Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

いざボルドーへ

2014-12-08 09:09:58 | ボルドーへの旅
早朝のサクラ・ラウンジは混雑していた。
2010年の年末、深夜の飛行機に乗るために使った際には、
羽田の国際線発着も始まって日が浅かったせいか、
ほとんど人もいず、また一般の空港内のレストランなども閉まっている時間帯ゆえ、
暖かい料理がここに用意されていることがありがたいばかりだった。

今回は席を見つけるのも容易ではない。
また朝食ゆえにそれほど食べたいと思える料理も特にない。
ほどなく飛行機に乗り込み、手荷物も棚に乗せ、席に落ち着く。

私の不意をついたのは突然の思ってもみない申し出だった。
前に立った初老の男性が「あの、席を替わって貰えませんか?」
余りのことに絶句する。
友人と離れた席なので私にそっちの席へ行ってくれとのこと。
その男性が指示した席は非常口のそば、緊急時に脱出の手助けをする、
そういう条件で座る席だった。

最前列、中央の通路側、この席に拘って数か月前からここを座席指定したこと、
また非常口の脇の席に座るだけの資格が私にはないはずと、
丁重に断るが、そのような申し出をしてくる相手が隣人となったことで、
12時間近いフライトはかなり重いものになった。

ボルドーに着いてからLにその話をすると、
万が一のことが起きた場合、誰がどこに座っていたかは、
確認のために重要な手掛かりになる、
そのような行動は非常識極まると呆れて、
航空会社、あるいはフライトアテンダントに報告するべきではなかったか、
と言われた。

飛行機が空いていれば皆、移動して好きな席に座ってしまうのだから、
その人も軽い気持ちで言ったのだとは思うが、
そもそも航空券もそれぞれ違う価格で買っていて、
席によって付加価値が違うはず。
やはり理不尽と言うか、身勝手には間違いない。

2010年の年末は深夜便だったので、ひたすら寝かせてくれて、
食事もそれほどサービスがなかった。
今回は幾度か味わいのない機内食が運ばれてくることになる。
また映画がJALは無難なものに抑えていてつまらない。
しかしサービスするアテンダントの女性達はとても感じが良かった。
そして外国系のエアラインと違い、室温が暖かいのが、
私にとっては何よりだ。

ボルドーに行くという話からどうやってワインを持って帰ってくる、
そんな話題になる。
年上の方のアテンダントはお客様の赤ワインが割れて出てきたのを、
見て以来、自分もワインを持ち帰るのは不安になり、やってないとのこと、
若い方の女性は、かつてスーツケースにたくさんのビール瓶を入れてしまい、
瓶同士がぶつかり割れて、衣類もビール浸し、散々な目に遭った経験があるそうだ。
二人にボトルは衣類できっちりと囲み、それぞれは離し、
動かないように詰め込むようにとアドバイスを受ける。

いよいよパリへと到着の時間が近づく。
エールフランスに乗った知人は乗り換えのターミナルについて、
きちっと教えてもらったとのことだが、
JALのアテンダントはボルドーへと向かうエールフランス便について
までの知識はなかった。
案内のパンフレットに記されているターミナルとは異なる場所へ着陸、
となったことでマニュアル通りにはいかなさそうだ。
しかし最悪と言われるロンドンのヒースロー空港、
しかもテロ未遂事件後の乗り換えを経験したお蔭で、
それ以降、どんな乗換も臆さないだけの度胸がついている。

その都度、空港の職員に確認しながら、
ボルドーへとのゲートに、さほど迷わずに向かうことができた。
ショップで簡単なスナックと飲み物を買い、フライトを待つ。
ボルドーまでは座席指定ができず、通路側ではなく窓側となった。
しかしながらずっと低空飛行、隣の席にも乗客はなく、
のんびりと窓からの景色を眺める。
サービスは飲み物と簡単なスナック。
塩味の物と甘い物から選べる。

ボルドーの空港に着いた。
小振りの空港で職員に聞きながら、タクシー乗り場を探す。
タクシーは見当たらず、戻ってまた尋ねることになる。
ようやくタクシーをみつけ、行き先を告げつつ、
言われた通り、幹線道路には入らず、下の道を行くようにと頼む。

緑も多く、葡萄の木が植わっていて、中心部に近づくと街の賑わいが見えてくる。
それでも大きなビルや無機質的な街並みではなく小振りで暖かみがある風景。
LとMの住む街へと車は進んでいく。
道路の入り口に杭が出ている。
住民はカード、タクシーはどこかに連絡してその杭を下げてもらい侵入していく。
一般車両は入れない状態になっている。
運転手は中々、彼女たちのアパートメントをみつけられない。
ようやくらしきものに近づいたと告げられたので、
降りて確認をしてほしいと一緒に下車する。
呼び鈴を鳴らして、彼女たちが現れるまで一緒にいてほしい、
何しろ私はボルドーに初めて来たのだからと半ば強引に頼む。

二人が中から出てきたので、トランクからスーツケースを出してもらい、
料金を払う。
外ドアを開け、少し進んで内ドアを開けると、
そこに4階までの螺旋階段が待っていた。
Mはスーツケースを持って階段を登ってくれる。
薄暗い階段を上り詰めた4階が彼女たちの住まい。
開けるとそこにまた階段、メゾネットになっている。
18世紀の建物を古い部分の良さは残し、
住みやすいようにと上手にリノベーションされている。


大きな吹き抜けの窓の外はまだ明るい。
海外に行って暗くなってからタクシーに乗るのは今まで避けていた。
ニューオリンズの帰り、早朝であったのにかかわらず、
まだ外は真っ暗で運転手には口説かれるし散々な目に遭った。
今回は夜8時過ぎてもまだ外は明るく何の問題もなかった。

私の部屋はメゾネットの二階、天窓とバスルームが付いている。
とても居心地が良さそうだ。
部屋を出てすぐにトイレもある。
リビング、ダイニングとキッチン、二人の寝室は階下にあり、
それぞれのプライバシーが保たれている。
階下にもトイレはあるので、
これは自由にバストイレを使えそうで気が楽になった。
若かりし頃、イギリスでホームステイをした折、
そこの家族と一部屋のバス・トイレ・洗面所を共有した。
いくら何でもこの年であれはできない。

「運転手さんと何かフランス語で話した?」と聞かれ、
「う~ん、あんまり感じが良くなかったなぁ。
でも私のフランス語の発音が悪くて通じなかったのかも。」と言うと、
Mは「私のフランス語の発音は問題ないと思うけれど、
それでもあの人は感じ悪かったわよ。」と笑わせてくれる。

「簡単な食事を用意してあるけれど、一緒に食べない?」と誘われる。
ほんとうはさっさとバスに浸かり、荷をほどき、ベッドに横になりたい、
そんな気分だったが、食卓が用意されている様子を見て、
「喜んで(avec plaisir!)」と答える。

季節の野菜、ズッキニを使ったキッシュ、グリーンレタスのサラダ、
トマトのマリネ、赤と白のワインとお水。
機内食で満腹でまったく食欲のないはずだったのに、
Mの作ったキッシュを食べた瞬間、五感が蘇ってくるというか、
水分や栄養分が五臓六腑に浸透し生気が漲ってくるのが、
ひしひしと感じられる。

何人かのフランス人の家庭に招かれたことがあるが、
食べ物が口に合った場合とまったく喉を通らずに、
残すのにどう言い訳したらよいのやら、
どうやって少しでも食べた様子にみせるのかと苦労した経験がある。
Mの季節の食材を使った優しい味の料理、
明日から何の心配もなく食べられることがわかり安堵した。

Lから明日からのスケジュール表を渡される。
翌日の天気予報は晴れ、2時間のLとの個人レッスンの後、
ヨーロッパでも珍しいとされる砂丘のある名所、
アルカションに行く予定となっていた。


翌朝も早いので早々に寝室に引き上げる。
彼女たちが整えてくれた部屋、
写真集や照明が綺麗にアレンジされた本棚、
机と可愛いクッションの添えられた椅子、
クローゼットがあり、鏡も用意されている。
ベッドもセミダブル、ゆったりとしている。
備え付けのバスロブ、タオル類は感触が良い。
洗面所のシャンプーやせっけんも香りの良いものが置かれている。
屋根裏部屋風に天井が傾斜しているのも返って落ち着く。
私はこの部屋がすっかり気に入ってしまったのだった。


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