ADONISの手記

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シオン・カーライル その三

2015年11月15日 23時03分02秒 | 小説

「結局戦争は避けられなかったか」

 ウナトがぼやいた。先程地球連合がプラントに無理難題を押しつけたのだった。この世界でもファントムペインがユニウスセブン落下テロにコーディネイターが関与していたという情報をジブリールに届けていた。あの男なら行動しかねない。

「しかし、ユニウスセブンは消滅して破片一つ地球に落ちていないのに動くとはね」

 ユニウスセブンはフル出力のサテライトキャノンによって文字通り消滅した。

「それでも地球にいる者の怒りを煽るには十分だったのだろう。それに実質被害がほとんど出ていないからな。会戦を躊躇う要素が少なかったともいえる」
「まあ、いいわ。上手く立ち回っておいた方がいいみたいだし。オーブが生き残るには舵をきり間違えるわけにはいかないでしょ」
「そうだな」
「連合もDXを恐れてむやみに圧力を掛けてこないでしょう。下手に圧力をかけて自分たちに砲口を向けたら困るからね」

 軍事力を背景に圧力を掛けるやり方は相手よりも圧倒的に優位であるときが有効であるが、いくら連合でも今のオーブにそれを仕掛けるのは躊躇するはず。

「オーブは連合との同盟を拒否するわけでしょ?」
「ああ、その方向で話を進めている」

 ウナトはダブルエックスによるユニウスセブン迎撃の激震が地球圏に伝わるやいなや、セイランが極秘開発した(監察軍の事を公表できないので表向きそうなっている)ガンダムDXの力を背景に連合との同盟を拒否する方向で調整を開始した。

 そのタイミングで行動をおこしたのは時期が来るまではDXを秘匿していたかったので、その力が知らせるまでは閣僚を説得できないと判断していたからだ。だが最早そのような遠慮は一切いらない。

 同盟拒否による国民の不安に関しては民衆に人気のあるアスハを使えばいい。政治家としては無能でも人気だけはあるから上手く使えば人心を落ち着かせる事ができる。元々カガリは同盟を嫌がっていたから、ウナトがDXを利用することで同盟拒否が可能になることを仄めかすとあっさりと乗ってきた。

「そういえばお姫様はDXについて何かいってない?」

 シオンはふと思い出して尋ねた。

「……ああ、強すぎる力は争いを呼ぶと口やかましく言っていた」

 ウナトはウンザリした表情で吐き捨てた。

「中途半端な力で理想を固執したばかりに国を焼いたばかりだというのに、アスハにはその反省がないのかしら?」

 シオンは内心呆れていた。

 国家間の駆け引きは一種のパワーゲームだ。力がなければ容易に潰されるだけ。DX抜きでオーブが国を守れるかと聞かれれば答えは否だ。それは先の敗戦が証明している。だから小国のオーブがそんな甘いことを言っていられない。

 


「まあ、いいわ。それより例の式典テロはどうします?」
「それだがな。あれは無理やりカガリとユウナとの結婚を強行しようとしたからおきたんじゃろう? だから結婚を強行することをせずに普通に式典だけ行えばいい」

 成る程、そしてその式典で連合との同盟拒否を正式に発表すると。それなら問題ないでしょうね。

 ウナトのような為政者にとって国内にラクスのような極悪テロリストがいるのは嫌でしょう。しかもラクスはオーブに不法入国していて、ユニウス条約違反のフリーダムを修理して堂々とオーブ国内で保有しています。アニメではスルーされていたけどオーブはすごく馬鹿にされていますよ。

 いっそのことコーディネイターの襲撃事件で死んでしまえばいいと思うのですが、そうもいかない。話が変わりすぎるからね。ならば精々連合やザフトと潰しあうがいい。

 とまあ、そう考えていたのですが。式典にフリーダムが乱入してきた。おい、どういうことだよ。

 どうやらギリギリまで同盟拒否の方針を伏せていたのが災いしたようです。誤った方向に進もうとしているオーブを自分たちが阻止しようととか思っているのでしょう。凄く迷惑な話だ。

 


キラside

 僕たちは誤った道に進もうとするオーブを止めるために、カガリを助けるために行動を起こした。既にカガリを回収して、向かってくるムラサメを落としていく。粗方のMSを落として撤退しようとしたときに急速接近する機体があった。

「またムラサメか、いや違う新型?あ、あれは…」

 モニターの映るMS。それは地球圏で知らぬ者はいないガンダムダブルエックス。MSでありながらユニウスセブンを一撃で消滅させて地球の危機を救った機体。

「テロリスト告ぎますわ。今すぐ武装を解除して投降しなさい」

 DXからの通信で聞こえてくる幼い少女の声。僕はその言葉を無視してDXに攻撃を仕掛ける。僕たちはこんなところで立ち止まれないんだ。

 


「な、何で!」

 キラが戸惑う。DXに攻撃を仕掛けても回避されたりいなされたりしてしまう。相手の機体の追従性が桁違いだ。

 MSは操縦して動かすからどうしてもタイムラグが存在する。それはスーパーコーディネイターの僕でも同じだ。ナチュラルや他のコーディネイターよりもタイムラグが小さいだけにすぎないはずなのにDXはMSではなく、まるで生身の人間そのままのような動きだ。

「パワーも向こうが上!」

 核動力機のフリーダムは他のMSを圧倒するパワーがあるが、DXはそんなフリーダムを更に圧倒している。ビームサーベルも力負けしている。

 強い。情報ではDXのパイロットは幼いナチュラルの少女らしいが、とてもじゃないけど信じられない。本気になるしかない。僕は種が割れる感覚と共に精神を研ぎ澄ました。

 


「これでも効かないの!」

 本気でやっているのに、まるで動きを全て読まれているかのように攻撃が通用しない。逆にこちらが追い込まれている。そしてDXに頭部を破壊された。

「うわっ、カメラが!」

 慌てた僕はビーム砲とレールガンを乱射して撤退した。

 


シオンside

 最高のコーディネイターか。確かにマニュアル操作の割には動きが早い。でも動きが単調で予測しやすい。私はフリーダムの攻撃を苦もなくさばいている。

 コズミックイラではそれでも良いでしょうが、IFS対応機での戦闘が基準だったブリタニア帝国では通用しない。おまけに機体性能、IFSによる操縦方式などが違いすぎますから当然ですね。私はナノマシンでIFS対応になり強化ナノマシンで反射神経や耐久度を大きく上げて、更に知識移植でパイロットとして必要な能力を得ています。

 ここまで言うと分かると思いますが、私は所謂強化人間という者。強化といっても安全性が確認された物ばかりだし、精神や身体を壊すような処置は受けていない。そういった意味では安定性がある。

 最もブリタニア帝国の軍人でもここまでの強化はあまり受けない。あの国は戦争をあまり経験していない。管理局と戦ったときも圧倒的な技術力の差で一蹴してしまいましたし、それ以降は戦争その物がありません。
 こんな状況ではわざわざ自分の身体に手を加える者は少ないのは当たり前です。私も目的のためにやっただけで、そうでなかったらこんな処置は受けなかったでしょう。

 でも、楽に押していたフリーダムの動きが急に鋭くなった。種割れか。仕方ない。

「コード・ゼロ!」

 音声入力のパスワードによってゼロシステムが起動すると、敵の動きの予測値が直接頭に流れ込む。そしてそれを元に戦闘する。敵の動きが手に取るように分かる。シオンは先程よりも強いフリーダムをも圧倒している。

「そこだぁ!」

 フリーダムの頭を破壊する。これでカメラが壊れて戦闘に支障が出るだろう。本当はコクピットを狙いたいのだが、アスハ代表がいるので爆発しない箇所を攻撃しないといけない。

 シオン・カーライルはトリッパーとしては凡人だ。魔力資質もなければニュータイプでもない。何の特殊能力を持たない凡庸なナチュラルの少女。その凡人は、相手がコズミックイラで最高の才能を持つコーディネイターにも関わらず、それを圧倒していた。

 シオンには才能がない。だから道具を使い足りない能力を補っていた。身体能力の差をIFSと強化ナノマシンで、SEEDに対してはゼロシステムで、それぞれ対応していた。

 このままフリーダムを無力化してアスハ代表を救出しようかと思ったが、フリーダムがビーム砲やレールガンを連射してきた。っておい、その位置でそんなもん撃つなよ。大体ここは市街地だぞ! さっきから市街地に流れ弾が出ないようにビームソードだけで戦っている私の苦労を知らずにボコボコ撃ちまくりやがって!

 しょうがないのでシールドで防いでいると、その隙にフリーダムには逃げられてしまった。

 


 結局、あのキチガイ共はアスハ代表を誘拐していきました。護衛のMSのムラサメだけでなく市街地にも被害が出てしまい、というか市街地でドンパチすれば被害が出るのは当たり前です。キチガイはそれも分からないのでしょうか?

 ウナトはキレています。気持ちは分かる。こんなことされたら誰だって怒るでしょう。

 完全に後手に回ったね。さすがにムラサメではフリーダムに勝てなかった。DXが遅れたのは用意していなかったからだ。下手にDXを露出して何か工作されたらたまらない。だから必要なとき以外では動かさないという訳。

 大体、私は生身で式典を見学していたわけですしね。私は襲撃されたので慌てて出撃したんですよ。もう式典の続きをするどころではなく、自然中断されることになった。

 


「こうなったらカガリなしで話を進めるしかないね」
「……ああ」

 ウナトは不機嫌なのを隠しもしない。どうやら私達は彼等のキチガイぶりを甘くみていたようです。というか国の政策が気に入らないからといって、いきなり式典に乱入して国家元首を誘拐するか普通?

 おかげでオーブは国家元首が拉致された状態で国を動かさないといけなくなりました。元々セイランが実権を握っていたのだが、たとえお飾りでも国家元首がいないのは困る。国家元首がいないという状態がどれだけ国益を損ねるか分かっているのか?

 それにあいつ等のことですから自分たちのしたことを棚に上げて、カガリがいないのに国を好きに動かしていると好き勝手言うでしょうね。

 オーブがカガリを取り戻すのは難しい。奴らは身を隠しているし、姿を現すときは戦場に乱入するときでしょうから中立国のオーブ軍がそれに関わるわけにはいかない。中立国という看板を掲げる以上それは仕方がない。彼等がカガリを解放するのが一番良いのだけど。

 後日。ウナトが地球連合との同盟拒否を公式に表明した。同時にキラ・ヤマト、マリュー・ラミアス、アンドリュー・バルトフェルドの三人がカガリ代表誘拐犯として指名手配された。ピンク? あれはプラントで偽物が絶賛活動中ですよ。こちらの同盟拒否で確実に連合との関係が悪化する今ではプラントとの関係まで悪化するのは避けたい。だから下手に名前をだすのは拙いので外しています。

 ウナトはテロリスト達を痛烈に非難して、代表を解放しろとメディアに呼びかけた。メディアに流れるウナトの姿は迫力があった。これで上手くいくなら苦労しなくてすんて良かったのですが、やっぱり代表は解放されなかった。

 そういえば原作ではデュランダルがロゴス戦前にフリーダムとアークエンジェルを葬ろうとするイベントがあった。補正が強くて仕留められなかったですけどね。ここではあるいはアスハ代表諸共アークエンジェルが撃沈するかもしれない。まぁその時はその時ですね。

 はっきり言って、ウナト自身はカガリの生死は問題ない。生きて解放されたのならそれでよし。死んでもそれならユウナを新しい代表にすればいい。

 オーブは五大氏族の者が代表になるので、代表はアスハでないといけない訳ではない。これまでは慣例的にアスハが代表を務めていたが、アスハがいなくなれば他の五大氏族が代表になる。その場合は、現状ではオーブの実権を握っているセイランが代表になるのは当然です。

 でも、さすがにカガリが生きているのに勝手にユウナを代表に出来ない。カガリが死んだとなったら、アスハ派の国民や軍人達も諦めて受け入れてくれるでしょうが、生きているのにカガリを代表から下ろしてセイランが代表になんてついたら凄い反発を招くのは分かり切っている。だからカガリが誘拐されたままという現状が一番拙い。代表がいないのに国を動かすという不健全な状態を嫌でもやらないといけないですから。

 


解説

■ゼロシステム
『新機動戦記ガンダムW』で登場したコクピットシステム。パイロットの戦闘能力を高める働きがあるが、常にパイロットを暴走させる危険性があるのでブリタニア帝国でも採用させていない技術。シオンもシステムを使いこなすのにかなり手間取っているしリスクを伴うので、常時起動するのではなくパスワードを音声入力することで起動するようにしている。

 


2 コメント

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Unknown (カンブリア宮殿=サン)
2020-02-12 15:54:04
>上手く立ち回って・おくといいわ・。

>上手く立ち回って・おいた方がいいみたいだし・。
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返信 (ADONIS)
2020-02-15 23:56:04
>カンブリア宮殿=サンさんへ
誤字報告ありがとうございます。修正しました。
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