私は御堂麻耶(みどう まや)。『Fate/stay night』の世界に転生したトリッパーで現在は『新世紀エヴァンゲリオン』の世界で修行中の身です。
ここで型月世界に転生したのに何でエヴァ世界にいるのか、と疑問に思うかもしれませんが、これには深い理由があります。そもそも、前世の私は『Fate/stay night』が好きだったので、死神に特典付きで転生させてあげるといわれて型月世界を転生先に選び、特典で魔術師として天才的な才能を得ました。
具体的には、
①魔術回路が180本。
②魔力の使用効率がいい(通常の80倍ぐらい)。
③魔力の回復が早い(一日で魔力容量が全回復する)。
と、かなりのチートぶりですね。
そんな私は日本の一般家庭である御堂家に転生して型月世界で無双してやると思ったわけですが、この御堂家は魔術とは一切関係ない家でした。その為、魔術師になる以前に魔術回路の開き方すらわからないという有様です。おまけに魔術刻印も当然ありません。
これでは無双どころか、そもそも最初の一歩で挫いてしまい、折角の転生特典が全く役に立たないという状況に頭を抱えたわけです。
この時に魔術師に弟子入りすればいいと思ったが、型月世界の魔術師の悪質さを考えると賢明な判断とは言えないだろう。何しろ才能だけなら化け物染みているから魔術を教えてもらうどころか実験動物にされてホルマリン漬けになりかねないのだ。
そんな二進も三進もいかない状況が変わったのが監察軍と接触した時でした。私は監察軍の伝手を使って私と同じトリッパーであるザビーネ・クライバーさんに魔術の師匠をしてもらう事になりました。
ザビーネさんは型月世界の魔術が専門で、現在ではサードインパクト後のエヴァ世界を拠点にしています。百合とメイド好きが高じてたくさんの死徒メイドさんを囲い、メイドハーレムを形成するちょっとアレな人ですが、私は幸いにも前世と現世が女性であった事から受けが良かったので快く引き受けてくれました。
ちなみに型月世界の御堂家には『パーマン』のコピーロボットを配置して定期的に記憶を回収していたので、幼くして異世界で修行付けの日々を過ごしていても特に問題になっていなかった。
こうして魔術師として実力をつけて、魔術刻印がないという欠点も刻印の書のマスターになることで、問題なくクリアできました。
刻印の書はザビーネさんが元いた世界(真奈が転生した世界の並行世界)で、衛宮士郎がマスターだったけど彼の死後は新たなマスターを見つける事もなく倉庫に中に放置していたが、魔術刻印がない私の役に立つ代物だったので、ザビーネさんの許可を受けて私が刻印の書のマスターになりました。
そうこうしている内に第五次冬木聖杯戦争の時期がやってきた。私としてはここで原作介入と行きたい所ですね。そんなワケで早速元の世界に戻った時に冬木市に立ち寄ると令呪の兆しが出ました。
まあ、私は魔術師としてすごく優れていますからね。令呪が与えられるのは当たり前でしょう。後はお約束でサーヴァントを召喚しました。
本来なら英霊所縁の触媒を用意して優れたサーヴァントを呼び出すのが聖杯戦争のセオリーですが、残念ながら触媒なんて持っていないからランダム勝負です。ランダムの方が面白いですし、もしあまりにどうしようもないサーヴァントならば令呪で自害させてしまえばいい。
所詮今回の聖杯戦争参加も遊び半分で原作介入をやりたいだけなので、命を費やしてまでなんて思ってはいない。駄目だと思えば早々に見切りをつけられる程度のイベントにすぎません。
それで私が召喚したサーヴァントは派手な赤い服を来た男、ぶっちゃけアーチャー(英霊エミヤ)でした。いやどうしてだよ。私はエミヤシロウ所縁の品なんて持っていないし、エミヤとは関わりはないぞ。大体エミヤはうっかりさんな赤い悪魔(遠坂凛)のサーヴァントでしょう!
色々と突っ込み処満載であるが、ここでアーチャーに突っ込みを入れるわけにはいきません。原作知識うんぬんなんて下位世界の存在に迂闊に言えませんよ。
逆に考えれば扱いやすいという意味ではアーチャーで良かったかもしれない。まかり間違って自尊心が強すぎるサーヴァントを呼び出した日にはこっちが振り回されてしまうからね。
原作ではアーチャーは遠坂凛を裏切りますが、それだってアーチャーの目的である衛宮士郎殺害に邪魔だったからです。その点、私は衛宮士郎の生死はどうでもいいからアーチャーと対立することはないでしょう。
私はどこかのオリ主のようにアーチャーの問題に口出しするつもりはない。自分殺しなんかしても無駄だろうけど、それで気が済むなら好きにすれば、というのが私の考えだからです。その為、アーチャーと上手くやっていけるでしょうね。
私個人としては聖杯戦争の勝敗なんかどうでもいいですよ。そもそも私はまっとうな魔術師ではありませんから時計塔の評価何てどうでもいいですし、そもそも刻印の書のマスターである私は通常の魔術師とはまったく違いますからね。ともかく折角の聖杯戦争というイベントを楽しめればいいのです。
予想外のサーヴァントを引いてしまいましたが、予定通りに第五次冬木聖杯戦争に参加することになった麻耶(8歳)。「まだ小学生じゃないのか!」と、突っ込まれてしまいそうですが、魔術師に年齢は関係ありません。
小学校もコピーロボットを身代りにしているから行く必要がない。というか小学校自体ほとんどいっていません。今更小学生からやり直すのにはうんざりしていますから。
それと私が転生した場所はテンプレよろしく冬木市などではなく普通の地方都市でした。特に霊地と呼べるほどいい場所ではありませんが、他の魔術師と関わりたくない私としては都合がいいのも事実ですね。
何しろ冬木市のような魔術師がセカンドオーナーとして管理している土地には他の魔術師が無断で住むことはできないし、許可を取るにもいろいろと代価が必要みたいですからね。
これには思わず「それなんのショバ代だよ!」と突っ込みたくなったものです。大体人がどこに住もうが法律で認められている自由なのに、そんな要求をするとはあいつらどこのヤクザですか。
うむ、やはり魔術師は目障りだね。ネット小説でよくあるようなアンチ系なら魔術師を排除するというものありでしょう。検討しておこう。
さてと、昨日私が召喚したアーチャーはちょっと皮肉屋ですが、私としては一応許容範囲というか、仮にも英霊ともあろう者が令呪があるとはいえ一介の魔術師相手にやたらと卑屈になるというのは興醒めなので、アーチャーの態度が丁度いいです。
ただ気になるのはアーチャーが原作と同じように私に真名を名乗らなかった事。言うまでもないですが、どこかのうっかりさんとは違って私の召喚は完璧であったにも関わらずです。これにはムカッとして令呪で真名を名乗れと命令しようかと思ったけど、よくよく考えればわざわざ聞かなくてもアーチャーの真名と能力は知っているので改めて訊く必要もなかったので、適当に納得したふりをしておいた。
何かどことなく舐められているような気がして面白くないけど、今の私は小学生の少女でしかないから威厳なんてないんだよね。まぁいいでしょう。ともかく戦場視察として冬木市を回る事にした。
日中だけでなく夜になっても冬木市を歩く私ですが、やはりこの容姿のせいか職務質問されそうになった。これは警官に暗示を掛けて誤魔化したけど、私の年齢では聖杯戦争はやりにくいね。
ちなみに今の私はとある男性の家に居候しています。といってもその男には暗示を掛けて私を娘と認識しているので家族のふりができています。これは『Fate/Zero』でウェイバーがやった手口ですね。
本当はどこかのホテルに宿泊しようかとおもったが、それではマスターだと足がつきやすいし、おまけに子供一人では宿泊がやりにくい。まさかホテルの従業員全員に一々暗示をかけるわけにもいきません。
「よう、そこのお二人さん」
そんな私たちに声をかけてくた男。言うまでもなく只者ではない。私はともかくアーチャーは霊体化しているので常人では見ることは出来ず、私たちに複数形で声をかけてくる筈がないのだ。
「あら何用ですか? クー・フーリンさん」
「なっ! てめぇ何で俺の真名を知ってやがる!」
いきなり敵マスターに真名を言い当てられてランサーは顔色を変えている。
「伊達に聖杯戦争に参加していないという事です。見た目で判断してもらっては困ります」
ふふんと、私は不敵な笑みを浮かべる。実際には原作知識で知っているだけですが。
「ちっ、真名を知られた以上、ここで死んでもらうぜ!」
と、ランサーが槍を突き付けてきたが、それをアーチャーが双剣で防いだ。
こうして、アーチャーとランサーが戦いを始めたが、いつの間にかアーチャーの傍には一冊の書が重力を無視したかのように空中に浮いていた。というかアレは……。
「刻印の書だよね」
原作と違い、このアーチャーは固有時制御を使っているようだ。能力値の敏捷ではランサーがAで、アーチャーがCなので、アーチャーはランサーの速度についていけない筈なのに、ランサーと同じ速度をだしているのはそうとしか思えない。
見た所、アーチャーは三倍速が四倍速あたりまで加速しているのだろう。確か衛宮切継は二倍速が限界で、それでも肉体にかなりの負担がかかっていたが、それは彼が生身の人間だったからです。人間とは強度が違うサーヴァントならば三倍速でも軽くできる筈。
しかし、アーチャーは強化と剣に特化した投影しかできないので、他の魔術、特に時間を操作するというかなり高度な魔術など使えるわけがありません。その不可能を覆した理由は私からすれば一目瞭然でした。
「どういうこと?」
そもそも私がアーチャーを呼び出してしまった事といい、アーチャーが原作と違いすぎる事といい、どうもイレギュラーな事が多すぎるようですね。
そうして、アーチャーとランサーの小競り合いがしばらく続いて、ランサーは撤退していった。正直な話、ここで無理してまでランサーを撃破する必要はないので、ランサーを追撃はさせなかった。
それにランサーの宝具が厄介なのもあります。というか何でランサーはわざわざ正面から戦っているでしょうか? ランサーの宝具の特性を考えれば敵を見つけたら、敵から離れた場所に移動してゲイボルクを投げれば一撃必殺なのに。多分性格でしょうね。そんな戦い方をする奴に見えませんから。
しかし、それ以前に今回のランサーは言峰綺麗からすべてのサーヴァントと戦って引き分けろと令呪で命令されている筈です。そうなると敵のサーヴァントを倒すことは出来ず、様子見の為にある程度戦って撤退するという事を繰り返しているのでしょう。
これは前回の遠坂と言峰のやり口と同じで、前回はアサシンを使い潰して敵の情報収集を行い、満を持して本命のアーチャー(ギルガメシュ)で聖杯戦争に勝利するという戦略を彼らは取っていました。
今回はそれを応用して言峰はバゼットから奪い取ったランサーを使い潰して情報を集めて、本命のギルガメッシュを投入するタイミングを計っているのでしょう。
前回は中立でないといけない監査役が裏で遠坂と同盟を組んで、今回は監査役本人がマスターからサーヴァントを奪い取って秘密裏に聖杯戦争に参加するなんて中立という言葉が白々しくみえますね。
いっその事、この辺りの苦情を聖堂教会に突き付けて、聖堂教会に冬木聖杯戦争の監査役を務める資格はないと糾弾してあげましょうか? いえ、それはそれで面倒そうですね。第一、私は魔術協会や聖堂教会に伝手はありません。
「ところでアーチャーは問題ないわね」
「ああ、負傷もないし、消耗もないから戦闘に支障はきたさんよ」
「そう、でも今日のところは帰って休みましょう。これ以上うろついてもあまり収穫はないでしょう」
アーチャーはまだやれると言いたげだが、時期的にセイバーはまだ召喚されていない筈です。となると聖杯戦争はまだ本格的に始まってもいないのだから、無理をする必要はありません。こうして、私はセイバーが召喚されるまで積極的な行動を自粛することにしました。
数日後、私はまた夢を見た。実の所ここ数日ある夢を見ていた。
その夢では、とある災害を生き残った少年が出てきて、私はその少年の人生を夢という曖昧な形で見ていた。少年は自分を助けてくれた男を慕い、その男の死の直前に彼の理想を受けついだ。そこまでが昨日見た夢の内容だった。
そして今日見た夢は、少年が一人の魔法使いの少女と出会い、その魔法使いに導かれて様々な下位世界で己の力を高めていくという内容でした。それが何を意味しているのか常人には理解できないだろうが、私には嫌と言うほど理解できた。
「そういうことですか…」
何故、私がアーチャーを呼び出してしまったのか、そして何故アーチャーが私と同じ刻印の書を持っているのか、その理由はあのアーチャーがザビーネ・クライバーに弟子入りして、その後守護者になった並行世界の衛宮士郎だったからです。
どうりで、私がアーチャーを呼び出せたわけです。恐らく私の持っている刻印の書が触媒となってあのアーチャーを呼び寄せたのでしょう。となるとアーチャーは原作とは大分違う筈。
しかし、監察軍に関わっていながら彼が守護者になるとは思いませんでした。ザビーネさんは原作ブレイクはやりたくなかったのでしょうか? いや、彼女はどう見ても原作保持派には見えないので多分衛宮士郎が暴走した挙句に守護者になってしまったという落ちなのでしょう。やれやれですね。
解説
■ザビーネ・クライバー
『トリッパー列伝 ザビーネ・クライバー』で登場した真祖と人間のハーフに転生したトリッパー。型月世界の魔術を専門に扱う魔術師にして第六魔法・世界門(ワールド・ゲート)という魔法の使い手。この世界門は異世界転移を行う事ができる魔法で、並行世界とは異なるまったくの別の宇宙に移動することができる。現在はエヴァンゲリオン世界でメイドハーレムを満喫しつつも楽隠居状態である。
■刻印の書
『トリッパー列伝 ザビーネ・クライバー』でザビーネが製作した魔術刻印の代わりとして機能する魔導書。『魔法少女リリカルなのはA's』の夜天の書の技術などを利用している為かなりチートな代物で、これに登録された魔術を通常の魔術刻印のように使用できる。