福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

東響には東響コーラスが必要!

2021-09-18 21:31:30 | コンサート

ミューザ川崎に出かけるのの、東響を聴くのも久しぶりである。

東京交響楽団 名曲全集 第169回

指揮:原田慶太楼
ソプラノ:小林沙羅
バリトン:大西宇宙

ヴォーン・ウィリアムズ:グリーンスリーヴスによる幻想曲
ヴォーン・ウィリアムズ(ジェイコブ編):イギリス民謡組曲
ヴォーン・ウィリアムズ:海の交響曲

ミューザ川崎シンフォニーホール




ヴォーン・ウィリアムズだけの作品による演奏会というのも珍しいが、この作曲家の第1交響曲である「海の交響曲」を実演で聴いたのは初めてである。

前半は、「グリーンスリーヴスの主題による変奏曲」から「イギリス民謡組曲」へ間を置かず、あたかも一つの組曲のように扱ったのは自然な流れでよかった。
特に印象に残ったのは、変奏曲。ピアニシモからピアノの間に幾重もの階層とニュアンスがあり、その繊細さと静かな呼吸に打たれた。
原田慶太楼の指揮に接するのははじめてであったが、この繊細さだけをとっても非凡な音楽家であることが分かる。
「組曲」も優れた演奏であったが、やはり、この作品はオリジナルのミリタリーバンドで聴く方が愉しい。このあたり、作曲者自身のオーケストレーションでない弱みのあるのは仕方なかろう。

メインの「海の交響曲」。
東響コーラスが圧倒的であった。
この長大なテキストと音符を暗譜するというだけでも、いつものことながら正気の沙汰ではなく、信じがたいことであるが、そのパフォーマンスも見事であった。
感染防止のため不織布マスクを着用のまま、さらに大きなディスタンスをとり、人数制限(出演者の大半を前後半で入れ替える)をするなど、何重ものハンディキャップを抱えながらも、「海の交響曲」を壮大なスケールで描ききった実力には脱帽する。

わたしの座席が、1階席下手寄りの前方だったこともあり、オーケストラがトッティで強奏すると聴こえにくくなったのは残念。
また、マスク着用の対策として発音をもっと明瞭にする、長いフレーズの後半に於ける発声の維持、転調時にハッとするようなハーモニーの色合いの変化などが為されていれば、さらに完璧だったと思われるが、全体の感動の前には小さな疵に過ぎない。

原田慶太楼の示す道筋は一点の迷いもなく明朗であり、オーケストラは柔軟に、そして自由な表現力で棒に応えてゆく。
小林沙羅と大西宇宙のお二人も、この作品の法悦感を見事に表現していた。

さて、大フィル合唱団の指揮者として、オーケストラ付き合唱団の置かれている立場の厳しさは分かっているつもりである。
本番に於けるハンディのみならず、レッスン会場の確保の難しさ、レッスン時の制約、また、経営側から見たときの団を維持するための負担など。

ただひとつ、本日の演奏を体験して、心底感じたことは、「東響には東響コーラスが必要」と言うことである。
「東響には、東響コーラスが似合う」と言い換えてもよいだろう。
新国立歌劇場をはじめとするプロの素晴らしさは認めつつも、どのオケの「第九」に出かけてもプロの合唱団では楽しくないではないか。
アマチュアにはアマチュアなりに、時間をかけてじっくり作り上げる音楽があり、ひとつの演奏会にかける想いも強く、それぞれの団の個性も羽ばたき、それが音楽文化の裾野を広げるのだ。
東京交響楽団と東響コーラスには、この受難の日々を乗り越えて頂きたい、と願いつつ、会場を後にした。

 

 

 

 

 

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大フィル合唱団 大阪クラシックに登場!

2021-09-07 23:40:55 | コーラス、オーケストラ

大阪クラシック 第4公演 

9月12日(日) 19:30
大阪市中央公会堂 中集会室

全席指定 1,000円

【指揮】福島章恭 【ピアノ・キーボード】小林千恵
【合唱】大阪フィルハーモニー合唱団

木下牧子/C.ロセッティの4つの歌(第3曲は割愛)
ラインベルガー/レクイエム 作品194
三善 晃編曲/唱歌の四季 (朧月夜/ 茶摘/ 紅葉/ 雪/ 夕焼小焼)

告知が遅くなりましたが、大フィル合唱団の「大坂クラシック」への出演情報をお知らせします。

来る9月12日(日) 19時30分 大阪市中央公会堂 中集会室に於ける第4公演です。
昨年は、かつてない大きな試みを予定していながら。コロナのために涙をのみ、本年はリベンジも込めての出演となります。

プログラムは、以下の3曲。

女声:木下牧子/C.ロセッティの4つの歌(第3曲は割愛)
混声:ラインベルガー/レクイエム 作品194
混声:三善 晃編曲/唱歌の四季 (朧月夜/ 茶摘/ 紅葉/ 雪/ 夕焼小焼)

本年は、コロナ感染症防止対策により、大所帯である大フィル合唱団全員がひとつのステージに乗ることは適いません。そこで、全体を2つの混声合唱団と1つの女声女声合唱団に分割し、3つのステージを組むこととしました。それおぞれが、約30名の編成となります。

オケ付きである大フィル合唱団としては、いずれも希有な選曲となりますが、とりわけ、女声のみのステージというのは珍しいと思われます。ホルスト「惑星」、マーラー「3番」への出演経験はありますが、コーラスとピアノだけという機会は、今後もそうそうないのではないでしょうか?
その御蔭もあって、レッスンはとても新鮮で、メンバー一同、生き生きと歌ってくれています。

もちろん、演奏が生き生きとするのは、木下作品の魅力あってのこと。
クリスティーナ・ロセッティによる生と死の境界線を行き来する詩の世界が、美しく格調高い音楽となっています(出演時間の都合で第3曲「それはなに」は割愛)。

混声のふたつのステージは、ラテン語による典礼音楽と日本語による唱歌を選びました。

ラインベルガーでは、なんといっても無伴奏二重合唱によるカントゥス・ミサop.109が最高傑作なのですが、それは、メンバー全員がひとつのステージに乗れるときまで待つとします。
「レクイエム」は、ラインベルガーならではの親しみやすさ、甘味で陶酔的なハーモニーによる佳作です。

三善先生の「唱歌の四季」は、個人的に、出版前に三善先生手書きのコピー譜で歌った懐かしい作品。そのときの指揮は、合唱界のレジェンド田中信昭先生でした。若き日に受けた田中先生の教えは、いまもわたしの中に生きていると思われます。
美しい日本の風土や日本人本来の心が描かれた5つの唱歌をもとに、三善先生が描き上げたファンタジーと言えましょう。
ピアノパートの美しさも特筆すべきで、小林千恵さんによる妙技にもご期待ください(今回は、ピアノ1台版による演奏になります)。

うっかりしていましたが、ウェブでのチケットの発売は9日(木)までのようです。

ご興味のある方は、どうぞお急ぎください!!

ローチケ
https://l-tike.com/order/?gLcode=53553&gPfKey=20210812000000924365&gEntryMthd=01&gScheduleNo=1&gCarrierCd=01&gPfName=第4公演&gBaseVenueCd=54466&version=PC

チケットぴあ
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2121858&rlsCd=001

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