アノンが示したのは今まさにこの界隈を賑わしてる『管理-kanri-』の告知サイトだった。しかし一見して違和感がある。キャラクターや彼女たちが歌う人工音声の歌には毒っけというか陰鬱さがなくなくなってる。しかも画面がやけに騒がしいのはマキーナに続くアンドロイドが総勢十二体。それぞれに個性的だが、それに一体何の意味があるんだろう。『正典』や『外典』がいくつあればそんなに増えるんだろうか?サイトではそれをデウ・エクス・マキーナの新しい展開と銘打って伝えている。
「どういうことだ?スフィアの連中はどうした?こんなの許したのか?」
「…事件も続いたしスフィアも今は自粛中だって…」アノンが肩を落として言う。
「そこを委員会とオトナに食われたってわけか…」
あれほど盛り上がっていたスフィアが速度を早めて朽ちていくようだ。
「もう、ここにソースは残ってない…匂いも感触もない…」アノンがそうつぶやく。
と、アノンは何かを思い出たように「あっ」と声を出すと、両手で僕の腕にすがって
「シルシ、私外行かなきゃ…」と言う。
「駄目だ」僕はそれに即答する。
理由を聞いたら最期、余計期待させるだけだ。
「シルシ…外」
そんな捨てられた子犬のような目で僕を見ないで欲しい。
「見たいの。『ゆらぎ』が見たい」
あの電柱にあった異国風の記号のことか?それとも公園の方だろうか?
「そうはいってもな…」
アノンは潤んだ瞳で僕を見つめる。そこに映る丸く伸びた小さな僕の姿が後ろめたさを際立たせる。アノンだって危険を分かった上で言ってるのは分かるが…
「いや、だめ…」僕が言いかけたところで
「…ねえ、ボク達が見てくるんじゃ駄目かな?」とアキラが割り込んでそう言った。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
頭にレースカチューシャを乗せたアキラが僕の白衣の腕に自分の腕を絡ませる。お互い変装のつもりだが、果たして正しかったのだろうか?
「気をつけてよね。ボクはともかくシルシ君はお尋ね者なんだから」
「あのな…」
幸い週末を迎える夜の街がいつにも増して賑わってるおかげでうまく紛れることができてる。周りも同じような格好をした連中ばかりで往来の人も気にも留めていない様子だ。むしろあの場所をくまなく見ようとするにはこの格好の方が目立たない。
「今だ」
信号が青になったのにあわせて大勢の人に紛れて行く。
「シルシ君、早くね」
僕は何気ない風にアノンが見ていたその街灯の柱を素早く観察する。が、傍から見れば聖地を訪れたただのマキーナのファンと言ったところだろう。目に焼き付けるようにして端から端まで凝らしてみるが、気になるモノは見つからない。そもそもこの柱がスフィアにとっていわば聖遺物になったせいで、多くの人が記念に落書きを残している。それは日々塗り替えられてオリジナルの跡形はとうになくなっていた。
「どう?なにか気になるものある?」アキラが辺りを見回しながら小声で僕に聞く。
「いや…ここはもう…」
「やっぱりアノンちゃん本人に見てもらわないとダメかな」
「…いや、待てよ。ここじゃない」
「でも、あの夜だってアノンちゃんここを見てたでしょ?」
公園なら…あそこならまだバレていないはずだ。アノンが言う『ゆらぎ』もともとあの公園でのことを言っていた。
「アキラ、公園だ」
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