ありきたりなニュース番組が映っている。
「…ウケイは…ウケイは全部知ってる。最後にあった時ウケイはもう少しだけ時間が必要って言ってた。ヨミを救うための時間。あともう少しだったのに、結局バレちゃった。考えたらバカみたいだよね。イナギはあんなことをしたし、私も今までいっぱいの人の前に出たから。でもね、多分それも仕方のないこと。マキーナはね、やっぱり寂しかったの。誰にも知られずに死んだから。でも、マキーナの記憶はここにとどまって様々な依代に形を変えた。それがイナギや私。そしてスフィア。これは本当に不思議なことで、きっとウケイも予想してなかった。シルシたちだってバレないように頑張ってきたのにね。ははは…」アノンは力なく笑う。
「…アノン、行くぞ」
 僕は返事の代わりにそう言ってアノンに背を向けて歩いた。今は僕たちを追っているやつらに捕まらないことだったから。そのせいで僕はアノンの最後の言葉を知らずにいた。
「…だから、バイバイ…シルシ…」

…つづき

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