ADONISの手記

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1.ルカの事情

2013年05月31日 01時34分27秒 | 小説

 私、水蓮寺ルカ(すいれんじるか)は転生者です。いきなりそう言っても頭がおかしくなったのかと思われるかもしれませんが事実です。
 しかも転生したのはこれが初めてではありません。今回で三度目です。それはどういう事かは、これから簡単に説明します。


◇ ◇ ◇


 私の最初の名前は木村ルカ。現代日本の平凡な社会人の女性でした。目立った特徴といえば男運が悪いという有難くない物ぐらい。というのもうっかりヒモ男に引っかかってしまったからです。
 元々一人娘という環境で男に免疫ができ難い家庭環境だったのに、女子高や女子大学に通っていたので余計に男に免疫がなかったのが悪かったのでしょう。社会人になってちょっと外見が良くて口が上手い男に落されてしまいました。
 交際して妊娠してしまい出来ちゃった結婚をする羽目になって、初めて交際相手が所謂ニートである事を知ったときにはもう手遅れ。結婚後は働きもせずにニート生活を送る夫を養う為に働く日々。当然私は夫に働くように説得するのですが相手にされません。

 何が「働いたら負けかな」ですか! 男なら働くのが筋でしょうが(怒)!
 いい加減夫の無責任さと自覚のない大言壮言にウンザリした私は離婚を決意しましたが、夫はそれを嫌がり、私の全財産を渡すことでやっと別れることができるようになった。

 こうして残されたのは離婚歴ありで子供までいる女一人という眼も当てられない現状でした。当然ながらこんな私では再婚は絶望的です。仕方なくシングルマザーになるという苦労を背負うことになった。

 そんな疲れきった私を癒してくれたのがアイドルたちでした。私は煌びやかなステージで歌い踊る彼女たちに憧れて好きなアイドルのライブに行くほどでした。その日もライブで盛り上がった帰り道だったと思う。そこにいきなりトラックが突っ込んできて……。

 そうして気が付いたら、この真っ白なだけで何もない空間にいた。どういうことでしょう? ここはどうみても普通の場所ではありません。というか状況から見てトラックに轢かれた筈なのにこんな場所にいた。病院ならばともかく、こんな意味不明な場所にいるとなると……。

「これって、もしかしてネット小説とかでよくある神様転生物ですか?」
『その通りだ』

 私の呟きに答えたのは黒い布で体を覆い、手には大鎌を持つ髑髏姿の者。はい、どう見ても死神です。

「まさか私を間違って殺してしまったという落ちですか?」
『いや、間違いではない。ただ君はあのトラックに轢かれたからね』

 私はその言葉に引っかかる。これってまさか典型的なアレ?

「まさか、あのトラックはテンプレな転生トラックですか!?」
『そうだよ。だから君は転生する事が決定したんだよ』
「……まさか転生トラックなんてものが本当にあるなんて」
 驚きというべきでしょうね。事実は小説より奇なりという所ですか。

『いや、あの転生トラックは私が用意したものだよ』
「どういうことです」
 これは聞き捨てならないですよ。あのトラックの所為で私は死んでいますから。

『実は君達の世界の住民達は、創作物を元に様々な世界を無意識の内に作り出しているんだよ。だから君達が知っているアニメとかゲームとかの世界が本当に存在するんだ』
「創作物の世界ですか?」
『そうだよ。でもそうして作られた世界は反作用というものがあってね。それの所為で創作物を元に構成された下位世界が崩壊してしまうのだよ。それを防ぐ為には君達の世界の住民をたくさん下位世界にトリップさせるしかないわけだね。それでその人選の為に用意したのが転生トラックだよ』
「だから私を転生させるというわけですか?」
『そうだよ。これは君にとっても悪くない話だよ。そもそも転生トラックは人生をやり直したいと強く思っている人間を選ぶように設定しているから、君だってやり直しを望んでいるだろう?』
 図星だった。そう私は出来ることなら人生をやり直したいと思っていた。
 でも私には子供もいる。あの子を放置するわけには……。

『ああ、言っとくけどそれは無理だよ。君はもう死んだんだよ。ここで下位世界に転生するのを拒否しても輪廻転生の輪に取り込まれるだけだよ。そうなると記憶を失って別人として転生する事になるからね』
 選択の余地はなしですか。これもテンプレですね。

『そういわずに。今なら君の好きな下位世界で、君の望む人物に転生できるし、転生特典も3つあげるよ』
 私はこの言葉に心が動かされた。このままではどうしようもない。ならば記憶を持ったままで転生する方がいいでしょう。でも、どの世界の誰に転生するべきか……。
 そこで私はアイドルに憧れていてできれば彼女達のようになりたいと思っていたことを思い出した。そうだ。どうせ人生をやり直すならアイドルになろう。

「では『ハヤテのごとく!』の水蓮寺ルカに転生できますか?」
『うん、いいよ』と死神は軽く答える。
 ハヤテのごとく!は私が最近読んでいた漫画で、その中でも水蓮寺ルカは私と同じ名前で人気アイドルという設定から気に入っていたキャラクターだった。まあ、創作物のアイドルと思い浮かべて真っ先に名前が出たからだが……。
 
 次に転生特典だけど、これは水蓮寺ルカの長所を伸ばす事と欠点を補う事に使うべきですね。そう考えて次の三つにした。

1.アニマスピリチア(マクロス7)
2.不幸体質の改善
3.無限転生

 まず、『アニマスピリチア』というのは熱気バサラ(マクロス7)の特殊な資質で、常人離れした歌エネルギーを保有できるスキルだ。実はマクロス7は好きだったんですよね。これなら水蓮寺ルカの歌がより魅力的になると思う。
 次に、『不幸体質の改善』は、水蓮寺ルカはどうも日常的に不幸に合いやすいみたいだからそれを避ける為に選びました。不幸体質というのは漫画として見るならキャラが立っていいかもしれませんが、当事者としてはとっても迷惑ですから。
 これで長所と短所はいいでしょう。となると最後の特典はどうしようかと悩みました。そこに死神からは二つとも微妙な特典だから、三つ目はそれなりにチートな能力を上げられるよと、いわれて無限転生を選びました。

 この『無限転生』ですが、通常のトリッパーは一度だけの転生で死後は記憶を失い上位世界の輪廻転生の輪に帰還します。しかし、この特典によって例え死亡しても前世までの記憶と転生特典を引き継いだまま下位世界で無限に転生できるスキルです。しかし、その場合転生する下位世界はランダムでどの下位世界に転生するから分からないそうですね。また人生をやり直したくなったときに備えてこの特典を選びました。ちなみに転生に飽きて嫌になったら死神に言えば、この特典を解除してくれるそうです。アフターサービスもばっちりですね。

『では転生させますよ。いいですね』
「はい」と私が頷くと、いきなり床が割れて私は下に落下した。
「ここまでテンプレですかーーーーー!!」
 私はどこまでもテンプレな行動をしてくれる死神に文句を言いながら意識を失った。こうして私は死神によって転生者になる事になりました。

 

解説

■木村ルカ
 水蓮寺ルカがトリップする前の最初の名前。ルカ繋がりで水蓮寺ルカ(ハヤテのごとく!)がお気に入りのキャラだった。

■死神
 ブリタニア帝国記やトリッパー列伝などで、現実世界(上位世界)の人間をトリッパーにして下位世界に送り込んでいる存在。単独ではなく複数存在しており、個々に性格なども異なる。

■輪廻転生の輪
 現実世界(上位世界)のあらゆる生物の魂は死後に同じ世界に転生するという魂の循環が形成されている。トリッパーの場合は例外的に魂が下位世界に送られるが、死後は上位世界の魂の循環に戻るようになっている。

 


9 コメント

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Unknown (yamamon)
2013-04-15 02:58:25
乙です。

「間違えて殺した」ではなく「故意に殺した」か。
まあ「死神」ですし、むしろこれこそが本業かもしれませんね。
それにある意味本人の同意の下でやっているようなものですしね。

「無限転生」こんなのアリなのか・・・
ある意味今まで登場したどの転生特典よりもチートですね。
普通はどんなに強力な転生者であれ「人生は一回きり」「死ねば終わり(通常の輪廻に戻る)」なわけで。
たとえシドゥリのような「不老不死」であっても、絶対に死なないってわけじゃないですし、死んでしまえば蘇生などはできない。
にも関わらず、記憶や人格どころか転生特典まで保ったまま再転生できるとは・・・
ある意味完全なる不老不死ですね。
もし私が転生特典を貰えるとしたら、真っ先に選びそうw

まあ、他の転生特典は微妙ですが
Unknown (Unknown)
2013-04-15 13:34:34
 とりあえず子供のこと心配してないのがw
 もしかしてすでに成人して自立済みなのかもしれないけど。
 あと離婚に関しては夫がニート状態ならどれだけごねようと訴えれば勝てるはず?
返信 (ADONIS)
2013-04-15 20:32:47
>yamamonさんへ
他の二つが微妙だったからこそ最後の特典はいろいろと規格外なものが許可されました。

>Unknownさんへ
確かに子供のことを触れていないのが不自然なので加筆しておきました。
後、離婚のことですが、裁判なしに話し合いで片付けています。
返信ありがとうございます。 (yamamon)
2013-04-15 20:35:29
ああ、「3つ」ならなんでもありってわけじゃなくて、
トータルでのバランスも考えてはいるわけですか。
返信 (ADONIS)
2013-04-16 00:06:49
>yamamonさんへ
あまりにもチートな特典をたくさん要求されると与える死神の方も大変ですから、この手のバランスは大事でしょう。
Unknown (Unknown)
2017-06-19 02:46:06
話し合いの離婚で全財産渡すくらいなら裁判に持ち込むと思います。
それはそれとして死神、故意に殺すなら思い残すことのない人選をしろとww
返信 (ADONIS)
2017-06-20 18:22:01
>Unknownさんへ
ルカの場合はそこで失敗していますね。後、この死神は人生をやり直したいという人間を選んでいるのでそこまで的外れでもないと思います。
Unknown (Unknown)
2018-03-30 01:45:06
>いい加減夫の無責任さと自覚のない大言壮言にウンザリした私は離婚を決意しましたが、夫はそれを嫌がり、私の全財産を渡すことで要約分かれることができるようになった。

「やっと」という意味の「ようやく」が「要約」になってます。
返信 (ADONIS)
2018-04-01 23:19:39
>Unknownさんへ
誤字報告ありがとうございます。修正しました。

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