久しぶりのジョナサン・キャロル。
一時、夢中になって読んでいました。
『死者の書』の文庫を見つけたあたりです。
作品の詳細は覚えていませんが、ぐにゃりと世界がゆがむような物語の展開がたまらない刺激でした。
その後、何作かを読みましたから、やはり、はまっていたのだと思います。
一貫したテーマは生と死、じわじわと死の世界に侵食される生者の世界といったところ。
今回の『天使の牙から』もしかりです。
![]() | 天使の牙から 著者:ジョナサン・キャロル 訳者:浅羽 莢子 発行:東京創元社 このアイテムの詳細を見る |
誰から誰へとも知れない、旅先からの手紙で語られる不思議な男の話。
彼は、夢にすでに死んだ知人が現れるといいます。
その夢で、その知人が言ったことが理解できないと、目覚めたとき、体に大きな傷ができている。言われたことが理解できればその傷は浅い。
彼は、夢に現れるものを死神といいます。
怠惰な明るさに満ちていたはずリゾートの風景に浮かび上がる薄闇。
生と死の境界が薄気味悪い曖昧さでその闇を濃くしていくところで、視点は別の登場人物に移ります。
そしてまた別の登場人物へ。
どう関わってくるのか判然としないまま登場人物たちの半生や、日常が語られていきます。
夢の死神に脅かされる男たち。
病で死期の迫った元子供番組の人気者の苦悩。
激しい浮き沈みを体験する映画女優。それを見守る親友。
一人称がほとんど。
印象的なフレーズも多いので、まだるっこしいと思いながらも、登場人物たちの一喜一憂、ぼやき、つぶやきに付き合ってしまいます。
的を絞りきれない、中途半端な状態のまま、ゆるゆると結合していく物語の筋。
その物語の筋に引っ張られているというよりは、著者が、いつ急展開の斧を振り下ろすかに、息を詰めている感じです。
どきどきしながら待っていたはずなのに、ぺろんと世界の皮を裏返してみせられて、結局、オマヌケに驚いてしまう。
それが、キャロルを読む楽しみなのかもしれません。
どんでん返しと感じるか、肩透かしと感じるかの賭けも含めて。
巻末にとても力の入った解説がついていました。
立ち読みしてから判断するのもよいかもしれません。
ちなみに、こちら『死者の書』。
もう一度読んで思い出したいような、思い出したくないような。
犬が出てくるんです。確か。

死者の書
著者:ジョナサン・キャロル
訳者:浅羽 莢子
発行:東京創元社
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