社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「労働価値計算による剰余価値率の国際比較」『経済』227号, 1983年(「剰余価値率の国際比較(第5章)」『剰余価値率の実証研究』法律文化社, 1992年)

2016-10-10 11:21:15 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「労働価値計算による剰余価値率の国際比較」『経済』227号, 1983年(「剰余価値率の国際比較(第5章)」『剰余価値率の実証研究』法律文化社, 1992年)

 本稿では, 剰余価値率の国際比較がいわゆる泉方式の労働価値計算にもとづいて, 日本, アメリカ, 韓国について行われている。実際の統計を使って推計を国際比較で行うには, それぞれの国々の統計の内容, 構成が異なるので, その調整が必要であり, 多くの苦労が予想される。筆者はその点について, 最初に簡単に解説している。主要な統計は, 産業連関表である。日本と韓国の連関表は, 比較的似ていて, 調整が容易だったようである。アメリカの連関表が日韓のそれとかなり違う。前者は産業×産業で構成されているが, 後者は商品×商品という構成である。またアメリカの延長表(1975年, 1980年, 1985年)はV表, U表として作成されている。したがって, アメリカの連関表との突合せは, かなり便宜的, 暫定的な仕方に頼らざるをえなかった, とある。他に, アメリカの剰余価値率計算に関連しては, 減価償却額が記載されていない, 固定資本マトリックスの存在しない年がある, といった問題があった。韓国では固定資本マトリックスがない, などといった事態にも直面したようである。いずれにも, 次善策で対応している。

 国際比較推計のためには, 投下労働量概念をいかに確定するか, 購買力平価とインフレ―タを使った共通の貨幣単位への換算をどうするか, といった問題もある。筆者は前者については, 各国の平均投下労働量(国際的平均投下労働量を採用しない)で統一したこと, 購買力平価に関しては, 財貨部門別での調整はせず, 賃金財貨部門全体の平均を適用した, と述べている。

 推計の結果, わかったことは剰余価値率(1960­85年)の高さは, アメリカ, 日本, 韓国の順である。時系列でみると, どの国も剰余価値率は上昇している。剰余価値率が, アメリカが日本より高いというのは, 従来の推計(シャー・リフ, 上杉正一郎, 篠原三代平, 野々村一夫, 山田喜志夫, 小林良暢)がおしなべて日本の剰余価値率がアメリカより高いと結論付けていたものと異なる。筆者は, この点が一番重要とし, 労働価値計算の意義もそこにあると, 述べている。上記のような結果になったのは, 価額レベルの剰余価値率では農業部門での剰余価値の収奪部分が入ってしまうからで, それを除いた推計がなされなければならない。

 剰余価値率の高低に関わる要因は, 労働時間, 賃金額, 労働生産性で, 他に労働強度がある(労働強度は推計が困難なので捨象)。全体として, 各国とも労働時間の変化は小さく, 賃金と労働生産性の要因が大きく変化した。具体的には, 労働生産性が飛躍的に上昇し, 賃金も上昇したが労働生産性の上昇ほどではなかったので, 労働力の価値は大幅に上昇した。各国の剰余価値率の上昇は, この要因が大きく, したがって剰余価値の増大は絶対的剰余価値のそれというより, 相対的剰余価値のそれで説明できる。

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