goo blog サービス終了のお知らせ 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 4-1

2025-08-22 08:48:03 | 声明・要望・質問・申し入れ

2025年8月22日の追加情報は2件

 

1,4-1ページの米国で臓器提供登録の取り消しが前年同期の10倍 注4、心臓が停止した死後と称する臓器提供の問題点 のなかで「24時間観察しない死亡宣告の不確実性」を以下の文章に修正しました。

24時間観察しない死亡宣告の不確実性従来から死の三徴候「心臓の拍動停止・呼吸停止・瞳孔の散大固定」を確認して死亡が宣告されているが、死亡宣告を誤った実例があることから、死亡宣告から24時間以上経過しないと埋葬は行われてこなかった。しかし、血液は流動しなくなると20分ほどで凝固しはじる。少量の血栓ならば取り除いたり溶かせるが、血液が血管の大部分で凝固してしまったら除去する手段はない。毛細血管のなかで一部分でも血液が凝固していると、その部分から先の臓器機能が失われるため、血流の停止時間は短いほど移植後の臓器機能の発揮が期待できる。このため臓器提供を予定した心臓死宣告は、死の三徴候の24時間継続を確認することはできず、死の不確実性が高い。

 

2,「4,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例」は、4-3ページに移動しました

 

以下は4-1の本文

 



臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計

4-1

目次

4-1(このページの見出し)

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例
  米国で臓器提供登録の取り消しが前年同期の10倍
4-2

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例(前ページからの続き)
2,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが脳死ドナーに投与され効いた!
3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

4-3

4,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
5,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、米国で臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後
6,脳死とされた患者の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)

4-4

7,「脳死とされうる状態」と診断されたが、家族が臓器提供を断り、意識不明のまま人工呼吸も続けて長期間心停止せず生存している症例
8,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
9,何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者
10,脳死判定を誤る原因 

・各情報の出典は、それぞれの情報の下部に記載した。更新日時点でインターネット上にて閲覧できる資料は、URLをハイパーリンク(URLに下線あり)させた。医学文献のなかには、インターネット上で一般公開している部分は抄録のみを掲載している資料もあり、その場合はURLの後に(抄録)と記載した。登録などしないと読めない記事はURLの後に(プレビュー)と記載した。

 


1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に脳死ではないことが発覚した症例

  米国で臓器提供登録の取り消しが前年同期の10倍

 米国で脳死下臓器摘出手術そして心停止後臓器摘出手術の中止例が報道され、臓器提供の登録を取り消す人が急増している。2024年10月29日の報道によると、取り消した人数は毎日170人で前年同期の10倍の人が取り消した。今年は2025年7月20日のニューヨークタイムズの記事により再び急増した。2025年8月12日の報道によると、コロラド州は前年同期の14倍、テネシー州は10倍、フロリダ州は11倍、アリゾナ州8倍などの人々が臓器提供意思を取り消した。概要は以下。

 

 2024年10月29日付のAP通信記事
People opt out of organ donation programs after reports of a man mistakenly declared dead 
https://apnews.com/article/organ-donor-transplant-kentucky-8f42ad402445a91e981327abb009906c 
は、米国ケンタッキー州におけるアンソニー・トーマス・フーバー・ジュニアさんからの臓器摘出手術の中止そして社会復帰、複数の臓器調達機関職員の退職、下院エネルギー・商業委員会の公聴会における移植外科医の脳死臓器摘出手術の中止経験を述べた等のニュースの影響で、毎日170人がドナー登録を取り消しており2023 年の10倍に上る。フランスでも臓器を提供しない登録が 1日当たり100人だったのが1,000人に急増した、と伝えた。

 2025年7月20日付ニューヨークタイムズ記事
A push for more organ transplants is putting dying donors at risk
(登録読者)https://www.nytimes.com/2025/07/20/us/organ-transplants-donors-alive.html
(他サイトに掲載されたコピー記事)https://www.spokesman.com/stories/2025/jul/20/a-push-for-more-organ-transplants-is-putting-dying/
は、2024年春にアラバマ州で人工呼吸停止による人為的心停止後の臓器摘出手術において、ドナーであるミスティ・ホーキンスさん(42歳)の胸骨を切開したところ心臓が鼓動していることを発見した、このほか19州の55人の医療従事者から心停止後の不穏な臓器提供事例を取材したと報じた。

 2025年8月7日付のニューズウィーク記事Mass Exodus From Organ Donor Registries Following Media Coverage、そして
8月12日付のニューズウィーク記事Seeing Growing Exodus, State Organ Donor Registries Urge 'Perspective'
https://www.newsweek.com/organ-donor-registries-exodus-new-york-times-reporting-2112030
は、前記ニューヨークタイムズ記事の影響で、臓器を提供する登録の取り消しが急増していることを報じた。各州の取り消し人数は以下。

・カリフォルニア州:7月20日から8月10日までの間に5,423人。同誌の8月7日付記事によると、ドナー登録の削除は1日平均で412人あり、7月20日以前の1週間の1日平均52人と比較して700%増加した。

・コロラド州:7月20日から8月11日までの間に1,489人、2024年の同じ期間の登録削除は108人。

・テキサス州:6月に約1,900人、7月20日から7月27日の間に約4,231人、7月全体で6,420人、8月にはすでに2,000人以上、2カ月連続で6,000人が登録を取り消す可能性がある。

・テネシー州:7月20日から月曜日までに1,394人、前年同時期の削除は144人で870%近く増加した。

・フロリダ州:ドナー登録簿からのオンライン削除は6月から297%増加。2024年7月と比較すると1,052%増加した。

・アリゾナ州:7月は約2,560人、2024年7月の削除は336人だった。月曜日までに州全体で926人の削除が集計されており、2024年8月の553人と比較して、この急増は8月まで続いている。

 

注1、医学文献で心停止ドナーの心臓の拍動を確認して臓器摘出手術を中止したとの症例報告は、2021年に米国デューク大学とシャンペーン郡検死官の共著で39歳女性例がある。
出典:Annie Bao, Pronounced Dead Twice: What Should an Attending Physician Do in Between?, The American journal of case reports,22,e930305,2021 
https://www.amjcaserep.com/download/index/idArt/930305

注2、心臓死宣告をされた臓器提供者の心臓の再拍動が確認される現象は、臓器提供者の全身を血液が循環する状態が維持されている間に起こると見込まれる。7月20日付のニューヨークタイムズ記事は胸骨切開時と書いており、心臓を含む多数の臓器の摘出を予定して長時間かかるために、一旦、心停止した臓器提供者にECMOなど人工心肺をつないで酸素化させた血液を循環させつつ臓器を摘出しようとしたと推測される。

注3、心臓死宣告後の自然蘇生例や心停止ドナー候補者として管理中の蘇生・社会復帰例がある。
死亡宣告後~臓器摘出手術開始前の自然蘇生例:1970年代に関東圏の脳神経科外科病院において、19歳の青年がスケートボードで事故を起こし助からない状態と説明した後、親御さんから腎臓を提供したいと申し出がありました。2Fの病棟でモニターがフラットになり死亡宣告をしました。その後1Fの手術室にストレッチャーで連れてきてモニターにつないだら心電図に波形がみられ心臓が動いたというのです。東京から来た臓器摘出医は「早く」と摘出を要求したそうですが、夫は「『まて、まだだ』と怒鳴ったよ」、話すのもおぞましいという雰囲気で私に語りました。その後に北里からのドナーカードを病院に置いてほしいという依頼がありましたが、それもお断りしました。(これは文献報告はされていない。当ネットワークの第14回市民講座で開業医の妻が語った。)

死亡宣告前・心停止ドナー候補者としての管理中の蘇生例:スペインのマドリードでは、院外で心停止した患者に15分間から30分間の蘇生処置を行っても蘇生しない場合、「目撃のある心停止例、1~55歳」ほかの条件を満たすと心停止ドナー候補者とし、人工呼吸と胸骨圧迫を継続しつつ、臓器を摘出する病院に移送する。病院到着後、蘇生処置を停止し、死の徴候を5分間以上観察した後に死亡を宣告する。臓器移植チームに引き継がれ、カテーテルを挿入して人工心肺で血液循環が維持され、患者の家族が臓器提供を承諾したら臓器が摘出される。2009年は28名の心停止ドナー候補者が臓器摘出病院に移送された。このほかに、心停止ドナー候補とされた3人が、機械式胸骨圧迫装置を装着されて臓器摘出病院に移送されている時に心拍が再開し、うち1人は神経機能が良好に回復した。
出典:Alonso Mateos-Rodríguez: Kidney Transplant Function Using Organs From Non-Heart-Beating Donors Maintained by Mechanical Chest Compressions, Resuscitation ,81(7),904-907,2010
https://www.resuscitationjournal.com/article/S0300-9572(10)00254-6/abstract(抄録)


注4、心臓が停止した死後と称する臓器提供の問題点
 心臓の再拍動が観察されていない心停止後の臓器提供にも重大な問題がある。それは臓器摘出手術の一部を心停止前から行い、さらに心停止の継続を一瞬から数分間(症例により異なる)という極めて短時間しか観察していないことだ。一時的かもしれない心停止があった直後から急速に臓器摘出手術が進められ、血管が切断され血液が大量に失われることにより、自然に蘇生する可能性のあった患者であっても心臓死を強要されている可能性がある。

24時間観察しない死亡宣告の不確実性従来から死の三徴候「心臓の拍動停止・呼吸停止・瞳孔の散大固定」を確認して死亡が宣告されているが、死亡宣告を誤った実例があることから、死亡宣告から24時間以上経過しないと埋葬は行われてこなかった。しかし、血液は流動しなくなると20分ほどで凝固しはじる。少量の血栓ならば取り除いたり溶かせるが、血液が血管の大部分で凝固してしまったら除去する手段はない。毛細血管のなかで一部分でも血液が凝固していると、その部分から先の臓器機能が失われるため、血流の停止時間は短いほど移植後の臓器機能の発揮が期待できる。このため臓器提供を予定した心臓死宣告は、死の三徴候の24時間継続を確認することはできず、死の不確実性が高い。

臓器摘出手術による自然蘇生の阻止、死の確定:心停止後の腎臓摘出で一般的に採用されている方法が「潅流用カテーテル(ダブルバルーンカテーテル)による臓器の潅流冷却」だ。これは臓器提供者の動脈内でバルーンを膨らませて動脈を閉塞し、冷却潅流液を注入しつつ、静脈から脱血し、腎臓を冷却した後に摘出する。動脈閉塞と脱血により、臓器摘出手術の最中に心臓の拍動が観察される可能性は極めて低くなる。
 1993年8月10日、柳田洋二郎氏(25歳)に生前からダブルバルーンカテーテルが挿入され、血圧50mmHgの時点(心停止する前)でバルーンの拡張・冷却潅流液の注入・静脈からの脱血が開始された(柳田邦男:犠牲 サクリファイス、文芸春秋、1995年)。これは移植用臓器を獲得する目的で、人為的な動脈閉塞・脱血によるショック死を起こしたの
ではないか?

死亡宣告前から行う臓器提供目的の処置の違法性:刑法35条は正当行為は罰しないと規定している。瀕死患者を救命あるいは苦痛を緩和するための処置ならば、医療としては正当行為になるが、その生きている瀕死患者から移植用臓器を獲得するための処置(ダブルバルーンカテーテルの挿入、抗血液凝固剤ヘパリンの投与、心臓死宣告後の胸骨圧迫・人工心肺による血液循環ほか)は移植待機患者のための処置となり、傷害罪あるいは殺人罪に問われるべき行為になる。

潅流用カテーテルの挿入日本臓器移植ネットワークによると、1995年 4 月~2003年 12月末の心停止下献腎移植1279例において人工呼吸の停止は280例(21.9%)、カテーテル挿入あり876 例(68.5%)に行われた。
出典:日本臓器移植ネットワーク、社団法人 日本臓器移植ネットワークからの報告、移植、39(3)、 359-374、2004

 直近の2023年の統計によると、心停止ドナーへの生前からのカテーテル挿入は44.8%に行われた。(生前にカテーテルの挿入が行えない場合も、心停止後にカテーテルを挿入して、腎臓を潅流冷却した後に腎臓を摘出する手順が一般的に行われている)
出典: 腎移植臨床登録集計報告(2024)2023年実施症例の集計報告と追跡調査結果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jst/59/3/59_217/_pdf/-char/ja

 生前からのカテーテル挿入を、政府は「身体に対する侵襲性が極めて軽微であることから、救命治療をつくしたにも関わらず脳死状態と診断された後においてこれらの措置を家族の承諾に基づいて行うことは、臓器移植法および旧角膜腎臓移植法が予定している行為であると考えられる」としている。
出典:心臓が停止した死後の腎臓提供に関する提供施設マニュアル、p21
https://www.jotnw.or.jp/files/page/medical/manual/doc/zinzo-teikyo-manual.pdf

 カテーテルを挿入するにはメスで皮膚、筋膜そして血管を切開しなければならない。またカテーテルが血管内にあると血行を阻害する。これらの行為が「身体に対する侵襲性が極めて軽微」とは詭弁である。文部科学省・厚生労働省・経済産業省が示す「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針ガイダンス(令和5年4月 17日一部改訂)」https://www.mhlw.go.jp/content/001087864.pdf
も、p7 で侵襲の用語定義を“研究目的で行われる、穿刺、切開、薬物投与、放射線照射、心的外傷に触れる質問等によって、研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担が生じることをいう。侵襲のうち、研究対象者の身体又は精神に生じる傷害又は負担が小さいものを「軽微な侵襲」という”としている。
 「法的脳死臓器提供手続きとは別に、脳死状態を確認した心停止後の臓器提供がある」との政策、つまり「一層、簡易な脳死判定で生命維持を終了し臓器提供者数を増やそうとする政策」を採用してきたことに重大な問題がある。

抗血液凝固剤ヘパリンの投与:臓器のなかで血液が凝固していたら移植には使えないため、抗血液凝固剤ヘパリンが投与される。臓器提供施設マニュアルは、(カテーテル挿入と同様に)脳死状態を確認して患者家族の同意を得たら生前に投与してよいとしている。心停止後の投与となった場合も胸骨圧迫(心臓マッサージ)あるいは人工心肺による血液循環で、このクスリを全身に行き渡らせるようにしている。胸骨圧迫あるいは人工心肺を使うならば、臓器提供者が蘇生したり意識を回復する可能性を高めてしまう。移植用臓器を得るために血流が不可欠という現実は、「心臓が停止した死後」と称する臓器提供が虚構であることを示す。
 血液を固まらないように作用するヘパリンは、脳血管障害患者や外傷患者に使うと再出血させて病状を悪化させる可能性が高いことから原則投与してはならないとされているクスリだ。一方、心停止および脳死ドナーの6割以上は脳血管障害患者や外傷患者だ。日本臓器移植ネットワークがドナー候補者家族に用いている説明文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと(心停止後提供)」https://www.jotnw.or.jp/files/page/medical/manual/doc/family_2_jp.pdfは、ヘパリンを投与すると再出血をさせて苦しませる可能性、胸骨圧迫などにより蘇生させる可能性を説明していない。 

「心停止の継続を20分間観察している」との虚構:心停止ドナーに人工心肺をつないで、そのドナーの体内で心臓を蘇生させたのちに摘出し移植することも行われている。
出典:Gino Gerosa :Overcoming the Boundaries of Heart Warm Ischemia in Donation After Circulatory Death: The Padua Case
,ASAIO Journal,70(8),e113-e117,2024
https://journals.lww.com/asaiojournal/fulltext/2024/08000/overcoming_the_boundaries_of_heart_warm_ischemia.16.aspx

 上記のイタリアの心停止後の心臓提供は、心停止の継続を同国規定の20分間、移植医がドナーに触らないノータッチ時間として確認しているが、生前からのカテーテル挿入、抗血液凝固剤ヘパリンの投与などを行っており、形式的な観察時間でしかない。

 刈谷総合病院からは50歳男性が心室細動(心筋が不規則に収縮して心臓が正常に拍動しない状態)が20分継続し、発見時に呼吸停止、瞳孔散大していたが、6か月後に軽度高次脳機能障害で退院できたことが報告されている。
出典:大久保一浩:20分にもおよぶ心停止後生存退院できた1例、蘇生、18(3)、203、1999
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjreanimatology1983/18/3/18_3_193/_pdf/-char/ja
 これは心停止を20分間観察しても、その時点で脳が不可逆的な機能停止に陥っていない患者がいることを示す。まして、移植用臓器を得る目的で人工心肺による血液循環を再開するならば、臓器摘出時に生体解剖になることを恐れなければならない。生前からの抗血液凝固剤ヘパリンの投与で再出血させ、カテーテル挿入で傷害を与えた後に、さらに意識がありうる状態で臓器を切り取っていいのだろうか?
 移植用に心臓の提供が可能な心停止ドナーは、一旦、心停止させても、移植して蘇生させたら、その心臓は良好に機能すると見込まれる患者がドナーに選ばれる。「このまま人工呼吸など生命を維持する処置を続ければ生きられるが、あえて生命維持を終了して、あるいは薬物で『安楽』死させて、一旦は心臓死宣告をする。その後に、再びドナーの体内で心臓を拍動させてから摘出する」という行為を、正当化してよいのであろうか?

 このほか、生前から臓器提供を見据えた管理も行われている。当ブログでは第14回市民講座講演録「心停止後の臓器提供は問題ないのか?生体解剖の恐れあり!」で各種の問題点を指摘した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 米国ケンタッキー州のバプティスト・ヘルス・リッチモンド病院で、2021年10月25日、脳死とされたアンソニー・トーマス・フーバー・ジュニアさんからの臓器摘出手術が中止された。2024年10月現在、アンソニーさんは記憶、言語、運動能力に問題はあるが家事もこなしている。
 この事件は2024年9月11日に開催された米国議会の下院エネルギー・商業委員会の公聴会においても取り上げられ、ドナーからの臓器摘出手術に従事している外科医2名が、同様の経験(脳死臓器摘出手術の中止)を証言した。

 

 2021年10月25日、アンソニー・トーマス・フーバー・ジュニアさんは、心停止でケンタッキー州のバプティスト・ヘルス・リッチモンド病院に入院した。10月26日に脳の活動が無いと説明され、翌日、家族は生命維持装置を外すことを決定した。その時、臓器提供を登録していると言われ、その後2日間、提供可能な臓器について検査。金曜日の午後、臓器提供の手術室に向かう名誉ウォークの時にアンソニーさんの目が開き追視していたが、病院側は反射だとした。臓器摘出手術の開始から約1時間後、医者が出てきてドナ・ローラさんにアンソニーさんが目を覚ましたといった。ローラさんはアンソニーさんを家に連れて帰り3年が経過している。

出典:2024年10月18日付 WKYT記事
Kentucky family fights for reform after man wakes up just before organ donor surgery
https://www.wkyt.com/2024/10/18/they-finally-stopped-procedure-because-he-was-showing-too-many-signs-life-family-fights-organ-procurement-organizations-reform/

 

 バプティスト・ヘルス・リッチモンド病院の看護師ナターシャ・ミラーさんは、アンソニーさんから提供される臓器を保存する準備をしていた。アンソニーさんはベッドの上でのたうち回り泣いていた。そのドナーの状態は手術室の全員を驚かせ、臓器摘出担当の医師は「関わりたくない」と拒否した。ドナーコーディネーターは上司にアドバイスを求め、上司は他の医者を見つける必要があるといったが、誰もおらず臓器摘出は中止となった。

 臓器調達機関Kentucky Organ Donor Affiliates, Inc. (KODA) の臓器保存後術者ニコレッタ・マーティンは、その日の朝、ドナーの記録を読んだ。ドナーは、その朝、心臓カテーテル検査のための手術中に目を覚まし、テーブルの上でのたうち回っていた。医師はドナーが目を覚ました時に鎮静剤を投与し、臓器を摘出する計画だったという。

 臓器調達機関は、この事件は正確に報道されていない。生きている患者から臓器を採取するように圧力をかけたことは一度もない、と述べた。

出典:2024年10月17日付 NPR記事
‘Horrifying’ mistake to take organs from a living person was averted, witnesses say

https://www.npr.org/sections/shots-health-news/2024/10/16/nx-s1-5113976/organ-transplantion-mistake-brain-dead-surgery-still-alive

 

 ネットワークネットワーク・フォー・ホープのウェブサイトhttps://www.networkforhope.org/news-media/ は2021年10月の事件についてA Message From Network for Hopeのなかで、要旨「潜在的な脳死臓器提供症例ではなく、潜在的な心臓死後の臓器提供症例だった。患者家族は、生命維持を中止し、患者が心停止に進行した後にのみ、死亡宣告する事を理解していた」と主張している。

 

 2024年9月11日に開催された米国議会の下院エネルギー・商業委員会の公聴会において、アンソニー・トーマス・フーバー・ジュニアさんの事件についても取り上げられた。
 
 臓器調達プロセスの改革を求める団体の代表であるグレッグ・シーガルは、証人陳述書https://docs.house.gov/meetings/IF/IF02/20240911/117624/HMTG-118-IF02-Wstate-SegalG-20240911.pdf のなかで以下を記載している。
 It was during our time at HHS that I became overwhelmed with whistleblower allegations of widespread abuse within the Organ Procurement and Transplantation Network (OPTN), including credible allegations of:(保健福祉省に在籍していたとき、私は臓器調達移植ネットワーク(OPTN)内での広範な虐待の内部告発の申し立てに圧倒されました。これには、次のような信憑性のある申し立てが含まれます)
 (中略)Unsafe patient care, including the hastening of death with fentanyl and the falsification of medical records, as well as lying to donor families; The harvesting of organs from patients who whistleblowers believe would otherwise have survived;(フェンタニルによる死の促進や医療記録の改ざん、ドナーの家族への嘘など、安全でない患者ケア;内部告発者が、本来であれば生き延びていたであろうと信じる患者からの臓器摘出;)

 

 公聴会の会議録(2024年10月3日更新版を10月29日に閲覧)https://docs.house.gov/meetings/IF/IF02/20240911/117624/HMTG-118-IF02-Transcript-20240911.pdf によると、アラバマ大学バーミンガム校の肝臓移植外科医であるロバート・キャノンは、脳死判定の誤診については以下を証言した。

会議録p30
 I've had an OPO administrator recommend I proceed with organ procurement despite legitimate concerns that the donor was still alive. 私は、ドナーがまだ生きているという正当な懸念にもかかわらず、OPOの管理者に臓器調達を進めることを勧められました)

会議録p46~p47
 I've experienced this myself, unfortunately, as a donor surgeon.  We went on a procurement, the donor had been declared brain dead.  We were actually in the midst of the operation when the anesthetist at the head of the table said they thought the patient breathed, which would essentially negate the declaration of brain death.(残念ながら、私自身もドナー外科医としてこの経験をしています。私たちは臓器摘出に行き、そのドナーは脳死と宣言されていました。臓器摘出手術の真っ最中に、手術台の先にいた麻酔科医が、患者が呼吸したと思うと言いました。それは本質的に脳死宣告を否定するでしょう)

 The staff on the ground called their administrator, whose recommendation was, "Oh, I think this is just a brainstem reflex, we recommend you proceed,'' which, of course, would have been murder if we had done so.  So yes, we closed the patient, and we got out of Dodge, and wanted nothing to do with it.(現場のスタッフは管理者に電話をかけましたが、その勧告は「ああ、これは単なる脳幹反射だと思います。(臓器摘出を:当ブログの補足)続行することをお勧めします」というものでした。もちろん、そうしていたら殺人になっていたでしょう。ですから、私たちは患者(の腹部:当ブログの補足)を閉じ、手術室から出て、それと関わりたくありませんでした)

 The patient was ultimately declared later, and they called us two days later.  And of course, we wanted nothing to do with that because we couldn't trust the process.  Every transplant surgeon has probably got a story of themselves or a colleague who's had something like this.(結局、患者は後で宣告され、2日後に私たちに電話がかかってきました。そしてもちろん、私たちはプロセスを信頼することができなかったので、それとは関わりたくありませんでした。移植外科医なら誰でも、自分自身や同僚がこのような経験をしたことがあるでしょう)

 

 セス・カープ博士(ヴァンダービルト大学医療センター外科医長)も同様の経験を証言した。

会議録p45~p46
 I go to a donor hospital, and it's not infrequent that something comes up around the donor and whether or not the donor is dead.(私が臓器提供病院に行くと、臓器提供者について、あるいは臓器提供者が死亡しているかどうかについて何か問題が起きることは珍しくありません。) 

会議録p101
 Yes.  So I want to make it clear that that's very, very rare.  But there are times when we feel that a patient is dead, and something happens that makes us wonder about that.  And if I'm doing the donor or if one of my colleagues is doing the donor, everything stops immediately. If anybody says, "Wait, I'm uncomfortable with this,'' everything stops.  And I have personally made sure that that happens.  My colleagues do the same thing, and everybody in our group does exactly the same thing.(はい。ですから、それは非常に稀なことだということを明確にしておきたいと思います。しかし、患者さんが亡くなったと感じ、何かが起こり、それについて疑問に思うことがあります。そして、私または同僚の誰かがドナー(に臓器摘出手術:当ブログの補足))をしている場合、すべてがすぐに停止します。もし誰かが「待って、これは不快だ」と言うと、すべてが止まります。そして、私は個人的にそれが起こることを確認しました。私の同僚も同じことをしていますし、私たちのグループの誰もがまったく同じことをしています)」

 

 United Network for Organ Sharing(UNOS)は9月13日に反論する文章「UNOS fires back at defamatory statements that it has acted unlawfully」をhttps://newsdirect.com/news/unos-fires-back-at-defamatory-statements-that-it-has-acted-unlawfully-990329133 に掲載した。

 生命徴候のあるドナーから臓器を摘出した、共謀または過失を犯したとの陳述に対する反論の概要は
「病院の医療スタッフは、適用される州法または規制に従って、独立した臨床的判断を下す。臓器摘出は、病院の医療スタッフによって死亡が宣言されるまで行われない。OPOのスタッフも移植専門家も死亡判定には関与していない。まれに、死亡宣告前にドナー候補の臨床状況が変化した場合、関係するすべてのドナーおよび移植の臨床医は直ちに活動を停止し、病院が必要に応じて支持療法を提供できるようにする」。(当ブログ注:死後に臓器摘出を予定されたドナー候補者の状態が変化しうることを認めている。しかし死亡宣告後に誤診が発覚した場合の対応は記載していない)
原文は以下。

Statement: The OPTN, and/or individual OPOs, have been complicit or negligent in circumstances where potential donors have shown signs of life. (Segal)
False. In any situation involving deceased donation, the medical staff of the hospital make independent clinical determinations as to whether death has occurred or is imminent, according with the hospital’s own policy and applicable state laws or regulation. Organ recovery will not occur until death has been declared by the medical staff at the hospital. Neither OPO staff nor transplant professionals are involved in the determination of death. In the rare occasion that the clinical situation of a potential donor changes prior to a death declaration, all involved donation and transplant clinicians will immediately cease their activity and allow the hospital to provide supportive care as appropriate.
OPOs must adhere to a complex framework of rules and regulations generated by CMS, the OPTN, and the states in which they operate. Any potential violations of OPTN policies or bylaws that are reported to the OPTN are investigated by the OPTN’s Membership & Professional Standards Committee (MPSC), a committee on which HRSA representatives serve.

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2022年4月24日にチェルトナムの路上で殴られたジェームズ・ハワード・ジョーンズさん(28歳)は、病院に搬送され緊急手術を受けたが、数週間後に医師は家族に「ジェームズさんは脳死です、私たちにできる最も親切なことは彼を死なせることです(Within the first couple of weeks we were told by the doctors treating James that he was brain dead and the kindest thing we could do was to let him die)」と説明した。家族は臓器提供に同意した。家族や友人がジェームズさんに別れを告げることができるように、臓器提供を一週間遅らせた。ジェームズさんは、生命維持装置がオフにされる直前に意識を回復した。
 2023年7月現在、ジェームズさんに重度の精神的肉体的障害はあるが毎日、車イスを数時間使うことができる、平行棒を使って歩き始めている。

出典=Man declared brain dead after being punched on a night out wakes up just before his life support was about to be switched off
https://www.dailymail.co.uk/news/article-12269037/Man-declared-brain-dead-wakes-just-life-support-switched-off.html

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 米国ウェストバージニア州のエリック・エリスさん(36歳)は転落事故後に脳死とされ、家族は臓器提供に同意したものの、臓器摘出の直前に左腕を動かしたためICUに戻された。フェイスブックをみると受傷は2020年9月上旬(9月5日?)、9月11日(金)に回復の徴候。9月13日に開眼、見当識障害。10月23日に自力で食事、会話、トイレまで歩行。11月4日に帰宅。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=‘Miracle’; WV man comes back to life after ‘officially deemed’ brain dead
https://myfox8.com/news/miracle-wv-man-comes-back-to-life-after-officially-deemed-brain-dead/
出典=フェイスブックhttps://www.facebook.com/eric.ellis.52

 

 

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に脳死ではないことが発覚した症例次ページに続きます。

 

4-2を新しいウィンドウで開く  4-3を新しいウィンドウで開く 4-4を新しいウィンドウで開く


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする