進化する魂

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台風による鉄道網混乱をネタにトレードオフについて考える

2009-10-09 00:03:45 | 経済
JR最大規模の運休…風速の規制強化が一因
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20091008-OYT1T01106.htm?from=main2

台風18号の影響で首都圏の電車網が混乱し、多くの人々に大きな影響を与えた。
(なんと296万人に影響があった!)
ある程度予想されていたこととはいえ、主要路線が軒並み運転見合わせになり数百万人に及ぶ電車通勤者に影響を与える様子をまざまざと見せつけられると、JRや私鉄会社に文句の一つもつけたくなる。

私は学生の時、ネットワーク理論(鳩山首相の専門分野的なあれ)を少しかじっているのだが、その視点から今回の問題について軽く考えてみたいと思う。
(交通革命の必要性についての続き的なお話だ)
(あくまでも素人視点で)
結論としては、結局「トレードオフ」に行き着くのだが、文句ばかり言わずに考えてみることが重要だ。
(あらゆる問題について同じなのだが、文句を言うだけでは解決策に結びつかない。まず「なぜ」を考えてみよう。)

まず、首都圏で電車を使っている人ならよく経験することだが、ある路線で起きた事故や問題はその路線に限定されずに他路線に影響を与えることが多い
例えば、横浜方面で京浜東北線が人身事故で停止すると、振替え輸送で東海道線や横須賀線、京浜急行に人が流れるので、これらの路線に影響を与える。
振替え量がこれらの路線の輸送キャパを超えてしまうと、今度は東海道線も遅延したり、ひどい場合には停止してしまう。
他にも連結乗入れが行われている鉄道会社同士では、ある鉄道会社の事故が他の鉄道会社の運行に影響を与えることもある。
例えば、電車を使用しない人には笑える話かもしれないが、大雨で地下鉄が運転見合わせる場合もあるのだ。
地下鉄と連結乗入をれしている地下鉄以外の路線の影響を受けているからだ。
また、首都圏に張り巡らされた鉄道網が複雑に関係しているため、リスケジュールが困難だという点もある。
一部の遅延を局所的に押さえ込むことができず、影響範囲が拡大してしまうのだ。

このような問題に対処するため、多くの場合に用いられるのが利用制限(輸送制限)である
あらゆるシステムにいえることなのだが、システムは当初想定していたピークを超えた入力が行われると思わぬ挙動をすることがある
これは鉄道でもコンピュータでも銀行の受付でも、あらゆる仕事において同じである。
そのため、想定していたピークを超えた入力を制限し、想定外の問題の発生を回避する施策をとるのだ。

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思わぬ挙動というのは、想定外の動作や問題が発生するということだ。
あらゆるシステムは、設計時に入力を処理して出力するプロセスを定義するのだが、このプロセスは想定内のことしか処理できない。
当たり前のことであるが、想定外の問題を適切に処理できるのであれば、最初からシステムを構築する必要(プロセスを定義する必要)がない
何らかの問題を処理するためにシステムを構築するのだが、その時に問題だと思っていないことが起きた場合に、どう処理するかは、あくまでも「想定できる想定外」の範囲でしか想定できない
(ブラック・スワンは想定できないからブラック・スワンなのである。)
ゆえに、システムを設計する者は、初めに要求仕様をある意味で割切って(妥協して)決める
「これこれこういう場合にこういう処理をするシステムを構築する」と決めるのだ。
しかし、「それ以外のこと」が起きる可能性については十分に考慮することはできない。
この宇宙には人間の期待通りに動くわけではない。
(詳細はニコラス・ナシーム・タレブ著「ブラック・スワン」を熟読ください)

問題が発生した後で、さも事前に問題が起きることがわかっていたように思えるのは「後付バイアス」と呼ばれる。
その後付バイアスをもとに「なぜ、そのことを想定していなかったのか?」と言われても設計者は「想定外でした」としか答えようがない。
「なぜ想定できなかったのか?」を考察するのは意義深いが「なぜ想定しなかったのか?」を問うのは時間の無駄だ。

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真っ当なシステムは設計当初にピーク設計が行われているはずである。
入力量が定常的に一定である場合にはさほど重要性はないが、入力量が変動する、それも大きく変動する場合には、平均値のほかに最大値や最低値を想定することが非常に重要である。
しかし、このときに設計者は現実の壁とぶつかる。
ピークを想定できる最大値に合わせると、非常に高コストなシステムになってしまう場合があるのだ。
理想的にはピークに合わせて設計すべきなのだが、例えばその最大値が100年に1度しか発生しないというような頻度である場合、ピークに合わせると99年間は使われない能力を浪費することになってしまう。
これは経済合理性に基づいて考えると非常に無駄で、高コスト構造の温床になってしまう。
もちろん、生命や国家に関わるような非常にセンシティブな事項については低頻度の問題にも配慮しなければならない(100万年に1度しか発生しない問題にも配慮すべきものもあろう)が、全てにおいてそのように設計してしまうと、高コスト構造になってしまい、それは結局、消費者や使用者に跳ね返ってくる

例えば、ある鉄道会社が設備投資をして車両を増設し、便数を増やしたとして「わが社の電車はいつ乗っても席に座れます。グッバイ・ラッシュアワー」とうたったとしよう。
しかし「ただし料金はこれまでの3倍です。」と言った場合に、どれだけの利用者が喜ぶのか。という問題がある。
(もちろん中にはウェルカムな人もいようが、負担する通勤費が3倍になると困る人も多い。)

そこで設計者はあるところで割切る必要性に迫られる。
ここまでは対応するけれど、これ以上は諦める」といった具合だ。
利用者は時々困る事態に遭遇するが、その代わり低コストで便益を享受することができるのだ。
これが「トレードオフ」というものである。
極論すれば「この宇宙に絶対的な解は存在しない。あるのはその時点での最適解だけ。」なのだ。

さて、上記を踏まえた上で「輸送制限」について考える。

今日のように台風によって鉄道網に設計当初に想定したピークを超える入力が起きた場合、どう考えるべきだろうか。
設計者が「ピークを超えているので鉄道網は機能停止します。」といってもよいが、運用者はそういうわけにはいかない
(でも競争が緩いので微妙にそんな雰囲気もあるので、鉄道会社の株主にはがんばってもらいたいが)
運用者は「ピーク設計した範囲内で機能させなければならない。」のだ。
そこで有効なのがシステムにピークを超える入力をさせないことである。


特に、ボトルネックとなるような接続点(主要駅)だけで実施するのではなく、そこに向かう輸送量を制限することが効果的だ。
混んでいるところだけで制限するのではなく、混む要因となる前段で制限することで、全体としてのパフォーマンスは向上する。
(ボトルネックを解消するために、ボトルネックだけに着目するのは目先の短期的な視点なのだ。これはどの問題にも適用できると思う。)


ピークを超えると想定外の問題が発生する可能性があるので、ピークを超える入力を制限し、鉄道網の機能性を確保するということだ。
だから鉄道会社は乗降客に罵詈雑言をあびせられようとも駅のホームへの入場制限を実施し、ピークを守ろうとする。
乗降客からしてみれば目の前の電車に乗れないのだから損失に思えるかもしれないが、しかし鉄道網が完全に停止すれば移動することすらできないのであるから、短期的にはマイナスでも長期的にはプラスなのである。
鉄道会社は、自分達のためだけでなく乗降客のためにもがんばっているのだ。

が、しかし、ここにもしっかりと「トレードオフ」がある。
ピークを超えるからといって入場制限をしようにも、追加人員が必要だ。
しかも電車が遅延している状態では、駅は人で溢れるし、質問客は増えるしで相当の人員追加が必要になる。
が、そんな予備の人員をかかえるのもまた経済合理性を基に考えると無駄なのである。
(鉄道会社が赤字になって、料金が上がり、サービスの質の低下が起きたらほとんどの人が嫌なはずだ。)
非番の職員を全員出社させて対応できるならよいが、全駅に十分な追加人員を配するのは無理だ。
やはり輸送制限にもピーク設計が必要なのである。

他方、これとは違った輸送制限の方法もある。
問題が起きて入力がピークを超えようとしている時に、料金を跳ね上げる方策である。
異常事態時に通常通りサービスを提供するためにはコストがかかるわけであるから、同じコストで最悪のサービスを提供するよりも、コストをかけてサービスの質を維持する方がよい場合がある。
例えば、料金を10倍にする代わりに確実な運行を保証することである。
しかし、これも「トレードオフ」なのである。

結論として、どんな場合にも鉄道網の混乱を回避するのは不可能だ
結局のところ、ピークを超えてサービスを提供することはできない
ということなのだ。

これらは当Blogの下記エントリに繋がる話なのである。
費用負担のない便益など存在しない

(突然飛躍するが、)
やはり我々がこの相対的な宇宙に存在する限り「トレードオフから逃れることはできない」のである

ただ、人間が創ったシステムは不完全なのでトレードオフからの抜け道がある
例えば「コネ」や「賄賂」、「バックドア」といったものだ。




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2 コメント

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均衡状態 (ttosi)
2009-10-10 16:13:40
一方を取ると他方が立たず、その逆もまたしかり。トレードオフというのは面白いなと思いました。

つまりそれは均衡状態ということだと思うのですが。自然な流れに任せ一番バランスの取れた状態で落ち着くという。

今回の交通機関に関わらず、あくまで自然であれば何も問題になりませんが、意図的に作られた均衡状態だと問題だと思います。
三方一両損 (advanced_future)
2009-10-10 23:06:52
>ttosiさん
コメントありがとうございます。

相変わらず非常に鋭いコメントですね。
ご指摘の通りトレードオフを考える時、「バランス」を避けては通れません。
どのような状態で均衡しているかというのは、問題を分析・解決するにあたって非常に重要だと思います。

「無限のトレードオフの唯一の均衡点」は理想的には存在すると思うのですが、現実的ではないようです。
そういう意味で我々は常に「自然(完全)均衡」でないことを前提に物事を考えねばならないと私は考えます。

日本には「三方一両損」という巧い言葉があるようです。

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