つぶやきイチロー

思いついたことを、思いついたまま綴る。ヒマな時に更新。

給与水準と満足度の相関関係

2005-12-05 15:42:05 | 日記
サラリーマンの場合、勤労の主たる目的は生活費等を稼ぐことであり、一般に給与水準が高くなる程、やり甲斐や会社への満足度も高くなると考えられています。しかし私は、給与は満足度をもたらす一つの要素に過ぎず、その他の要素も大きく影響すると思います。

いまだ若輩者の私ですが、サラリーマン人生を振り返ってみてもそう思います。私が大学を卒業して初めて働いた会社は、伝統的な日本型経営をしている企業で、終身雇用と年功序列賃金が前提とされていました。また、経営判断はトップダウン式ではなく稟議制や合議制で行われていたため、一つの事項を決めるために調整役が時間を掛けて「落としどころ」を探ります。したがって、調整の段階で関係者全ての意見を聞いて皆んなの意見が集約される反面、問題が起きると何処に責任があったのかが曖昧になる傾向がありました。

つまり、官僚機構と似ている面がありますが、激務の割には労働生産性が悪く、従って転職後と比べると給与も非常に低いものでした。しかし、今から振り返るとその頃が一番、会社への満足度が高かったと思います。

この事実は自分にとってもある種の衝撃だったのですが、A.H.マズローの欲求段階説で説明すると合理的に説明できるかも知れません。マズローは人間の欲求は色々あるが、それらは並列ではなく、大きく分けると下記の5段階のピラミッドになっている。そして、1段階目の欲求が満たされると,その次の段階の欲求を志し、それが満たされるとより次の段階の欲求を志すとしています。

1.生理的欲求:生理的存在として自己を維持しようとする欲求。具体的には食物、水、空気、休養、運動などに対する欲求。
2.安全の欲求:安全な状況を求め、不確実な状況を回避しようとする欲求。
3.所属や愛情の欲求:集団への所属を求め、友情や愛情を求める欲求。
4.尊敬の欲求:自己尊厳を求める欲求。具体的には、他人からの尊敬や責任ある地位を求めたり、自律的な思考や行動の機会を求めたりする欲求。
5.自己実現欲求:自己の成長や発展の機会を求めたり、自己独自の能力の利用および自己の潜在能力の実現を求めたりする欲求。

ここで給与に対する欲求は、少なくとも生活費を稼ぐという意味では第2段階に属すると考えられます。一方、日本企業でありがちな、職場を擬似家族化する(=所属への欲求)、課長、審議役など肩書きを付与する(=尊敬の欲求)、「会社はお前を必要としている」と事ある度に伝える (=尊敬の欲求)などは、カネが掛けずに第3段階以上の欲求を満たすことが出来ます。

また、優良な社宅を割り当てる、一定の交際費を持たせるといったカネが掛かる処遇も、同じカネを給与で払うよりもこの種のフリンジ・ベネフィットで支払う方が、本人は特権を得ている(=会社に評価されている)と勘違いして、第4段階の欲求を満たす傾向にあります。こうして、伝統的な日本型経営の企業においては「給与は低いが満足度が高い」状態になる傾向にあります。

とかく批判されがちな日本型経営ですが、このように金銭面で効率的に運用されている面があります。中央官僚が薄給にも拘らず過酷な労働に耐えられるのはこの辺りに秘密がありそうですが、こうした日本型経営の長所は外資系企業も参考にすべきだと思います。

ただし、勿論、日本型経営が全面的に肯定されるべきだとは思いません。責任の所在が曖昧であったり、職場が擬似家族化していることは、内部統制やリスク管理の仕組みを構築する上で大きな障害になり得ます。また、従業員を会社人間にすることは、従業員の本当の意味での幸せに繋がっているとは思えません。(ちなみに欧米企業にも会社人間は沢山います。しかし彼らは一般に高給取りで、『セミリタイアまでがむしゃらに働く』とか、割り切っている場合が多いです)。