歌わない時間

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クリスティー『書斎の死体』

2015年01月08日 | 本とか雑誌とか
クリスティー/山本やよい訳『書斎の死体』(ハヤカワ文庫)読了。ハヤカワのクリスティーは全集化にあたって新訳に切り替わったのがあれこれあって、これもその一つ。前の高橋豊訳でも読んでますが、新訳でも読んでみました。筋はおおかた忘れていましたが、良作だった記憶はあったので。細部はところどころ憶えてました。登場人物の多くもおぼろげながら憶えていた。それに最後のオチとかね。

ミス・マープルはけっして庶民ではないのね。車椅子の大富豪とも対等に落ち着いて話のできる、それなりの社会的地位のある老女。そりゃ元警視総監がボーイフレンドなんだもんねえ。今回の再読ではマープルの階級意識に気づかされました。

 ミス・マープルは反論した。力をこめていった。
「ふつうでしたら、セーターとスラックスか、ツイードのスーツに着替えるものです。わたしどもの階級の女性なら──階級を鼻にかけるような言い方はしたくないんですが、避けて通れませんのでね──当然、そうするはずです」ミス・マープルはその話題に没頭した。「育ちのいい令嬢はつねに、時と場所に合った正しい服装を心がけているものです。たとえば、どんなに暑い日でも、花柄の絹のドレスを着てクロスカントリー競馬に出かけたりはいたしません」
 ⋯略⋯
「ルビーは、いうまでもなく──そうね、露骨に申しあげれば──良家の令嬢ではありませんでした。時と場所にお構いなしに、いちばんいい服を着て出かける──そういう階級の女だったのです。⋯略⋯」
(『書斎の死体』、pp.255-256)

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