今浮かぶのは、最後に見たあいつの今にも泣き出しそうな顔だけ…。
「チアキ、そんなに慌ててどうしたの?」
部屋を出たところで、たまたま外に出ていたターニャに会った。
「あいつ…のだめが事故にあったらしい。今、病院からの電話があって…。」
ターニャの目が驚きで見開かれる。
「うそ、嘘でしょう!どんな様子なの!?」
「わからない。でも、すぐに来いと言われた。」
「今からいくのね?一緒に行くわ!!」
ターニャは一瞬取り乱したような様子を見せたものの、すぐにしっかりした顔つきになった。
タクシーを飛び降り、病院に駆け込んだ。
「すみません、今日運ばれたメグミ・チアキの夫です。妻は…?」
受付で示された部屋に急いで向かう。
広い一人部屋に、のだめは寝ていた。
酸素マスクを取り付けられ、ベッドの側では心音図がピッピッという音と共に規則的に山を描いていた。
顔や頭、手足にもシーツから出ている部分のいたるところに包帯が巻かれている。
その痛々しい姿にターニャの目は潤んでいる。
しばらくしてやってきた医師から、のだめの容態の説明を受けた。
「のだめ…いえ、恵は大丈夫なのでしょうか?」
「なんとも言えません。今のところ、容態は安定していますが、意識が戻るまでは気が抜けません。」
「そんな…。命に関わるような怪我なんですか…?」
「そう言えますね。特に気になるのは、頭を少し打っているようなのと、手足の骨折です。」
「骨折…。あの子、ピアノで留学してるんです。骨折が直れば、今までどおりに弾けるようになりますよね…?」
ターニャの必死の質問に、医師は顔を曇らせた。
「それは、保障できません。なにしろ、相当なスピードで撥ねられたようで、複雑骨折を起こしているのです。完治すればリハビリ次第で日常生活を送るには支障ない程度にはなると思いますが…。」
そこで医師はいったん言葉を切り、ターニャと千秋の目を見据えて宣告した。
「ピアニストとしての生活を続けられるかの保障は出来ません。」
「なんてこと…。」
医師の答えにターニャは泣き崩れる。
千秋も、その事実の残酷さに立ちすくんでいた。
「…リハビリの頑張り次第では、ちゃんと弾けるようになりますよね?」
追いすがるように尋ねた。
「その可能性が全く無いわけではありませんが、とても大変だと思います。」
「…そうですか…。」
沈む千秋とターニャに慰めの言葉をかけた後、医師はその場を離れた。
その後、警察官からの事情説明によると事故の概要はこうだ。
青信号で渡っていた歩行者の列に信号無視をしたトラックが突っ込んだ。
歩行者は突っ込んで来るトラックに慌てて逃げたが、のだめは逃げ遅れて撥ねられてしまったらしい。
目撃者によると、のだめは魂が抜けたようにボーっと歩いていて、そのためトラックに気づくのが遅れたのだろう、という話だった。
ターニャはのだめの荷物をまとめるためにいったんアパルトマンに戻った。
ベッドの側に立って覗くのだめの顔は、心電図がないと生きているのかどうかも不安になるほど儚げにみえた。
月明かりに照らされたのだめの顔を見つめながら、出会った頃のことを思い出していた。
奇声、甘える時の声、笑顔…。
そして最後に見た、今にも泣き出しそうな顔。
あの時出かけるべきではなかった、と言い知れぬ後悔が襲う。
あの笑顔が見られなくなることを恐れている自分に気づいた。
入籍以来、嫌で仕方なったはずの存在なのに。
(なんで今更…。)
不信感に囚われていた心が、揺らぎ始めていた。
next♪
――――――――――――――――――――
揺らぎ始めた千秋の心。
ちゃんと描けてますか…?
本当に、文章力が欲しいです(TAT)
「チアキ、そんなに慌ててどうしたの?」
部屋を出たところで、たまたま外に出ていたターニャに会った。
「あいつ…のだめが事故にあったらしい。今、病院からの電話があって…。」
ターニャの目が驚きで見開かれる。
「うそ、嘘でしょう!どんな様子なの!?」
「わからない。でも、すぐに来いと言われた。」
「今からいくのね?一緒に行くわ!!」
ターニャは一瞬取り乱したような様子を見せたものの、すぐにしっかりした顔つきになった。
タクシーを飛び降り、病院に駆け込んだ。
「すみません、今日運ばれたメグミ・チアキの夫です。妻は…?」
受付で示された部屋に急いで向かう。
広い一人部屋に、のだめは寝ていた。
酸素マスクを取り付けられ、ベッドの側では心音図がピッピッという音と共に規則的に山を描いていた。
顔や頭、手足にもシーツから出ている部分のいたるところに包帯が巻かれている。
その痛々しい姿にターニャの目は潤んでいる。
しばらくしてやってきた医師から、のだめの容態の説明を受けた。
「のだめ…いえ、恵は大丈夫なのでしょうか?」
「なんとも言えません。今のところ、容態は安定していますが、意識が戻るまでは気が抜けません。」
「そんな…。命に関わるような怪我なんですか…?」
「そう言えますね。特に気になるのは、頭を少し打っているようなのと、手足の骨折です。」
「骨折…。あの子、ピアノで留学してるんです。骨折が直れば、今までどおりに弾けるようになりますよね…?」
ターニャの必死の質問に、医師は顔を曇らせた。
「それは、保障できません。なにしろ、相当なスピードで撥ねられたようで、複雑骨折を起こしているのです。完治すればリハビリ次第で日常生活を送るには支障ない程度にはなると思いますが…。」
そこで医師はいったん言葉を切り、ターニャと千秋の目を見据えて宣告した。
「ピアニストとしての生活を続けられるかの保障は出来ません。」
「なんてこと…。」
医師の答えにターニャは泣き崩れる。
千秋も、その事実の残酷さに立ちすくんでいた。
「…リハビリの頑張り次第では、ちゃんと弾けるようになりますよね?」
追いすがるように尋ねた。
「その可能性が全く無いわけではありませんが、とても大変だと思います。」
「…そうですか…。」
沈む千秋とターニャに慰めの言葉をかけた後、医師はその場を離れた。
その後、警察官からの事情説明によると事故の概要はこうだ。
青信号で渡っていた歩行者の列に信号無視をしたトラックが突っ込んだ。
歩行者は突っ込んで来るトラックに慌てて逃げたが、のだめは逃げ遅れて撥ねられてしまったらしい。
目撃者によると、のだめは魂が抜けたようにボーっと歩いていて、そのためトラックに気づくのが遅れたのだろう、という話だった。
ターニャはのだめの荷物をまとめるためにいったんアパルトマンに戻った。
ベッドの側に立って覗くのだめの顔は、心電図がないと生きているのかどうかも不安になるほど儚げにみえた。
月明かりに照らされたのだめの顔を見つめながら、出会った頃のことを思い出していた。
奇声、甘える時の声、笑顔…。
そして最後に見た、今にも泣き出しそうな顔。
あの時出かけるべきではなかった、と言い知れぬ後悔が襲う。
あの笑顔が見られなくなることを恐れている自分に気づいた。
入籍以来、嫌で仕方なったはずの存在なのに。
(なんで今更…。)
不信感に囚われていた心が、揺らぎ始めていた。
next♪
――――――――――――――――――――
揺らぎ始めた千秋の心。
ちゃんと描けてますか…?
本当に、文章力が欲しいです(TAT)
リコと申します。
長編小説、いつも楽しく読ませて頂いております。
健気なのだめちゃんがあまりに切なくて…千秋も可哀相で憎めなくて、これからどうなっていくのか目が離せません。
続き楽しみにしています。
これからも頑張ってください。
この連載は、一途なのだめの切なさをテーマにしている部分が大きいので、それを感じ取っていただけて嬉しいです!!
自分の文章が稚拙なのは重々承知しておりますが、そう言っていただけると気が楽になります。
(毎日アップするたびに、羞恥心との戦いなので…)
この連載も、この後また一波乱ある予定ですので、お付き合いくださると嬉しいです!!