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おおるりが赤裸々に綴る脱線転覆の感想記!(舞台やライブの感想です)

映画「ライフオブパイ」

2013年04月20日 03時46分05秒 | 映画

 ※この記事は私の極めて個人的な感想であり、しかも重大なネタバレを含んでいますのでご注意ください。
また、下記に書く登場人物の台詞はみな私のうろ覚えなので、正確さに欠けることを予めおことわりしておきます。

と、改めて書くのも、なんだかなぁ……いつも、そんなだし(笑)

  

もう一度観たい。
観終わって、すぐにそう思いました。
その気持ちが一ヶ月経ってもまだ消えなかったので、どうしてもと思い、東京でまだ上映されていた池袋の映画館の、最終日に駆け込みで二度目を観てきました。

この映画は他に類を見ないストーリーだったと思います。
海にひとりで漂流する物語といえば、私は昔読んだ小説の「老人と海」(アーネスト・ヘミングウェイ)を思い出しますが、これはトラと共に漂流する少年が主人公ということで、見る前には、獰猛で危険なトラとの、ある意味で友情物語なのかと予想していました。
それが、全くそうでもないとも言い切れないものの、話として全く違うものでした。


で、この映画の最後に、漂流の時から長い時を経て大人になった主人公が言うんですよね、
「これは神の話です。」と。

私は特定の神を信仰してはいませんが、ラストで大きく納得し、心からそうだと思いました。

物語は、あるカナダ人の小説家が書くことに行き詰まり、パイというインド人を訪ねることから始まります。
そしてその語られた奇跡の話は、パイがまだ小学生くらいの、幼い頃からの回想から進みます。
それは漂流生活とは関係ないようで、後から思うと、彼とその物語を理解するのに、とても重要なものでした。

そのひとつは、パイという名の少年は、子供の頃から神という存在や、目に見えないものに対し、とても影響を受けたり感じやすい子供だったということ。
この子は、そのうちにカトリック、ヒンドゥー、イスラム教と、三つの宗教を同時に信仰するようになり、それぞれの神を信じ、殺生を禁じ肉食をしない、ベジタリアン(菜食主義者)となります。

その食卓の会話で、パイの父親が彼に忠言します。
「全てを信じるのは、何も信じないと同じだ」、と。
そして、
「疑いこそが、信仰を強くする」、とも。

私はこの言葉に深く共感します。
なせなら、その逆もまた真なりと思うので。

それは、「何も信じないのは、全てを信じるのと同じ」で、「信じる必要がないのは、何も疑わないから」という気がするからです。
最初から疑う心がなければ、信じるかどうかに意味はなく、「信じる」という言葉は、疑う人のためにあるとさえ思います。

話は違うようですが、思えば、私は誰かから「私の愛を信じて」と言われたことも、「あなたの愛を信じる」と言ったこともないです。
「愛を信じてくれるか?」と聞かれたこともありません。なぜなら、いつの時も、その時々で、愛を一度も疑ったことがないのだから。

「自分を信じろ」という言葉も、では、自分の何を疑うのかとも思う。
今の自分をあるがままに受け入れようとすれば、それ以上でもなければ、それ以下でもない。
希望も絶望も、どちらもあるといえばあるし、ないといえばない。
目に見えぬ愛も、神も。

なので、どのような神も、「きっと、それぞれの人の中に確かにいるのだろう」と疑わない自分には、殊更にひとつの神を信仰する必要がないのだろうと、時々そんなふうにも思います。
だから、どのような宗教であれ、哲学として興味深いと思い、どこの神社でもお寺でも、教会でも、ある意味節操なく、その時々で、そこにいる神や仏を疑うことなく、いつわりなく手を合わすことができます。

実際に目にしたことがないからといって、その存在を否定することは愚かだと思う。
けれどもまた、目に映らないものを、他人の話で鵜呑みにするのもまた愚かだ。
この現実でさえも、人それぞれの視点が捉えたものに過ぎないのだから、人が思う「真実」とは、人の数ほどあると考えて良いのではないか。
だから、真実とは、そして、神も、それぞれの勝手な(個人的な)ものであり、共通する「絶対なもの」でなくて良いのではないか。

…って、信仰心の深い、どこかの信者が目にしたら怒られそうですけど(笑)

ですから、そんなわけで、誰かと共通に認識する「神」を持たずとも、この私にも神は感じられます。
私の心の中…私だけの真実に。


なんて、これらの話は、「トラと漂流した少年」の話から、大きく脱線しているようでもありますけど、私の中ではそうでもありません。
でも、ストーリーに戻りましょう(笑)

パイ少年が成長し、恋をするお年頃になった頃、この事件は起こります。
家族がインドからカナダへ移住するために乗った船が、大嵐で沈没し、パイだけが、小さなボートに一人で残されてしまいます。
しかしそのボートに乗ったのは、彼だけではありませんでした。

怪我をして、ぐったりと横たわったシマウマ。
船酔いした大きな体のオラウータン。
シマウマを食らおうとして、オラウータンと争うハイエナ。

そして、ハイエナがオラウータンを襲って殺した瞬間に、あたかも怒りの逆襲のようにいいきなり船底から飛び出した、ベンガルトラのリチャード・パーカーです。

ハイエナがシマウマとオラウータンを殺し、トラがハイエナを殺したことで、まもなくトラと二人(?)きりになったパイ少年は、この獰猛なトラと向き合うことをよぎなくされて、トラへの恐怖と戦い、孤独と戦いながら、なんと227日という長い月日を漂流しつづけることになります。

ボートは救命のために道具や食料が装備されていて、ビスケットや水などもありましたが、トラはそれで足りるはずがありません。
パイは上手くトラとの距離を測りながら、トラを飢えさせないために魚を捕り、その合間に延命のための色々な知恵を絞ります。
生き延びるための、そのギリギリの中で、彼もまた魚を食べます。
彼はベジタリアンでした。
それが、どれほどに大きな出来事なのかは、そうでない人には想像を超えるものがあったのでしょうね。
大きな魚を夢中で殺したとき、少年は泣きながら魚に許しを請い、天に向かって叫びます。
「神様、僕を助けるために、魚に姿を変えて(食べられに)来てくれてありがとうございます」、と。

そのあたりからでしょうか、パイの漂流生活…というか、この物語は、やがで衰弱しつつある彼の目に映る出来事が、その美しくも恐ろしい海の映像と共に、どこまでが現実で、どこからが幻想なのか、その境目がよくわからなくなってきます。
光るくらげや、海面を跳ね上がる大きな鯨の姿、そして、なんとも不思議な、誰も知らぬ肉食の島、その島に住むミーアキャットの群れ……。
まるで、ファンタジーを見るような、3Dの、それはそれは美しい画面に見入っているうちに、私はそれらが真実かどうかという、疑問を持つことすらも忘れていました。

そして、トラとの長い格闘と葛藤の日々の中で、少年は獰猛な肉食獣のトラを受け入れ、そのうちに猛獣使いのように飼いならし、共存し、いつしか心を通わせた……その展開は当初に私が想像した通りで、予想内とも言えたでしょう。
ところが、227日目にようやく陸にたどりつき、力尽きて倒れた少年の目に映ったのは、海辺の森に向かい、振り向きもせずに去っていったトラの後姿でした。
一番悲しいのは「さよなら」も言えずに別れることだ。
それは、家族を失った少年の言葉でしたが、トラとの別れにも少年は号泣します。


さて、これからがクライマックスです。

救助されてベッドに横たわり療養中の少年に、保険会社の日本人がこの顛末を聞いて言うのです。
「そんな話は信じられない。我々は報告書に書けるような、誰もが納得する本当の話を聞きたいのだ」、と。

そこで、少年が話した、この漂流で起こった小さなボートの中での、もう一つの物語……驚くべきアナザー・ストーリーが語られます。
動物も、幻の島も登場しない、現実的な話です。

ボートの中には、動物なんかいなかった。
いたのは、四人の人間です。

足に怪我をした、仏教徒の中国人。
野蛮で悪賢い料理人。
少年の母親。

そして、少年こと、その名は、パイ・パテル。

野蛮な料理人は、中国人の足を切断し、その肉で魚を釣ろうとしました。
それに怒った母親は料理人を殴り、しかし、彼にナイフで刺されます。
それを見たパイは、逆上して料理人を殺してしまう。

シマウマは中国人で、ハイエナは料理人、オラウータンが母親。
そして、トラは……少年。

ああ……

それまで夢中で見ていた、あのトラと少年の日々は何だったのか……。
少年は何と戦い、何を受け入れ、そして、何と別れたのか……。

神とは、真実とは何なのか。

信じることとは、どういうことなのか。

しかし、既に大人になり、今は幸せに暮らすパイは、その長い物語を語った末に、カナダ人に問います。
「動物の話と、人間の話。あなたは、どちらを信じ、どちらを良い話だと思いますか」

するとカナダ人のライターは言うんですよね。
「今はこの話をどう受け止めていいのか、僕にはわからないが、けれども、僕はトラの話のほうが良い物語だと思います」

この時、「良い」というのに、「better」ではなく、「best」と言っていたのが印象的でした。
話はそこで終わりましたが、私は、そのカナダ人のライターには、この後、彼の最も良いと思う、彼の「真実」の物語が、きっと書けるに違いないだろうと、そう思いました。
そして、どのような物語も、真実でなければ感動に値しない、……とも。

ほんとうに、
やはり、これは、「神の話」だったと思いました。

いつか忘れた頃、またもう一度見たい映画です。



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