誰もでないはずの電話ボックスの番号にかけてみた15歳の少年ジェレミー・マーズ。
電話の向こうから聞こえたのは、死んだはずのTVドラマの主人公・フォックスの声?
ジェレミーはフォックスを蘇らせることができるのか。

マジック・フォー・ビギナーズ
著者:ケリー・リンク
訳者:柴田元幸
発行:早川書房
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これは表題作の『マジック・フォー・ビギナーズ』。
なんだか、ファンタジーの、しかも正統派っぽい感じの匂いがする?
でも違うんです。
全然違うんですよ、これが。
少年少女たちも普通だし。
読んでいると、何が不思議なことなのかがどんどんわからなくなる感じがします。
電話がつながったこと?
でも、電話は普通つながるものだし、つながっていないかもしれない電話にかけてみようと思ったことが不思議?
いつ放送するかわからないTVドラマが不思議。
巨大蜘蛛にこだわるホラー作家のお父さんがヘン。
屋根の上ではキスしないと決めるジェレミーはヘン?
いや、別に変じゃないでしょ、そういう人もいるだろうしね、と、全部が少しずつ変で、でも、どれもこれも不思議じゃないような気分でいると、この作品がおもしろいのかおもしろくないのかもわからなくなってきます。
そういう作品が全部で9編収められた短編集。
『妖精のハンドバッグ』、『ザ・ホルトラク』、『大砲』、『石の動物』、『猫の皮』、『いくつかのゾンビ不測事態対応策』、『大いなる離婚』、『マジック・フォー・ビギナーズ』、『しばしの沈黙』。
趣向はそれぞれなのですが、妙な読後感が共通項。
現実的な部分と非現実的な部分の関係がちょっと怖いです。
たとえば、まだら模様でも、今、境界を超えたとわかるようであれば安心なのですが、現実になりすましている非現実とか、非現実を当たり前に飲み込んでしまった現実とか、おかしいんだけれど現実と変わらないような気がすると思えてしまう感覚とか、ちゃんと区別がつかないことが怖い。
するすると物語は進んで、それを追っているうちに、ああ、よくわからないところに来ちゃったなぁ、というのが怖いんですよね。
怖いところに連れてこられたとわかるなら、怖がればいいだけの話ですけど。
しかも、うっすらとしか怖くないのが、また気持ちの収めどころに迷うところで…。
あえて、ひとつを選ぶとしたら、『いくつかのゾンビ不測事態対応策』。
えっ、いったい何、この終わりは?という感じが好きといえば好きかも。
ちなみに紹介文はこんな感じでした。
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【ネビュラ賞】【英国SF協会賞】【ローカス賞短編集部門(2006年度)】ある夜、少年がかけた1本の電話は、世界の壁を越えて物語の世界へと?がった…。ファンタジイ、ゴースト・ストーリー、青春小説、おとぎ話、主流文学など、センス溢れる9篇を収録した異色短篇のショウケース。
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電話ボックスを相続した少年は、その番号に何度もかけてみる。誰も出るはずのない電話だが、あるとき彼が愛するTVドラマの主人公が出て、助けを求めてきた―異色の青春小説たる表題作ほか、国をまるごと収めたハンドバッグの遍歴を少女が語る「妖精のハンドバッグ」、なにかに憑かれた家を買った家族の騒動を描く「石の動物」など、アメリカ文学の新潮流をかたどる女性作家による瑞々しくも不思議な感触を残す全九篇。
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こちらは文庫版です。

[読了:2012-06-18]
参加しています。地味に…。
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