歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

クリストファーズ『パーセル/妖精の女王』

2008年10月26日 | CD パーセル
Purcell
The Fairy Queen
Murray, Anderson, Fisher, Ainsley, Chance, Suart, Partridge, George
The Sixteen
The Symphony of Harmony and Invention
Harry Christophers
COR16005

1992ごろ?録音。66分16秒/65分34秒。CORO。ハリー・クリストファーズのパーセルを聴くのはこれがはじめて。クリストファーズのバロックものはバッハをはじめいろいろありますが、わたしはヘンデルの『シャンドス・アンセム』全集と『サムソン』を聴きました。どちらもすばらしかった。わたしは『妖精の女王』はガーディナーの演奏で慣れ親しんできたんですが、このクリストファーズのもガーディナーと同じ路線です。てきぱき、すっきり系。曲のよさを素直に聴けるいい演奏だと思います。

ソプラノのソリスト3人の中にベテランのアン・マレー(Ann Murray)が入っているのがポイントか。マレーはダブリン生まれのメゾで、アーノンクールの指揮でディドーを歌ったこともあって、パーセルもイケますよ。違和感なく聴いていられます。「嘆きの歌」はさすが深い味を出してる。それからバリトンでリチャード・スワート(Richard Suart)という人が入ってます。この人はギルバート&サリバンのサボイ・オペラあたりを主なレパートリーとしてきた歌い手ですが、始めのほうの酔っ払い詩人の歌などでその芸達者ぶりを発揮しています。

テナーのソリストはエインズリーとパートリッジですが、パートリッジは第4幕の2曲だけ。あとはエインズリーが受け持っています。ここでのエインズリーはまだ声が重くなる前で、爽快に、かっこよく歌ってますわ。やっぱええわエインズリー。第2幕のエコーの3重唱は、ソリストのアンサンブルではなく、合唱団の男声に合唱で歌わせています。それから第4幕の"Let the fifes and the clarions"をカウンターテナーではなく合唱団のテナー2人に歌わせています。

総じてソリストが適材適所で、フィッシャーとアンダーソン、このソプラノの2人とメゾのアン・マレーの使い分けもうまくいっているし、マイケル・チャンスも行儀よく出番をこなしているし、いいですよ。

マクリーシュ『パーセル/めでたし!輝かしきセシリアよ』

2008年10月16日 | CD パーセル
Purcell
Ode for St. Cecillia's Day 1692 "Hail, bright Cecillia!"
"My beloved spake" "O sing unto the Lord"
Hemington Jones, Wilson, Daniels, le Brocq, Podger, Harvey, Pott, Purves
Gabrieli Consort
Gabrieli Players
Paul McCreesh
471 728-2

1992,94年録音。70分16秒。Archiv。《めでたし!輝かしきセシリアよ》がおよそ50分。それからそれぞれ約10分くらいのバース・アンセムを2曲。ポール・マクリーシュのパーセルを初めて聴きました。ガーディナーの演奏では満足できなかったセシリアのオードがまづ素晴らしいです。それぞれの歌手たちのテクニックがすぐれている上に、マクリーシュの目指すパーセルにむかって、すべてのプレイヤーの心がひとつになってずばっと切り込んでいく。えー、うまく説明できないけどなんかそういう感じなの。とにかく密度の濃い演奏になってます。わたしはマクリーシュの演奏を聴いてはじめて《めでたし!輝かしきセシリアよ》って曲の真価が分かりました。これたしかにいい曲です。

ソリストが8人登場しますが彼らは合唱にも加わっていて、つまりトリニティ・クワイヤと同じシステムですな。ソロ歌う人も含めて、合唱は上から6・4・4・5のようです。いい感じの規模ですね。ソプラノにはコンスタンツェ・バッケスとかサリー・ダンクリーとかいますよ。ダンクリーはタリス・スコラーズ(その他)で有名な、泣く子も黙るおばちゃんですが、バッケスはこの人ガーディナーのモーツァルト・オペラのシリーズに出てたはず。こういう仕事もしてたんや。

"'Tis Nature's voice"はテナーの難曲ですがチャールズ・ダニエルズは的確に音をころがして端正に聴かせてくれます。この人、パドモアやアグニューよりもたぶん上の世代で、地味なので目立ちませんが、ノートルダム楽派あたりからバロックまでいろんなCDで歌ってるので、聴く機会が多いです。

バース・アンセムを2曲収録。パーセルのアンセムはいろんな指揮者やアンサンブルがいろんな曲をリリースしていて、それぞれのCDで収録曲が重なったりもするので聴きくらべが楽しいです。アンセムもいい演奏ですよ。

ジョン・ギボンズ『パーセル/ハープシコードのための作品集』

2008年09月23日 | CD パーセル
Purcell
Works for Harpsichord
John Gibbons
CRC 2313

1995年録音。68分38秒。Centaur。ケンタウルスって言葉は英語ぢゃ「セントー」になるんだそうです。そのセントー・レコーヅのCDをはじめて買いました。パーセルのハープシコードの音楽のCDは、今ではエガーのも出てるんですが、このジョン・ギボンズって人のをどっかのサイトでちょっと聴きましてねえ、よかったんですよ。たまたまAmazonで購入可能だったもんで、聴いてみることにしました。8つの組曲のほかに小品がたくさん入っています。

演奏しているジョン・ギボンズについてはよく分からないです。CDの解説はギボンズ自身による簡単なエッセイみたいなもんで、略歴は載ってない。さいわいBach Cantatas Websiteに簡単ながら情報がありました。歳は書いてありませんけど、1960年代の後半に賞を受けてるってことは、だいたい40年代ごろの生まれと見ていいんぢゃないでしょうか。"The American harpsichordist, John Gibbons, received the Erwin Bodky Prize (1969), the NEC Chadwick Medal (1967), and a Fulbright Scholarship for study with Gustav Leonhardt in Amsterdam."ってことですが、最後のほうはつまり、フルブライトの留学生としてアムステルダムでレオンハルトの指導を受けたってことですか?

で肝心の演奏なんですが、よく弾いてる。音楽が停滞することなく前へ前へと進んでいく。しかも力まかせというんではなくて、曲想をしなやかに音にしていく感じ。気に入った。プレイヤーとしても充実した時期の録音だったんではないでしょうかね。

この前、ケビン・マロンの《テンペスト》を聴いて、「なかなかいいんだけどちょっとあっさりし過ぎのような気もする」と思ったんですが、同じ新大陸の演奏家によるパーセルでも、あの《テンペスト》よりこのジョン・ギボンズのほうが満足度は高いです。言うまでもなくわたしの耳の場合では、ですけどね。

ガーディナー『パーセル/めでたし!輝かしきセシリアよ』

2008年09月20日 | CD パーセル
Purcell
Hail! Bright Cecilia
Smith, Stafford, Gordon, Elliott, Varcoe, Thomas
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
4509-96554-2

1982年録音。53分08秒。ERATO。聖セシリアのためのオード『めでたし!輝かしきセシリアよ』。演奏に50分以上かかってるんで、パーセルのオードとしては規模が大きいです。この曲、合唱は控えめ。ソロや二重唱がメインで、ところどころ合唱ナンバーが入ってくるという感じ。ソプラノの出番が少なめ。

この曲は個々の独唱パートが技巧的で、音を転がすのがむつかしい。ソリストのアラが出やすい曲のような気がします。このガーディナー盤は今となってはソリストの力不足が気になる。余裕もって歌えてない。それに、楽譜をただ音にしただけで、曲全体に統一感がない感じ。ガーディナーにしてはめづらしく、「全体をこう聴かせよう」って意識が薄弱な気がします。全体としての満足度はイマイチです。

レオンハルト『パーセル&ブロウ作品集』

2008年09月15日 | CD パーセル
Music by Purcell & Blow
Voluntaries
Suites and Grounds
Gustav Leonhardt
UCCP-3468

1994年録音。62分31秒。PHILIPS。パーセルのオルガン曲2曲のあと、ジョン・ブロウのオルガン曲が10分くらい続いて、そのあとはパーセルのチェンバロのための曲が演奏されます。レオンハルトらしくじつに堂々とした演奏。パーセルはもうちょっとしゃれっ気もあったほうが…。でもこういうしぶい選曲のアルバムで国内盤がリリースされるのは今となってはめったにないことなので、なくならないうちにと思って早めに入手しました。

パーセル・カルテットの『パーセル名曲集』のなかにいくつかチェンバロ独奏の曲が入っていて、それがなかなか素敵だったのでほかの曲も聴きたいなあと思って探したんですが、一枚物のCDって今なかなかないのね。ソフィー・イェイツのもケネス・ギルバートのも品切れ。どうしようかと思っているところにこのレオンハルトの演奏が復活したので、とりあえずこれを聴いてみることにしたわけです。

パーセルの《チェンバロ組曲》は8曲あるんですが、ここではそのうち第2、第4、第5、第7の4つの組曲と、あとは単一楽章のごく短い独立した曲をいくつか。それぞれ、小品ながらも耳を傾けるに足る繊細な魅力をそなえています。パーセルのチェンバロ、いいですよー。フランス・バロックの影響をモロに受けてはいるんでしょうが、それだけぢゃない。なにしろイギリスはバージナルの伝統がありますからね。こうなるとほかのチェンバロ曲も聴きたくなってくる。

さいしょの《ダブルオルガンのためのボランタリー》っていうのは5分強ですがなかなか聴き応えがあります。イギリス・バロックのオルガン曲てはじめて聴いたんですが、バッハみたいな重厚長大な曲よりもわたしはこういうののほうが好きです。

ガーディナー『パーセル/インドの女王』

2008年06月21日 | CD パーセル
Purcell
The Indian Queen
Hardy, Fisher, Harris, Smith, Stafford, Hill, Elwes, Thomas, Varcoe
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
4509-96551-2

1979年録音。62分20秒。ERATO。『インドの女王』は1695年というからパーセルの死の年の作品。晩年の作らしい充実した音楽がみずみずしい演奏で聴けます。パーセルは曲を完成させる前に亡くなったそうで、ここでは第5幕の合唱"All dismal sounds"まで収められています。この合唱は短調のわりと静かな曲なんですが、ヘンデルのような柄の大きさをほのかにただよわせていていて、この合唱で曲を閉じても問題ないでしょう。そのあとに弟のダニエル・パーセルが補作したマスクの音楽を補って録音したCDもあってそれはそれで興味ありますが、パーセル兄の作曲した部分だけでもじゅうぶん満足感味わえます。

テナーのソロはマーティン・ヒルとジョン・エルウィズ。イギリスの古楽のテナーのなかでも美声として知られたふたり。とくにマーティン・ヒルが大活躍してます。79年というとこのころヒルはダウランドも録音していて、ヒルの美声を楽しむにはまさにそのダウランドからパーセルにかけてがお勧め。トラック27"Ah, how happy are we"はヒルとエルウィズの二重唱。

全体として通奏低音のアーチリュートがよく聴こえてきて、心地よく耳をくすぐる。それから第2幕のさいしょに、よく知られた《Come, ye sons of art》の序曲が"Canzona"として引用されているのもいいです。

もっとも好きな歌は第4幕でソプラノが歌う"They tell us that your mighty powers"かなあ。アンニュイな雰囲気がただよいます。ジェニファー・スミスが歌ってますけど、ハスキーボイスが曲とよく合っていて、これは拍手。

同じ年にガーディナーは『テンペスト』も録音してますが、そっちはMonteverdi Orchestra名義になっていてモダン楽器、こっちは時代楽器。いづれにしても、この時期のガーディナーは実にさっそうとしてしかも気が利いていてほんとうにいいですねえ。

マーロウ『パーセル/王立礼拝堂のためのアンセム集』

2008年05月18日 | CD パーセル
Purcell
Anthems for the Chapel Royal
Choir of Trinity College, Cambridge
Richard Marlow
74321 16849 2

1987年録音。62分37秒。CONIFER CLASSICS。パーセルのアンセム。なによりもこのCDは雰囲気がいいですよ。パブリック・スクールの礼拝堂で歌われる本場もんのパーセル、って感じです。ただし技術的にはちょっと詰めが甘いかなと思うところもあります。初っぱな、バスのパートソロから始まるんですが、いきなり音がバラけそうで先行き不安を感じさせられる。でも技術的にハッキリ「こらまづいやろ」と思わせられるのはそこくらい。あとはもう雰囲気のよさで最後まで聴き通してしまいます。はじめのところだけ録り直しゃよかったのに。

バース・アンセムも歌っているのでところどころboySやboyAのソロがあるんですが、そこも力まずふわりと歌えています。テクニックの面でも指揮者の解釈の面でも取り立ててどこがどうすごいとか言うべきことはないんですが、パーセルを日ごろから歌い慣れてるんだろうなあというのはひしひしと伝わってきますね。そしてなんといいますかね、自国のすぐれた作曲家であるパーセルに対する心からの敬愛というか、そんなものも聴き取れる気がします。

今からだいたい20年くらい前に買いました。外付けで日本語解説の冊子がつけられた国内盤仕様のものを買ったような憶えがうっすらあるんですけど、今わたしの手もとには日本語解説はないです。なんども引越ししたんで、どっか行っちゃったんでしょう。20年前というと、まだインターネットでCDが買えるような時代ぢゃなかったです。当時わたしは広島にいて、パルコの上のタワーや紙屋町のHMVに行ってもパーセルのCDは少なかったです。"Man that is born of a woman"のCDがずっとほしくて、でもガーディナーのは入手しがたい状況で、そこにこれが出て、「ほんとは少年合唱はそんなに好きぢゃないんだが、仕方ねえなあ」などと思いながら買ったんだろうと思います。

ピノック『パーセル/ディドーとエネアス, アーサー王』

2008年05月08日 | CD パーセル
Purcell
Dido and Aeneas / King Arthur
von Otter, Dawson, Varcoe, Rogers, Priday, Hall, Leonard, Amps (Dido)
Argenta, Perillo, Gooding, MacDougall, Tucker, Bannatyne-Scott, Finley (Arthur)
Choir of The English Concert
The English Concert
Trevor Pinnock
474 672-2

『ディドー』1988年、『アーサー王』1991年録音。73分53秒/73分19秒。Archiv。もちろん最初はべつべつにリリースされたものですけど、わたしの持ってるピノックのパーセル5枚組BOXでは、この2曲がCD2枚に収まっています。『ディドー』も『アーサー王』もよい出来で、最初に聴く録音として広く勧められる。2CDにこの2曲の組み合せというのは実にぜいたくで聴きごたえ満点です。この2枚組だけでも邦訳つけて国内盤出せばそこそこ売れると思うけどなあ。現在国内盤では『ディドー』のみ、生きています。

『ディドー』はピノックらしくていねいな作り込みようで、演奏者たちもピノックの意図を汲んでしっかり歌えているので、充実した仕上がりになってます。フォンオッターのディドー、ドーソンのベリンダ、それに魔法使いと水夫のロジャーズがすばらしい。フォンオッターは、オペラの女の役を歌うには色気が足りないといつも思うんですが、このディドーっていうのは女王ではあるけれどよけいな色気は要らなくて、毅然とした気品があればいける役なので、フォンオッターの柄によくあっていていいです。魔法使いにベテラン・テナーのロジャーズを起用したのはだれの思いつきか分かりませんけどこれは大成功。あぶらっこい魔法使いを巧く歌い出しています。ピノックは、ほかの指揮者がたいていやるような補作をせずに、いま残っているパーセル協会版の楽譜をそのまま演奏しています。楽譜を見ながら聴くと、第2幕の森の場面がエネアスのアリアで突然終わって第3幕の水夫のアリアにそのまま移るのはたしかにちょっと収まりが悪い感じで、本来はエネアスのアリアの後、合唱なり後奏の合奏曲があってしかるべきです。でもふしぎなことに音だけ聴いているとそれほどの違和感もないんですよねえ。

『アーサー王』もしっかり聴きごたえのある演奏で、ピノックの気合いもじゅうぶんです。『ダイオクリージャン』のときにはちょっと歌いすぎてると感じたけれど、『アーサー王』の場合はピノックの歌わせかたでちょうどいい。聴いているうちにこっちもなんだか高揚してきます。アージェンタ以下のソリストたちの歌いっぷりもいいです。"Come if you dare"のテナー・ソロはジェイミー・マクドゥガルで、ガーディナー盤で歌うポール・エリオットの美声にはおよばないけれど勇ましさはしっかり出ています。アージェンタは"For love ev'ry creature"の高音をソツなくこなすし、"Fairest Isle"もまかされて、あどけなさの残る声で好唱。その"Fairest Isle"の前のどんちゃん騒ぎの男たちも、ガーディナー盤に負けず劣らずいい感じでハメを外してくれます。最後の"Saint George"はパーセル協会版どおりの長いソロで、ジュリア・グッディングが的確なテクニックで歌いきる。合唱はよく歌いこまれていて不安定なところは全然ありません。

ガーディナー『パーセル/テンペスト』

2008年05月06日 | CD パーセル
Purcell
The Tempest
Hardy, Smith, Hall, Elwes, Varcoe, Thomas, Earle
Monteverdi Choir
Monteverdi Orchestra
John Eliot Gardiner
4509-96555-2

1979年録音。57分22秒。ERATO。1979年はたしかガーディナーがモダンから時代楽器へ移行した年。これはその2月の録音で、"Monteverdi Orchestra"と明記してあるからオケはまだモダン楽器のはずですが、モダン楽器のバロック演奏によくあるヌメヌメ感はぜんぜんないんですよ。相当意識して、時代楽器ふうの演奏スタイルを取ってるってことかなあ。とにかく時代楽器派の人にも違和感なく聴けると思います。エラートへの、ガーディナーのパーセル・コレクションはモダン楽器での録音が混ざっているというので腰がひけてしまう人もいるでしょうが、音わるくないし、演奏自体とてもいいです。

なにしろ『テンペスト』ですからもとはシェイクスピアなんですが、そこはパーセルのセミ・オペラの通例どおり、本筋とは関係ないところでにぎやかに歌ったり踊ったりするんですな。プロスペローやミランダが歌うわけではありません。序曲のあとすぐ出てくるのが'First Devil'と'Second Devil'で、デイビッド・トーマスとロデリック・アールというふたりのバスがいきなり二重唱します。トーマスはたしかこの年ホグウッドの指揮で『メサイア』を録れてるはずですが、『メサイア』よりこっちのほうが調子いい。

どこをとってもまさにパーセルの世界で、この作曲家らしい愛らしさと清涼感にあふれているので、パーセル好きな人にははづせない。それをまだ新進指揮者だったころのガーディナーがパーセルへの共感を込めて聴かせてくれる。ガーディナーにしてはめづらしくよく歌っているのがいいです。第3幕でメゾのキャロル・ホールが歌う"Dry those eyes"とか、第5幕でジェニファー・スミスが歌う"Halcyon days"とか(どちらも6分かかるパーセルにしては長いエア。)それからやはり5幕でスティーブン・バーコーが出てきて何曲か歌いますけどそれがまたバスの曲にしてはなかなかしみじみとしていて、耳に残ります。

それから特筆すべきはラスト。スミスとバーコーのデュエットがまづあって、それを合唱が受けて終わるんですが、めづらしくfではなくてmpくらいで静かに曲を閉じるんですよ。パーセルはときどきこの手を使うようですが、ここではよく効いています。

合唱は少なめで、アリアが多いです。The Trinity Choirのやり方のように、力のある歌手を集めた合唱団で、合唱からソリストが出て歌うようにするといいと思いますね。あー、そんなコンサートでこの曲歌ってみたいです。

パーセル・カルテット『パーセルがいっぱい』

2008年04月25日 | CD パーセル
Purcell Miscellany
Catherine Bott
Mark Benett
The Purcell Quartet
CHAN 0571

1994年録音。71分22秒。CHANDOS。その名もパーセル・カルテットによる、パーセルの名曲集。'Miscellany'を、egbridgeについてきたウィズダム英和辞典でひくと「(いろいろな物の)寄せ集め」とありました。ほんとにそのとおりで、劇音楽『アブデラザール』の組曲のような、室内オケで聞きなれた曲から、「トランペットと弦楽のためのソナタ」、チェンバロ独奏のための組曲、キャサリン・ボットの歌うエア、など、パーセルの書いたさまざまな種類の音楽をごくごくうちわな編成で聴かせてくれます。たまにビオラが2本入りますけど、基本は弦3人+チェンバロで、それにトランペットが入ったりソプラノが入ったりする。こういう企画が通るところからも、イギリス人てほんとにパーセルが好きなんだなあと思いますね。

小編成で聴いてもおかしく聴こえない曲を集めてあるんでしょうが、パーセルの音楽って、いい意味で華奢でみずみずしい風情のものが多いので、4人の最少編成で聴いてもこれがまた乙なんですな。例の『アブデラザール』の「ロンド」も4人で、なかなかいいんですわ。違和感そんなにありません。CDの最後に入っている「トランペットと弦楽のためのソナタ」も、協奏曲ではなくてまさにソナタとしての演奏で、親密な雰囲気が醸し出されています。

パーセル・カルテットはマッキントッシュ、ワイス(以上vn)、ブースビー(vc)、ウーリー(cem)からなるカルテット。ウーリーのソロでパーセルのチェンバロ曲を初めて聴きました。おフランスな香りがほのかにただよう洒落た音楽ですよ。ほかのチェンバロ曲も聴いてみたくなりました。キャサリン・ボットはよく聴いたらあのジェニファー・スミスにちょっと似たハスキーな声質なんですが、ここではつつましく、いろどりの歌曲で花を添えてます。