あれから時間が長く過ぎてしまいましたが、ここを残せたらと。
それが何をあらわしているのか。
指先や、眼で、
気持ちを感じたくて。
毎日を祈りながら過ごしている。
少し動く空気の澱みに、
テーブルの上のページがめくれる。
揺れる樹の葉の重なる影に、
聴こえるはずのない音がする。
それが何かのきっかけではないかと、
期待して、
手探りで探しても、
そんな日はほとんど、あらわれてはくれない。
人の心を奪い、気持ちを揺さぶる。
嫉妬する。
あんなふうに穏やかな沈黙が、
僕の中にも満ちることを。
願い続ける。
そこから立ち去ることが惜しいと感じる。
そこに立ったままで、
その中に共存したい。
辿り着くまで。
そしてそれは、手の中で愛される。
気持ちを揺るがないように伝える為に。
真っ直ぐに削いでゆく。
それを手に取って、
そのみずみずしい香りを、慈しみたい。
わずらわしい感覚を、
カタチにして、
残しておきたい。
だんだんと解らなくなっていることが、
自分で気付いているうちに。
この手が、意志に因って動かせる。
自分の名前が、解るうちに。
それを手の中で、愛したい。
指先や、眼で、
気持ちを感じたくて。
毎日を祈りながら過ごしている。
少し動く空気の澱みに、
テーブルの上のページがめくれる。
揺れる樹の葉の重なる影に、
聴こえるはずのない音がする。
それが何かのきっかけではないかと、
期待して、
手探りで探しても、
そんな日はほとんど、あらわれてはくれない。
人の心を奪い、気持ちを揺さぶる。
嫉妬する。
あんなふうに穏やかな沈黙が、
僕の中にも満ちることを。
願い続ける。
そこから立ち去ることが惜しいと感じる。
そこに立ったままで、
その中に共存したい。
辿り着くまで。
そしてそれは、手の中で愛される。
気持ちを揺るがないように伝える為に。
真っ直ぐに削いでゆく。
それを手に取って、
そのみずみずしい香りを、慈しみたい。
わずらわしい感覚を、
カタチにして、
残しておきたい。
だんだんと解らなくなっていることが、
自分で気付いているうちに。
この手が、意志に因って動かせる。
自分の名前が、解るうちに。
それを手の中で、愛したい。
雨の日に、
羽根を休める場所が、同じだったから、
ささやき続けたミツバチ達は、
僕の耳元から、飛び去ってしまった。
帰るところがあると云うこと。
小さな庭の片隅を覆う、
四枚の葉を、知らぬ間に踏みつぶしてしまってた。
自分の分では足りなくて。
小さな手を差し伸べる、
大切な人たちの育てた分までも。
また春が来るまでは、
その葉が開くのを待ち続ける。
手は汚れ、歩くその後に足跡をつけても、
大切な人たちの中を、
この気持ちで染める事はできない。
背負うモノの中から、精一杯の、
ふさわしい言葉を探しているうちに、
大事なことを見失う。
持ち合わせがないことにだけ、気付かされる。
そして遠くに去ってしまった。
追いつくまで、歩けるだろうか。
浅い眠りに落ちる前に、
出口を見つける事はできない。
けれどその向こう側に、
光が射すことを感謝しよう。
必ず目が覚めるのだと、感じることができるなら、
凍えるようなベッドであっても、
身体を預け、安心してその眠りに倒れ込むことができる。
目覚めた時に雨が降っていても、
また眠りに落ちるまで、
降り続く雨はない。
雨は大事なモノを連れて来て、
光とともにぬぐい去る。
それでも僕の中には、しっかりと昨日が残っている。
数えられる毎日が、
これからも続くように。
もうすぐ僕は、時間の順序が解らなくなる。
大事だった時間だけが、
毎日繰り返し訪れるようになってしまう。
それに解き放たれることが出来なくなっても。
僕が自分を感じていられるうちに。
いつか感じられなくなる前に。
またみなさんに会いたい。
今まで本当にありがとうございました。
みなさんの心のこもった声に励まされ続けてきました。
とても感謝しています。
また何処かで会えることが出来ることを祈っています。
声を残して下さった方々には、
突然のご迷惑を、お詫びします。
さようなら。
羽根を休める場所が、同じだったから、
ささやき続けたミツバチ達は、
僕の耳元から、飛び去ってしまった。
帰るところがあると云うこと。
小さな庭の片隅を覆う、
四枚の葉を、知らぬ間に踏みつぶしてしまってた。
自分の分では足りなくて。
小さな手を差し伸べる、
大切な人たちの育てた分までも。
また春が来るまでは、
その葉が開くのを待ち続ける。
手は汚れ、歩くその後に足跡をつけても、
大切な人たちの中を、
この気持ちで染める事はできない。
背負うモノの中から、精一杯の、
ふさわしい言葉を探しているうちに、
大事なことを見失う。
持ち合わせがないことにだけ、気付かされる。
そして遠くに去ってしまった。
追いつくまで、歩けるだろうか。
浅い眠りに落ちる前に、
出口を見つける事はできない。
けれどその向こう側に、
光が射すことを感謝しよう。
必ず目が覚めるのだと、感じることができるなら、
凍えるようなベッドであっても、
身体を預け、安心してその眠りに倒れ込むことができる。
目覚めた時に雨が降っていても、
また眠りに落ちるまで、
降り続く雨はない。
雨は大事なモノを連れて来て、
光とともにぬぐい去る。
それでも僕の中には、しっかりと昨日が残っている。
数えられる毎日が、
これからも続くように。
もうすぐ僕は、時間の順序が解らなくなる。
大事だった時間だけが、
毎日繰り返し訪れるようになってしまう。
それに解き放たれることが出来なくなっても。
僕が自分を感じていられるうちに。
いつか感じられなくなる前に。
またみなさんに会いたい。
今まで本当にありがとうございました。
みなさんの心のこもった声に励まされ続けてきました。
とても感謝しています。
また何処かで会えることが出来ることを祈っています。
声を残して下さった方々には、
突然のご迷惑を、お詫びします。
さようなら。
僕はとても幸せでした。
そして、この上なく幸運でした。
僕のこのページに集まって下さるみなさんは、
ここに気持ちを持ち寄って、
僕を支え、このページを支え、
そうして、あの静かな空気を生み出してくれています。
そして、その身をもって、
大切なことが何かを教えてくれる。
勿論今これを読んで下さっているあなたもその一人です。
僕の荷物を降ろしてくれようとしてくれる。
僕の言葉を受け止めようとしてくれる。
確かに決してたくさんという人数ではありません。
おそらくお会いすれば、
その顔を憶えてしまえる程度の人数なのでしょう。
けれど、その方達が、
繰り返し訊ねて来てくれる。
気にかけていてくれること。
本当に嬉しかった。
みなさんが僕の器に注ぎ込んでくれるひと匙が、
僕を溢れさせ、
僕の身体を震わせる。
僕には何のチカラもない。
一人で何かを支えることができるような、
能力を持ってはいない。
誰かを悲しませる事は出来ても、
誰かを支えるチカラはないのに、
みなさんは、柔らかく、温かく、
包んで下さった。
思いやり。
寂しさと悲しさで形作られたこのページは、
そんな心のこもった言葉に包まれて、
いままでずっと成り立つことが出来てきました。
本当にありがとうございます。
感謝しています。
そして、この上なく幸運でした。
僕のこのページに集まって下さるみなさんは、
ここに気持ちを持ち寄って、
僕を支え、このページを支え、
そうして、あの静かな空気を生み出してくれています。
そして、その身をもって、
大切なことが何かを教えてくれる。
勿論今これを読んで下さっているあなたもその一人です。
僕の荷物を降ろしてくれようとしてくれる。
僕の言葉を受け止めようとしてくれる。
確かに決してたくさんという人数ではありません。
おそらくお会いすれば、
その顔を憶えてしまえる程度の人数なのでしょう。
けれど、その方達が、
繰り返し訊ねて来てくれる。
気にかけていてくれること。
本当に嬉しかった。
みなさんが僕の器に注ぎ込んでくれるひと匙が、
僕を溢れさせ、
僕の身体を震わせる。
僕には何のチカラもない。
一人で何かを支えることができるような、
能力を持ってはいない。
誰かを悲しませる事は出来ても、
誰かを支えるチカラはないのに、
みなさんは、柔らかく、温かく、
包んで下さった。
思いやり。
寂しさと悲しさで形作られたこのページは、
そんな心のこもった言葉に包まれて、
いままでずっと成り立つことが出来てきました。
本当にありがとうございます。
感謝しています。
この指は、
僕のモノのはずなのに、
けれど、僕の言うことを聞かない。
ちゃんと動く。
でも、僕の意志とは離れ、自由だ。
それは自立していて、何にも属さない。
みんなはそれを知らない。
ただ見ただけでは判らない。
だから気付かれないでやり過ごして来た。
子供の頃からそうだった。
僕には当たり前のことだった。
やりきれない。
繰り返される。
指は、何処かに落ち着こうと、焦る。
その先を求めて、
手当りしだいに動き回る。
せわしない動きに疲れ、
投げやりに放り出す。
指先の力は、示される前に呑み込まれる。
その動きを僕の眼が追いかける。
あの人は、それを知っていた。
「あなたの指」とか「彼の指」とか、
それを呼ぶことはない。
僕から独立した突起であることを判っている。
まるでモノのように、「その指」と呼んでいた。
時には自分の所有物のように、それを呼んだ。
指は落ち着きなく這い廻る。
手探りでその落ち着く先を探している。
緩やかな勾配を昇り、
縊れた曲り角で折り返す。
僕の呼吸とは別に、
リズムが狂い、弧を描く。
刻む。
凍えたガラスの曇りを拭う。
滑り落ちるしずくを、掬おうとする。
間にあわなくて、滴り落ちる。
溶けて絡み付く感覚に、僕は戸惑ってしまう。
音のない言葉を隠し持っていて、
その身体に、
震えるのを伝えている。
それは上手に嘘をつく。
僕のモノのはずなのに、
けれど、僕の言うことを聞かない。
ちゃんと動く。
でも、僕の意志とは離れ、自由だ。
それは自立していて、何にも属さない。
みんなはそれを知らない。
ただ見ただけでは判らない。
だから気付かれないでやり過ごして来た。
子供の頃からそうだった。
僕には当たり前のことだった。
やりきれない。
繰り返される。
指は、何処かに落ち着こうと、焦る。
その先を求めて、
手当りしだいに動き回る。
せわしない動きに疲れ、
投げやりに放り出す。
指先の力は、示される前に呑み込まれる。
その動きを僕の眼が追いかける。
あの人は、それを知っていた。
「あなたの指」とか「彼の指」とか、
それを呼ぶことはない。
僕から独立した突起であることを判っている。
まるでモノのように、「その指」と呼んでいた。
時には自分の所有物のように、それを呼んだ。
指は落ち着きなく這い廻る。
手探りでその落ち着く先を探している。
緩やかな勾配を昇り、
縊れた曲り角で折り返す。
僕の呼吸とは別に、
リズムが狂い、弧を描く。
刻む。
凍えたガラスの曇りを拭う。
滑り落ちるしずくを、掬おうとする。
間にあわなくて、滴り落ちる。
溶けて絡み付く感覚に、僕は戸惑ってしまう。
音のない言葉を隠し持っていて、
その身体に、
震えるのを伝えている。
それは上手に嘘をつく。
砂浜に、
遠くから流れ着く、
破片を拾い集めながら、歩いてみる。
誰かの足跡がまだ新しい。
そうして刻まれた足跡を、
順序とは逆になぞってゆく。
時にはその行く先を見失い、
また何処かでつじつまが合う。
あなたは何処か遠くで、それを眺めている。
僕は拾い集めたモノを、
あなたの目の前に並べて、
ひとつひとつ、その物語を話している。
あなたはそれにうなずいて、
僕を小さく満足させる。
あなたは知らぬ間に種を蒔き、
僕はそれを、
芽が出た時に初めて知る。
長い時間の末にようやく、
その豊穣を収穫する時が来る。
初めて、何の種子なのかを、
その手の中で知ることになる。
その手の中で確認する。
枝を繁らせ、
花が咲き、
またその種子が実る頃に、
その葉の影に、面影を見る。
すべては巡り、繰り返される。
光を遮る葉の影で、さらさらと撓む音を聴く。
それを僕は、知らされる。
それを僕は、思い出す。
あなたの声をそこに聴く。
遠くから流れ着く、
破片を拾い集めながら、歩いてみる。
誰かの足跡がまだ新しい。
そうして刻まれた足跡を、
順序とは逆になぞってゆく。
時にはその行く先を見失い、
また何処かでつじつまが合う。
あなたは何処か遠くで、それを眺めている。
僕は拾い集めたモノを、
あなたの目の前に並べて、
ひとつひとつ、その物語を話している。
あなたはそれにうなずいて、
僕を小さく満足させる。
あなたは知らぬ間に種を蒔き、
僕はそれを、
芽が出た時に初めて知る。
長い時間の末にようやく、
その豊穣を収穫する時が来る。
初めて、何の種子なのかを、
その手の中で知ることになる。
その手の中で確認する。
枝を繁らせ、
花が咲き、
またその種子が実る頃に、
その葉の影に、面影を見る。
すべては巡り、繰り返される。
光を遮る葉の影で、さらさらと撓む音を聴く。
それを僕は、知らされる。
それを僕は、思い出す。
あなたの声をそこに聴く。
ただ、あの人が下を向く。
それだけで空に雲がかかる。
眉の間にしわを寄せると、
もうすぐ雨が降り出しそうで。
まつげが何度も上下する。
真一文字に唇をひく。
どうしたらいいのか判らなくて、
足許を覗き込む。
声をかける勇気が欲しい。
靴の紐の結び目を、
呼ばれるまで何度も目で辿る。
指は、その居場所をなくして、
何処かで動いている。
こんな時こそ、電話が鳴ればいい。
誰かが救い出してくれるのを、
手持ち無沙汰で待っている。
僕に何ができるのだろう。
悲しそうな顔を見ると、拭き取ってあげたくて。
それを分けてもらっても、
あの人のつらさは減らないけれど。
僕の時間を差し出して、
その精一杯があの人には足りなくても、
少しでも、拭き取ってあげられれば。
指はまだ靴紐を辿る。
手を伸ばせばその頬に届くのに。
そのわずかな距離を埋められない。
その道のりを辿れない。
それでも拭き取ってあげられるなら。
まだ雲は晴れないけれど。
それだけで空に雲がかかる。
眉の間にしわを寄せると、
もうすぐ雨が降り出しそうで。
まつげが何度も上下する。
真一文字に唇をひく。
どうしたらいいのか判らなくて、
足許を覗き込む。
声をかける勇気が欲しい。
靴の紐の結び目を、
呼ばれるまで何度も目で辿る。
指は、その居場所をなくして、
何処かで動いている。
こんな時こそ、電話が鳴ればいい。
誰かが救い出してくれるのを、
手持ち無沙汰で待っている。
僕に何ができるのだろう。
悲しそうな顔を見ると、拭き取ってあげたくて。
それを分けてもらっても、
あの人のつらさは減らないけれど。
僕の時間を差し出して、
その精一杯があの人には足りなくても、
少しでも、拭き取ってあげられれば。
指はまだ靴紐を辿る。
手を伸ばせばその頬に届くのに。
そのわずかな距離を埋められない。
その道のりを辿れない。
それでも拭き取ってあげられるなら。
まだ雲は晴れないけれど。
その度にそれを望んでいた。
あの静かな犬のように、
その足に纏わりついて、
まわりを巡る。
背が触れるように、そこに座る。
顎を足の上に載せ、
そこにいることが当たり前のように、
振る舞うことができるなら。
その名前を呼んでみる。
身体が絞り出す。
声は喉から出る直前に、
目の前で垂直に堕ちてゆく。
誰かがそれを耳にする事はない。
柔らかな肌を感じて、
背骨に波が押し寄せる。
それを僕に見せてくれる。
震えが、
口移しするように、
身体の中に染み渡る。
そこから外へと沁み出してゆく。
ほんの少し、その尾を動かせば、
微かにすねに触れる場所。
少しでも近くに。
表面積を、探し当てる。
その匂いが、
何処から来るのかを伝えたい。
もういちど、
名前を呼んでみる。
糸がその揺れを辿り、
余白が、それを埋める。
ひとしずくで、溢れてしまう。
スプーン一杯で充分。
あの静かな犬のように、
その足に纏わりついて、
まわりを巡る。
背が触れるように、そこに座る。
顎を足の上に載せ、
そこにいることが当たり前のように、
振る舞うことができるなら。
その名前を呼んでみる。
身体が絞り出す。
声は喉から出る直前に、
目の前で垂直に堕ちてゆく。
誰かがそれを耳にする事はない。
柔らかな肌を感じて、
背骨に波が押し寄せる。
それを僕に見せてくれる。
震えが、
口移しするように、
身体の中に染み渡る。
そこから外へと沁み出してゆく。
ほんの少し、その尾を動かせば、
微かにすねに触れる場所。
少しでも近くに。
表面積を、探し当てる。
その匂いが、
何処から来るのかを伝えたい。
もういちど、
名前を呼んでみる。
糸がその揺れを辿り、
余白が、それを埋める。
ひとしずくで、溢れてしまう。
スプーン一杯で充分。
そんな日は、
ポツポツ降る雨を拭う、
ワイパーの動きを見ても、泣けて来る。
フロントシールドを滑り落ちるしずくも、
誰かの笑顔も、
とらなかった電話も、
滲みをつくる原因になるのに、充分。
西の空の色が変わる。
それが窓のガラスに映る。
降り積もる光がコップから溢れるのを、
急いで両手で掬いとろうとしても、
目の前が滲んで、
定まらない。
匂いも、仕草も、肌触りも、
眼を瞑ってやり過ごしても、胸を絞める。
食べ残しだって、
汚れた皿も。
破いたページも。
滲む文字が浮かび上がる。
大きな音で曲を聴いたら、
言葉にならない音を出して、
からっぽになるまで叫ぶ。
涙は、雨の中に隠せばいい。
音の中に音を隠す。
水の中に水をこぼす。
泣き止むまで、
みんな静かに待ってくれる。
ポツポツ降る雨を拭う、
ワイパーの動きを見ても、泣けて来る。
フロントシールドを滑り落ちるしずくも、
誰かの笑顔も、
とらなかった電話も、
滲みをつくる原因になるのに、充分。
西の空の色が変わる。
それが窓のガラスに映る。
降り積もる光がコップから溢れるのを、
急いで両手で掬いとろうとしても、
目の前が滲んで、
定まらない。
匂いも、仕草も、肌触りも、
眼を瞑ってやり過ごしても、胸を絞める。
食べ残しだって、
汚れた皿も。
破いたページも。
滲む文字が浮かび上がる。
大きな音で曲を聴いたら、
言葉にならない音を出して、
からっぽになるまで叫ぶ。
涙は、雨の中に隠せばいい。
音の中に音を隠す。
水の中に水をこぼす。
泣き止むまで、
みんな静かに待ってくれる。
至福。
眼を開けていることができない。
強い陽射し。
オレンジ色の花粉が、白いシャツに染み込んでゆく。
滲む。
輪郭が溶けて、消えようとする。
まぶたの裏に、
影を残す。
その足許から立ち昇る。
咽せ返るような乾いた空気と、
取り残された喪失感。
燃えるような明るい色彩の中に身を投げる。
焦土。
その熱を帯びた塊は、
身体の中に呑み込まれて、
息を吸い込む度に、肺の中で勢いよく燃え上がる。
眼が眩む。
若い草の匂いが取り囲む。
その明るさに、
気を失いそうになる。
生きている。
眼を開けていることができない。
強い陽射し。
オレンジ色の花粉が、白いシャツに染み込んでゆく。
滲む。
輪郭が溶けて、消えようとする。
まぶたの裏に、
影を残す。
その足許から立ち昇る。
咽せ返るような乾いた空気と、
取り残された喪失感。
燃えるような明るい色彩の中に身を投げる。
焦土。
その熱を帯びた塊は、
身体の中に呑み込まれて、
息を吸い込む度に、肺の中で勢いよく燃え上がる。
眼が眩む。
若い草の匂いが取り囲む。
その明るさに、
気を失いそうになる。
生きている。
どうしてだろう。
話しかけても、聴こえない。
まだ横顔のままでいる。
手を伸ばせば、指先は届くのに、
触れられないほど遠くに感じる。
窓の外の雨のほうが、
身体を通り越して、ずっと近くにある。
雨がチカラを貸してくれる。
時間をかけて、氷を溶かして、
やっと言葉が届いても、
何処か遠いところから、
数秒だけ、偶然笑顔が舞い戻って来て、
その表層を撫でてから、
すれ違うように消えてゆく。
冷たい頬の上で、
一度だけ躊躇する。
それは笑顔とは逆に、
その印象を悲しくさせる。
あまりに小さく青白い。
重い言葉を、
チカラを込めずに、淡々と話す。
話しかけても、聴こえない。
まだ横顔のままでいる。
手を伸ばせば、指先は届くのに、
触れられないほど遠くに感じる。
窓の外の雨のほうが、
身体を通り越して、ずっと近くにある。
雨がチカラを貸してくれる。
時間をかけて、氷を溶かして、
やっと言葉が届いても、
何処か遠いところから、
数秒だけ、偶然笑顔が舞い戻って来て、
その表層を撫でてから、
すれ違うように消えてゆく。
冷たい頬の上で、
一度だけ躊躇する。
それは笑顔とは逆に、
その印象を悲しくさせる。
あまりに小さく青白い。
重い言葉を、
チカラを込めずに、淡々と話す。
忘れない。
まだ口を付ける前に、
僕の皿から、あの人のさらに取り分ける。
そのカタチの生々しさが、
僕を悲しくさせる。
目の前に並ぶ食事は、色褪せて、
あらかじめ漂白されている。
味も香りも抜け落ちている。
思い出したように口に運ぶ指先が、
落ち着く先を探して、宙を掻く。
けれどあの人はそれに手を付けない。
もうここにはいないのだから。
身体が覚えている。
もうしなくてもいいことを、
あの人の為にしてしまう。
もうそこにいないのに、
少し膝を折って、目の高さを同じにする。
同じ高さから空を見上げる。
もうそれも必要ない。
それでも身体は勝手に動いてしまう。
ようやく僕はその重さを忘れはじめた。
でも身体はしっかりと覚えていて、
まだその重さを抱えている。
誰が決めたのだろう。
どうして僕は、
いつも見送る役目なのだろう。
まだ口を付ける前に、
僕の皿から、あの人のさらに取り分ける。
そのカタチの生々しさが、
僕を悲しくさせる。
目の前に並ぶ食事は、色褪せて、
あらかじめ漂白されている。
味も香りも抜け落ちている。
思い出したように口に運ぶ指先が、
落ち着く先を探して、宙を掻く。
けれどあの人はそれに手を付けない。
もうここにはいないのだから。
身体が覚えている。
もうしなくてもいいことを、
あの人の為にしてしまう。
もうそこにいないのに、
少し膝を折って、目の高さを同じにする。
同じ高さから空を見上げる。
もうそれも必要ない。
それでも身体は勝手に動いてしまう。
ようやく僕はその重さを忘れはじめた。
でも身体はしっかりと覚えていて、
まだその重さを抱えている。
誰が決めたのだろう。
どうして僕は、
いつも見送る役目なのだろう。
すれ違いざま、肩をぶつけて人が歩き去る。
混ざりあう匂いに、嫌悪する。
澱みに射した棹。
流れる汚れがまとわりつく。
膜のように油の浮いた、上澄み。
目の前に立つ人の、眼の中を覗き込む。
濁った白い膜は、分厚く、鈍い。
その鉛色に自分が映る。
姿が溶けて大きく歪む。
内斜視。
滲んだ視線は、僕よりも手前にある。
焦点を結ぶことのない、僕を見てはいない眼。
いつの頃からか、身体の中に生まれた未熟な棘は、
気付くと育って、その先を鋭利な刃に変えている。
果実を剥くのと同じように、
自分の大切なものを守れるはずが、
他の誰かを充分に傷つける。
加害者。
混ざりあう匂いに、嫌悪する。
澱みに射した棹。
流れる汚れがまとわりつく。
膜のように油の浮いた、上澄み。
目の前に立つ人の、眼の中を覗き込む。
濁った白い膜は、分厚く、鈍い。
その鉛色に自分が映る。
姿が溶けて大きく歪む。
内斜視。
滲んだ視線は、僕よりも手前にある。
焦点を結ぶことのない、僕を見てはいない眼。
いつの頃からか、身体の中に生まれた未熟な棘は、
気付くと育って、その先を鋭利な刃に変えている。
果実を剥くのと同じように、
自分の大切なものを守れるはずが、
他の誰かを充分に傷つける。
加害者。
もうすぐこの日が来るはずだった。
「またこの日が来るころ、お伺いします」
僕がそう伝えると、
あの人は遠慮がちに話した。
夏のうちに、会いに来て欲しいと。
そして、1年後のこの日が来たら、
ゆっくりココにいてくれないかと。
季節が過ぎるにつれ、
そろそろと思いながら、
僕はその時期を過ごしてしまった。
連絡は繰り返しても、
理由を付けて、会いに行くのを先延ばしにしていた。
夏が終わってもいいはずの頃に、電話をすると、
今年の夏は、いつ終わるのだろう。
あの人は恥ずかしそうにつぶやいた。
秋になるまでに、会いに来て欲しいと。
あなたが来てくれるまで、
夏が終わらないといいけれど。
そのチカラが途切れる時に、秋がやって来た。
急いで会いに行きました。
それが最後になってしまった。
家の前まで着いた時に、
窓から外を眺めていたあの人を、
今も思い出す。
あの木の陰に立って、
身体を支えるように、僕の車を見送るあの人を。
あの人は気付いていたのでしょうか。
あの日には、
間に合わないということを。
あの日には少し早いけど、
ゆっくりとあの人を訪ねることになってしまった。
そしてもうすぐ、約束のあの日もやって来る。
僕は何度も足を運び、
あの人の前で時間を過ごす。
もう一度手を握りたかった。
あの人がこの夏を長くした。
「またこの日が来るころ、お伺いします」
僕がそう伝えると、
あの人は遠慮がちに話した。
夏のうちに、会いに来て欲しいと。
そして、1年後のこの日が来たら、
ゆっくりココにいてくれないかと。
季節が過ぎるにつれ、
そろそろと思いながら、
僕はその時期を過ごしてしまった。
連絡は繰り返しても、
理由を付けて、会いに行くのを先延ばしにしていた。
夏が終わってもいいはずの頃に、電話をすると、
今年の夏は、いつ終わるのだろう。
あの人は恥ずかしそうにつぶやいた。
秋になるまでに、会いに来て欲しいと。
あなたが来てくれるまで、
夏が終わらないといいけれど。
そのチカラが途切れる時に、秋がやって来た。
急いで会いに行きました。
それが最後になってしまった。
家の前まで着いた時に、
窓から外を眺めていたあの人を、
今も思い出す。
あの木の陰に立って、
身体を支えるように、僕の車を見送るあの人を。
あの人は気付いていたのでしょうか。
あの日には、
間に合わないということを。
あの日には少し早いけど、
ゆっくりとあの人を訪ねることになってしまった。
そしてもうすぐ、約束のあの日もやって来る。
僕は何度も足を運び、
あの人の前で時間を過ごす。
もう一度手を握りたかった。
あの人がこの夏を長くした。