ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

丸谷才一【輝く日の宮】

2012-04-15 | 講談社
 
単行本の発行は2003年、文庫化が2006年。
おもしろいよ、と、pagipagi先生に教えていただいてからもう何年も経たせてしまいました。
今回は少し前に『源氏物語 九つの変奏』を読みましたので、これはいい機会かと。

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 輝く日の宮

 著者:丸谷才一
 発行:講談社
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これが、もうね、うんちく好きにはたまらない面白さでした。
主人公は19世紀の日本文学を専門とする学者の安佐子さん。
彼女のお仕事や親しい人たちとの会話、それとはまた別にと、取り上げ方もさまざまなら、対象もさまざまに文学的な問題が語られていきます。
たとえば、松尾芭蕉の奥の細道について。
「百代」をなぜ「ハクタイ」と読むかとか、そもそも芭蕉はなぜ東北を旅の地として選んだのか、とか。

そういった問題の最たるものが、書名にもされている『輝く日の宮』。
源氏物語です。
まだ幼くもすでに美しい少年とその継母の対になるような美しさを称えて、皇子を光君、父皇の後妻である藤壺を輝く日の宮と、周囲の人々は呼んだのだと、「桐壷」のなかにそんなふうなところがあったと思いますが、ここでは「桐壷」に続くものとして存在したかもしれない巻「輝く日の宮」のほうを表しています。
そういう巻名が古文書にはあるけれども、写本はおろか、その一節が記されたものもなく、その存在自体が謎であるのだとか。
源氏物語の第2巻『輝く日の宮』は存在したのか、否か。
存在したのであれは、なぜ伝わらなかったのか。
存在しなかったのであれば、なぜその巻名が伝わっているのか。
源氏物語の構成なども含めた源氏物語についての説を、著者は、安佐子さんを通して披露していきます。

うんちく満載なのは退屈ではないかと思われるかもしれませんが、気持ちの部分から発想された説なので、堅苦しい雰囲気はなく、紫式部を思わせる設定を持つ安佐子さんの恋愛遍歴なども織り交ぜて進んでいきます。
当然のごとく才色兼備の安佐子さんが、すぐお部屋に招待しちゃうのは、通い婚の変形でしょうかね。

千年以上経っても、人々をひきつけてやまない源氏物語。
その解釈や考察は、いまだ新しいものが登場し続けているようです。
先日みたものでは、若紫を登場させ、少女を自分の理想へと育てていく光君を描くことで、最愛の后・定子を亡くして意気消沈、彰子には見向きもしない一条天皇をひきつけるためであったろうとしていましたしね。
定子、彰子は系図の上で見るとすんごいライバル関係のように思えますが、さほど期間はだぶっていなくて、定子が亡くなるころに彰子が入内して、その頃12歳くらいだとか。
若紫の存在で、年上好きの天皇に、若い子の魅力を吹き込んだってわけでしょうか。
その後、源氏物語のファンになり、彰子のもとへも通うようになった天皇は、紙の提供者にもなってくれただろうということでしたが、道長のほうが懐はあったかそうな印象がありますねぇ。

そういえば、この映画の道長はどうだったんでしょうねぇ。
東山紀之の道長に、中谷美紀の紫式部。

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 源氏物語 千年の謎


TVで放送したら観ちゃうかも。
この画像のために、源氏物語のDVDを検索したら、長谷川一夫や市川雷蔵が光君を演じている作品もありました。

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「源氏物語」が長谷川一夫で、「新源氏物語」が市川雷蔵です。すごく気になる…。
気になると言えば、ジュリーの源氏物語も。

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いろいろなものがあるものです。


[読了:2012-04-03]






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訃報
2012年10月13日ご逝去とのこと。
謹んでご冥福をお祈りいたします。 
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