ありゃりゃサンポ

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バンドネオンによるブルックナー交響曲《第8番》 小松亮太と26人

2014年11月16日 | ライブ・コンサート
バンドネオンでブルックナーの8番の交響曲を演奏する。こんな途方もなく意味の分からないイベントを最初にどこで知ったのか今となっては記憶もあいまいです。
タンゴ奏者がタンゴで使う楽器でなぜ交響曲を、それもブルックナーを、それも8番を。
わけのわからなさがあまりにたくさん重なって混乱がしましたが、まずはチケットを手に入れました。こんなの行く人がいるんだろうかと訝しがりながら。

開場はよみうり大手町ホール。今年の春に新しくなった読売新聞東京本社の中にある中型のホールです。
コンサートは17時からですが16時半から「プレトーク」があるということで早めに会場に入ると「当日券はありません」とのお知らせが。売り切れてるんだ!

小松亮太氏がステージで独りで語るプレトークで分かったことは、バンドネオン奏者がみんなタンゴだけが一番好きだという訳ではないということ。
小松さんは子供の頃にテレビ番組がきっかけてブルックナーの8番能交響曲を知り(最初は4楽章だけ)、それから長きにわたりこの曲を偏愛してきたという事。
どうしてもこの曲を演奏したかった。そのために非常な苦労をしてこの曲を学び、編曲をした。これをどのようにとらえられても構わない。ただ聞いて欲しい・・・・。


こちらが本日のステージ配置。(終演後のロビーのモニターの写真です) 手前からバンドネオン、マリンバ、雛壇にコーラス。

春先のチケット情報では
「楽器構成(予定):小松亮太ほかバンドネオン計6台、アコーディオン、チューバ、コントラバス、クラリネット、ギター、ヴィオラ、パーカッション、マリンバなど」
ということでしたが、実際にはコントラバス、ヴィオラはなし。クラはコントラバスクラになっていました。


当日のプログラムから。4台のマリンバとギター(エレアコとフェンダーのツイードアンプ)、そして一番のびっくりは男女3人ずつの「コーラス」でした。コーラス!?!?

頭の中を不安と期待でいっぱいにして臨んだコンサートですが、とにかく素晴らしいものでした。80分間手に汗握りながら音の洪水に浸りました。
非常に長い間、小松亮太が夢に描いていた一夜限りの演奏会でしたが、その内容も観客の拍手の響きからも「大成功」と言ってよいかと思います。祝福を送りたい。
以下、ランダムに思ったことを。

・実際のオケのから考えれば1/4にも満たない小さなオケですが、それでも30人近いオーケストラでこの複雑にテンポが変わる曲が指揮者なし。
 一段高い台の上に小松氏がいて弾き振りをします。アンサンブルをするという点では無謀かもしれませんが逆にオケの緊張と集中は高まるという面もあります。
・グループとしてはバンドネオン隊、マリンバ隊、コーラス隊、それに低音管楽器とティンパニとギター。編曲は極めて自由度が高く、どの楽器が原曲のどのパートという
 しばりが緩やかです。例えばコーラス隊は金管楽器でもあり、独奏木管管楽器でもあり、弦楽器でもあり。
・マリンバの活躍がすごいです。ブルックナーの特徴である弦楽器のトレモロからこちらもありとあらゆるパートが割り振られます。
・マリンバ奏者は4人ですが二人の女性奏者が赤い服と青い服で1台のマリンバと格闘するシーンが絵的にすばらしかった。まるで決まった振りつけのダンスのようで。
・活躍といえばハーモニカ奏者へのメロディの割り振りも尋常でなく多かった。同じリード楽器なんだからアコーディオンかバンドネオンにまかせればよいような
 ややこしい旋律をたった一人で悪戦苦闘しながら吹きまくっていました。ブラボーだよ。
・ギターはフルサイズのエレアコをジャズっぽいクリーンな音で、チェロバスやファゴットなどの音域を担当。3楽章以降はハープの役になるのですが
 これも難しかっただろうな。ちなみに通常のオケではハープ3台使います。
・非常に出番の多いソプラノのソロは圧巻でした。やはりどんな楽器より声の説得力が凄い。臨時記号の多すぎるブルックナーのメロディってこんなにも「歌」だったと再認識。
 アルトもいい場面がたくさんありました。今回の編曲では歌を取り込んだことでこの曲に新しい命を吹きこんだのだと断言できます。
・ティンパニだけはほぼ原曲のティンパニでした。やはりこれだけは身代わりがきかないか。4楽章でちょっとやらかしちゃいましたが、どんまいどんまい。
・バンドネオン6人はあえて言えば弦楽合奏主体です。タンゴで聞かせるような煌めく場面は少なくやや渋い扱い。逆にマリンバとコーラスの出番がが良すぎたか。
 小松氏のみしばしば目立つ美味しいフレーズで楽器の魅力の片鱗を見せていました。「バンドネオンによる」という表題にしては結果としてバンドネオンは裏方っぽかった。
 それは曲全体の構成を考えて小松氏が編曲した結果なので、決して悪いという事ではありません。
・全体のバランスはPAがまとめていてステージ左右のスピーカーから良いバランスになっていました。この編成で生音だけではやはりバランスは取れないでしょう。
・熱い演奏でした。クラシック畑でないメンバー主体でこの曲をここまでまとめるのは並大抵のことではありません。その推進力となった小松氏の情熱が
 客席の奥にまで伝わり続ける80分でした。このような熱の伝わる演奏会はそうそう聞けるものではありません。同じ場所で体験できた幸運に感謝します。


私とブルハチのこと。ブルックナーの8番は1980年にジュネス・ミュジカル・シンフォニーオーケストラという都内の各大学から集まったメンバーで一度演奏したことがあります。
10月から12月の本番までのすべての日曜日を使ってNHKの放送センターで練習したのですが、20歳の私には最初この曲がまったく理解できずに辛い日々でした。難しいし。
それが回を重ねて本番が近付くにつれて、この曲がだんだん「天国から降りそそぐ音楽」に思えてきてしまうという変化がありました。今でも思い入れの多い曲です。

書棚を探して当時の楽譜を見つけました。このあたり。自分が弾きながら魂だけが空に浮き上がって行くように感じていました。気分はフランダースの犬の最終回。

34年前に使った楽譜です。指揮者は尾高忠明氏。、その時はまだ33歳のワカゾー(笑)でした。私はもっとワカゾーでしたが。楽しかったな。




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4 コメント

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Unknown (Ree)
2014-11-17 00:37:24
まったく分からない世界だけど
なんだかすごーくいい。
細やかなBさんの説明が心に入ってきました。
そして青春の思い出、いいね。
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Reeさん (B)
2014-11-17 07:33:55
ちょっとこの夜は興奮しちゃいましたね。
音楽的にも面白かったし、自分の若き日の思い出も
音と共に蘇ったりして。
でもたぶんすぐに54歳の記憶は薄れてしまうと思うので
10年後の自分のために一生懸命書いて記録しました。
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ありがとうございます (小松亮太)
2014-11-18 00:45:05
レポートをありがとうございます。
とても詳しくて嬉しく拝読しました。ツイッターでも紹介させていただきました。ご来場に感謝申し上げます。
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小松亮太さま (B)
2014-11-18 07:41:20
ご本人様でしょうか。
私の興奮と、その場に居合わせた感謝が、これを作り上げた方に伝わったなら
これほどうれしいことはありません。
今後、その類まれな編曲の能力を使って、ぜひシリーズ化して他の曲にも挑戦していただきたいです。
マーラー「復活」とかお好きではないでしょうか(^_^)


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