ADONISの手記

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神農 その二

2015年11月16日 00時37分34秒 | 小説

 グレイタイプの宇宙人もどきな俺は永久氷壁に覆われていた。この永久氷壁はまさに鉄壁の封印で、忌々しい事に数百万年にも渡り強大な力を持つ筈の俺を封じ続けていたが、いきなりその永久氷壁が破壊された。

「な、なに!」

 いきなりの事に対処できずにその場で呆然とした。

 俺はジョカのように魂魄体だけで移動したり、魂魄を分裂させたりする事ができない。始祖は普通はそれができるのに俺だけできなかったのは、やはり転生者だからだろう。

 この時の俺は知らなかったが、トリッパーの魂は下位世界のありとあらゆる存在でも一切干渉できないという特性があった。もちろんデメリットだけではなく、魂にダメージを与えることができないという利点もあるので、魂魄を攻撃できる特殊攻撃でも俺には通用しない。

 この特性の所為で、ジョカのように魂魄体だけで活動することができなかったが、例えそれができても魂魄体だけではどうしても力をフルに使えないし、長年魂魄を酷使したりすると消耗するので、どの道肉体ごと解放されないと困るけどな。

 だからこそ、永久氷壁の中で長々と封印され続けていたのだが、その状況が一変したのだ。

 俺の前には日本人と思わしい男女がいる。一人は男子高校生という感じで、もう一人は女子中学生な姿だ。つーか、二人とも平成日本の学生の制服を着ているみたいだが、『封神演義(藤崎竜版)』にそんな格好のキャラがいたか?

 ついでに言っておくと俺は前世の影響でどうも美的感覚が平成日本人のそれみたいなんだよ。つまり何が言いたいかといえば始祖の美的感覚とは違うと言うことだ。

 あのジョカとかは俺達の間じゃかなりの美女らしいが、俺からみればよく分からない。というか人間の美少女の方が俺の好みだったから、仲間内では「美醜が分からない奴」と言われていたな。

 そんな訳で目の前の少女は文句なしの美少女で俺の好みだよ。状況から察するに彼女たちが俺を解放してくれたようだが、一体何者なんだ?

 そう思案していると男の方がその場から消えていった。空間転移か何かだろうが、見たところ宝貝を使ったような感じではない。となると別の技術を使ったのだろう。

「はじめまして、私は佐天令子と申します。貴方と同じトリッパーですわ」

 その場に残った少女はそう日本語で自己紹介してきた。日本語など転生してからというもの聞いたことがないが、俺はそれを覚えていたので問題なく理解できた。

「トリッパーということは…」
「ええ、貴方と同じ前世で『封神演義(藤崎竜版)』という漫画を見たことがある日本人です。最も私が転生したのはこの世界ではなく『とある魔術の禁書目録』でしたが…」

 令子の言葉に俺は驚いた。転生してからと言うもの同類と会うのは初めてだった。

 その後、令子は様々な説明をしてくれた。

「……という訳でして、仲間である貴方を迎えにきたわけです。封印がやたら頑丈だったので幻想殺しを使う羽目になりましたけどね」

 令子が言うには永久氷壁があまりにも強力すぎたので、手っ取り早くそれを破壊する為に上条当麻が出張ってきたのだ。さしもの永久氷壁も幻想殺しには対抗できず当麻が右手で触れただけであっさりとぶち壊れたらしい。なんちゅう出鱈目な能力だ。

 それにしてもトリッパーに監察軍、更に破壊神ベヅァーか。まさかそのような事態になっているとはな。

 令子が言うにはつい最近この世界でベヅァーが俺を殺す為に刺客として送り込んだBETAもどきが大暴れしたらしく、その所為でこの世界の歴史がめちゃくちゃになり、それに激怒したジョカによってBETAもどきはこの世界ごと滅ぼされ強制的にリセットされたばかりらしい。南無~。

 だが、そういった事があったために監察軍がこの世界にいる俺に気付いて助けに来てくれたからまるっきり無駄ではなかったけどな。

「俺と同じ連中があつまる組織か。それは面白いな」

 この世界での故郷はとうに滅亡しているし、同族はジョカと伏羲しかしないという状況だ。ジョカは思想的に俺と合いそうにないし、伏羲にいたっては俺を騙まし討ちにして封印しやがった野郎だ。今更仲間意識を持てよう筈がない。だからこの世界に用はないが、何も言わずに別れるというのもどうか?

「ふむ、ではジョカと伏羲に別れの挨拶をしてからそちらに行くとしよう」

 挨拶ぐらいはしておくさ。それがせめてもの礼儀だからな。

 

 佐天令子がアカシックレコードを使ってくれた為に伏羲の場所がすぐに分かったから早速そこに向かった。

「久しいな伏羲よ」
「し、神農!?」

 いきなり現れた俺に伏羲は驚愕した。伏羲は本来の肉体を失いこの星の人間の体を使っているようだが、その表情を見ているとそれなりに溜飲が下がる思いだ。

「どうした。俺がいるのがそんなにおかしいか?」

 俺は笑みすら浮かべる。うむ我ながら意地悪だな。伏羲は俺を思い切り警戒している。当然ながら恨まれる覚えぐらいはあったのだろう。

「どうやってあの封印を解いたのだ!」

 伏羲は未だに信じられないという表情だ。

「何、彼女に助けて貰ったという訳さ」

 そこで俺は隣にいた令子に視線を向け、伏羲も令子に視線を向けていたが、その顔には「余計な事をしやがって!」と露骨に表れていた。

「そう警戒するな。何もお前に仕返しをする為に来たわけではない」
「どういう事だ」
「実は俺はこの星には用はないから立ち去る事にした。恐らくもう二度と会う事はないだろうから別れの挨拶を言いに来ただけだ」

 こいつには怒りはあるが、最早それもどうでもいい。

「では、さらばだ伏羲よ」

 予想外の自体の連続に硬直した伏羲を放置して俺達はその場を去った。次はジョカだ。

 

「まさか神農!」

 俺が会いに行ったらジョカは驚愕したが次に狂喜した。どうやら余程孤独を感じていたらしい。まぁ何百万年も封印されていれば無理もないか。

 そこで一応ジョカを説得することにした。流石にいくら俺でもジョカの砂遊びのような行動には目に余るからな。

 ジョカは僅かなミスで故郷が滅びてしまい悲しい思いをした。だからその過ちがなければ故郷がどうなっていたかを知りたくて、この星の歴史を故郷そのものにしようとしていた。といっても早々上手くいくはずもなく、幾度となく失敗しては世界を滅ぼしてやり直すことを繰り返していた。

 俺から言わせればこれは理解不能だ。そもそも故郷が滅びてしまったのは残念に思うが、だからといってそんなものを確認して一体何になるのだ?

 大体、滅びの原因などいくらでも転がっている。例え一つの原因を取り除いたとしても別の原因が発生してしまうのは分かりきっているだろうに。そんな事でこの惑星の者達を弄り回すのは良くないぞ。

 だが、話をする内にジョカが怒り出した。何か俺がそんな事を言うのが気にくわなかったらしい。なんか「妾は神農だけはあいつ等とは違うと思っていたのじゃぞ!」とか言って逆切れしている。

 やっぱ付き合いきれん。ただの痛い女になっているし。しょうがないので、適当に別れを告げた。

 やれやれ、まともな同族に恵まれなかったな。まあいい。これからは俺と同じトリッパーたちと付き合っていけばいい。その方が、色々と楽しそうだしな。

 

解説

■神農(しんのう)
『封神演義(藤崎竜版)』の始祖(始まりの人)に転生したトリッパー。実はかなり大昔に転生した最古参のトリッパーであるが、伏羲たちに封印されて何百万年以上も活動不能になっていたのを監察軍が見つけて解放されることになった。元々、日本人であった事から始祖の故郷に対する愛着はそれほどなく、それ故ジョカの狂気じみた行動とは相容れない。特典は技術系ばかりであるため、戦闘能力は強化されていないが元々の種族がチートなのでその戦闘力は相当な物である(でもドラゴンボールの基準では雑魚)。

◇転生特典
①虚空(烈火の炎)の魔導具の製造技術
②ロン・ベルク(DRAGON QUEST -ダイの大冒険-)の鍛冶の技術
③太乙真人(封神演義【藤崎竜版】)の宝貝の開発技術
④美しい魔闘家鈴木(幽☆遊☆白書)の闇アイテムの製造技術
⑤ジェイル・スカリエッティ(魔法少女リリカルなのはStrikerS)の人造生命体技術と機械兵器技術

 


7 コメント

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Unknown (ADONIS)
2013-03-24 11:43:46
トリッパー列伝を久しぶりに更新しました。ちなみに神農という名前は古代中国の神”三皇”から取っています。まあそれをいうならジョカや伏羲もそうですが。
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Unknown (yamamon)
2013-03-24 11:54:43
乙です。

ありゃ、原作スルーしちゃいましたか。
原作に関わる気が無いのならば、いっそのこと地球以外の居住可能惑星に逃げてしまうのも手だったかもしれませんね。
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感想追加 (yamamon)
2013-03-24 12:40:55
>俺はジョカのように魂魄体だけで移動したり、魂魄を分裂させたりする事ができない。
ほむ。魂に干渉できないというのは、外部からの干渉を受け付けないというだけでなく、自分自身でいじることもできないわけですか。
ホシノ・ルリみたいに無数の肉体を持つトリッパーだと、その魂はどうなっているんでしょ?
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感想と誤字報告 (目玉)
2013-03-24 16:36:34
まあ観察軍で開発などをしていたほうが、このトリッパーには得になるでしょう。しかし何百万年も封印されてよく復讐しようとしませんでしたね。
誤字報告
鉄壁・に・封印

鉄壁・の・封印 では?
更新お疲れ様です。
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返信 (ADONIS)
2013-03-24 23:06:47
>yamamonさんへ
地球以外の惑星ですか。それは考えていなかったですね。
ホシノ・ルリの場合群体で一つの生物という扱いで、個々のバイドはルリの体細胞の一つという扱いです。つまりバイドというネットワーク網こそがルリの肉体にして魂の器となっています。なのでバイドを完全消滅させるとルリも死亡します。

>目玉
誤字報告ありがとうございます。
復讐に関してはやっても利益がないからです。実際気晴らしにしかならない。
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回答御礼 (yamamon)
2013-03-25 00:54:43
回答ありがとうございます。

ああ、なるほど。
「肉体が無数にある」という扱いではなく、
「無数のバイド全体で一つの肉体」という扱いなわけですか。
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返信 (ADONIS)
2013-03-25 20:47:50
>yamamonさんへ
そうですね。
バイドは元々ハードウェアさえも侵食して増殖するコンピュータウイルスのようなものですし。
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