短篇だとばかり思い込んでいたが、丸々1冊だった。
厚さおよそ1cm。
美貌の若者ドリアンは友人の画家バジルのモデルとなっている。
地位も財産もあり、二十歳を超えてなお少年のような青年。
友人のヘンリー卿を相手に、バジルがドリアンについて語る言葉は、恋人を語る言葉そのもの。
辛辣なヘンリー卿はその心酔ぶりを揶揄しながらも、初めて出会ったドリアンの若者らしい純粋な魅力を感じる。
ここでヘンリー卿がドリアンに興味を持たなければ良かったのだが、もちろんそれでは話が進まない。
享楽主義者ヘンリー卿による無垢な青年の感化が始まるのである。
『ドリアン・グレイの肖像』が短篇でなかったのは、この男の長台詞によるものかと…。
ヘンリー卿に限らず登場人物は総じて饒舌。
ヘンリー卿の毒牙の餌食になったドリアンは、出来上がった等身大の自分の肖像画の美しさに心を奪われ、こう願ってしまうのである。
『いつかはぼくが失ってしまわねばならないものを、
なぜこの絵はいつまでも持っているのだ?
過ぎゆく一瞬一瞬がこのぼくのからだからなにかを奪いさり、
なにかをぼくの肖像画につけ加えるのだ。
ああ、もしこれが逆だったら!絵のほうが変化して、
ぼく自身はいつまでも現在の姿のままでいられるのだったら!』
かくして、ドリアンの魂から抜き出された良心は肖像画に宿り、その悪行をその表面に写し出していくことになる。
時に、自分の行いを激しく後悔する彼だったが、ヘンリーの感化の影響は根深く、己の美しさに気づいてしまったドリアンは、単純で純粋な少年のような自分には戻れない。
若さを失い、醜悪さを増してゆく肖像画。
数々の悪行を物語る、その肖像画を何故消し去ってしまわないのだろう。
良心を失っていることを知られたくないのか、それとも、良心をまだ持っていることを知られたくないのか。
変化する肖像画を、変化しない自分の証明として眺めては悦に入るためか。
重ねられる悪行に、悪い噂は立つもののなかなか露見しない。
罪を知るのは己ひとり。
締めつけられるような不安に次第に追い詰められていくドリアン。
今は使っていない幼い頃の自分の部屋に肖像画を隠し、そのドアの鍵は肌身離さず持っていながら、彼は安心できないのだ。
肖像画を人目につかぬところへ移したことも、主の不審な行動も知る身近な召使を、おそらくは単なる疑心暗鬼から解雇し、さらには秘密を守るためバジルを殺害して、念入りにアリバイまで作っても。
ある夜、ついにドリアンは肖像画にナイフを突き立てる。
非常に有名な作品であるため、ストーリーを追うこと自体にはあまり楽しみがない。(こんなに長々書いておいてなんですが…。)
ヘンリー卿の口から繰り出される感化の言葉や、ドリアンに影響を与えることへの悦楽。
『老年の悲劇とは、自分が年をとったということではなく、
若すぎるということなのだ。
時おり、僕は自分の純真さに驚くことがある。』
とぬけぬけと語るヘンリー卿が私は好きだ。
この男なら、肖像画を楽しく活用したかもしれない。
これでもかというドリアンの落ち込みようと、嘘のような急浮上。
たっぷり6ページはあったドリアンの集めていた宝石やタペストリーの説明。
全二十章のうちの多くを占めているサロンでの会話。
いかにもな貴族の生活を想像させる召使の存在。
(ジーヴスだったらどうするだろう?)
そういったものが楽しいのである。
そんななかに滑り込んでくる、筋の展開の部分はうっかり読み落としてしまうかと思った。
表紙の折り返しには映画化された際のドリアンの写真があるのだが、ちょっと違う。とても違う。(私が読んだ文庫は新潮社の古い版。)
あなたは年をとったほうがいい、きっと、と思ってしまった。
では…と他に画像を探してみた。
映画『リーグ・オブ・レジェンド』のドリアン・グレイ
耽美な作品を原作に取り上げるので有名なスタジオ・ライフでドリアン・グレイ役の役者さん その1 その2
ちなみに私はエドワード・ファーロングにこの肖像画をあげたかった。
肖像画なんか酒ででも何ででも荒れていいから、本人だけは若いままでいてほしかったと切実に。
ドリアン・グレイの肖像 著者:オスカー ワイルド(Oscar Wilde) 訳者:福田 恒存 発行:新潮社 このアイテムの詳細を見る |
・・・そうか、モンスターだったのか・・・。違う、かなり違う。
スタジオ・ライフも・・こういうのばかりやっているのですね。
『ドリアン・グレイ』は私の好きな本の一冊です。ワイルドは本当に言葉遊びが好きな人ですね。ヘンリー卿の言葉に惹かれずにはいられません。
『リーグ・オブ・レジェンド』、こんなストーリーだったんだ。はじめて知った・・・。今度、見てみます。
そうなんですよ。最強の男・ドリアンってすごいですよね
スタジオ・ライフは食指が動かないので未見。でもいろいろやってるんですね。『トーマの心臓』とか。
でも、同じ男ばっかりなら花組芝居のほうが好きです。『夜叉ヶ池』がとても良かったので。
私もヘンリー卿が出てくると、ちょっと嬉しくなって読んでいました。
>『リーグ・オブ・レジェンド』
スバラシイB級映画。おいおい、って思いながら観るとなかなか楽しいです。
ドリアンはkey personなので出番たっぷりです。