ADONISの手記

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キルケ(ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり)

2015年11月16日 01時12分42秒 | 小説

 吾輩は炎龍である。名前はまだない。ってネタに走ってしまった。私はキルケ。といってもこの名は親から付けられた物ではなく自分で勝手にそう名乗っているだけです。まあ、親と言っても古代龍だから子に名をつけるという習慣なんてないからそれも当然です。

 私は気が付けば炎龍になっていました。自分でも何を言っているかわからないが、そうとしか言いようがなかった。事故で死亡したと思ったら死神からトリッパーにならないかとスカウトされた私は“人間離れした丈夫な体”という転生特典を選んで異世界転生した。そこまではいい。

 しかし、気が付いたら私は卵から産まれてしまい、巨大なドラゴンに育てられていた。確かに人間離れした丈夫な体になったけどドラゴンにしてくれとは頼んでいない。転生物で人外になるという話はあるだろうが、まさか自分がそうなるとは予想だにしなかった。

 第二の人生ならぬドラゴン生は正直言ってきつい。生まれてすぐに親ドラゴンからは人間や人間に近い姿をした亜人を餌として提供されてそれを食べなければならなかったからだ。勿論、それには抵抗があったが、生まれたばかりの新生龍の身体は成長の為に多くの食事を必要としていたこともあり飢えには勝てず、結局むさぼるように人間や亜人を食べていった。

 人としての意識が薄れて怪獣(ドラゴン)になってしまっているのが実感できるが、だからといってどうにかなるものでもなかった。自分で狩りができるようになり巣立ちをして以降は野生動物や怪異などを狩りの対象にしていた。人間や亜人を殺すには抵抗があったので必然的にそうなったのだ。

 そんなドラゴン生活を数百年も過ごしていたが、ある日私と同じ前世もちの元日本人たちに出会った。当初はドラゴンと人間という種族の違いからコミュニケーションに問題があったものの監察軍の技術で意思疎通が図れるようになった。

 彼ら三千世界監察軍のこと知った私はとにかく人間の姿になれるようにして欲しいと頼んだ。ドラゴンの姿は確かに自然界においては最強だ。純粋に野生動物として生きるのであれば生態系の頂点に君臨しているといってもいいだろう。

 しかし、なまじ元人間としての記憶があるばかりに、何かと小回りが利かない上に、文化的な生活をすることができないドラゴンとしての生活は苦痛でしかなかったのだ。

 そんな私の要望に対して監察軍から提示されて手段はヒトヒトの実を食べる事だった。このヒトヒトの実は『ONE PIECE』に登場する悪魔の実の一つで、これを食べると人間と同等の知能を得るのと獣型、獣人型、人型の三形態になることができるようになる。要するに人間の姿になることができるわけである。

 この手の悪魔の実を食べると海に嫌われて一生カナヅチになるというデメリットがあるが、元々、炎龍が海を泳ぐことなどないので、まったくデメリットになっていない。当然ながら私はヒトヒトの実を食べて人の姿になることを選んだ。

 人型になった私は赤い髪のロングヘアに白い肌の白人の美少女な容姿になっていた。前世が女で現世でもメスドラゴンなので女性なのは当然でしょう。

 私は何気に前世よりも美少女なこの姿を気に入り、通常は人型であるが必要に応じて炎龍の姿になるようにした。人型であることからこの世界の人間たちと接触することも可能となった。彼らの言葉は前世で使用していた日本語とは異なる為、言語習得にはかなりの手間がかかったが、それは時間をかけることで何とか出来た。

 また、人型の恩恵として燃費が非常によくなった事があげられる。そもそも炎龍は爬虫類の一種になるため哺乳類よりは燃費がいいとはいえ、この巨体なのでそれを維持するためには桁違いにたくさんの食料が必要だ。それは象の一日の食事量を見ていれば一目瞭然だろう。

 それが人型であれば人間一人分の食事ですむのだ。こうなれば燃費の良さはいうまでもないだろう。

 こうして、人間に関りながら必要に応じて炎龍の力をふるうという生活していた私は炎龍王キルケと呼ばれるようになった。通常、炎龍は古代龍に属するが、人間の姿になって人語を話したりしない。古代龍にとって人間や亜人などはあくまで食料でしかないのだ(そもそも不可能だ)。

 しかし、元人間である私はヒトヒトの実によって人間と交流することができる。その他の古代龍と隔絶したあり方からそう呼ばれるようになったのは無理もない事だろう。

 さて、『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』において炎龍といえば人間(特地限定)では対処できない天災のような存在として扱われていたが、自衛隊にやられてしまい彼らの引き立て役になってしまっていた悪役である。更に言うなら、冬眠している所を亜神に無理やり起こされた挙句、子作りさせられていたね。

 ふむ、となるとかなりまずい。いくら現世がドラゴンでも元人間としては獣姦もとい竜姦されるのは勘弁してほしいし、英雄譚なんかで登場する引き立て役のドラゴンとしてやられるのはもっと嫌です。

 もちろん私が原作で登場する炎龍とは限りませんが、危険は避けた方がいいから原作時期が近づくと監察軍本部に避難して様子を見ることにした。その甲斐あって自衛隊が私とは別の炎龍を撃破したのを確認した。

 さて、これからどうするか? 正直な話原作に関わるというのも魅力的ではあるが、死亡フラグを回避したとはいえ、私が自衛隊と関わるのはいろいろと拙い。あの炎龍のせいで自衛隊がドラゴンを見つけたら問答無用で攻撃しかねない。いくら私でも戦闘能力自体は他の古代龍とかわらないから自衛隊とガチでやりあうのは危険すぎるのだ。

 こうなるとこの世界で活動するのは好ましくないだろう。仕方ないので、この世界から引き上げて監察軍に住む方がいい。

 そう判断した私はこの世界から引き上げたのであった。

 

解説

■キルケ
『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』の世界の炎龍に転生したトリッパー。転生特典の影響で古代龍に転生してしまってドラゴン生活に苦慮していたところを監察軍からヒトヒトの実を与えられた為に人間として活動できるようになった。

◇転生特典
 人間離れした丈夫な体

 


風間ちとせ その四

2015年11月16日 01時12分30秒 | 小説

 アメリカとの交渉を終えて数日後には件のトリッパーが私の前に引きずり出されました。最も私がやったのは交渉というよりもただの恐喝でしかありませんが、この世界が相手ならば特に問題になりません。

 勿論、まともな外交の場であれば私の交渉は赤点どころかマイナスです。本来外交というのは難しいもので、安易に力ずくで押さえつければ反発されて盛大な恨みを買いますし、かといって下手に譲歩すれば相手に舐められてしまいます。その辺りのさじ加減が外交には必要ですが私にはそんなスキルは持っていないので、舐められるよりは反発される方がいいと割り切って徹底的なゴリ押し外交をやりました。当然ながらかなりの反感を買ってしまいましたが、相手はすぐに滅びる世界なので問題ありません。

「八条弥生さん、貴女は何故ここに連行されたのかお分かりですね」

 私がそう言うと手かせ足かせをつけられた上に檻に入れられている弥生さんは私を睨みつけてきた。彼女のこの待遇は私がそう要請したからです。何しろ私は生身の白兵戦ではとても弱い為、彼女のようにいつ襲い掛かってくるかわからない人物は檻に入れておかないと安心できません。

「あんた『ギャラクシーエンジェル』の烏丸ちとせね! あんたも臆病者の転生者か!」
「……確かに私は転生者ですが、臆病者とは随分な言い方ですね」

 転生型トリッパーであるちとせは前世のネット小説とかで転生者と呼ばれていた者に当てはまり、監察軍でも転生型トリッパーを転生者と呼称する事がそれなりにあります。

「地球が滅亡寸前まで追い詰めらえているのに隠れて出てこなかったくせに、今更出てきたと思えばアメリカに圧力をかけるなんて最低よ!」

 はっきり言って彼女の言う事はとんだ見当はずれな事です。そもそも今の私は監察軍に所属する軍人で、その権限において動かせる戦力は監察軍の意向の元でふるわれるべきものです。それなのに旧日本陸軍みたいに現場の軍人が勝手な暴走をしてよいわけがなく、組織に所属する以上組織の利益を無視して身勝手な行動はできません。彼女は規律というものをなんだと心得ているのでしょうか?

 どうも話が合わないので詳しく彼女の罵詈雑言を聴いてみて要約すると、弥生さんは強大な戦力を有しているにも関わらず人類の為に表に出てこなかった私を怒っている事がわかりました。同族を殺害したのもこれが理由のようです。

「まず申し上げておきますが、弥生さんが殺害した同族はこの世界ではなく別の世界で転生した転生者です。ですからこの世界の事で彼を怒るのは見当はずれも甚だしい事です」
「なんですって!」

 私は軽はずみな行動を起こした彼女に軽蔑の視線を向ける。

「それじゃあ、死神が言っていた転生者は誰なのよ!」
「それは私です。この世界に転生した者は私と弥生さんだけです」 
「お前か!」

 彼女はまさに鬼のような表情で私を睨みつける。

「お前が逃げた臆病者か!」
「そんな言い方は良くありません。私の行動は正当な事です」
「正当ですって!」

 そもそもトリッパーは創作物を元にした下位世界で転生や憑依することでその世界で第二の人生を開始しますが、原作に介入して好き勝手に変えるか、原作を重視して干渉しないかはトリッパーが自由に選択できます。

 私は仲間に迷惑を掛けたくなかったので、この世界では不干渉を選択して監察軍に所属することにしましたが、これは正当な行動で誰にも文句を言われていません。むしろ監察軍にこの世界を救うことを求めれば、それこそ問題でしょう。いくら監察軍がトリッパーたちの相互互助組織であるとはいえ私一人の我が侭で監察軍がそこまでやってくれるわけがありません。

「まあ、いいでしょう。私が聞きたいことはただ一つ。先日弥生さんが殺害した彼の事です。彼は貴女の敵ではなくむしろ助けてくれた恩人であるにも関わらず何故殺したのですか?」

 普通同じトリッパーが危ないところを助けてくれたのであれば礼を言うのが筋で、間違っても殴り殺すなど私たちの常識ではありえない蛮行です。

「私が必死にやっていたのに、あいつは何もしていなかったからよ!」
「つまり弥生さんは彼が貴女と同じ転生者だと気づいていたわけですね」
「そうよ!」

 弥生さんは私の質問を肯定しました。今回一番肝心なのは弥生さんがあの男を同じトリッパーであると気づいていながら殺害したのか、それとも同族だと気づかずに殺害したのかですが、これで確認がとれました。

 実のところ、監察軍はトリッパーが同族に被害を与えない限り下位世界でどんな悪逆非道なことをしてもあまり問題になりません。

 例えば先日殺害された同族にしても、元々は『下級生』という恋愛シミュレーションアダルトゲームの世界に転生したトリッパーで、彼はニコポを使ってヒロインを落としまくりハーレムを作った男です。最もハーレムを作ったせいですぐに女性関係が大いに揉めて女性陣がヤンデレ化してしまった為に手に負えなくなったら、女たちを捨てて逃げ出すように監察軍に所属したわけです。

 そんな彼の行動は世間一般からみれば最低ですが、同族に一切迷惑をかけていないために監察軍ではただのお遊びですんでいます。

 また、監察軍の影響化にあるブリタニア帝国、大日本帝国、アトランティス帝国の三カ国を除けば下位世界人をいくら殺害しても犯罪にはなりません。その為、弥生さんがただの殺人狂で彼を同族だと気づかずに殺してしまったならば、殺人狂であることを非難されることはなく、同族だと知らなかった事から情状酌量の余地がありました。

 しかし、弥生さんは同族だと気づいていながら暴行を加えて殺害してしまったとなれば情状酌量などされることはありません。そうなると彼女の処罰は決まったようなものです。どうせ裁判をしても死刑しかありえない。それならばわざわざ連行するまでもなく、この世界に放置してBETAに始末させればいい。

「そうですか、では弥生さんにはもう用はありません。彼女を下げていいですよ」
「よろしいのですか」

 アメリカ政府の方がそう確認してきました。あれだけ圧力をかけてまで彼女を引きずり出したにも関わらず、あっさり手放すのだから不信に思うのは無理もないでしょう。

「ええ、もう用は終わりました。私たち三千世界監察軍はこの世界から撤退します」
「ちょっと待ちなさい。あんたあれだけの戦力があるのに地球を見捨てる気なの!」

 弥生さんがトンチンカンなことを言いますが、この世界を捨てて監察軍に所属した私にはこの世界を救う義務などないから見捨てて当然なのです。

「ミス・チトセ、ちょっと待ってください。貴女にぜひ会っていただきたい方がいます」

 シャープシューターに乗り込もうとする私にアメリカの政治家が慌てて止めようとしていた。会ってももらいたい人ですか。地球人からすれば私たちは厄介者の筈だから撤退するといっているのに引き留めるとはどういうことでしょう? そう、疑問に思う私に一人の男が近づいてきました。

 

「姉さん久しぶりだね。まったく変わっていなくて驚いたよ」

 私にそう言った40歳ほどの男性にどことなく見覚えがあります。

「信一郎ですか。生き残っていたのですね」

 彼は私の二つ年下の弟、風間信一郎です。正直、40歳の中年男性が外見17歳ほどの少女を姉さんと呼ぶのは違和感ありすぎです。

「ああ、俺は生き残ったが父さんたちは死んだよ」

 この世界の日本は壊滅状態ですから家族が死亡しているのは当たり前でした。正直、風間家は外様武家であったために弟は前線でとっくに戦死していると思っていましたが運がいいですね。いえ、どうあっても勝ち目がない生き地獄の世界では速やかに戦死していた方が幸せでしょう。

「そうですか。では、さようなら」
「ちょっと待ってくれ。姉さん、このままじゃ地球は終わりなんだよ!」

 あっさりと会話を打ち切って帰ろうとする私に、信一郎は慌てて声を荒立てた。この場に信一郎が来た理由は私の人情に訴える為でしょうが、私にとってこの世界の家族などとっくに切り捨てた存在にすぎません。今更そんな者に情など持つわけがありません。

「そうですね。とりあえず上と相談してみますね。ただし、いつになるかはわからないですよ」

 そう、相談すると言うだけならタダです。相談して駄目でしたで終わることは分かりきっていますが、それは言わなくてもいい事でしょう。私はそんな無意味な気休めの言葉を残しつつシャープシューターに乗り込んで『マブラヴ』世界から撤退しました。

 

「……このような経緯となりました。以上報告は終わります」

 監察軍本部に帰還した私は総司令官トレーズ閣下に報告しています。今回は監察軍本部に所属するトリッパーの殺害事件だったために通信ごしではなく直接会って報告する必要がありました。

「八条弥生はあの世界で放置することにしたのだね?」
「はい、彼女には本部に連行して無理やり処刑するだけの価値はありません。第一法的根拠の問題もありますから」
「確かにそうだね」

 本来なら監察軍としては弥生を裁判にかけて処刑するのが望ましいですが、八条弥生はトリッパーでありながらも監察軍に関りがなく、犯行現場の『マブラヴ』の世界が監察軍の勢力圏外であるのが問題です。こうなると監察軍の軍法で裁く法的根拠が曖昧になってしまいます。

 確かに弥生はトリッパーでありながら同族殺しをした裏切者の犯罪者ですが、それを裁くしっかりした法的根拠がないわけです。勿論、監察軍の勢力圏となる三カ国で犯行に及んでいれば監察軍に所属していようがしてなかろうが、問答無用で裁かれるわけですが、こればかりはどうしようもありません。

 勿論、無理やり裁判にかけて処刑に持ち込むというのも可能ですが、そんなグレーゾーンな行動をするのは望ましくありません。だからこそ、裁判にかけるのではなく放置したわけで、それにはこちらが裁かなくても勝手に死ぬという理由も大きかったわけです。

「うむ、ご苦労だったね。ゆっくり休むといいよ」
「はっ! ありがとうございます」

 私はトレーズ閣下に挙手の敬礼を行い退出した。

「これでしばらくは休暇ですね」

 今回の仕事を終えた私はまとまった休暇をもらいましたが、休暇が終わったら他の下位世界でエンジェル候補を探してスカウトする予定です。

 今回の任務のついでに『マブラヴ』世界の下位世界人からエンジェル候補を探す事も考えましたが、それは取りやめにしました。というのも、確かにトリッパーは下位世界人を推薦して監察軍に所属させることができる権限がありますが、推薦されて監察軍に所属した下位世界人が問題をおこしてしまうと推薦したトリッパーの信用問題につながるからです。その為、いくら出身世界とはいえあの世界の人間を推薦できません。

 それなら、手間をかけてもあちこちの下位世界を回って信用できるエンジェル候補をスカウトした方がいいでしょう。そう考えた私は滅びゆく『マブラヴ』世界のことをどうでもいい事として忘れることにした。

 

解説

■風間ちとせ(かざま ちとせ)
 身長:157cm 容姿:烏丸ちとせ(ギャラクシーエンジェル) 外見年齢:17歳 特技:弓道、長距離狙撃、情報処理。『マブラヴ』の世界に転生したトリッパーで早々に出身世界を見捨てて監察軍に所属している。17歳のときにゴッド・ブレスを投与した為に外見年齢は17歳のままである。精神鍛錬の為に弓道を嗜んでいるが、長距離狙撃と情報処理を得意としており、パイロットの腕だけでなく、それらの技量も相当なものである。勉強熱心な優等生で同族のトリッパーには気配りもできるが、トリッパーでないものには情を持つことがなく半ばNPC扱いをしている。転生特典は烏丸ちとせの外見と能力。

■八条弥生(はちじょう やよい)
『マブラヴ』の世界に転生したトリッパー。生き地獄の世界で苦しんでいたために他のトリッパーに敵意をむき出してして殺害してしまう。ちとせの撤退後は一兵士として戦場で勇戦するも戦死することになる。

■銀髪オッドアイのトリッパー
『下級生』の世界に転生したトリッパー。転生特典で得たニコポを用いてハーレムを築き上げたが、そのせいで複雑な女性関係を捌ききれずに逃げ出す羽目になった。その後、監察軍で仕事をするも弥生の八つ当たりで撲殺される。

 

あとがき

『トリッパー列伝 風間ちとせ』はこれで終わりです。今回は監察軍におけるトリッパー同士のもめ事とその対処をテーマにしており、この辺りは監察軍の設定にでてなかった部分です。監察軍としては弥生を裁判にかけてつるし上げたい所ですが、法的にグレーゾーンなので今回は取りやめになっています。

 


風間ちとせ その三

2015年11月16日 01時11分26秒 | 小説

アメリカside

 その日、ワシントンD.C.の遥か上空から一機の戦闘機が降下してきて、それをアメリカ政府や軍人たちが熱心に見ていた。

「あれが異星人たちの戦闘機か。俺たちの戦闘機とはだいぶ違うな」
「宇宙戦闘機だからな。でも戦闘機に白い羽が生えているなんて何の意味があるんだよ?」
「さあな、異星人の考えなんてわからないから俺に聞くなよ」

 そして着陸した戦闘機のコクピットらしきものから小柄な人影が出てきた。それは腰まである黒髪を赤いリボンで髪を結い、そのリボンの色に合わせるかのように赤い制服を身に纏った東洋系の見目麗しい少女だった。

「は?」
「人間? 少女?」

 アメリカ人たちは予想しなかった容姿の存在が登場したことに驚愕した。何しろBETAというグロテスクな宇宙人の次は人間それも東洋系とはいえ白人の彼らですら美少女と呼べるほどの娘が出てきたのだ。そのギャップは激しかった。とはいえ、彼らもいつまでも驚いてばかりではいられない。我に返った彼らはその少女を迎えの車に乗せて会談の場に向かうのであった。

 

 そして、今回の会場に着いた少女は早速我々に話し始める。

「先の通信でもお知らせしましたが、私はブリタニア帝国皇帝直轄機関である三千世界監察軍に所属する風間ちとせ少尉です。尚、私は監察軍からこの惑星の原住民との交渉の全権を委任されています。何か質問はありますか?」

 質問を受け付ける事を受けて大統領が早速質問をした。

「ブリタニア帝国とはどのような国家で、三千世界監察軍とはどのような組織ですか?」

「ブリタニア帝国は異世界、つまりこの宇宙とは異なる別の宇宙に存在する大規模星間国家で、帝都が存在する銀河を中心に系外銀河に積極的に進出して領土を拡大している国家です。そして三千世界監察軍は皇帝陛下直轄機関で、ある程度の軍事力や研究機関を有していますが、主体は異世界専門の情報機関です」

 そのあまりにスケールの大きな話に彼らは愕然とした。系外銀河だけでなく異世界にまで進出できる巨大星間国家。それはかれらが遭遇した事のない超大規模国家。そんな彼らからすればそれまで超大国として地球で覇権を握っていたアメリカですら辺境の野蛮人にすぎないだろう。

 更に彼らは情報機関にすぎないのに異世界にあれ程の大艦隊を派遣できるだけの軍事力を持ち、尚且つそれすらもある程度の軍事力扱いしていた。知れば知るほどブリタニア帝国がとんでもない存在なのが嫌でも理解できた。

「貴女は名前といい容姿といい日本人に見えますが?」

 そう、チトセ・カザマという名前や外見はどうみても日本人にしか見えない。

「その辺りは監察軍の特有の事情があります。監察軍は様々な世界で活動しますが、各々の世界でこれはという人材がいればスカウトすることがあるのです。確かに私はこの地球の日本帝国出身ですが、25年前にスカウトされて監察軍に所属しています」

 この言葉にアメリカ側は驚いた。彼女が地球人より詳しくいえば日本人であることはいい。もしかしらたそうじゃないかと予想はしていたのだ。しかし、25年も前にスカウトされたということは少なくともそれ以前から彼らは地球と接触していたという事である。つまりBETAに侵略されている地球の現状を知りながらこれまで何のアクションをとらなかったわけである。これではブリタニア帝国こそがBETAの親玉ではないかと疑いたくもなる。

「BETAのことで何かご存知でしょうか?」

 だからこそ、大統領は探りを入れるようにそんな質問をした。

「あれは有機物で構成された資源回収ユニット。端的にいうとただの土木機械です」

 資源回収ユニット、土木機械、と少女は何でもないかのように言うが、そんなものの為に地球はこんなことになったのかと大統領は愕然とした。大統領はまるで自分たちがブルドーザーに蹂躙されている野生動物になったかのような気分になったが、あまりにも文明格差が開いていれば地球人など原始人と変わらないのだろうと思い直した。

「念の為に言っておきますが、私たちはBETAとは何の関係もありませんよ。というか、私たちならあんな不良品なんて使いません」

 まるでBETAを送り込んだ存在を格下のように揶揄する言葉で、彼女はブリタニアならBETAの親玉よりもはるか先をいっていると言外に主張していた。勿論、そう言っても本当にブリタニア帝国がBETAと無関係とは限らないが、ここで無暗に疑ったところで彼女の不興を買うだけで何の意味がない。

「それで三千世界監察軍は何の用でこの地球に来たのでしょうか?」

 25年前のようにただ人材のスカウトに来たというわけではないはずだ。小惑星規模の宇宙要塞に500万隻にも及ぶ大規模な宇宙艦隊を派遣したからにはそれ相応の理由があるはず。

「先日、私たち監察軍の仲間がこの惑星の住民に殺害されるという事件がおこりました。その為、犯人の尋問、場合によっては本国に連行して裁判にかけたいので引き渡していただきたいのです」

 そこまでいって彼女は数枚の写真を取り出した。それには日本の戦術機とそのパイロットと思われる衛士強化装備を来た少女が写されていた。つまり彼女が殺人犯で、その引き渡しが要求なのだろう。

「ちょっとまってくれ。彼女は日本帝国軍人ではないかね」

 そう、どうみても引き渡し要求の対象者は日本帝国軍人だろう。となると、アメリカにそんな要求が来るのは本来ならば可笑しい筈だ。

「はい。確かにそうですが、日本帝国はあの有様でとても交渉どころではありません。ですから地球で最も力がある貴国と交渉しています」
「……」

 これには大統領も納得するしかない。そう、この時点の日本はBETAの侵攻で本土が陥落してオーストラリアに辛うじて亡命政府を立ち上げたばかりだった。当然ながらそのような彼らに監察軍と交渉する能力などあるわけがないのだ。

「とにかく即答できないから時間をくれないか」

 確かに日本帝国がダメなら国連や他の国が代わりにやるしかないだろうが、だからといってアメリカがそれをやっていいのか見極めがつかない。いずれにしても即答できる問題ではなかった。

「確かにそうですね。では、三日待ちましょう。それまでに返事をいただきます。それと念のために言っておきますが、くれぐれもこの女を庇い立てするような事はなさらないでください。絶滅寸前の人類の寿命を更に縮めることになりますので」

 あからさますぎる恐喝の言葉にアメリカ政府は顔を青ざめる。ブリタニアや監察軍にはこの地球と友好関係になるつもりなど更々なくただ圧倒的な武力をもって要求を突き付けて、それを拒否すれば叩き潰すつもりであることが彼らには嫌でも理解した。

 

「それで、どうするのかね」
「正直言って監察軍の要求をのんで問題の衛士を引き渡すしかありません。断れば即座に武力行使されるでしょう」

 会談後、アメリカ首脳部が集まって会議をすることになったが、その意見は要求を受け入れる方向で進んでいた。相手の態度から拒否すればあの大艦隊がアメリカだけでなく地球各地に一斉攻撃しかねないのだ。正直、アメリカがここまでゴリ押しの砲艦外交を受ける羽目になるとは想像していなかった。

 しかし、アメリカとて何もしないわけにはいかない。例え太刀打ちできなくても情報ぐらいは入手しておかないといけない。そして、そのヒントはあった。

「チトセ・カザマだったかな。彼女の情報から何か得られるかもしれないな」

 かくして、アメリカは監察軍の要求を呑む一方でちとせに対する情報を集めることにした。

 

あとがき

 ちとせは監察軍では少尉という階級になっています。実は初期の監察軍ではトリッパー同士で階級で雁字搦めになった厳しい上下関係ができるのを避けるためにザフト(機動戦士ガンダムSEED)のように役職はあっても階級はありませんでした。しかし、階級がない事で色々と支障が出てきたので、第一次ベヅァー戦争後にトレーズが階級制度を導入しました。なお25年も監察軍に所属しているちとせが未だに少尉なのは監察軍が年功序列ではなく実力と役職で階級が決まるからです。要するに紋章機のテストパイロットにすぎないちとせではこの階級が適切であったというわけです。

 


風間ちとせ その二

2015年11月16日 01時10分36秒 | 小説

『マブラヴ』世界の地球、その惑星は現地では宇宙から飛来したBETAと呼称されている自動資源回収ユニットの資源採掘活動によって甚大な被害を受けていた。それは宇宙から見たユーラシア大陸の荒廃ぶりから一目瞭然だった。そんな地球近郊で400kmを超える機動要塞一基と艦艇500万隻で構成される三千世界監察軍第188特務基幹艦隊が次々にデフォールド(ワープアウトの一種)して周囲に展開していた。

 この特務基幹艦隊とはぶっちゃけるとホシノ・ルリ率いるバイド艦隊の事だ。バイドは【R-TYRE】で登場する敵対勢力である。無機物・有機物関係なく融合捕食して爆発的に増殖進化するというチートな生命体で、本来ならば極めて危険な存在であるが、監察軍のホシノ・ルリが転生特典として使いこなすことに成功していた。

 特務基幹艦隊は基本的に400kmを超える起動要塞一基と500万隻で構成されており、監察軍ではこの特務基幹艦隊が一千個近く存在しており、マクロスのゼントラーディ軍に匹敵するほどの量で、質にいたってはブリタニア帝国軍の旧式艦艇などを吸収してきた為に桁違いに優れていた。

 その役割はベヅァーが復活した時にベヅァーを足止めすることであったが、それ以外は待機させるだけにあまり活用されていなかった。というものいくらトリッパーによって制御されているとはいっても汚染の危険がある為、バイド艦隊を積極的に使いたがるトリッパーはそうはおらず、更にいたとしても使い勝手が悪かったからだ。とはいえ、単なる砲艦外交の見せ札としてならこの物量は十分に使える。

 ちとせは転生型トリッパーにしては個人戦闘能力が極めて低いので例のトリッパー個人に不用意に接触したら殺されてしまう危険性が高かった。その為、このバイド艦隊を用いた砲艦外交で現地勢力に圧力をかけてトリッパーの抑えとして利用することにした。

 本来なら監察軍はトリッパーがいる世界でこんな派手なことはしない。できるだけ現地が騒ぎにならないように密かにその世界のトリッパーに接触するのが常套手段である。ジローのように派手なことをしてしまうとその世界を縄張りにしているトリッパーに迷惑をかけてしまうからだ。

 しかし、この『マブラヴ』の世界を縄張りとしているトリッパーは、ちとせと同族殺しのトリッパーだけであった。監察軍において同族殺しの犯罪者に権利など認められない為、現時点ではこの世界はちとせだけの縄張りとして扱われていた。その為、ちとせならば自分の縄張りであるこの世界で派手なことをしても問題なかった。

 第188特務基幹艦隊が展開を終えた後に、一機の大型戦闘機が近くにデフォールドした。その戦闘機は青い大型宇宙戦闘機で側面から白い翼が出現していた。これこそがちとせが25年かけて作り上げた監察軍製紋章機GA-006シャープシューターであった。

 

「シャープシューターをブリタニア以外での運用するのは初めてですが、特に問題はないようですね」

 シャープシューターのコクピット内でちとせは自機の完成度の高さに満足していた。H.A.L.O.(ヘイロゥ)システムによってちとせの頭上には天使環が光り輝き、クロノ・ストリング・エンジンによって発生した膨大なエネルギーによって紋章機の側面からエンジェルフェザーを出現させている紋章機は正に無敵の天使なのだから。

 そもそも、ちとせの能力は何といっても紋章機を扱うことができるパイロットであるという事で、他に際立った能力などないのだからこれを活かす以外方法はなかった。

 実は紋章機に使用されるクロノ・ストリング・エンジンとH.A.L.O.システムの技術は以前から監察軍に存在していたが、クロノ・ストリング・エンジンは艦船用機関としては機関出力、信頼性、整備性などを総合的に評価すると縮退炉の方が優れていたため使用されることなく放置されてしまい、H.A.L.O.システムはシステムに適応できる者を揃えるのが難しい為に使用されることはなかった。

 しかし、ちとせというH.A.L.O.システムに適合するトリッパーが現れたことで、監察軍はクロノ・ストリング・エンジンとH.A.L.O.システムを搭載した紋章機の開発を許可した。勿論、ちとせが監察軍にそう要望を出していたのは言うまでもないが、当時の監察軍は対ベヅァー兵器として推進していたスーパーロボット計画が行き詰っており、無限力とは異なるが神の如き力をふるう事すら可能であるクロノ・ストリング・エンジンを搭載した紋章機の可能性に注目したからだ。

 こうして監察軍製紋章機開発が行われることになったが、その特徴は最大出力を求めたためGA-001ラッキースターと同じくクロノ・ストリングを一つしか積んでいないことだった。最もラッキースターのようにパイロットの運だよりにするのではなく、その安定性の悪さを補助機関である特異点炉と時流エンジンで補うことで性能を発揮できるようにしていた。

 特異点炉は、『スーパーロボット大戦』で登場するグランゾンに搭載されたブラックホール機関を改良した代物だ。オリジナルのブラックホール機関はむき出しの特異点を発生させて通常では発生する確率の低い偶然を多発させて地球圏を混乱させたが、監察軍ではこの偶然を操る特性を応用してあらゆる確率を無視してクロノ・ストリング・エンジンを安定させている。その他、不安定なクロノ・ストリング・エンジンを補う補助機関としても活用されている。

 時流エンジンは『スーパーロボット大戦OGs』に登場する燃料無用の永久機関。一定のエネルギーしか発生できないという欠点があるが、それを補って余りあるほどの価値がある。というかクロノ・ストリング・エンジンの不安定さにほとほと手を焼いたちとせにとって永久機関である時流エンジンはとても魅力的だった。

 この特異点炉と時流エンジンは監察軍ではマイナーな技術である。というのもブリタニア帝国や監察軍が使用している可変戦闘機ルシファーはサイズが小さく複雑な可変機能まである為、どうしても機体の積載量が少なくなってしまうのだ。こうなるとトロニュウムエンジンのようなコンパクト&ハイパワーな動力源が主流となってしまい、これらの技術は採用されなかったからだ。

 しかし、紋章機の場合は可変戦闘機よりも大型で変形しないことから積載量に余裕があり、かさばる動力機関であっても搭載可能であるためデータ収集もかねて採用していた。同じようにデータ収集の為に防御手段も監察軍で主流となっているディストーションフィールドではなくグラビティ・テリトリーを使うなどシャープシューターは試験機として活用されていた。

 こうして完成したシャープシューターは監察軍本部防衛隊に所属しており、ブリタニア帝国の宇宙海賊相手にその性能を見事に発揮した。この成果に気を良くした監察軍では紋章機の増産とエンジェル隊の結成も検討されていたが、パイロットの確保の難しさから難航していたのは余談である。

 

「これだけやれば地球は混乱しているはずです」

 これほどの規模の大艦隊がステルスすら行わずに展開されたらそうなるのは当然で、ちとせとしてはそうなってくれなければわざわざ特務基幹艦隊を借りてまで砲艦外交をしている甲斐がなかった。

「さて、予定通りアメリカにコンタクトを取りましょう」

 ちとせは事前の予定通りアメリカ合衆国に通信を送ることにした。本来ならば問題のトリッパーと前回接触した時のデータから相手は日本帝国軍に所属していると思われるため、日本帝国と交渉したほうがよいのだが現在日本帝国は崩壊状態で、まともに交渉できる状態ではなかった。だからと言って国連と交渉しようにも国連は多数の国が集まっているだけに扱いにくく、特に『マブラヴ』世界の場合は問題が多すぎた。

 こうなると、この世界最大の大国でバビロン作戦前なので未だに勢力を保っているアメリカが有力なのは言うまでもなく、ちとせもアメリカとの交渉(砲艦外交)に踏み切ったのだった。

 

アメリカside

 さて、突如として地球近郊に現れた常軌を逸した大艦隊。それもやたらと生物的というかグロテスクな形状をしているそれらに地球各国は脅威を抱いた。どう考えても地球外の存在であり、BETAの同類もしくはBETAとは異なる別の宇宙人であることが一目瞭然だった。

 そんなアメリカであるが、正体不明の大艦隊(恐らく宇宙人)からコンタクトを求められたとき反応に困った。そもそも宇宙人とのコンタクトはBETAの時に失敗に終わっている。とはいえ、彼らの側から人類にコンタクトを取ってくるというBETAとは異なる行動から彼らはBETAとは別種の存在ではないのかと考えた。

 この新たなる宇宙人勢力との接触にはアメリカでも警戒する者もいたが、下手に突っぱねるわけにもいかなかった。どう見ても地球を蹂躙できるだけの戦力を整えていると思われる相手にそんなことをすればどんな行動をするかわかったものではない。

 結局、アメリカはワシントンD.C.にて会談を行うことにしたのであった。だが、彼らは想像すらしていなかった。彼らが脅威に感じている監察軍が『マブラヴ』世界のことなど相手にしておらず、この世界の者たちを問題のトリッパーに対応するための道具としか思っていないことを。

 

解説

■ジロー
『トリッパー列伝 石動ミイナ』及び『トリッパー列伝 ジロー』で登場したトリッパー。あまりにも考えなしの行動で石動ミイナが縄張りとしている世界を荒らしてしまい、ミイナに多大な迷惑をかけた。

■紋章機
『ギャラクシーエンジェル』に登場する全長30~60mの一人乗り大型宇宙戦闘機。原作ではEDEN(エデン)の紋章機としてGA-001 ラッキースター(万能型紋章機)、GA-002 カンフーファイター(近接用格闘型紋章機)、GA-003 トリックマスター(長距離用戦略型紋章機)、GA-004 ハッピートリガー(中距離用多武装型紋章機)、GA-005 ハーベスター(補給修理用支援型紋章機)、GA-006 シャープシューター(遠距離狙撃型紋章機)などが主に登場している。監察軍ではGA-001~GA-0005までの五機は設計図のみで実際に製造された紋章機はGA-006 シャープシューターのみである。

■クロノ・ストリング・エンジン
『ギャラクシーエンジェル』で登場する一般的な艦船の推進機関。クロノ・ストリング・エンジンは極めて膨大なエネルギーを放出することすら可能であるが、そのエネルギー出力が極めて不安定であるため膨大な数のクロノ・ストリングを集めて確立を平均化する必要があり艦船にしか搭載できていないが、H.A.L.O.システムを用いれば少ない数で使用可能になる。

■H.A.L.O.(ヘイロゥ)システム
『ギャラクシーエンジェル』で登場するパイロットの頭の上にある「天使環(エンジェルリング)」によってパイロットの脳と直接連結するシステム。クロノ・ストリング・エンジンのエネルギー噴出の確立に干渉できる為、パイロットのテンションによってクロノ・ストリングから自由にエネルギーを取り出すことができる。宇宙創造すら可能になり、限定的な予知能力や使用者の望む未来を実現する力まであり、これらの神にも等しいその能力から天使と呼ばれる程である。その反面、H.A.L.O.システムはパイロットのテンションに敏感に反応するので、同じ機体でも状況次第で能力の上下が激しく、戦力として極めて使いにくいのが難点である。更にH.A.L.O.システムを使用するには特殊なテンションが必要なため非常に使い手を選ぶシステムである。尚、天使環は稼働時に発光している。

■グラビティ・テリトリー
『スーパーロボット大戦α』で登場するグラビコン・システムにより展開可能となる重力障壁の一種である。グラビティ・フォールの強化版でその分エネルギー消費が激しい。監察軍ではディストーションフィールドが主流であるが紋章機には試験的にグラビティ・テリトリーが採用されている。

■GA-006 シャープシューター
『ギャラクシーエンジェル』で登場する烏丸ちとせの専用紋章機。機体の左腕部にある盾状のパーツは索敵のための大型レーダー、右腕部にある筒状のパーツは精密な攻撃を行うための超望遠照準器と、とことん遠距離戦闘にこだわった装備をしている。監察軍によって魔改造されており紋章機としての潜在能力、攻撃力、防御力、機動力、稼働時間などが飛躍的に向上している。

◇武装
・グラビトロン・ロングライフル
 機体中央よりやや右のハードポイント部に装備されているシャープシューターの主砲。収束した重力波を打ち出す攻撃で可変戦闘機ルシファーを撃破できるほどの威力を誇る。また必殺技のフェイタルアロー(マイクロブラックホールキャノン)も併用しており、その威力は監察軍の巡洋艦すら撃沈できる。
・マイクロミサイル
 可変戦闘機ルシファーのミサイルと同じ物で、ISの量子変換技術を採用しているのでマイクロミサイルを補充して弾切れが発生しないようにしている。
・ビームバルカン
 近接防御用のバルカン砲。機体に張り付かせないようにするための武装。

 

あとがき

 監察軍が魔改造したシャープシューターですが、パイロットのテンション次第ではルシファーを圧倒する戦闘能力を発揮します。とはいえ、絶滅寸前の『マブラヴ』世界を相手にするにはどう考えても過剰戦力で実戦に使用されることはないでしょう。

 


風間ちとせ(マブラヴ)

2015年11月16日 01時09分43秒 | 小説

 転生特典(ギフト)を持って転生したオリ主が無双するという話は二次小説でよくある話ですが、その世界では全く役に立たない転生特典を持ってしまったために早々に原作介入を諦めたトリッパーも存在しています。私、風間ちとせ(かざま ちとせ)もそんなトリッパーの一人なのです。

 この名前からわかるかもしれませんが、私の転生特典は『ギャラクシーエンジェル』の烏丸ちとせの外見と能力ですが、転生先は『マブラヴ』で原作開始の40年前でした。言うまでもありませんが、私の能力は『ギャラクシーエンジェル』の世界であればエンジェル隊に参加して活躍できる物ですが、紋章機がない世界ならば意味がないものです。

 確かに烏丸ちとせはエンジェルとしての能力を除いても、トランスバール皇国で最エリートのセンパール士官学校を首席卒業した逸材で、とりわけ超長距離狙撃と情報分析能力に優れる才女であることは確かですが、その程度で『マブラヴ』の世界を切り抜けることなど不可能です。本気でこの世界をどうこうしたかったらサイヤ人みたいな出鱈目な戦闘能力がないとどうしようもありません。

 そして1973年に中国のカシュガルにBETAの落着ユニットが落下。人類が賢明な選択をすることを願いながらも予想通りにそれが裏切られてしまう。そしてBETAの侵攻は留まることをしらず人類は次々に敗退を続けていき、私は私はこの世界を切り捨てることを選びました。幸いにも私はBETA地球侵攻の5年後には監察軍と接触できたので早々にこの世界から引き揚げて監察軍に参加するという選択肢がありました。

 その際、『マブラヴ』の原作を知るトリッパー仲間から家族の亡命も認めてもいいといわれましたが、私は家族を切り捨てて私一人でこの世界を離れた。何故、家族を切り捨てたのかというと、家族に愛着が持てなかったからです。これは多くのトリッパーが抱えている問題ですが、私たちの多くはトリップした世界を現実というよりも物語の世界と認識してしまいます。つまり私たちに取ってこの下位世界は作り物の世界で、そこに住む人間たちも半ばNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)扱いになってしまうのです。

 ついでに言えばなまじ前世での家族の記憶がある為、その世界で得た家族を本当の家族と認識することができずに馴染めなくなってしまうわけです。同じく国や故郷にも愛着など持たない為に愛国心や郷土愛などあるわけもないでしょう。

 私にとって世界も国も家族すらも紛い物でしかなく、確かなものは自分と同じ境遇であるトリッパーたちだけで、そんなトリッパー仲間との絆こそがかけがえのないものであり、他の優先順位は大きく下がってしまいます。その為、わざわざ同族に迷惑をかけてまで家族に事情を説明して監察軍に亡命させる気にはなれなかった。まあ、たとえ説明したとしても容易に信じてくれるとは思えないというのもありますが。

 勿論、トリッパーのすべてが私のような人間ではなく、下位世界人をちゃんと人間として扱うトリッパーもいますが、それは余談です。

 

 後、補足としていえば、そもそも前世の私は20代のサラリーマンで、女性に興味津々な男でしたが、同時に女性に強い幻想を持っていました。要するに大和撫子という理想の女性像ですね。

 しかし、現代では理想の大和撫子など絶滅危惧種のようなもので、私が現実の女性に失望したのは言うまでもありません。そんな私は理想の女性がいないなら自分がなればいいじゃないと思いついたわけです。といっても女装したわけではありません。前世の私は女装もののゲームで登場する主人公のように女装がとても似合う男ではなく、やったとしても気色悪い女装男にしかなれなかったでしょう。

 そこで私が選んだ方法がMMORPGでネカマプレイをすることです。ネカマとはネットオカマのことで、現実ではなくネットで男が女を演じる事をいいます。自分で言うのもなんですが私が演じた理想の大和撫子のキャラクターはゲームではかなりの人気者になっていました。

 そんなこともあって死後転生することになった私は、転生特典に私の知りうる中で最高の大和撫子といえる烏丸ちとせの外見と能力を選んだわけですが、正直に言うと早まったと言えたでしょう。いくら転生先がランダムで分からないにしてももっと応用のきく特典があった筈ですから。

 私の転生先は日本帝国の外様武家の娘でした。原作開始の40年前だったのでわかりにくかったですが、第二次世界大戦で日本が無条件降伏しておらず、ドイツに原爆が投下されているなど歴史に違いがあり、最大の特徴は未だに将軍と武家が存在していることです。まあ、将軍は政威大将軍と私の知っている征夷大将軍とは少々異なるのですが、武家の棟梁という意味では同じです。

 これらの情報からこの世界が『マブラヴ』であることがわかったわけです。この世界がUNLIMITEDかオルタネイティヴかはわかりませんが、どっちにしても最悪です。私は黄昏ながらもなんとか理想の大和撫子として生活することにしました。

 唯一この世界でよかったことは前世と違って大和撫子といえる女性がそれなりにいたことです。やはり武家が存続していることや史実よりも欧米化が進んでいないことが影響しているのでしょう。まあ、それでもBETAはどうしようもないので、この世界から引き揚げることにしたわけです。

 

 そして25年もの月日が流れました。私が転生した『マブラヴ』の世界では原作が終了した2003年になり、私はこれまで原作介入は一切せずにいたのですが、この世界で新たにトリッパーの存在が確認されたことで状況が大きく変わりました。

 接触の為に監察軍から派遣された仲間が日本帝国でBETAに苦戦していたそのトリッパーの少女を助けるために監察軍の艦艇で武力行使を行い、件のトリッパーと接触したわけですが、相手がいきなり逆上して仲間に暴行を加えて殺害してしまったらしいのです。

 これはトリッパーによる同族殺しとなるわけで、こんな事例は極めて珍しいことです。正直こんな狂犬みたいな方とは接触したくないのですが、同じ世界の出身ということで私に役割が回ってきました。

 確かにいくらトリッパーでも、いえトリッパーだからこそ同族殺しをした者には厳しく対処しないと他の者に示しがつきません。しょうがないので、同じトリッパーでも最大の戦力であるバイド艦隊を有するホシノ・ルリさんに戦力を借りることにしました。こうして私は再び生まれ育った『マブラヴ』の世界に赴くことになりました。

 

八条弥生side

 八条弥生(はちじょう やよい)は『マブラヴ』世界の日本帝国で一般人の娘として生まれたが、その正体は前世の記憶を持つ転生者である。その転生特典はトリコのグルメ細胞で、確かにこの特典は私に超人的な身体能力を与えてくれたが、この世界ではグルメ細胞を進化させることはできないので微妙な転生特典だった。

 それはそうだ。グルメ細胞を進化させるには美食という分野において異常な進化を遂げたトリコ世界の美食食品を食べなくてはいけない。とてもじゃないが、この世界の天然食品程度ではレベルが低すぎて無理だ。それどころかその低レベルの天然食品ですらまともに食べられず、人間の食事というよりも家畜の餌といったほうがいい激マズの合成食品しか食べられない有様だった。これではグルメ細胞を進化させるなど不可能だった。

 正直言って、現世での私の人生は最悪だった。BETAの日本侵攻によって帝都京都を含めて日本の半分が焦土と化してしまい、私も家族と生き別れる羽目になった。その後、中学生になった私は原作の舞台である横浜基地に志願して、優れた身体能力と並外れた適性で瞬く間にA-01部隊で活躍するようになった。これは原作に介入して少しでもBETAに勝てる確率を上げようとしたためだった。

 しかし、それは失敗といえただろう。なぜかというと主人公の白銀武が横浜基地に現れなかった為だ。どうもこの世界では白銀武はループしてこなかったらしく、どうしようもなかったのだ。結局2001年12月に第四計画は打ち切られてしまった。

 その後は坂道を零れ落ちるかのような戦いだった。2002年にBETA侵攻で横浜基地が陥落。2003年にはBETA侵攻を受けて東京が陥落寸前に陥ってしまった。すでに日本陥落は時間の問題となっており、政府は政府機能と国民をオーストラリアに避難させようとしていた。

 

 結局、私のやり方は間違っていた。原作知識を利用して原作通りに香月博士の研究の後押しをしようにも、中途半端な知識では肝心の00ユニットの理論を完成させることはできない。今にして思えばもっと別の方法があったのではない?と考えなくもないが、そもそも白銀武が登場しないという物語そのものが崩壊するような原作ブレイクにはどうしようもなかった。

 どうして、こんな原作ブレイクが起きたのかわからない。私が転生したバラフライ効果か、もしくは死神がいっていた私の前にこの世界に転生した転生者の行動の結果なのかもしれないが、忌々しいことに私の知る限り原作になんら好転はしていないのに、白銀武が現れず第四計画が失敗するという大きなデメリットしかででいない。

 私は横浜基地陥落後に帝国軍に入り前線で必死に戦っていたが、この劣勢はいかんともしがたく、BETAに国土を侵略されて戦友を次々に失っていった。そして東京陥落後の撤退戦にて戦術機を撃破されて生身で戦車級や闘士級を撃破しながらも絶望的な撤退戦をやる羽目になった。

 それでもこの絶望的な戦いの中で命尽きるまで戦おうとした私であるが、いきなり天からいくつもの光が降ってきた。驚くべきことにそれは周囲のBETAを容易く始末していく。私が見上げると上空には見たこともない艦艇が浮いていた。その艦艇は信じられないことに光線級の攻撃を見えないバリアのようなもので防ぎ、逆にレーザーであっという間に光線級を撃破してしまった。

 この世界の常識ではありえない性能を持つ艦艇であるが、私はそれがなんであるがなんとなく予想できた。やがて周囲に存在したすべてのBATAを排除したその艦艇は私の近くに降下して、その艦から一人の男がでてきた。その男は銀髪オッドアイでテンプレなオリ主の容姿だったから、死神からその存在を教えてもらっていたこともあって、その正体がなんなのか私には容易に理解できた。

「うがあああっーーー!」

 私は大声で叫びながらその男に殴りつけた。

「なんで今まで出て来なかったのよ。ビビッて引きこもっていたっての。この臆病者が!」

 私はこの男が許せなかった。転生者としてこれほどまでの戦力を持ちながらやるべきことをやろうとしなかったこいつが。私は何度も何度も男を殴り、気が付けばその男は事切れていた。

 その後、男の死体の前で呆然としていた私を他所に、艦艇から出てきたロボットたちが男の死体を回収してその艦はどこかにいってしまったのだった。

 

あとがき

 この世界で白銀武が登場していませんが、それはちとせが転生していた影響です。勿論、ちとせは意図的にやっていたわけではないのですが、ちとせが転生してから日本帝国で活動していたことの小さな積み重ねがバタフライ効果となって、白銀武と鑑純夏が横浜ハイヴで捕虜にならずに死亡するという結果になりました。その為、この世界では因果導体であるシロガネタケルは登場しません。また、弥生は事前に死神から先輩であるトリッパー(ちとせ)の存在を教えてもらっていた為、銀髪オッドアイのトリッパーがそうであると誤解して攻撃しています(彼は実は別の世界で転生したトリッパー)。

 


リリーシャ・ヴィ・ブリタニア その六

2015年11月16日 00時58分36秒 | 小説

某皇族side

 リリーシャ皇帝が即位してから25年がすぎていた。リリーシャ皇帝を除けば神聖ブリタニア帝国唯一の皇族であった彼はそれ故に皇位継承権第一位を持つ有力な皇子だった。それだけに後見貴族も多数存在しており誰がどうみても次の皇帝になるのは間違いないと思われていた。

 しかし、そんな彼はここ数年というもの皇族らしく政務や軍務に携わるでもなく、ひたすら女を抱く事しかしていなかった。というのも皇帝から皇位継承の試練として子供を100人以上作るように言われたからだ。また、その際に皇帝から50人の女を与えられた。彼女たちは彼の後見貴族の娘たちである。

 リリーシャ皇帝は今回の為に15歳~18歳までの未婚の娘を後見貴族たちに集めさせたわけであるが、貴族たちはそこいらの娘を用意するのではなく自分の娘たちを差し出してきた。これは別に皇帝が貴族たちに強制したというわけではない。

 第一皇位継承者である彼はどうみても次の皇帝となる筈だから(他に皇族がいない)彼に自分の娘を与えれば皇族との結びつきを強くできる。更に娘が子供を産めば当然ながら皇族となるのだからその皇族を擁して家を盛り立てる事さえ可能になる。それを考えればそんな機会をみすみす他人に譲るわけもなく、自分の娘を使うことを躊躇うわけがなかった。

 皇子としても皇族が不足している事態打開の為に皇族を増やすの(子づくり)が必要なのはわかる。そして、この場合三十代の女であるリリーシャよりも若い男である皇子の方が有利であるのもわかるために皇子が沢山子づくりをしなければいけないという理屈も理解できるが、そもそも男嫌いのリリーシャが20数年も男を遠ざけていたのが原因なのだ。その尻拭いをやらなければいけないというのは納得がいかない部分がある。

 とはいえ、もしリリーシャ皇帝に子供がいたら自分の立場がかなりやばかったのは言うまでもないだろう。本来、後ろ盾となりうる父はとっくに失脚しているし、彼とてあの一件で皇帝にかばわれて何とか皇族としての地位を保っていられたにすぎないのだ。もしあの時に皇帝に子供がいたらと彼も皇族を追われていた筈だ。

 結局、彼は差し出された女たちを抱いて子づくりに励むしかなかった。毎日毎日女を抱いて妊娠させまくる。世の中にはハーレムに憧れる男もいて、そうして男たちからみれば理想に思えるかもしれないが、よほどの絶倫でもなければ耐え切れないだろう。事実、そうなった彼の日々はかなり辛いものがあった。

 一人の男に対して50人もの女たちが子供を求めてくるので、体が持つわけがない。セックス三昧の爛れた生活のおおかげでつい先日70人目の子供ができたが、ノルマ達成にはまだまだ遠かった。最近は太陽が黄色く見えるほどで腹上死するのではないかと心配になるほどであるが、それでも彼は今日も50人の妻たちに精を注ぎ込んで子づくりに励むのであった。

 

新ナイト・オブ・ワンside

 リリーシャ皇帝が即位して30年が過ぎたこの時期になると、ラウンズが著しく弱体化していた。ラウンズは帝国最強の騎士であるというのは、ブリタニアでは常識であるが、遺憾ながらリリーシャ皇帝の御世においては例外であると言わざるをえないだろう。高齢で引退した前ナイト・オブ・ワンであったジェレミア卿を除き、リリーシャ皇帝のラウンズたちはお世辞にも強いとは言えない血筋がいいだけの貴族のボンボンから選ばれているからだ。当然、ジェレミア卿の後を継いでナイト・オブ・ワンとなった彼も決して強くはない。

 こうなった原因はリリーシャと名門貴族たちの密約にあった。確かに神聖ブリタニア帝国は騎士を重んじる国だ。その為、帝国貴族の男子ともなれば騎士としての英才教育を受けることが多い。特に家督を継げない次男や三男などは政府や軍で立身出世でもしないとやっていけないから普通はそうなるだろう。

 しかし、いくら弱肉強食を国是として切磋琢磨している名門貴族出身だからといって必ずしも有能とは限らないのだ。というか官僚や軍人として使えない無能者はそれなりにいる。リリーシャはそうした無能者をあえてラウンズにした。

 これは無能であるが故に自力で立身出世できない者にラウンズという箔づけしてやることでその家に名誉を与えてやる意味があった。その配慮の代価としてその家はリリーシャ皇帝に借りを作るのはのは言うまでもない。

 こうした背景もあって現在のラウンズたちははっきり言って弱い。帝国最強の騎士とは名ばかりで武術の腕やNMFの操縦などは一般の騎士にも劣る有様だ。当然そんなラウンズたちをリリーシャ皇帝が重用するはずもなく、いるだけ足手まといと言わんばかりに皇帝の騎士でありながら皇帝の身辺警護すら任されることはない。現在では公式行事などに出席するだけで、まさに数合わせの存在となっていた。

 これで、戦場で活躍できていればラウンズとしての名目がたったであろうが、能力のなさからそれもできなかった。当然ながらラウンズという肩書を得ても無能者が無能であることは変わらないので、テロリスト掃討などの実戦に出したりしたら返り討ちにあい即座にメッキがはがれてしまうのがわかりきっている。その為、リリーシャはジェレミア以外のラウンズを戦場に投入しなかった。

 このリリーシャ皇帝の扱いにラウンズたちは不平不満を持つも、リリーシャ皇帝にボコボコにされて(生身の白兵戦で束になってもかなわなかった)本人から直接「お前たちを護衛に使っても足手まといにしかならないわ」と罵倒されてはどうしようもなかった。

 彼らにとって不幸だったのが、リリーシャ皇帝が生身の戦闘能力において人間離れした強さを誇っていたことだ。リリーシャは元々マリアンヌ譲りの身体能力と双剣の剣技があったが、監察軍の生体強化によって化け物じみた強さを得ていた。これでは枢木スザクのような卓越した身体能力があるならともかく、武術において一般的な騎士にすら劣る彼らが束になってもかなう相手ではないかった。

 彼もこの状況が好ましくないのはわかっていた。しかし、根本的な理由は彼ら自身の実力不足なのだから、それこそ現ラウンズを解任して実力を持つ騎士をラウンズにするという解決策しかなく、それは論外であったためにどうしようもない有様だった。

 ここで、自分たちがラウンズにふさわしい実力をつけると豪語する者もいるかもしれないが、彼はそんな事は言ったりしない。先帝が主張したようにそもそも人間は平等ではなく、才能の差というものはどうしようもない壁として立ちふさがっているのだ。

 例えばそこいらの一般兵でも努力すればラウンズに相応しいほど強くなれるかといえば普通は否だろう。もちろん中には強くなれる者もいるかもしれないが、そんなのは極わずかな才能に恵まれた天才だけだ。誰もがそんなに簡単に強くなれるなら苦労はしない。特に彼らは才能のなさから挫折して無能者扱いされているだけにその事は人一倍理解していた。

 彼らは不遇であるとわかっていてもその待遇に我慢するしかないのだ。中には我慢できずに自らラウンズを止める者もいるが、彼はやめるわけにはいかなかった。正当な理由もなく止めたら評価がガタ落ちになってしまうからだ。故に彼にできることは偽りの帝国最強の看板を背負い続けることだけだった。

 

新皇帝side

 リリーシャ皇帝が即位してから40年が過ぎると、リリーシャ皇帝は次の皇帝を指名して退位した。こうして神聖ブリタニア帝国の第100第皇帝として即位した彼は、先帝の双子の弟であるルルーシュの孫にあたる皇族だった。皇帝に選ばれたにしては随分と先帝とは縁が遠いように感じるが、これは先帝が未婚で子供を産まなかった事と、先帝の甥にあたる父が早死にした事が原因だった。

 父は先帝から子づくりをやらされていた。それは皇族が激減していた当時の状況からすれば当然の行動であったが、父がそれに耐え切れずに腹上死してしまったのは計算外としかいいようがなかっただろう。まあ、父はある意味男の本願をかなえたのかもしれないが…。

 結果として皇位継承最有力候補を失ったリリーシャ皇帝は父が残した88人の皇族から次期皇帝を選ぶ羽目になるが、それは皇位継承競争の激化と長期化を意味していた。何故なら皇族たちの母親は名門貴族出身で、皇族たちにはその貴族を含めた後見貴族がついているため、皇族本人だけでなく後見貴族たちすら巻き込んだ政争が国内で繰り広げられることになるからだ。

 こうなると、腹違いの兄弟姉妹たちともやたらとギスギスした関係になるから一般的な兄弟関係など結べようがない。腹の探り合いや足の引っ張り合いなど日常茶飯事で、血の繋がった家族というより潜在的な敵と言えるほどの存在となってしまった。

 そんな過酷な後継者競争を彼が勝ち残れたのは、卓越した頭脳とそれによる実績の賜物であった。彼は祖父ルルーシュによく似て運動などは苦手であったが、とても優れた知能の持ち主だったのだ。その為、エリア総督などの役職で優れた実績を上げた彼はそれを評価されて先帝から皇帝に指名されたのだ。

 しかし、その先帝は彼に帝位を譲り退位して僅か数日で行方不明となってしまい、その後の足取りは一切わかっていない。

 考えてみれば、先帝は本当によくわからない人だった。そもそも先帝は皇帝になれる立場にはなかった。あの不自然な皇族怪死事件がなければ皇族として表に出る事すらできなかっただろう。また即位直後の謎の天災にしても他国は軒並み壊滅したにも関わらずブリタニアだけは無傷だった。そのおかげで先帝による世界征服があっさりと実現できたので強運というしかないだろう。最も彼は決して口には出さないが、この二つには先帝の仕業だと思っていた。そうでないとあまりにもおかしいからだ。

 また、50代であるというのに自分よりも若い10代の少女にしかみえなかった。というか先帝は即位してから外見が全く変化することがなかった。彼どころか彼の父親が生まれる前から少女の姿で、今でも少女の姿をしていた先帝だ。正直な話皇位を狙う皇族たちですら、「リリーシャ皇帝はこれからも少女のままで、自分たちが老人になっても少女のままで皇帝として君臨し続けるのではないか?」と不気味に思う皇族は多かった程だ。

 そんな先帝もついに退位していなくなった。正直すっきりしないものがあるが、そんな事よりも彼は自らの治世を固める必要があった。彼としては先帝の政策を継承するつもりなので特に改革などはしないが、他の皇族たちを押さえておかないといけないのだ。

 かくして、リリーシャ皇帝の後を継いで神聖ブリタニア帝国第100代皇帝となった彼は、ブリタニアを人類を統一する超大国として更に発展させることに成功し賢帝としてその世界の歴史に名を残ることになるのであった。

 

解説

■リリーシャ・ヴィ・ブリタニア
『コードギアス 反逆のルルーシュ』の世界でルルーシュの双子の姉に憑依したトリッパー。憑依型トリッパーなので転生特典は有していないが、元々の優れた身体能力と剣の才能を監察軍の生体強化によって引き上げた為ある程度は生身での戦闘能力を有している(この世界では超人的な強さであるが、トリッパー基準では護身術の範囲を逸脱していない)。ゴッド・ブレスによって外見年齢は16歳で固定されているが、16歳とは思えないほどのナイスバディの美少女である。とはいえ、TSした元男だけに男と付き合う気は毛頭なく、皇帝でありながらも男に肌を許さず、自ら子づくりをすることはなかった。

 

あとがき

 これでリリーシャ・ヴィ・ブリタニアは終わりです。流石に不老のままでは怪しまれてしまうのでいつまでも君主として君臨できず適当な時期に退位して雲隠れする必要がありました。リリーシャは本来ならもっと早くルルーシュの息子に皇位を譲るつもりだったのに、彼が腹上死してしまったために40年もかかっています。勿論、ギアス世界から引き揚げたリリーシャは監察軍本部でトレーズたちと共に働いていています。

 


リリーシャ・ヴィ・ブリタニア その五

2015年11月16日 00時57分49秒 | 小説

 リリーシャが世界征服に乗り出してわずか五年で世界はブリタニアに征服された。その過程にしてもまともな戦闘は発生しておらず、ブリタニア軍が侵攻してあっさりと制圧することを繰り返していただけであった。

 ここまで、呆気なかったのはやはりブリタニア以外の国が軒並み壊滅していたからだろう。ブリタニア軍に抵抗しようにもまともな軍事的抵抗などできなかった。精々が小規模なレジスタンス勢力が散発的な抵抗をしたのみで、そのようなものがブリタニアに通用するわけがなく、あっさりと踏み潰されていった。

 こうして世界統一をしたリリーシャは、各地のブリタニア化を推し進めていった。ナンバーズたちに文化や教養など必要ないと、文化財、学校、図書館などを撤去して、民族としてのアンデンティティーを消去していく一方で、征服されてナンバーズとなった者たちを積極的に名誉ブリタニア人として取り込むために、名誉ブリタニア人の待遇をある程度改善したり名誉ブリタニア人になる為の規制を緩和していた。

 このように、ナンバーズに対する弾圧は一切緩めていないが、ブリタニアに従って名誉ブリタニア人になるのであれば、以前よりも多少はマシな待遇が認められるようになるので、ナンバーズたちは渋々名誉ブリタニア人になるのであった。

 現実問題として、故国に対する愛着を持っていたナンバーズでもそれだけでは生きて行けず、生活の為にはプライドを捨てて名誉ブリタニア人になるしかなかった。というか、ナンバーズとして激しい弾圧を受け続けるよりはプライドを捨てて名誉ブリタニア人になるという逃げ道をリリーシャは用意していた。

 最も、リリーシャは『分割して統治せよ』という統治技術を用いて、名誉ブリタニア人とナンバーズが協力してブリタニアに反抗する事がないように名誉ブリタニア人とナンバーズが反目するように悪質な工作活動をやっており、別に穏健な統治ではなかった。

 

 そんな統治をしているだけにこの世界では正しい手段で日本を取り戻すという枢木スザクの主張は夢想以外の何物でもなかった(原作でも論外である)。スザクはランスロットのデヴァイサーになれたもののその扱いは騎士ではなくロイドのモルモットという扱いで、原作のようにラウンズに出世などできていなかった。

 ブリタニアはスザクの働きもあって第七世代KMFのデータを取ることができ、ヴィンセントやガレスといったKMFだけでなくエナジーウイングを搭載した第九世代KMFすらも量産されるようになったが、世界征服した今となっては戦場で一兵卒として戦うしか能のない無学な名誉ブリタニア人など重用する価値はない。

 むしろ原作でナイト・オブ・ワンになるために主君として忠誠を尽くすべきシャルル皇帝を暗殺しようとしたように自分が出世するためにリリーシャの暗殺を企む恐れすらあった。というか、スザクにとって日本を取り戻す為ならそれが一番現実的な方法だ。その為、リリーシャはスザクがどれだけ功を立てても出世させなかった。リリーシャにとってスザクは利用できるところまで利用して用済みになったら捨てる使い捨ての道具でしかなかったのだ。

 しかし、皇族に復帰したルルーシュが枢木スザクを選任騎士にしたことで話がややこしくなった。ルルーシュは前に枢木スザクをナナリーの騎士にしようと考えていたが、ナナリーの皇族復帰は認められていなかったので、スザクを自分の選任騎士にしたのだろうが、それは悪手としか言えなかった。

 ブリタニアは弱肉強食を国是としており、以前よりは名誉ブリタニア人の待遇も改善されたが、それでもある程度に過ぎず、名誉ブリタニア人が純ブリタニア人よりも低い立場で差別されている事には変わりはなかった。それなのに、ルルーシュがナンバーズ上がりの名誉ブリタニア人を選任騎士にしたことで、「ナンバーズ上がりの名誉しか騎士にできない皇族」と周囲の評価を著しく低下させてしまう。

 それに、スザクは体を動かすことしか能がなく宮廷作法や臣下としての振る舞いなどの皇族の選任騎士として持つべき教養や常識がない無学のナンバーズであった。その為、スザクの言動が周囲の反感を買ってしまい、それが余計に主のルルーシュの足を引っ張る結果になってしまう。

 ここでルルーシュの止めとなってしまったのはスザクがリリーシャを襲撃した事だ。

 スザクにとって世界統一に拘り日本を返す気など更々ないリリーシャは非常に都合の悪い皇帝だった。おまけにリリーシャはまだ若く退位するのはかなり時間がかかると思われる為に直接始末するしかない存在だった。

 また、ブリタニア皇族はリリーシャが死亡すればルルーシュとその息子の赤子しかおらず、必然的にルルーシュが次の皇帝になれる。そうなればルルーシュの騎士であるスザクはナイト・オブ・ワンになり日本を取り戻せるという計算が働いたのだろう。

 しかし、リリーシャは毒殺を警戒していた為、飲食物は監察軍のレプリケーターを使って自分で用意した物しか口にせず、調理人や毒見役など存在しなかったから、どんな大貴族でもリリーシャに毒を盛ることが不可能だった。まあ、そうでなくても名誉ブリタニア人の騎士にすぎないスザクでは皇帝に毒を盛れなかっただろう。

 スザクの不意打ちでリリーシャはゼロレクイエムの時のルルーシュのように心臓の辺りを剣で突き刺されたが、ゴッド・ブレスを投与されたリリーシャはそれぐらいでは死なない。リリーシャを仕留めたと油断したスザクを双剣で強烈な一撃を加えた。

 ちなみにリリーシャは幼少期から剣の鍛錬をしており、試しに双剣を使ってみると母マリアンヌ譲りの才能からか双剣が自分にあっていたのでリリーシャは双剣を使うことが多かった。

 スザクは普通の人間に比べて身体能力が高かったが、リリーシャも元々スザク並に身体能力が高かい上に戦闘用の生体強化によってそれが更に強化されていた。おまけに最初の一撃がスザクの痛手となっており、リリーシャに太刀打ちできず始末されたのだった。

 こうしてリリーシャを襲撃したスザクは返り討ちにあったが、話はそれで収まらなかった。選任騎士が皇帝を襲撃したとなれば、その選任騎士の主たる皇族もただでは済まない。当然ながらルルーシュは拘束された。

 今回のスザクは、ルルーシュにリリーシャの暗殺を唆したものの却下されたために勝手に暴発したようで、皇帝暗殺未遂事件はルルーシュにとって寝耳に水だった。考えてみればルルーシュは情に厚い為、いくら統治方針が合わないとはいえ母を同じくする双子の姉を暗殺することを許可するわけがない。

 しかし、選任騎士が皇帝の暗殺未遂事件を引き起こしたのは事実である以上、いくらルルーシュがスザクの独断だと主張しても誰も認めてくれない。結局、ルルーシュは皇籍奉還特権で罪に問われることは免れたものの市平に下ることになった。リリーシャとしてもルルーシュの落ち度はかばいようがなく、ルルーシュの息子にまで類が及ばないように対処するぐらいしかできなかった。

 

 その後は、ブリタニアの統治に特に支障はなかった。ブリタニアに服することを拒むナンバーズを徐々に排除しつつ、名誉ブリタニア人の完全なブリタニア人化を進める一方で、宇宙開発を推進して新たなるフロンティアの開拓に力を入れることになった。

 いくら世界人口の調整を行い増えすぎた人間を間引きしたとはいえ、限りある資源などの問題を考えると宇宙開発は必要だ。宇宙進出の弾みをつけるために監察軍の技術を極一部とはいえ流用したので、ブリタニアは『機動戦士ガンダム』のようにスペースコロニーを建造するまでに至った。

 このように国としては問題ないが、さすがにリリーシャが即位してから40年がすぎると老いることのないリリーシャに不信の目を向ける者も出てきた。これはある意味当然のことなので、ルルーシュの孫に皇位を譲って退位して、この世界から撤退した。

 この時期になるとナイト・オブ・ワンのジェレミアも故人となっていた。ジェレミアはリリーシャが即位してから30年ほどはナイト・オブ・ワンを務めていたが、さすがに歳には勝てず騎士を引退しており、当時のナイト・オブ・ワンを初めとしたラウンズたちはいずれも当り障りのない貴族のボンボン上がりばかりとなっており、リリーシャにとってどうでもいい相手だった。その為、彼らはリリーシャに捨てられるような形でラウンズの地位を失うことになるのであった。

 ちなみに、皇帝となったリリーシャに縁組を申し出る貴族は多かったが、リリーシャがそれをすべて断り独身を貫いていた。そうすると後継者問題が出てくるものであるが、ルルーシュの息子を皇族にしたことで後継者問題はなくなった。とはいえ、本来ならもっと早く皇位を譲るつもりであったが、ルルーシュの失脚とその息子が早死にしてしまったために予定よりも時間をかける羽目になった。

 かくして、リリーシャ皇帝が退位して第100代皇帝が即位したが、その陰でリリーシャ元皇帝が行方不明になり、その世界に二度と姿を見せることはなかった。

 


リリーシャ・ヴィ・ブリタニア その四

2015年11月16日 00時57分06秒 | 小説

 エリア11。原作の舞台となったこの地はブラックリベリオンが発生していないにも関わらず矯正エリアに格下げられていた。これはリリーシャが原作知識から、エリア11の平定には原作の行政特区日本のような中途半端な飴を与えるよりも徹底的に鞭を与える方が良いと判断したからだ。ブリタニアにおいては皇帝のこの決定に異を唱える者などいないし、このエリア11は最も反ブリタニアのテロが盛んである為に矯正エリアへの格下げは妥当という意見も多かったのだ。

 また、リリーシャは軍部の強硬派で知られるカラレス将軍をエリア11の総督に就任させて徹底的にイレブンを弾圧させた。テロリストが潜伏するゲットーの住民に対しては、テロリストを通報せずに匿うテロ協力者というレッテルを張り、テロリスト諸共ゲットー殲滅を行わせる。キョウト六家をテロ支援者として捕えて処刑するなど、カラレスはリリーシャ皇帝の関心を買おうと張り切ってイレブン弾圧に励んだ。

 クロヴィス統治下においては行政の腐敗もあってキョウト六家はうまく立ち回っていたが、カラレス統治下ではそのような腐敗は一層された。カラレスは自らの失態になりかねない腐敗を見逃すことはなかったのだ。キョウト六家が滅びた事でエリア11のテロ組織は支援を絶たれて、更にナリタの日本解放戦線がブリタニア軍に壊滅させられたことでエリア11のテロは急速に弱体化していった。

 以前ならばここまで露骨な虐殺を繰り替えてしておればEUや中華連邦などの他国が批判していただろうが、いまやブリタニアを批判するように国家など皆無となっており、まさにやりたい放題であった。その為、ナンバーズたちに取ってシャルル皇帝時代よりもひどい暗黒時代となっていた。

 こうなった理由は、リリーシャにとってナンバーズは名誉ブリタニア人にすらなれない(なろうとしない)まつろわぬ民でしかなかったからだ。シャルル皇帝はナンバーズを適当に差別していたのみだったが、増えすぎた人口を減らしておきたいリリーシャは彼らを邪魔者として間引きすることを考えていたために、民族浄化ばりの弾圧となっていた。

 ブリタニアへの不平不満をぶつける為に中途半端な抵抗運動をしたイレブンたちは、そのような愚かな行動がどういった結果をもたらすのか嫌というほど思い知ることになった。その為、テロを止める者や巻き添えを恐れてテロリストを密告する者まで現れて、エリア11でテロは急速に収まった。

 エリア11では原作通りルルーシュとナナリーがいるが、C.C.と接触できなかった為にルルーシュがゼロになっていないので、クロヴィスのような無能者でなければ叩こうと思えば簡単にできる。

 ちなみにエリア11にいたC.C.はカプセルに収納されたままで本国に回収されて、リミッターで威力を最低限に抑えたフレイヤで始末しておいた。別にC.C.単独では害にならないが、新たにギアスユーザーが誕生して帝国に敵対する可能性を考えると、やはり不安要素は排除しておきたかったからだ。

 原作の紅月グループ(ナオトが死亡していないため扇グループになっていない)もその他のテログループごと始末されている。また、紅月カレンはリリーシャが即位してすぐに始末した。やり方としてはカレンは原作の一年前から反ブリタニアのテロ活動に参加していたので、情報部を使って裏付け捜査を行った後にシュタットフェルト家を国家反逆罪で粛清しただけだ(シュタットフェルト家当主夫妻とカレンは銃殺刑になった)。シュタットフェルト家にとっては寝耳に水であっただろうが、娘がエリア11で反ブリタニアのテログループに参加していたとあっては言い逃れは不可能であった。

 リリーシャとしては反ブリタニア思想を持っているのにブリタニア貴族として活動できるカレンは邪魔だった。原作ではシュタットフェルト家の娘という立場をまったく活用できていなかったが、うまく立ち回ればブリタニアの内憂にもなれたのだ。というか、シュタットフェルト家の娘としてリリーシャに近づいてリリーシャの暗殺を企む危険性すらあった。それを放置するべきではないので、リリーシャは先手を打ってシュタットフェルト家ごとカレンを始末しておいた。

 神聖ブリタニア帝国はリリーシャが即位以降、エリア拡大をせずに既存のエリア(特にエリア11)の安定に力を注いできた。

 シャルル皇帝はエリアを確保すると足場を固める前に次々に侵略を進めていたが、これは大国ブリタニアでもかなりリスクが高い行動だ。下手をすれば手が回らなくなってエリア支配が破綻する危険もあるから、普通に考えたらエリアを確保したら暫くはそのエリアの安定に力を注ぐべきなので、リリーシャは即位してから三年間も足場固めに集中していた。

 しかし、それももう十分であろう。そろそろ世界征服という次の段階に移るべきだ。例の一斉攻撃で壊滅的被害を受けた地域は未だに混乱が収まらずに無政府状態になっていた。これではブリタニアの侵攻を防ぐことなど不可能で、あっという間に征服できるだろう。

 

ルルーシュside

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとってリリーシャは双子の姉ながらよくわからない人間だった。母マリアンヌと瓜二つの容姿を持ち、文武両道に長けた才女であることは知っているが、リリーシャは異母兄弟姉妹たちどころか母を同じくするルルーシュとナナリーに対してさえ一定の距離を保ち本心から付き合おうとしなかったからだ。

 それでも大切な家族だと持っていたが、母上が殺害されてすぐに失踪したことで、それが過ちであったことを理解させられた。最初はどうして出奔なんかしたのか理解できなかったが、母を殺した犯人の捜索を打ち切った父に直談判した時に「生きていない。死んでいる」と、存在そのものを否定された上にナナリーともども日本に人質として送り込まれた際に、こうなることがわかっていたからリリーシャは自分たちを見捨てて逃げ出したのだと痛感した。

 リリーシャの判断が間違っているとは思わない。確かにあの時の俺は父親を信じていた。だからこそ、直談判をやったわけだが、リリーシャは最初から腹違いの兄弟姉妹だけでなく父親すらも味方とは思っていなかったから、もはや皇宮では生き残れないと判断して生き残りの為に逃げたのだ。

 ナナリーを見捨てたのは連れて行っても足手まといになるからで、ルルーシュを見捨てたのはそんなナナリーを見捨てて一緒に逃げることをルルーシュに了承させるのは難しいと判断したか、もしくは身体能力が低いルルーシュ本人すらも足手まといと切り捨てたからだろう。とはいえ、それはわかっていても、やはり実の姉に見捨てられて面白く思うはずもない。

 そんなリリーシャに対する複雑な感情を抱えたまま、皇族の怪死事件が発生した。この突然の事態に困惑しているうちにリリーシャが電撃的に神聖ブリタニア帝国第99代皇帝に即位した。これでリリーシャの生存が確認できた。もっとも人質に送られた俺たちですら生き残れたのだから、あれほど狡猾で生き残ることに貪欲なリリーシャがそう簡単に死ぬわけがないと思っていたので、これも当然だろう。

 そんなリリーシャは俺たちと違って皇位継承権を失っていなかったために最後の皇族として皇帝になれたわけであるが、そんなリリーシャを匿い皇帝に押し上げたジェレミア・ゴットバルトは現在では忠臣として持ち上げられていた(リリーシャは監察軍のことを隠匿するために一般にはジェレミアがリリーシャを匿っていたことにしていた)。

 しかし、アッシュフォード家としてはこれは寝耳に水な話であった。リリーシャがヴィ家唯一の後援貴族だったアッシュフォード家を無視して、何の関係もなかったゴットバルト家を頼った事自体がかなりの非常識だったのだ。

 そもそもアッシュフォード家はルルーシュとナナリーを匿っていたが、それは慈善事業ではない。没落したアッシュフォード家が起死回生の賭けとしてルルーシュを皇族として押し上げて自分たちの家を盛り立てようとしたにすぎない。それでも同じヴィ家の皇族を匿ったジェレミアはナイト・オブ・ワンに抜擢されてリリーシャ皇帝の治世において大いに権勢を強めているにも関わらず、アッシュフォード家は相変わらず没落したままの状態なのだ。元より分が悪い賭けだったとはいえ、これではババを引かされたようなものであった。

 当主ルーベンは兎も角その息子夫婦はこの状況に耐えかねて、リリーシャにルルーシュとナナリーを売りとばしたが、それは呆気なく蹴られてしまった。というのも、リリーシャにとって二人は皇族に復帰させる価値のない者だったからだ。

 ナナリーは目が見えず足も動かないという重度の障害を負っており、弱肉強食が国是のブリタニアにとって非常にわかりやすい弱者だ。おまけにそんな障害をも補える程の優れた能力があるかといえばそうではなく、むしろルルーシュが汚いものを見せないように甘やかせて育てたせいで皇族として致命的に適性がなかった。はっきり言っていくら皇族でもそんなナナリーに敬意を持つ臣民はそう多くないだろう。それを考慮すればいくら皇族が激減してしまったとはいえナナリーを皇族に復帰させるのはブリタニア皇室の恥にしかならない。

 ルルーシュは能力に問題はないが、先帝時代に自ら皇籍を破棄した過去がある上にブリタニアに強い恨みを抱いており、例え皇族にしても不穏分子になる恐れがある為に皇族に復帰させることはできない。

 このリリーシャの厳しい指摘を受けたアッシュフォード夫妻はルルーシュとナナリーを使ってアッシュフォード家を再興させることができない、と判断した。その為、夫妻は娘のミレイとロイド・アスプルンド 伯爵を結婚させる事で家を再興しようとしてミレイとロイドの婚約を成立させたが、ミレイがルルーシュの子供を妊娠してしまったことでそれが頓挫しただけでなく、アッシュフォード家は大いに揉めることになった。

 これは、ミレイの望みであったとはいえ俺に大きな非があることは言うまでもない。切羽詰まった俺は責任を取る為とアッシュフォード家に恩を返すためにリリーシャに頭を下げて皇族に復帰させてもらった。リリーシャとしては俺が心を入れ替えてブリタニアに尽くすのであれば、俺を皇族に復帰させてもよかったのだろう。プライドを捨てて頭を下げてきた俺を意外そうに見ていたが、あっさりと皇族復帰を許した。

 こうして、皇族に復帰した俺はミレイと結婚して、アッシュフォード家を再興した。更にミレイとの間に生まれた長男も皇位継承権を与えられて皇族として認められることになった。

 


リリーシャ・ヴィ・ブリタニア その三

2015年11月16日 00時56分16秒 | 小説

 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝となったリリーシャはジェレミア・ゴットバルトをナイト・オブ・ワンにして新たな支配体制を築き上げた。ラウンズはワンしか決まっておらず残り11人の騎士に関してこれから決めていかないといけないが、それは時間をかけて選抜すればいい。

 言うまでもないが、先帝時代のラウンズは全員解任されている。彼らはシャルル皇帝の騎士であって、リリーシャ皇帝の騎士ではないのだ。その為シャルル皇帝の崩御に伴い彼らは騎士を廃業する羽目になった。これは皇族の選任騎士たちも同様である。

 この元ラウンズや選任騎士たちはKMF(ナイトメアフレーム)のデヴァイサーとしてもかなり優秀であるために騎士を廃業させるのは人材の損失であり、できればラウンズは無理でも軍に所属する騎士として活躍してもらいたいと思うが、皇帝であるリリーシャが騎士の慣例を破るのは好ましくない。そもそもブリタニアは騎士道を重んじる国だから、その辺りはかなりデリケートな問題なのだ。

 とことん合理的に考えるなら国の要人の警護はSPがいればよくて、要人の護衛にKMFの腕など必要ないからKMFの操縦に優れている者は要人の護衛ではなくKMFのデヴァイサーとして軍に所属する方が効率的だ。その為、ラウンズや選任騎士は無用であるし、むしろ臣下に余計な権限を与えている邪魔な制度であった。

 しかし、リリーシャ本人はそう思っていてもそれを公言すると騎士や貴族だけでなくブリタニア人の臣民にまで反感を買うので公言できず、むしろ周囲には騎士を重宝しているように見せなくてはいけない。だからこそ、リリーシャは妥協案として辺境伯にして優秀な軍人であるジェレミアをナイト・オブ・ワンにしたわけである。

 こういえば、原作の枢木スザクが皇族の選任騎士でありながら、主が死ぬとすぐにシャルル皇帝のラウンズになった事がどれだけ不味い事であるのか想像できるだろう。シャルル皇帝が決めたことゆえ表だって文句を言う者はいなかったが、当然ながら他の騎士や貴族たちの枢木スザクに対する評価は最悪であった。まあ、スザク本人はイレブン上がりだからブリタニア人から不当に差別されていると思うだけで、自らの行動に重大な問題があったことを理解していなかったけど(呆)。

 しかも、スザクは「間違ったやり方で得たものに意味はない」、「正しい過程や綺麗な手段が大事」と口では主張していたが、友人を売りとばして出世をするわ、身体障害を持つ少女を人質に取るなど、かなり卑劣な手段を行使している。止めにどうしようもない失敗をしてしまうと、これまでの主張を放棄して己の出世の為に主君を殺そうとするなどとんでもない奴だった。

 正直いくら強くてもこんなやつを騎士にしていたらいつ寝首をかかれるかわかったものではないから、リリーシャの場合は強さよりも周囲の評価や信頼度を優先して騎士を選ぶことにしている。とはいえ、それもジェレミアがいれば事足りるだろうから、他のラウンズに関しては血筋がいいだけの貴族のボンボンでも構わない。要は表向きは騎士を重宝しているようにポーズをとればいいのだから数合わせに使えないやつを揃えてもいい。それに名誉ブリタニア人にすぎなかった枢木スザクと違って純ブリタニア人、それも名門貴族出身の騎士であれば余程の問題児でもなければ周囲の反発はない筈。

 

 さて、リリーシャがベンドラゴンに帰還して以来、他の皇族の後見をしていた貴族たちは手のひらを返したかのようにリリーシャに媚びを売るようになった。彼らの多くはかつて庶民出の母を持つヴィ家の皇族たちを見下していた者たちであるが、だからといってそれに一々目くじらを立てるわけにもいかない。そんなことで彼らを咎め立てたりすれば人心を萎縮させてしまうし、そもそも彼らの多くは神聖ブリタニア帝国の中核を担っており、ヴィ家を軽んじたというだけで彼らを排除してしまうと国が機能しなくなる。

 だからリリーシャは彼らを上手く利用していた。その一環として彼らが後援していた皇族たちが保有していた研究機関や部隊の取り込みを行った。

 まず、エリア11にあるクロヴィスがやっていたC.C.の研究と、NGF(ナイトギガフォートレス)の研究をバトレー将軍に命じて本国に移した。特にC.C.の身柄を最優先で本国に送らせたのは、原作のようにルルーシュがC.C.と契約を交わしてブリタニアに反逆しないようにするのに必要であるし、そうでなくても神殺しの阻止にはC.C.を確保しておかないと不味いからだ。

 次に、シュナイゼルの特派だ。これは第七世代KMFランスロットを開発しており、速やかに実戦データを収集して量産型の第七世代KMFを開発させたい。その為には、ランスロットを使いこなせるデヴァイサーがどうしても必要な為に、特派を吸収すると同時に「ランスロットのデヴァイサーは純ブリタニア人に適任者がいないなら名誉ブリタニア人を使ってもいいから、とにかく量産型第七世代NKFを開発する為のデータを早く取れ」と、ロイド伯爵に命令しておいた。これで原作よりも早く枢木スザクがランスロットのパーツになるだろう。

 ちなみにこの時期、フレイヤは基礎理論すらできておらず研究されていなかったが、開発者のニーナがいるためにいずれは開発されることが予測されたので、ジュレミアに命じてニーナを密かに始末しておいた。ジュレミアは貴族ですらない庶民の小娘一人をリリーシャが排除しようとすることに疑問を持っていたが、「彼女の研究が私の治世に極めて悪影響を及ぼす恐れがあるから」と説明すればわかってくれた。はっきり言って原作を知らない人間からすれば穴だらけで突っ込みどころ満載であるが、ジュレミアは忠誠心で納得したようだ。やはりジェレミアは使えるやつだ。

 まあ、嘘は言っていない。リリーシャの治世にフレイヤは邪魔だ。それが拡散して敵国のフレイヤ保有や、テロリストの手に渡ると目も当てられない事になるから自国でも研究生産はやらない。大量破壊兵器を使用するときは監察軍のものを使用すれば事足りるのだ。

 というか、すでに大量破壊兵器を使用している。この間、監察軍の巡洋艦が中華連邦にあるギアス嚮団本部に対してリミッターを外したフレイヤ弾頭ミサイルを発射した。その目的は敵の排除と神殺しの阻止の為にV.V.を抹殺することです。V.V.は神殺しをやろうとしている邪魔者ですし、原作ではやたらとルルーシュを、この世界ではリリーシャとルルーシュを敵視しているから先手必勝とばかりにやったわけです。ギアス嚮団も事前にハッキングでギアス関係の研究データをあらかた盗んでおいたのでギアス嚮団のような不安要素を残しておく理由はない。

 それと、このフレイヤ攻撃と同時に純粋水爆弾頭を中華連邦とEUなどの世界各国に百発以上は打ち込んでやった。この世界は戦略ミサイルが存在しなかった為にミサイル防衛網がまったくなかっただけに各国は迎撃どころか何があったのかまったく理解できない有様だった。

 なんだかやっていることがシュナイゼルのダモクレス計画みたいですが、これも必要なことです。というのもこの世界の総人口は明らかに地球が賄える数を超えています。その為、食料や環境などの重大な問題が出ており、その解決が必要となります。

 手っ取り早い方法は人を大量に間引くことなので、リリーシャに従わない他国の人間を一斉処分することで世界人口の調整と、後のブリタニアによる世界征服を円滑に行う一石二鳥を狙う事にした。エリア11の例を見ても明らかなように例え侵略して征服したとしても被支配者たちが下手に力を残していると統治に支障が出るのだ。だったら最初から刃向う力すらも奪い取れば余計な手間が省ける。

 まあ、使用する大量破壊兵器をフレイヤではなく純粋水爆にしたのは、各国を叩き潰すのならフレイヤのように巨大な穴を開けなくても地上の建物を人間ごと破壊すれば事足りるからだ。何気にフレイヤよりも純粋水爆の方が有効範囲が広いという理由もある。

 また、ギアス嚮団に打ち込んだ大量破壊兵器だけリミッターを外したフレイヤ弾頭なのは不老不死のV.V.を確実に始末するためだ。V.V.は純粋水爆では殺しきれるとは思えないが、フレイヤで細胞ひとつ残らず消滅したらいくらなんでも生き返ることは不可能なはずだ。とはいえ、フレイヤを打ち込んだりしたらどうしてもばれてしまうが、そこで木を隠すならば森とばかりに同時に世界中(ブリタニアを除く)で純粋水爆を打ち込んでフレイヤ攻撃をもみ消したわけである。

 こうして、ブリタニアに敵対していた国々は謎の大災害(人災)によって各国とも統治機能を失った。辛うじて暫定政権が成立した国は唯一無事なブリタニアにプライドをかなぐり捨てて支援を求めるが、リリーシャは当然ながらそれを拒否するだけでなく、被災国をあの手この手で引っ掻き回して叩きのめしていくのであった。

 


リリーシャ・ヴィ・ブリタニア その二

2015年11月16日 00時55分15秒 | 小説

 神聖ブリタニア帝国。その国はシャルル皇帝の元で他国を征服して、世界の3分の1を支配するに至った超大国である。そのとどまるところを知らぬ勢いにその他の国々は脅威を抱きブリタニアに対抗しようとしていたが、そんなブリタニアを揺るがす大事件が発生する。シャルル皇帝と皇位継承権を持つ皇族全員が死亡したのである。

 死因はいずれも心臓発作で、これがシャルル皇帝だけなら彼の年齢もあって多くのものは不審に思わないだろう。だが、100人近くいた皇位継承権を持つ皇族が一斉に心臓発作で死亡したとなると、怪死としか言いようがない。暗殺にしてもあまりの人間離れした所業から一部では呪いなどのオカルトすらもささやかれていた。

 とはいえ、当事者たるブリタニアの重臣や貴族たちは死因や真相究明ばかりしていられない。専制君主制国家にとって玉座に誰もいないという状況は極めてまずい。特にブリタニアのような超大国であれば尚更である。そんな彼らにとって第三皇女リリーシャ・ヴィ・ブリタニアの帰還は朗報以外の何物でもなかった。多くの貴族たちは諸手を挙げてリリーシャを支持した。

 通常ならいくら皇位継承権を有する皇女とはいえ出奔して八年間も行方不明になっていたリリーシャの立場はかなり弱いが、リリーシャ以外に皇族がいないという状況がそれをくつがえした。ブリタニアでは皇族でないものが皇帝になることはできない。これは神聖ブリタニア帝国の基盤であり、それを変えることは国を根本的に変えることを意味している。

 いくら、帝国貴族といっても所詮は帝国があって初めて貴族制が維持できるのだ。皇帝や皇族があってこその貴族であるため、彼らは嫌でも最後の皇族となったリリーシャを皇帝として支持しないといけないのだ。そうしなければ自分たち貴族が存在できなくなるからだ。

 かくして、リリーシャ・ヴィ・ブリタニアは神聖ブリタニア帝国第99代皇帝に即位するのであった。

 通常であれば皇位継承が穏便に済むものではなく血を血で洗う凄惨な政争になるものであるが、リリーシャ以外に皇族がいないという状況であるため、例えリリーシャに反発する貴族がいても掲げる神輿がいないのではどうしようもない。また、下手にリリーシャを排除してしまったらブリタニアがひいては自分たち貴族もおしまいであるため、逆に貴族たちはリリーシャを支えていったためにブリタニアは安定していくのであった。

 

 リリーシャが監察軍に身を寄せてから八年の月日が流れて原作開始直前の時期になった。この八年で真っ先にやった事は戦闘用の生体強化を受けた事だ。元々、母マリアンヌの指導を受けて剣術や体術などを学び鍛えていたリリーシャであるが、これによって著しく強化されることになった。

 更に16歳になるとゴッド・ブレスを打ち込んで不老長寿になったので、老化を防げるうえに回復能力も桁違いに上がっていた。また、監察軍では総司令官トレーズの部下として官僚向けの仕事をして政治などを学んだり、トリッパー仲間たちと剣の鍛錬をしたりと充実した日々をすごした。

 そんなリリーシャであるが、現在原作の舞台となっているエリア11にあるトウキョウ租界の街中を歩きながら情報を集めていた。いま世界中である大ニュースがにぎわっている。それはシャルル皇帝とブリタニア皇族全員(リリーシャを除く)が一斉に死亡したことだ。言うまでもないが、それはリリーシャの仕業であった(爆)。

 といっても、やったことといえば監察軍から借りたデスノートにシャルル皇帝と皇位継承者たちの名前を記載しただけです。普通なら100人近くいる皇族(シャルル皇帝の皇妃を除く)を一々殺すぐらいならブリタニアを滅ぼしたほうが手っ取り早いですが、この方法なら簡単にけりがつきます。

 原作のルルーシュはブリタニアをぶっ潰すといって盛大に反逆した挙句、ギアスを使いまくって皇帝になりましたが、わざわざそんなことをやらなくてもデスノートを使えば最小の犠牲で終わりにできる。

 こうして、ブリタニア皇族はリリーシャ以外いなくなった。ブリタニアでの第三皇女リリーシャ・ヴィ・ブリタニアの扱いは行方不明となっており、皇位継承権自体は未だに剥奪されていなかった(ルルーシュとナナリーはデータ上では皇籍剥奪の上で死亡扱い)。

 リリーシャよりも皇位継承権が低かった傍系の皇族に関しては始末するかどうか少し考えたが、いくら継承権が低くても皇族として活動していた彼らの地盤は侮りがたい。仮に彼らを放置して無理やり皇帝になっても後々不安定要因になることは目に見えていたので、この機会にまとめて始末したのだ。

 

「ジェレミア、久しいな」
「はい、ご無事でなりよりです。リリーシャ殿下」

 リリーシャはジェレミア・ゴットバルトと接触していた。原作開始前のジェレミアは軍内部に大きな勢力を誇る純血派のトップであり、当然ながらオレンジ事件はまだ発生していないためにまさに絶頂期といえる。リリーシャの計画には取り込んでおくべき人材だ。

 リリーシャは元々、このコードギアス世界の介入、より正確にいうなら折角皇族になったのだから皇帝になってこの神聖ブリタニア帝国を思うが儘に動かしたいと思っていた。その障害となりうる存在はすでに排除されているため、今なら容易に皇帝になれる。

「私以外の皇族が死亡したというのは確かか?」

 デスノートを使って父親と異母兄弟姉妹たちを抹殺したのはリリーシャであるため、真相を知るものからすれば何を白々しいと思うだろうが、そのことを知るものは監察軍のトリッパーだけであるため、ジェレミアは知るよしもなかった。

「はい、間違いありません。本国では大混乱になっております」
「そうか。では、私が表に出るしかありませんね」

 正確にはそうなるように仕向けたのだけど。

「おお、では即位されるのですね」
「ええ。ジェレミア、八年前にアリエス離宮で交わした約束は覚えているかしら?」
「勿論です。リリーシャ殿下、忘れようはずもありません。私はこの時を待っておりました」
「では、ジェレミア・ゴットバルト、この私リリーシャ・ヴィ・ブリタニアの騎士になりなさい」
「Yes,your highness(イエス・ユア・ハイネス)」

 ジェレミアは感極まったように喜びながら了承した。ここにリリーシャ皇帝のナイト・オブ・ワンが決まった。

 

「神聖ブリタニア帝国第三皇女リリーシャ・ヴィ・ブリタニア様、御入来!」

 その日、ペンドラゴン皇宮で行われたテレビ中継はブリタニアのみならず各国に人間の注目を浴びた。例の怪死事件によって神聖ブリタニア帝国はもう終わりだという予想を裏切り、行方不明となっていた第三皇女が帰還したというのだ。純ブリタニア人はその情報に安堵したが、EUや中華連邦などのブリタニアに敵対していた国々やブリタニアに占領さえて迫害されているナンバーズたちはこれに大いに落胆した。

 しかし、新帝即位という事態でブリタニアがどう変わるのかということも注目を集めていた。それだけにここで意思表示するのは大いに意味がある。

 扉が開かれてリリーシャが入場してきた。今のリリーシャの服装は髪の色に合わせた黒を主体としたドレスに身を包んでおり、リリーシャは黒のドレスを愛用した為に、後に黒の女帝と呼ばれることになるのであった。

「ブリタニアの臣民たちよ。私は神聖ブリタニア帝国第三皇女リリーシャ・ヴィ・ブリタニアです。もっとも故マリアンヌ皇妃の娘と名乗ったほうがわかりやすいでしょう」

 リリーシャは幼少のころに出奔したため表舞台には全く露出しておらず、帝国宰相だったシュナイゼルやブリタニアの魔女と称されるほどに活躍していたコーネリアのような有名な皇族ではなかった。むしろ一般には全く知られていない無名の皇族だから、第三皇女という肩書よりもマリアンヌの娘と名乗った方がわかりやすいのだ。

「先の怪死事件によりブリタニアの未来に不安を抱いた臣民も多かったでしょうが、ブリタニアには未だこの私が健在であり、何ら不安に思うことはありません。なぜなら、ただいまをもってこの私が神聖ブリタニア帝国第99代皇帝となるからです」

 どさくさまぎれに皇帝即位を宣言するが反論する者はいない。というか反論しようがないのだから当然である。

「私の統治は基本的には先帝の方針を継承するものとする」

 この宣言に他国の人間やナンバーズたちが失望する。もしかしたら新帝がエリア解放もしくは差別の緩和をやってくれるかもしれないと思っていたが、それはないことはこの宣言で明らかになった。

 そう、リリーシャはルルーシュのようにエリア解放などやるつもりはない。というかエリア解放したからといってどうなるというのだ。ブリタニアの経済はエリアを搾取することで成り立っている。いきなりエリア解放をしてしまえばブリタニアの経済が大打撃を受けるのは間違いないだろう。

 おまけにエリア解放したからといって元ナンバーズたちと仲良くやっていけるとかいえば不可能としか言いようがない。ブリタニアはあまりにも恨みを買いすぎている。彼らの恨みと被害者意識は相当根深い筈だ。

 これでは元エリアが独立しても反ブリタニア国家となるだけでブリタニアの利益にならないばかりが不利益にしかならない。それは日本に恨みを持って反日国家になった前世の韓国や中国を見れば一目瞭然だった。

 それならば、下手な綺麗事など言わずに開き直って徹底的にやってしまうべきなのだ。つまり各エリアを完全にブリタニア化することだ。全てのエリアを安定させて、そしてゆくゆくは世界征服してしまえばいい。そう人類を統べる唯一の統一国家となればいいのだ。

 

解説

■生体強化
 天地無用の世界から回収したナノマシンによる人体強化処置。免疫機能などが強化されるが、戦闘用の場合は膂力、反射神経、耐久力など戦闘に関係する分野で著しく強化される。

■ゴッド・ブレス
『BLACK CAT』の世界で猛威を振るった不死のナノマシン(といっても不完全な不死身である)。監察軍では手軽に不老長寿になれることからこれを投与するトリッパーが多い。

■トレーズ
『トリッパー列伝 トレーズ・クシュリナーダ』で登場する転生型トリッパー。転生型トリッパーであるが能力自体は大したことない。とはいえ、そのカリスマは相当なものであり、監察軍総司令官としてアクの強い監察軍本部のトリッパーたちを上手くまとめ上げている。

■デスノート
『DEATH NOTE』の世界で監察軍が入手したアイテム。名前を書いた人間を死なせることができる死神のノート。危険なので本部で厳重に保管されているが、トリッパーであれば監視などの条件付きであるが、一時的に借りて使用することが可能である。

 

あとがき

 デスノートがあればこんなこともできるかなと妄想したためやってみたけど、デスノートはやはりかなりのチートですね。こういう使い方をすれば国を掌握することもできますから(笑)。

 


リリーシャ・ヴィ・ブリタニア(コードギアス 反逆のルルーシュ)

2015年11月16日 00時54分23秒 | 小説

 私、リリーシャ・ヴィ・ブリタニアは皇位継承権第17位を有する神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの第三皇女である(原作では第三皇女はユーフェミアであったが、この世界ではリリーシャが第三皇女となっており、その為、ユーフェミア以下の皇女たちの順番が一つずれていた)。

 それはともかく、私は主人公ルルーシュの双子の姉で、ルルーシュとよく似た絶世の美少女である(つまりマリアンヌ皇妃にそっくり)。その為、原作を知る者がみれば転生者と疑われるポジションにいるけど実際には3歳の時にリリーシャの身体に憑依して乗っ取った憑依型トリッパーだったりする。といっても、この世界にはリリーシャ以外のトリッパーはいないのでそれを指摘する者はいない。

 そんな私であるが憑依してからというもの子供らしくふるまうという演技すらせずにひたすら自己向上に励んだ。要は運動や勉学など己を磨くことに励んだわけであるが、さすがに3歳で帝王学を学ぶのはやり過ぎだったかもしれない。これが普通の親なら気味悪がられていただろう。でも、シャルルやマリアンヌという常識的な親ではなかった為にそんな演技など無用だったのは好都合だった。

 ルルーシュとナナリーがユーフェミアと子供らしく遊んだりする中でも私は彼女たちに関わる事なく自分を高めることに没頭していた。これは元が社会人の青年男性だった私からすれば今更童心に帰って子供たちと一笑に遊ぶことに抵抗があったのも理由だったりする。

 さて、今さらっと述べたが私は元男である。その為、性転換してしまった為に入浴やトイレには戸惑いを覚えた。それでも幼い今はまだマシだろう。後に生理とか結婚とかを考えるとかなり困る。なまじ前世の記憶があるから男と結婚なんかしたくないし、妊娠出産なんかとんでもない話だ。

 こういう性の悩みはTSしてしまったトリッパーに付き物の問題なので私だけでなく、他のトリッパーも各々のやり方で対処しているらしい。

 現世の私はルルーシュの双子というだけあって頭の回転がやたら早い。前世は精々二流の大学を卒業できただけの一般人に過ぎなかっただけにこの頭脳の凄さには驚きである。更に身体能力もマリアンヌの娘というだけあってずば抜けていた。正直鍛えれば枢木スザクを超えられるんじゃないのと思える程なのはまさに母の遺伝子の賜物だろう。

 しかし、ルルーシュは逆に運動音痴なのは原作を知っていても腑に落ちない。どうでもいいことではあるが、ルルーシュはマリアンヌの遺伝子をどっかに落としてしまったのかもしれない。

 さて、問題のマリアンヌ暗殺事件は当初の予定では何とか阻止する予定だった。何しろあの事件のせいで後ろ盾のマリアンヌを失っただけでなく、マリアンヌを守りきれなかった責任を負わされて後援貴族のアッシュフォード大公爵家まで没落してしまい、ヴィ家の皇族が弱者に転落してしまう事になるからだ。弱肉強食が国是のブリタニアでは例え皇族でも弱者になってしまえば悲惨な末路を迎えることになるから、まさに死活問題なのだ。

 しかし、三千世界監察軍と接触した事によって別に皇宮での生活に拘る必要はなくなった為に予定を変更した。大体いくら優秀といっても幼い皇女にすぎない私ではどうこうする力はないし、シャルルやマリアンヌにV.V.の企みを警告しても「何故そんな事を知っている」とこっちが疑われてやぶ蛇になるだけである。

 その結果、原作通りマリアンヌはV.V.に暗殺されたが、それは仕方ないだろう。どうせギアスでアーニャに入り込んでいるのだからまだ死んでいないわけだしね。

 

 後にアリエスの悲劇とよばれる皇妃マリアンヌ暗殺事件の翌日原作知識を元にジェレミア・ゴットバルトを探していた。ジェレミアはアリエス離宮の警備兵の一人で騎士として勇名をはせたマリアンヌを尊敬しており、この初任務に張り切っていたのであるが、この結果に酷く落ち込んでいた。

「ジェレミア・ゴットバルト」
「リリーシャ殿下、申し訳ありません。警備しておきながら賊の侵入を許してしまいました」

 私に気付いたジェレミアは心底申し訳ないと、言わんばかりに頭を下げていた。

「もういいわ。別にお前に非があるわけでもあるまい」

 ジェレミアをさりげなく慰めておく。原作で知っていたがやはりこの時のジェレミアは大ショックを受けていたのだろう。その結果、皇族特にヴィ家に対する忠誠心が異常に高まり、後に純血派のリーダーとして軍部の実力者となるわけであるが、ゼロにオレンジ疑惑などというあらぬ疑惑を着せられたあげく、ナリタでゼロ率いる黒の騎士団によって生死不明となるわけである。

 彼の不幸はそれだけではなく、バトレーやギアス嚮団に勝手に改造されてしまったり、やっとこさ見つけたヴィ家の皇族であるルルーシュの騎士になったがルルーシュはゼロレクイエムで悪逆皇帝というあらぬ汚名を被って死亡してしまうのだ。

 ジェレミアはスザクや黒の騎士団のような騎士を名乗ることすらおこがましい連中と違って立派な騎士であるが故にその不遇さには同情せずにはいられない人物である。というか、ルルーシュの騎士になるより私の騎士になった方がいいと思うほどだよね。まあ、それはそれで原作ブレイクになるけど。

「それより問題はこれからね。私たちヴィ家はこれで終わりでしょう」
「なんと!?」

 あまりにも不穏な言葉にジェレミアは驚く。

「私たちの母は死に、後援貴族たるアッシュフォード家も今回の一件で没落するでしょう。そうなると庶民出の母を持つ皇族なんて弱者以外の何物でもないわ」

 マリアンヌ皇妃は確かに軍部、庶民、下級貴族の間ではかなりの人気を誇るが上級貴族や皇族の間では庶民出の出身からかなり嫌われており、その血を引く私たちも受けが悪いのだ。マリアンヌが生きていた頃はそれでも何とかなったが、今となっては庶民出の母を持つというのは血筋の悪い皇族というレッテルをはられてしまうデメリットでしかない。

「このままではどこかに人質として送られて開戦の口実に使いつぶされるでしょうね。そうなれば恐らく生き残れないわ」
「リリーシャ殿下」

 ジェレミアが気の毒そうな目で私を見る。

「心配しなくてもいいわ。そうと分かっていて手をこまねいたりはしない。ちゃんと対策ぐらい考えているわ。とはいえ、もう皇族としては生きられないでしょうけどね」

 私は彼を安心させるべく笑みを浮かべる。実際、皇族として生きられないならその立場を捨てて監察軍に逃げ出せばいいのだ。いくらシャルル皇帝でもこの世界に存在しない人間を人質に送りようがない。確か原作ではルルーシュが数日後にシャルル皇帝に直談判しにいくけど、わざわざそれを待つ必要はない。その前にさっさと逃げるとしましょう。

「それはそうとジェレミア。貴方は皇族に対する忠誠心は未だに健在かしら?」
「このジェレミア皇族方に対する忠義は一欠けらも失っておりません!」
 と、力強く答えるジェレミアはむしろ忠誠心が高まっているようにすら感じる。

「なら、もしも私が再び皇族として表舞台に立つときが来たら私に手を貸してくれるかしら?」
「イエス・ユアハイネス。その時は全力を持ってお応えしましょう」

 私はジェレミアの返答に満足した。やはりスザクみたいな騎士もどきと違って本当の騎士たるジェレミアは頼りになる。これなら、今後は安心してジェレミアに頼る事ができるだろう。今後の布石を終えた私は早速監察軍と連絡を取る事にした。

 かくして、アリエスの悲劇の三日後、第三皇女リリーシャ・ヴィ・ブリタニアの失踪の知らせが皇宮を駆け巡ることになるのであった。

 


ゾルザル・エル・カエサル(ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり)

2015年11月16日 00時53分31秒 | 小説

 気が付けば異世界にある帝国の第一皇子になっていた。何言っているんだかわからないという人もいるだろうが、元々は日本の平凡なサラリーマンだったけど、いきなり別人になってしまったわけだ。まあ、ネット小説とかでよくある憑依現象というしかないが、まさか自分でそれを経験する羽目になるとは思わなかった。

 当然ながら剣と魔法のファンタジー世界であるが、ファンタジーすぎて人権何それ美味しいのを地で行く国家であった為に正直言ってドン引きした。何せとんでもなく無茶苦茶な理由で侵略しているし、野蛮な行動が目について仕方がない。

 おまけに憑依したキャラがゾルザルだ。原作で散々大馬鹿と馬鹿にされた奴になるとは思わなかった。まあ、バカと言っても知的障害があったわけではないので、中の人が俺になったこともあって常人並に行動できるから問題はない。

 さて、俺は帝国で足場固めをしていたわけであるが、やはりこの世界でもゲートが出現してしまいました。正直言ってゲートなんて厄介事にしかならないから無視するべきなんだけど、皇帝を筆頭としてお気楽な連中は数名の捕虜(日本人)が軟弱な者達だった事から安易に異世界侵攻を決定した。勿論、俺は慎重論を唱えて反対したものの却下された上に臆病者と陰口まで叩かれる始末だ。

 まあ、帝国という国はこの大陸において最強の軍事力を持ち国力は無双という大国で、頂点に君臨する自分たちに国号は必要ないと国名もいらぬと、シンプルに帝国と名乗るような増長著しい連中なので俺が慎重論を唱えても聞くわけがないわな。

 それでも俺が反対したのは後で責任を取らされないようにする為のアリバイ工作にすぎない。いうまでもないが、帝国が原作通りにボロ負けすれば侵攻に賛成した連中は責任を追及されるが、反対した俺はそんな追及はされないからだ。

 しかし、このままではまずい。原作では帝国の国力はかなり低下にともない大陸の属国と周辺諸国が反乱を起こすのを警戒した為に、連合諸王国軍を編成して日本にぶつけるという方法でそうした国々の力を削ぐことに成功していた。

 これは何時敵になるかわからないとはいえ一応は味方(属国や周辺諸国)といえる存在なのに敵(日本)を利用して排除するというかなり外道な戦略であるが、合理的な判断である事には違いない。というか、そうでもしないとどうしようもないからな。

 そんなわけで、哀れにも連合諸王国軍は帝国に何の情報を提供されることなくアルヌスにて壊滅したわけである。これで時間稼ぎに成功したが日本との戦いを終わらせなければ帝国は窮地に陥るだろう。何せ国力や軍事力が違いすぎるから日本とまともに戦って勝てるわけがない。

 戦って勝てないとなると策略でどうにかするしかない。そのチャンスと言えるのが国会参考人招致にともないピニャが日本に訪問する時であろう。これに同乗して日本の国会に乗り込んで仕掛ける事にした。

 

「ゾルザル殿下」

 そんなわけで国会に乗り込んだ俺である。別に身分を偽っているワケではないので、帝国の第一皇子だとちゃんと伝えておいた。

「ゾルザル殿下は日本語がわかりますか?」
「ええ、ちゃんと話せますよ」

 俺が日本語を流暢に話せるのは彼らにとっては意外かもしれないが、前世では日常的に使っていた言語である。話せない筈がないだろう。

 彼らは「百五十人が亡くなった原因として、自衛隊の対応に問題はなかったか」と訊いてきた。予想通りとはいえ敵国の皇子にそんな事を訊くとはこいつら馬鹿か?と思わずにはいられない。

 どうして戦時中の敵国要人相手に自軍の非を主張できるのだ。どう考えても利敵行為だろう。幸原みずき議員の愚かさに頭を痛めた俺がであるが、ここで無視するわけにもいかないので一応答えておく。

「我々の常識では戦争時に敵国の民間人を守る義務などないのだから、炎龍が襲撃してきたときに自衛隊が民間人を見殺しにしても何ら問題なかった。寧ろ民間人の虐殺、略奪、強姦などをしないだけで十分に自衛隊は紳士的だよ」

 こっちでは略奪とか当たり前だしね。まあ、日本だって義和団事件のときには略奪をしていた(日本だけじゃないけどね)。だから、この世界でもその手のルールはつい最近になってから整えられたわけである。

「とはいえ、俺としては自衛隊よりも日本政府の方に重大な問題があると思うぞ」
「それはどういうことでしょうか?」

 自衛隊を責めていたのに、いきなり政府非難になった流れに周囲は戸惑っているようだ。


「君たちは憲法9条をよくご存じだろう」

 

 憲法9条という言葉に議員たちの顔が引きつる。そりゃそうだろうね。

「これをどう見ても自衛隊の様な実質的には軍隊という武装組織の存在はゆるされていないし、武装して国外に派遣する事も不可能だ。ましてや自衛隊を他国に送り込んで侵攻するなど論外である!」

 宣戦布告もなしに攻め込まれたから逆に敵国に侵攻して賠償を要求するというのはこの世界でも常識的な行動である。問題なのはそれを憲法9条が許していない事なのだ。

「その為、この場において日本政府には自衛隊の即時撤退を要求する。もしもそれを拒むのであれば憲法9条違反の罪を国際社会に訴えるものである!」

 即時撤退か、憲法違反か、を問われるかの二択だ。本来ならば宣戦布告もなしに侵略された国が逆に敵国に侵攻するのは国家として当たり前の行動であり、このような要求をされるのは常識的にあり得ない事であるが、憲法9条がそれを非合法なものにしてしまっていた。

 ようはこれまで法改正をしてこなかったツケが彼らにのしかかって来たわけである。この宣言に国会は大荒れになったのは言うまでもないだろう。

 その後、日本政府の憲法違反問題は元々ゲートを独占している日本に不満を持っていた中国や韓国といった反日国家に散々に叩かれるようになり、さりとて国内世論が上手くまとまらず憲法9条改正もできないという身動きがとれない有様であった事から、なし崩し的に自衛隊の無条件撤退という形になった。

 日本政府からみれば踏んだり蹴ったりであろうが、原作では特地での戦争や交渉で深入りした結果とんでもない予算を無駄に投下する羽目になったのにゲート封鎖によってそれらの費用がまったくの無駄になっていた。

 そう考えれば深入りする前にさっさと撤退した方が無駄な税金を投入しなくていいので、この結果は帝国だけでなく日本にとっては悪くないだろう。

 こうして俺は、恐るべき強敵を口先一つで撤退に追い込み戦争を終わらせた英雄となり、これが切っ掛けで皇帝に即位することになるのであった。

 

解説

■ゾルザル・エル・カエサル
 ゲート世界の第一皇子に憑依したトリッパー。憑依型トリッパーなので特にこれという能力をもっていないが、原作知識を利用して口先一つで国難を救った英雄になるのであった。

 

あとがき

 ゲート日本の行動は憲法9条に思いっきり違反しているじゃねえか、と思わず突っ込みをいれたのは私だけでしょうか? どう解釈しても無理があり過ぎると思います。まあ、戦後ずっと法改正を怠って来たツケとしかいいようがありませんが、原作は国内外からあまり突っ込まれなかった事か不思議でなりません(笑)。

 


御堂麻耶 その二

2015年11月16日 00時52分37秒 | 小説

 さて今回の第五次冬木聖杯戦争は衛宮士郎が主人公として描かれている。その為、彼の動きがストーリー展開上かなり重要なので、私は士郎には使い魔で監視していた。

 その結果、セイバーの召喚とそれによるサーヴァントがすべてそろった事をいち早く察知できたわけですが、ここで少々予定外の事がありました。というのも遠坂凛のサーヴァントがアサシン(佐々木小次郎)だったことが判明。

 どうも私がアーチャーを引っ張ってしまった為に、遠坂凛にはアサシンが回ってきてしまったようですね。それ自体はどうでもいいですが、どうしたものでしょうか?

 あのアサシンとセイバーだとバーサーカー相手に勝利を収めることは難しいでしょうね。何しろ十二の試練というチート宝具がありますから単独であれを倒せるのは多数の宝具を持つギルガメッシュかアーチャーぐらいなものです。

 それを考慮すれば、まともな宝具すら持っていないアサシンとマスターが未熟すぎてまともに力を使えないセイバーでは二人がかりでもバーサーカーには勝てないでしょう。

 ここで彼らが脱落すると、私たちがバーサーカーとガチでやり合わなくてはいけなくなる。いえ、その前でギルガメッシュがバーサーカーを潰してくれるかもしれませんね。

 さて、どうしましょう。幸いアーチャーは遠距離狙撃に長けているからバーサーカーはともかくそのマスターであるイリヤスフィールなら容易く殺せる。小聖杯でもある彼女を殺せば聖杯の器を破壊することになりかねませんが、別に聖杯などいらないので躊躇する必要はありません。それでも心臓ではなく頭部を打ち抜けば、運が良ければまだ何とかなるかもしれない。

 しばし思考の末に、私はアーチャーにイリヤスフィールを狙撃するように命じて、アーチャーはその命令に従ってイリヤスフィールを仕留めました。バーサーカーはセイバーとアサシンと戦っていた為にこの狙撃に対応できず退場する事になりました。

 ちなみにこの時の私は冬木市にはいません。というのもアーチャーは単独行動に長けたクラスである為、わざわざサーヴァントと共に戦う必要がなかったからです。使い魔を使用して状況を確認して、後はアーチャーに念話で命令を出しただけです。

 流石に卑怯ではないかって? いえ馬鹿正直に表にでるなんて私の趣味じゃありません。大体アインツベルンにしてもサーヴァントの能力に自惚れて油断し過ぎです。だからこんな奇襲を許す羽目になったわけですよ。

 そういう意味では衛宮切嗣はすごかった。まさに「サーヴァントの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを・・・教えてやる!」と、言わんばかりでしたから(笑)。

 

 思わぬ収穫(バーサーカーの脱落)もあり、私たちは一端引き上げてしばらく様子見をしたわけですが、その後も聖杯戦争は進みセイバーとライダーの戦いとなって、セイバーの宝具によってライダーが脱落した。とはいえセイバーの魔力切れでまともに動くこともできなくなった。

 正直言ってセイバーは第四次聖杯戦争の時に比べて明らかに弱体化しています。最優のサーヴァントといえどマスターがヘボではどうしようもありません。聖杯戦争ではマスターとサーヴァントの相性も大切ですが、セイバー陣営の場合はそれ以前の問題でしょう。これでよく原作で生き残れたものです。

 更にキャスターのルール・ブレイカーによってセイバーがキャスターに奪われるという事態になる。これは今回のキャスターがアサシンを召喚する事ができなかったので、戦力確保を優先したため発生したものだと思われる。

 こうして、現状は私たちアーチャー陣営、キャスター&セイバー陣営、アサシン陣営+α、ランサー&ギルガメッシュ陣営となった。こうなると何処かの陣営に攻撃を掛けると別の陣営から奇襲を受ける恐れがあって迂闊にうごけないので、しばらく様子見することにしたが、その結果キャスターとアサシンが脱落した。

 事の顛末はセイバーを奪われた士郎が遠坂凛とアサシンと共にキャスターの拠点に攻め込んで交戦した事であるが、そこにギルガメッシュが乱入。大量の宝具を投射してキャスターとアサシンを仕留めた。

 どうもギルガメッシュからすれば我の物であるセイバーを魔術師風情(キャスター)がものにしていることに怒りを覚えてキャスターを誅殺したのだろう。ついでにアサシンは数合わせの為に始末したようだ。

 こうしてマスターを失ったセイバーであるが、ここで遠坂凛と再契約するという事態になった。これは私にとっても計算外であったが、よくよく考えてみればバーサーカー戦によるHイベントを潰してしまった以上、三流以下の士郎にセイバーとの再契約などできなかったのだ。そこで遠坂凛がセイバーのマスターになる事にしたのだろう。

 これでセイバーは思う存分戦えるでしょうが、地味にアヴァロンを取り戻すイベントもなくなっているからセイバーではアーチャーに勝つことはできないでしょうね。ギルガメッシュの宝具の物量と乖離剣は脅威です。

 仕方ない。こちらから動くべきでしょう。具体的にはセイバー陣営との同盟です。流石に言峰綺麗がギルガメッシュとランサーを抱えている以上、こちらは単独では勝利できない。というわけで私とアーチャーは衛宮邸を訪問して同盟を結ぶことにした。

 遠坂凛とセイバーは私たちを警戒したが、私が言峰綺麗がやった事を教えてやったら上手くいきました。何を言ったのかというと、言峰が前回の聖杯戦争で凛の父親を殺して、アーチャーのマスターになった事と、言峰が前回の聖杯戦争のアーチャーを十年間も確保し続けていた事。おまけにランサーのマスターを騙し討ちにして令呪を奪いランサーを手に入れている事です。これには凛も堪らなくなったようですね。こうして柳洞寺にて決戦が行われる事になった。

 ちなみに今回はイリヤスフィールが死亡しているが、どうも言峰陣営がイリヤスフィールの心臓を確保していたらしく、それを間桐慎二に植え付けていたようです。

 

 柳洞寺の決戦。まずセイバーがランサーの相手をして、アーチャーがギルガメッシュの相手をするというものだった。これは相性の問題である。

 ギルガメッシュは大量の宝具を持つが、担い手になれるほど個々の宝具を使いこなしているわけではない。あくまで所有しているだけなので、矢として投射するしかできない。普通のサーヴァントならばそれで十分ですが、物量に対抗しうるアーチャーであればギルガメッシュと対等に渡り合えるわけです。

 今回のアーチャーは原作よりもやたら強い。投影魔術を多用するのは変わらないが、他の魔術もサポートに使用してギルガメッシュとやりあっていた。そして、アーチャーが固有結界を展開して流れが変わった。

 固有結界は術者の心象風景を異世界として現実世界を侵食する魔術の奥義であるが、世界からの修正を受けるので維持に凄まじい魔力を食う。現にアーチャーが私の魔力をガンガン吸い取っており、このペースだと一時間ぐらいしか維持できないだろう。ここで情けないと思ってはいけませんよ。アーチャーの燃費が悪いせいもありますが、固有結界はそれだけ維持が難しい魔術なんです。

 魔力を効率よく使える私自身が固有結界を使うならば一時間どころかもっと長時間展開できると思うのですが、残念ながら私は固有結界を使えない。いくらチートな魔術回路を持っていても固有結界にはそうそう簡単に至れないわけです。

 死徒になりたてで固有結界を使えるようになった弓塚さつきやへっぽこ魔術師の癖に固有結界を使える衛宮士郎を見て難易度が低いように見えるかもしれませんが、そうではなくこの二人が規格外なだけです。

 アーチャーの固有結界『無限の剣製』はその展開速度がギルガメッシュのそれよりも勝っている為に戦いはアーチャーが押していた。

 しかし、ギルガメッシュには切り札というべき乖離剣がある。これは対界宝具という規格外な代物で第四次聖杯戦争でもライダー(イスカンダル)の固有結界“王の軍勢”を粉砕している。乖離剣を放たれたら一気に形勢が逆転してしまうだろう。その為、アーチャーにはギルガメッシュに乖離剣を使わせる余裕を与えずに倒すように指示しておいた。

 こうした戦いはセイバーだったら反発したかもしれないが、その点アーチャーは難なくやってくれるので使い易い。結果としてアーチャーはギルガメッシュを倒すことに成功した。

 原作では士郎でもギルガメッシュを倒せているから、アーチャーなら戦法さえ間違えなければ勝てます。

 セイバーもランサーを倒すことに成功している。流石は遠坂凛と契約して十全の力を発揮できているセイバーですね。士郎がマスターだった時とは比べ物になりません。

 今回降臨した聖杯はイリヤスフィールを用いた正規の物ではなく、間桐慎二に埋め込んで使うという無茶な事をしている為に、思いっきり歪んでいる。例えイリヤスフィールを使ったとしてもあの聖杯はどうしようもないけどね。

 それで定番の約束された勝利の剣(エクスカリバー)で破壊して、士郎たちに別れを告げるというイベントとなりセイバーは消失した。

 こうして聖杯戦争は終わったとなれば美しかったのでしょうが、この世界ではそうはいきません。アーチャーが士郎に襲い掛かったのだ。

 慎二を助ける為に無茶をした凛は戦闘不能で、士郎は単独でアーチャーに戦わなければならない。更に聖杯戦争の時には驚異的な再生力を発揮した聖剣の鞘もセイバーとの契約が切れた事で機能しないという悪条件で士郎がアーチャーに勝てるわけもなく、士郎はアーチャーに殺された。

 

「それで、憂さ晴らしになった?」
 と、勝手に士郎を殺したアーチャーに私は皮肉をいった。

「ああ、麻耶すまなかったな」

 そんな私にアーチャーは苦笑する。

「分かっていると思うけど貴方の行動は無意味ですよ。確かに過去の自分自身を殺したとしても一端座に付いた以上は取り消すことはできません」
「わかっている。それでもやらずにはいられないのだ」

 まあ、理性では無駄と知っていても感情はそうではないという事でしょうね。彼のように理想に溺死した人間は過去の自分など黒歴史などという生易しい代物ではなく、抹殺すべき存在なのでしょう。

 彼と私は同じ師匠に魔術を習っている為、アーチャーは私の兄弟子に当たるのだが、こうなる前に何とかならなかったのか、と思いたくもなる。

 恐らくザビーネも忠告ぐらいはしていただろうが、士郎はきかなかったのでしょうね。忠告しても相手が受け入れてくれなければどうにもなりません。

「では、さらばだ」

 その言葉と共にアーチャーは消えた。彼にとってもはやこの世界に留まる必要はなかったのだろう。こうして、私の聖杯戦争は終わった。ただの暇つぶしであったイベントであるが、イレギュラーの存在はそれなりに楽しめた。

 と、ここで終われば良かったのですが、どうも私の刻印の書の事が魔術協会にばれたらしく襲撃を受けるようになった。最初の襲撃は何とか切り抜けたが危うく死にかけたほどでした。

 後でわかった事ですが、時計塔が冬木聖杯戦争を監視していて、それでばれたようです。確かに神秘の隠匿とかを考えると監視ぐらいしているでしょうね。

 已む得ず、この世界から撤退することにしたわけですが、腹の虫がおさまらない私は時計塔に爆弾を転送してやりました。よくそんな事ができるなですか?

 確かに魔術師の一大拠点時計塔は守りがかなり固くて魔術による転移は無理ですが、魔術ではなく跳躍砲を使えば一発なんですよ。あれって何気にチートですからね。

 こうして、私はこの世界から引き上げて監察軍に本格的に参加するようになりました。さて、これからどうなるかわかりませんが、ぼちぼちやりますか。

 

解説

■御堂麻耶(みどう まや)
 型月世界に転生したトリッパーで、転生特典により魔術師として天才的な才能を得ているが、魔術師の家ではなく一般人家庭に生まれた。その為、魔術の師匠や魔術刻印がないという状況であったが、他のトリッパーに弟子入りして魔術刻印は刻印の書と契約する事で克服した。なお刻印の書は魔術師に喧嘩を売るような代物なので他の魔術師の目に留まらないように使用を控えざるをえなかった。それでも聖杯戦争に参加した事で刻印の書のことがばれてしまい時計塔に狙われることになって逃げ出すことになる。魔術師としての能力は一流であるものの、魔術基盤がある下位世界は稀であるために使い勝手はかなり悪かったりする。

◇転生特典
①魔術回路が180本
②魔力の使用効率がいい(通常の80倍ぐらい)
③魔力の回復が早い(一日で魔力容量の3分の2が回復する)

■サーヴァントの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを・・・教えてやる!『機動戦士ガンダム』の名セリフをもじったもの。

■第四次聖杯戦争
 セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)が衛宮切嗣をマスターとして参加した聖杯戦争で、この時はエクスカリバーを使用しても問題なく行動できていた。

 

あとがき

『トリッパー列伝 ザビーネ・クライバー』で用意した伏線をやっと回収する事ができました(笑)。今回は刻印の書をマスターとなった衛宮士郎のなれの果てであるアーチャーが登場しています。マスターが冷淡な御堂麻耶だったためにアーチャーの自分殺しが達成してしまいました。憂さ晴らしにしかならない不毛な行動ですけど。

 


御堂麻耶(Fate/stay night)

2015年11月16日 00時51分46秒 | 小説

 私は御堂麻耶(みどう まや)。『Fate/stay night』の世界に転生したトリッパーで現在は『新世紀エヴァンゲリオン』の世界で修行中の身です。

 ここで型月世界に転生したのに何でエヴァ世界にいるのか、と疑問に思うかもしれませんが、これには深い理由があります。そもそも、前世の私は『Fate/stay night』が好きだったので、死神に特典付きで転生させてあげるといわれて型月世界を転生先に選び、特典で魔術師として天才的な才能を得ました。

 具体的には、
 ①魔術回路が180本。
 ②魔力の使用効率がいい(通常の80倍ぐらい)。
 ③魔力の回復が早い(一日で魔力容量が全回復する)。
 と、かなりのチートぶりですね。

 そんな私は日本の一般家庭である御堂家に転生して型月世界で無双してやると思ったわけですが、この御堂家は魔術とは一切関係ない家でした。その為、魔術師になる以前に魔術回路の開き方すらわからないという有様です。おまけに魔術刻印も当然ありません。

 これでは無双どころか、そもそも最初の一歩で挫いてしまい、折角の転生特典が全く役に立たないという状況に頭を抱えたわけです。

 この時に魔術師に弟子入りすればいいと思ったが、型月世界の魔術師の悪質さを考えると賢明な判断とは言えないだろう。何しろ才能だけなら化け物染みているから魔術を教えてもらうどころか実験動物にされてホルマリン漬けになりかねないのだ。

 そんな二進も三進もいかない状況が変わったのが監察軍と接触した時でした。私は監察軍の伝手を使って私と同じトリッパーであるザビーネ・クライバーさんに魔術の師匠をしてもらう事になりました。

 ザビーネさんは型月世界の魔術が専門で、現在ではサードインパクト後のエヴァ世界を拠点にしています。百合とメイド好きが高じてたくさんの死徒メイドさんを囲い、メイドハーレムを形成するちょっとアレな人ですが、私は幸いにも前世と現世が女性であった事から受けが良かったので快く引き受けてくれました。

 ちなみに型月世界の御堂家には『パーマン』のコピーロボットを配置して定期的に記憶を回収していたので、幼くして異世界で修行付けの日々を過ごしていても特に問題になっていなかった。

 こうして魔術師として実力をつけて、魔術刻印がないという欠点も刻印の書のマスターになることで、問題なくクリアできました。

 刻印の書はザビーネさんが元いた世界(真奈が転生した世界の並行世界)で、衛宮士郎がマスターだったけど彼の死後は新たなマスターを見つける事もなく倉庫に中に放置していたが、魔術刻印がない私の役に立つ代物だったので、ザビーネさんの許可を受けて私が刻印の書のマスターになりました。

 そうこうしている内に第五次冬木聖杯戦争の時期がやってきた。私としてはここで原作介入と行きたい所ですね。そんなワケで早速元の世界に戻った時に冬木市に立ち寄ると令呪の兆しが出ました。

 まあ、私は魔術師としてすごく優れていますからね。令呪が与えられるのは当たり前でしょう。後はお約束でサーヴァントを召喚しました。

 本来なら英霊所縁の触媒を用意して優れたサーヴァントを呼び出すのが聖杯戦争のセオリーですが、残念ながら触媒なんて持っていないからランダム勝負です。ランダムの方が面白いですし、もしあまりにどうしようもないサーヴァントならば令呪で自害させてしまえばいい。

 所詮今回の聖杯戦争参加も遊び半分で原作介入をやりたいだけなので、命を費やしてまでなんて思ってはいない。駄目だと思えば早々に見切りをつけられる程度のイベントにすぎません。

 それで私が召喚したサーヴァントは派手な赤い服を来た男、ぶっちゃけアーチャー(英霊エミヤ)でした。いやどうしてだよ。私はエミヤシロウ所縁の品なんて持っていないし、エミヤとは関わりはないぞ。大体エミヤはうっかりさんな赤い悪魔(遠坂凛)のサーヴァントでしょう!

 色々と突っ込み処満載であるが、ここでアーチャーに突っ込みを入れるわけにはいきません。原作知識うんぬんなんて下位世界の存在に迂闊に言えませんよ。

 逆に考えれば扱いやすいという意味ではアーチャーで良かったかもしれない。まかり間違って自尊心が強すぎるサーヴァントを呼び出した日にはこっちが振り回されてしまうからね。

 原作ではアーチャーは遠坂凛を裏切りますが、それだってアーチャーの目的である衛宮士郎殺害に邪魔だったからです。その点、私は衛宮士郎の生死はどうでもいいからアーチャーと対立することはないでしょう。

 私はどこかのオリ主のようにアーチャーの問題に口出しするつもりはない。自分殺しなんかしても無駄だろうけど、それで気が済むなら好きにすれば、というのが私の考えだからです。その為、アーチャーと上手くやっていけるでしょうね。

 私個人としては聖杯戦争の勝敗なんかどうでもいいですよ。そもそも私はまっとうな魔術師ではありませんから時計塔の評価何てどうでもいいですし、そもそも刻印の書のマスターである私は通常の魔術師とはまったく違いますからね。ともかく折角の聖杯戦争というイベントを楽しめればいいのです。

 

 予想外のサーヴァントを引いてしまいましたが、予定通りに第五次冬木聖杯戦争に参加することになった麻耶(8歳)。「まだ小学生じゃないのか!」と、突っ込まれてしまいそうですが、魔術師に年齢は関係ありません。

 小学校もコピーロボットを身代りにしているから行く必要がない。というか小学校自体ほとんどいっていません。今更小学生からやり直すのにはうんざりしていますから。

 それと私が転生した場所はテンプレよろしく冬木市などではなく普通の地方都市でした。特に霊地と呼べるほどいい場所ではありませんが、他の魔術師と関わりたくない私としては都合がいいのも事実ですね。

 何しろ冬木市のような魔術師がセカンドオーナーとして管理している土地には他の魔術師が無断で住むことはできないし、許可を取るにもいろいろと代価が必要みたいですからね。

 これには思わず「それなんのショバ代だよ!」と突っ込みたくなったものです。大体人がどこに住もうが法律で認められている自由なのに、そんな要求をするとはあいつらどこのヤクザですか。

 うむ、やはり魔術師は目障りだね。ネット小説でよくあるようなアンチ系なら魔術師を排除するというものありでしょう。検討しておこう。

 さてと、昨日私が召喚したアーチャーはちょっと皮肉屋ですが、私としては一応許容範囲というか、仮にも英霊ともあろう者が令呪があるとはいえ一介の魔術師相手にやたらと卑屈になるというのは興醒めなので、アーチャーの態度が丁度いいです。

 ただ気になるのはアーチャーが原作と同じように私に真名を名乗らなかった事。言うまでもないですが、どこかのうっかりさんとは違って私の召喚は完璧であったにも関わらずです。これにはムカッとして令呪で真名を名乗れと命令しようかと思ったけど、よくよく考えればわざわざ聞かなくてもアーチャーの真名と能力は知っているので改めて訊く必要もなかったので、適当に納得したふりをしておいた。

 何かどことなく舐められているような気がして面白くないけど、今の私は小学生の少女でしかないから威厳なんてないんだよね。まぁいいでしょう。ともかく戦場視察として冬木市を回る事にした。

 日中だけでなく夜になっても冬木市を歩く私ですが、やはりこの容姿のせいか職務質問されそうになった。これは警官に暗示を掛けて誤魔化したけど、私の年齢では聖杯戦争はやりにくいね。

 ちなみに今の私はとある男性の家に居候しています。といってもその男には暗示を掛けて私を娘と認識しているので家族のふりができています。これは『Fate/Zero』でウェイバーがやった手口ですね。

 本当はどこかのホテルに宿泊しようかとおもったが、それではマスターだと足がつきやすいし、おまけに子供一人では宿泊がやりにくい。まさかホテルの従業員全員に一々暗示をかけるわけにもいきません。

「よう、そこのお二人さん」

 そんな私たちに声をかけてくた男。言うまでもなく只者ではない。私はともかくアーチャーは霊体化しているので常人では見ることは出来ず、私たちに複数形で声をかけてくる筈がないのだ。

「あら何用ですか? クー・フーリンさん」
「なっ! てめぇ何で俺の真名を知ってやがる!」

 いきなり敵マスターに真名を言い当てられてランサーは顔色を変えている。

「伊達に聖杯戦争に参加していないという事です。見た目で判断してもらっては困ります」

 ふふんと、私は不敵な笑みを浮かべる。実際には原作知識で知っているだけですが。

「ちっ、真名を知られた以上、ここで死んでもらうぜ!」
 と、ランサーが槍を突き付けてきたが、それをアーチャーが双剣で防いだ。

 こうして、アーチャーとランサーが戦いを始めたが、いつの間にかアーチャーの傍には一冊の書が重力を無視したかのように空中に浮いていた。というかアレは……。

「刻印の書だよね」

 原作と違い、このアーチャーは固有時制御を使っているようだ。能力値の敏捷ではランサーがAで、アーチャーがCなので、アーチャーはランサーの速度についていけない筈なのに、ランサーと同じ速度をだしているのはそうとしか思えない。

 見た所、アーチャーは三倍速が四倍速あたりまで加速しているのだろう。確か衛宮切継は二倍速が限界で、それでも肉体にかなりの負担がかかっていたが、それは彼が生身の人間だったからです。人間とは強度が違うサーヴァントならば三倍速でも軽くできる筈。

 しかし、アーチャーは強化と剣に特化した投影しかできないので、他の魔術、特に時間を操作するというかなり高度な魔術など使えるわけがありません。その不可能を覆した理由は私からすれば一目瞭然でした。

「どういうこと?」

 そもそも私がアーチャーを呼び出してしまった事といい、アーチャーが原作と違いすぎる事といい、どうもイレギュラーな事が多すぎるようですね。

 そうして、アーチャーとランサーの小競り合いがしばらく続いて、ランサーは撤退していった。正直な話、ここで無理してまでランサーを撃破する必要はないので、ランサーを追撃はさせなかった。

 それにランサーの宝具が厄介なのもあります。というか何でランサーはわざわざ正面から戦っているでしょうか? ランサーの宝具の特性を考えれば敵を見つけたら、敵から離れた場所に移動してゲイボルクを投げれば一撃必殺なのに。多分性格でしょうね。そんな戦い方をする奴に見えませんから。

 しかし、それ以前に今回のランサーは言峰綺麗からすべてのサーヴァントと戦って引き分けろと令呪で命令されている筈です。そうなると敵のサーヴァントを倒すことは出来ず、様子見の為にある程度戦って撤退するという事を繰り返しているのでしょう。

 これは前回の遠坂と言峰のやり口と同じで、前回はアサシンを使い潰して敵の情報収集を行い、満を持して本命のアーチャー(ギルガメシュ)で聖杯戦争に勝利するという戦略を彼らは取っていました。

 今回はそれを応用して言峰はバゼットから奪い取ったランサーを使い潰して情報を集めて、本命のギルガメッシュを投入するタイミングを計っているのでしょう。

 前回は中立でないといけない監査役が裏で遠坂と同盟を組んで、今回は監査役本人がマスターからサーヴァントを奪い取って秘密裏に聖杯戦争に参加するなんて中立という言葉が白々しくみえますね。

 いっその事、この辺りの苦情を聖堂教会に突き付けて、聖堂教会に冬木聖杯戦争の監査役を務める資格はないと糾弾してあげましょうか? いえ、それはそれで面倒そうですね。第一、私は魔術協会や聖堂教会に伝手はありません。

「ところでアーチャーは問題ないわね」
「ああ、負傷もないし、消耗もないから戦闘に支障はきたさんよ」
「そう、でも今日のところは帰って休みましょう。これ以上うろついてもあまり収穫はないでしょう」

 アーチャーはまだやれると言いたげだが、時期的にセイバーはまだ召喚されていない筈です。となると聖杯戦争はまだ本格的に始まってもいないのだから、無理をする必要はありません。こうして、私はセイバーが召喚されるまで積極的な行動を自粛することにしました。

 

 数日後、私はまた夢を見た。実の所ここ数日ある夢を見ていた。

 その夢では、とある災害を生き残った少年が出てきて、私はその少年の人生を夢という曖昧な形で見ていた。少年は自分を助けてくれた男を慕い、その男の死の直前に彼の理想を受けついだ。そこまでが昨日見た夢の内容だった。

 そして今日見た夢は、少年が一人の魔法使いの少女と出会い、その魔法使いに導かれて様々な下位世界で己の力を高めていくという内容でした。それが何を意味しているのか常人には理解できないだろうが、私には嫌と言うほど理解できた。

「そういうことですか…」 

 何故、私がアーチャーを呼び出してしまったのか、そして何故アーチャーが私と同じ刻印の書を持っているのか、その理由はあのアーチャーがザビーネ・クライバーに弟子入りして、その後守護者になった並行世界の衛宮士郎だったからです。

 どうりで、私がアーチャーを呼び出せたわけです。恐らく私の持っている刻印の書が触媒となってあのアーチャーを呼び寄せたのでしょう。となるとアーチャーは原作とは大分違う筈。

 しかし、監察軍に関わっていながら彼が守護者になるとは思いませんでした。ザビーネさんは原作ブレイクはやりたくなかったのでしょうか? いや、彼女はどう見ても原作保持派には見えないので多分衛宮士郎が暴走した挙句に守護者になってしまったという落ちなのでしょう。やれやれですね。

 

解説

■ザビーネ・クライバー
『トリッパー列伝 ザビーネ・クライバー』で登場した真祖と人間のハーフに転生したトリッパー。型月世界の魔術を専門に扱う魔術師にして第六魔法・世界門(ワールド・ゲート)という魔法の使い手。この世界門は異世界転移を行う事ができる魔法で、並行世界とは異なるまったくの別の宇宙に移動することができる。現在はエヴァンゲリオン世界でメイドハーレムを満喫しつつも楽隠居状態である。

■刻印の書
『トリッパー列伝 ザビーネ・クライバー』でザビーネが製作した魔術刻印の代わりとして機能する魔導書。『魔法少女リリカルなのはA's』の夜天の書の技術などを利用している為かなりチートな代物で、これに登録された魔術を通常の魔術刻印のように使用できる。

 


鳥橋裕紀(学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD)

2015年11月16日 00時50分46秒 | 小説

 俺の名は鳥橋裕紀(とりばし ゆうき)。『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』の世界に憑依したトリッパーだ。トリッパーといっても憑依型だから転生特典なんか持っておらず、原作知識と前世の記憶を除けばただの男子中学生と変わりない。

 正直、トリップした世界があのゾンビ漫画の世界だったことに絶望を感じた。ハッキリ言って生き残れる自信はまるでなかった為にXデーが近づくにつれてビクビクしていたものである。

 しかし、監察軍と接触した事で俺の現状が一変した。この世界に見切りをつけた俺は高校生活も家族も捨てて監察軍本部に保護してもらう事にした。幸い監察軍も俺の現状に同情してくれた。

 ちなみに監察軍本部に保護してもらうのは俺だけで、家族は放置することにした。何故かというと確かに中学生であれば親の保護が必要で、親が死んでしまうと進学やその後の生活に困るだろう。

 しかし、それは通常の場合だ。この世界は奴らによって社会が崩壊してしまうから進学や就職などと言ってられなくなる。そうなると親の保護というのは必ずしも必要というワケではない。

 むしろ監察軍に保護してもらう際に家族がいれば説明が面倒というデメリットがあるのだ。大体どう説明するのだ。まさか「これから世界上でゾンビが現れて危険だから異世界の組織に保護してもらおう」とでも言えと、そんな事をしても両親から精神異常者扱いされるだけだろう。

 かといって、実際に奴らが猛威を振るってから家族を救出するのはこちらが危ないし、大体奴らの発生メカニズムがはっきりしていないのが問題だ。多分ウイルス感染か何かだと思うのだが、確証がないため、奴らが発生直前以降はあの世界の地球上で活動は禁止されているのだ。

 下手をして奴らが監察軍本部で発生したら目も当てられない。その為、俺と監察軍は面倒だから家族を放置することにした。といっても監察軍では俺の行動に賛否両論がある。

 監察軍の目的はトリッパーの支援もしくは保護なので、トリッパーの家族は正直どうでもいいが、流石に家族を見捨てるトリッパーはあまりいないから監察軍はその負担を背負う事になる。その為、組織として監察軍の利益だけをいうならトリッパーが家族を見捨ててくれた方が都合がいい。

 しかし、人間としての情でいうなら家族を見捨てる行為を嫌がる者が多い。そういった者は俺を軽蔑しているが、逆にトリッパー以外の人間を軽視しているトリッパーなどは俺の行動をどうでもいいという考えているようだ。まあいいけどね。

 

 そして、時間が流れ原作開始の時に、俺は監察軍の巡洋艦で宇宙空間から地球の様子を確認していた。すでに日本だけでなく世界中で奴らが猛威を振るっていた。人々はその異常事態に全く対処できず社会が崩壊して国家さえも壊滅状態になっていた。

 無理もない。こんな非常識極まりない事を想像することも対処する事も不可能だ。完全に奇襲を食らった形で各国はろくに動けずに大打撃を受けていた。

 俺はそれを巡洋艦のウィンドウで見ていたが、本当にゾンビ映画そのまんまな光景にドン引きしていた。まったくいかれた世界です。某国がどさくさまぎれに核兵器まで打ち込んでいたからもうあの世界は終わりですね。終末という言葉がこれほど似合う光景はそうはないでしょう。
 
 恐らくこの世界は人類絶滅か、人類壊滅という形になるだろう。奴らだけでも問題なのに、なまじ原子力技術が世界中に存在しているのが拙い。これじゃ核兵器や原子力発電所などはまともに運営できずに放射能によって地球に致命的な環境汚染を招くことになるだろう。そうなれば人類は生き残れない筈だ。

 こういう混乱状態になると、核兵器や原子力関係施設があるのは致命的だ。あれはきちんと管理できる体制で初めて安全を確保できる代物だからな。こうした不測の事態にはどうしようもないだろう。

 巡洋艦のウィンドウを使っていることもあって、まるで映画を見ているようだが、これはまぎれもない現実で死体が生きている人間を襲っている凄惨が光景が広がっていた。本当に監察軍に助けを求めて正解だった。あんな地獄みたいな場所にいたくありませんよ。

 そしてゾンビ映画そのまんまなデータは数か月に渡って取られて、その後監察軍に提供されることになった。それを見た監察軍の反応は「ゾンビ映画そのまんまだな」だったりする。

 

解説

■鳥橋裕紀(とりばし ゆうき)
 監察軍に亡命して所属することになった憑依型トリッパー。転生特典は持たず、前世の記憶以外はただの男子中学生にすぎなかったが、不運なことに学園黙示録の世界にトリップしてしまう。この為、この世界での進学就職といったごく普通の生活や親の加護もまったく無意味となった。更にもともと憑依によって両親に馴染めずに家族よりも自分を優先する性格になっていた為にあっさりと見捨てている。尚、裕紀の家族は勿論死亡している。