あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

美しきアジアの玉手箱 シアトル美術館所蔵 ・サントリー美術館

2009-08-08 22:51:30 | 美術展
そもそも今回のシアトル美術館のチラシに使われた
「烏図屏風」
これにはいささか熱い思いを持っていた。

根津美術館が改装のため休館するというときに
(2006年5月)
この屏風が修復を得るために、シアトルから飛来していたのだ。
光琳の燕子図屏風や、応挙の藤の屏風などを押しのけて、
私の眼にはヒッチコックの烏だ、
と思わせるほどのインパクトがあって、
実に深い感銘を持って対面したのだった。
恥ずかしながら、当時の記事をご紹介。

クリックしてみてください
根津美術館の記事

サントリー美術館ニュースによると、
現・根津美術館学芸課長、白原由起子さんの記事に
その烏屏風が紹介されていた。

2002年にシアトル美に赴任されたときは、
「鹿下絵和歌巻」「烏図」「竹に月図」は
大変危険なコンディションで、
展示できない状態にあった・・・とのこと。
さぞ心痛めたことだろう。
ようやく修復することができた実績は、
シアトルと日本の文化の架け橋となって、
いよいよ深い繋がりと信頼関係が築けたことだろう。

あべまつ的前振りはここまでにしておく。

場内に入って、
すぐ、あぁ、これは質の高いコレクションだ。
そう感じられる気配があった。

・土偶 
 がつんとした存在感。
 母性、母の原型。

・車輪石、鍬形石。
 線の美しくも完成度の高い薄緑石の造形。
 誰がこんなに完成度の高いものを
 誰のためにこしらえたのだろう?
 日本人か?渡来人か?

・灰釉蓋付短首壺
 素朴ではあっても、端正な揺るぎのない形。
 灰釉が適度にガラス化して景色になっている。

・行道面 菩薩、八部衆 龍面
 運慶、快慶の祖先の血が流れている。
 龍の顔が欠損していても、きっといかめしい表情の頭を
 圧倒していただろうと、想像する。

・浦島蒔絵手箱
 まぁ美しい金の蒔絵。
 海外で漆工芸を知らしめる一級の手箱。
 蓋裏に浦島の物語。

・椿彫木彩漆笈
 背面にざっくり太々と椿の木彫が施され、
 ぐるりは網代に編んだ籠のよう。
 背負うものではなく、置いてあるだけでお宝工芸。
 あんまり美しいから、
 弁慶はこれを背負うことはなかっただろう。
 
・志野草花文鉢
 とてもかわいらしい鉢、ぐるりを草花が囲んで、
 形もひらひらして愛らしい。
 見込みにも生垣の中に花が咲いていた。

・志野草文花入
 素直な筒型に、素朴な絵柄。
 こういうシンプルさが生花を生かすのだと、
 しみじみ。自然をよく知っている形。

・織部片輪車星文四方鉢
 碁盤は地、星は空をさすとかで、
 これはつまり宇宙をあらわす堂々たる文なのだ。
 織部らしい、姿かたち。

・織部亀甲縞文水注
 土瓶の元祖形で、織部お得意の亀甲と縞柄。
 番茶はこれに限るけれど、お酒もよく合いそう。
 
・長谷寺縁起絵巻
 ちょっと前に出光で、この兄弟と出会った。
 ここでも風神雷神さん、頑張る。
 ご神木を大切にせなあかん、のだった。
 風神の抱える袋の両方の口から風が噴出すことを知った。

・石山切
 美しい料紙、流れる文字。
 平安の貴族の足跡。

・駿牛図
 今年の干支は牛で、東博でその仲間が展示されていた。
 あべまつも画像を紹介させてもらった。
 10頭いるうちの一頭。
 つぶらな瞳の牛の姿がいじらしい。
 大好きな牛図。逢えて嬉しかった。

・琴棋書画図 伝・狩野孝信 
 幅広の大きな襖絵。
 中国、唐様の琴棋書画図。
 花瓶の口から、麒麟がこぼれ出ているのは
 物語があるのだろう。
 一々楽しい画面で、しばし遊べた。

・烏図
 金色と黒の二色で、こんなに騒がしい画面。
 烏はべったり描かれているのではなく、
 羽一枚一枚丁寧に描かれている。
 飛んでいる烏VS地べたにいる烏で、事件がありそう。
 団体の強さも感じた。
 無事の修復をお祝いしたい。

・鹿下絵和歌巻
 圧巻の一巻の終わり。
 ずら~っと最初から最後まで見せてもらえる喜び。
 期間限定で最後のほうを見損なう、
 そういう心配から開放される嬉しさ。 
 光悦と宗達は海外でも評価が高かったようだ。
 切れ切れになっていない半分がこうして残っていることが
 奇跡、のようだ。
 このチャンスに山種、サントリー、MOA、その他からも
 兄弟が集合する。
 金銀の鹿達は、蜃気楼の中、夢のように群がり、離れ、
 ともに歌を口ずさんでいるようだった。

他にもまだまだ上げていくときりがない。

蕪村の寒林野行図、北斎の五美人図
市河米庵・狩野晴川院ほか70名の合作 蜻蛉・蝶図
輸出用に作られた染付けのフラットなお皿
工芸、屏風絵、山水図、見所満載。

中国、韓国、ベトナム、タイ、ネパールからも
逸品が並んでいた。
総数百点にならないところで、丁度いい点数だったように思った。  

ともかく、シアトルにこんなすばらしい作品が
ずらり並んでいるのかと驚嘆するばかりだった。

サントリーらしい、重厚かつ、キラキラもある
嬉しい充実感溢れる至極の展覧会だった。
会期末までに、再訪したい。

それにしても、海外に渡った秘宝、
すばらしいものが沢山残っているものだ。
複雑な思いはありながらも、
これからもシアトルで
末永く日本の美が愛され続けることを願いたい。

追記 
「77’別冊太陽 海外へ流出した秘宝」
これがとても参考になり、お勧めです。
古本屋で超安価でゲットして、お宝にしています。
案外神田辺りに埋没しているかも。

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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (一村雨)
2009-08-09 08:28:05
あの屏風などは修復後のお披露目展示だったのですね。
なるほど、事情がよく分かりました。
何か東博のお宝展を眺めているようでしたが、
すべて海外にあるというのが、悲しくもありますね。
返信する
一村雨 さま (あべまつ)
2009-08-09 12:03:13
こんにちは。

海外の財界人がこぞって日本の工芸、浮世絵を収集し、日本大企業は西洋の印象派をバタバタ買うバブリーな時代がありました。
地球の上空でお金と芸術品が飛び交っているようです。
それにしても素晴らしい所蔵品でした。
返信する
シアトル (とら)
2009-08-09 19:27:45
海外に流出した美術品もこうやって戻っときて国内に残っているものとくらべられるのはまだまだ良いほうですね。

エジプトの秘宝が古くはローマに持ち出され、近世にはフランス・イギリス・ドイツに持ち出されて2度と戻ってこないことを考えれば・・・。
返信する
とら さま (あべまつ)
2009-08-09 22:58:24
こんばんは。

海外に流出してしまった日本の美術品が、今なお存在していることに感謝です。
本当に驚くべきすばらしいもの、なのですから。

エジプトの秘宝も日本に上陸で、ドキドキしますね。よく運んできたものです。
返信する
Unknown (Tak)
2009-08-09 23:23:09
こんばんは。

シアトル美術館にはかつて
日本美術ハンターならぬ
相当な目利きがいらしたそうですね。

無暗矢鱈に集めただけでは
「玉手箱」になりませんからね。
返信する
Tak さま (あべまつ)
2009-08-10 00:02:39
こんばんは。

>相当な目利きがいらしたそうですね。

そりゃそうじゃなきゃ、集まりっこありませんよねぇ。あんなお宝ザックザク。
ボストン、シアトル、次はメトロポリタン、来て欲しいなぁ。そう思うのでした。
Yes, you can!!
返信する
烏図 (もか)
2009-08-10 11:13:26
根津美術館でお披露目されていたのですか!?知りませんでした。
今回初めて見て、他にはない独創の美に、驚嘆しました。
あべまつさんご推奨のメンバーに、晴れて入会いたしましたので、また足を運ぶつもりです。
返信する
もか さま (あべまつ)
2009-08-10 14:06:27
こんにちは。

台風と、夏休み、私の足は奪われたまま・・・
烏図、なにかドキッとさせられます。
誰がなんのためにと、思います。

メンバーにお入りになって、なによりです。
グッズとか、イベントとか、最大限使いはたしたいものです。友人貢献度も高くなりますし!
返信する
Unknown (すぴか)
2009-08-12 10:19:13
こんにちは。
コメントとTBありがとうございました。
ほんとにすばらしい展覧会、いろいろひっかかるところがあって、たいへんです。
烏もそうだし、鹿下絵和歌巻など、今度行ったとき、すらすら頭に入るよう勉強中、斬ってしまったのとすべてひろげて見られるのとは、大違いですね。シアトル美術館に感謝です。教えてくださった方にも。
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すぴか さま (あべまつ)
2009-08-13 12:37:25
こんにちは。

気になることがあると、前に進めませんね~
烏、それだけでも様々。
神話から、民話、熊野の三本足ヤタガラス、
ハハチョウ・・・
当時の常識の記号を掴むのは面白くも、大変。
それが楽しくてやめられません♪
シアトル、本当に素晴らしいコレクションです。
返信する

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