ルージュバージョン モーツァルト役/中川晃教 サリエリ役/山本耕史
なんてことだ! 同じ舞台なのに、まるで別物だ!
中川晃教、これほどまでに凄かったとは!
長年ファンをやっていた私でさえ、そう思った。
たぶん、この劇場にいた全てのあっきーファンが胸の中で喝采を叫んだことだろう。
やっぱりあっきーは凄い!
こんな、あっきーが見たかった、聴きたかったのだと!
あっきー(中川)ヴォルフが歌いだすと劇場内の空気が変わる。
その場の全てをかっさらってしまうほどの歌声に、あっきーはヴォルフガングを演じるためにこの世界に降り立ったのではないかと、そんな気さえしてしまう。
そして、私は自分がおかしくなっているのを感じる。こんな歌声を聴いて、天才モーツァルトに嵌まりに嵌まった中川晃教を見て、自分が歌や音楽を生業(なりわい)にしているどころか、趣味とさえもしていないというのに、彼には少なからず嫉妬を覚えてしまう。
ファンだというのに・・・・。
天賦の才能とはこういうものか。
それを持って生まれなかった自分の価値を思い、思わず歯噛みし、絶望している自分がいる。
あまりに違いすぎるではないか、と。
話は逸れるようだが、「天才は1%のひらめきと99%の努力だ」と言う。
あっきーの新しいアルバム「POPSSIC」に、「I WILL GIVE U WHAT U WANT」 という曲がある。
これは2005年のアルバム「砂漠」にも入っている曲だ。
これが聞き比べてみると、全く違うのに驚いた。格段に進化している。
8年前にはこの曲は地声で歌われているが、「POPSSIC」では地声だけでなく裏声が巧みにプラスされている。
おそらく、これがミックスボイスというのだろう。
ハイトーン・ボイスのあっきーだからこその為せる技。
地声と裏声の境目がほとんどないような、それどころか、時としてその二つの声を混ぜ合わせ、フレーズごとに絶妙なバランスで聴かせる高音は誰にも真似できないだろうと思わずにいられない。
やはり、ただの天賦の才だけでここまで来たのではないのだ。
あっきーがここまで来たのは、これほどまでの歌が歌えるのは、ひたすらの精進、弛まぬ努力によるのだろうと理解する。
・・・・・・だから・・・
この際、たとえ全国の山本耕史ファンを敵にまわしてしまっても、私は書かずにいられない。
山本耕史さん、どうか、あっきーヴォルフにリアルに嫉妬してみてください。
私はここ何年か、山本さんの舞台は何度か観ています。
ヘドウィグもドリアンも、The Last Five Yearsもゴッドスペルも、テンペストも、私、観ました。
どれも良かった。素晴らしかったです。
あなたには才能と実力があり、容姿は麗しく、数々の良い作品に恵まれて、人気も名声もある。
まったく申し分がありません。
だからこそ。
あっきーのヴォルフガングに本気で嫉妬してください。
そうしたら、もしかして、私は山本サリエリを愛してしまうかもしれない。
おそらくは、私が感情移入して、心重ねるとするとならば、あなたのサリエリのほうだと思うから。
大人の余裕を装うその胸の奥底で、キリキリと嫉妬しながら絶望に喘ぎ、ナイフを自分の胸につきつける、そんな山本サリエリには堪らなく惹きつけられるだろうと思うから。
ああ、なんて勿体ない!
この舞台、もっとサリエリの場面を増やすべきだと思う。
なんとかして、ヴォルフガングとサリエリ同量にして欲しかった。
そして、できるならば、ルージュ一色でいい。今の私には。
あっきーのヴォルフガングをもっと聴きたい、ずっと観ていたい!
同時に、山本サリエリの心を見詰めたい。
そういうわけで、二つのプレビューを観たところ、圧倒的に私はルージュ派だけど。
これが、日々の進化で気持ちが変化することもあるのだろうか。
買ったチケットは、二つのバージョンで同じ枚数。
ルージュが好みであるのはわかったから、いっそ今後のインディゴに大きく期待しよう。
それにしても・・・
まったく、なんてことだ。
これがブレビュー公演だったなんて!