トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

自衛隊員の政治的自由は制限されている

2011-01-31 00:42:59 | 現代日本政治
 昨日の記事「保守系国会議員は情報保全隊の監視対象外?」に関連して。

 産経は二度にわたって社説でこの問題を取り上げ、情報保全隊による監視は、自衛官の思想・信条の自由を侵害すると批判している。

 【主張】自衛隊員監視 恣意的運用ではないのか(2011.1.25)

 防衛省の防諜部隊、「自衛隊情報保全隊」が陸上自衛隊OBの佐藤正久自民党参院議員や田母神俊雄元航空幕僚長の講演に潜入し、現職自衛官の参加状況を監視していた問題が表面化した。

 佐藤議員らの講演では参加した自衛官の氏名がチェックされ、講演内容と併せて報告書として提出されたという。

 佐藤氏や田母神氏が民主党政権の防衛政策に批判的な発言をしていることが監視対象なのか。これは思想統制にほかならず、組織の恣意(しい)的な運用というしかない。

 機密情報の流出や自衛隊へのスパイ活動の防止が、保全隊の役割だ。それがなぜOBの講演を監視する必要があるのか。本来の任務とかけ離れた活動は、自衛官の思想・信条の自由を侵害していた疑いを持たれてもやむを得まい。

〔中略〕

 自衛隊員の政治的行為は自衛隊法などで制限されているとはいえ、政権批判を行う人物を遠ざけ、思想や言論の自由を侵すことは許されない。〔後略〕



 【主張】自衛隊監視問題 北沢防衛相の責任を問う(2011.1.27)

〔前略〕

 一連の問題の発端となった事務次官通達は、航空自衛隊の航空祭で、民間の後援団体「航友会」会長が尖閣事件に対する民主党政権の対応を厳しく批判したことに北沢防衛相が激怒したことから、出されたとされる。

 菅直人首相は衆院本会議の代表質問で「通達を撤回する考えはない」と答えたが、民間人の言論を封じることは民主主義のルールに反し、絶対に許されない。改めて通達の撤回を求めたい。

 自衛隊へのテロ組織などの浸透を防ぐことは重要だが、OBの講演会への参加状況を監視するのは、憲法が保障する思想・信条の自由を侵害する疑いがある。〔後略〕


 佐藤正久参院議員の公式ホームページにもこの件について次のような記述があった。

昨日、記者さんからコメントを求められ、事実関係は掌握していないとしたうえで、一般論として以下のように回答した。

▽自衛隊法で規定されている「政治活動」に抵触しない行動まで規制することは、憲法第19条「思想・良心の自由」違反の疑い。

▽旧軍と違い選挙権を持つ自衛隊員が政治に無関心となるよう仕向ける規制は、民主主義国家を構成する国民としての「知る権利」を奪うことにつながる。

▽自衛隊に対する破壊活動及びそれを目的とする浸透活動を企図する団体等への情報収集等の対処は必要だが、その対象を際限なく拡大することは問題である。

▽自衛隊をスターリニズムの観点から「暴力装置」と発言した仙谷氏は閣外に去ったが、スターリンやナチスを彷彿させる「秘密警察」「監視社会」は問題であり、組織内の人間関係を破壊する恐れ。

▽自衛隊員は国家に忠誠を尽くすことは求められるが、政党や政治家の「私兵」にあらず。

また産経でも指摘しているが、これらの動きは、昨年11月に出された「隊員の政治的中立性の確保について」と題する事務次官通達と連動している。

同通達では、民間人に自衛隊行事における「言論統制」を行う一方、自衛隊員が部外の行事に参加することについても、政権批判が予想される場合は参加を控えるよう求めており、この通達が、佐藤や田母神先輩の講演会に参加することを監視する「根拠」とも位置づけられる。

いずれにせよ、早急に事実関係、防衛省側の見解を質した上で、何らかのアクションを起こすこととなろう。


 しかし、産経と佐藤が共に触れているように、自衛隊員の政治的行為は自衛隊法で制限されている。
 それは次の条文である。
 
(政治的行為の制限)
第六十一条  隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。
2  隊員は、公選による公職の候補者となることができない。
3  隊員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。


 そして、「政令で定める政治的目的」「政令で定める政治的行為」については、自衛隊法施行令で次のように定められている。

(政治的目的の定義)
第八十六条  法第六十一条第一項 に規定する政令で定める政治的目的は、次の各号に掲げるものとする。
一  衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の長、地方公共団体の議会の議員、農業委員会の委員又は海区漁業調整委員会の委員の選挙において、特定の候補者を支持し、又はこれに反対すること。
二  最高裁判所の裁判官の任命に関する国民審査において、特定の裁判官を支持し、又はこれに反対すること。
三  特定の政党その他の政治的団体を支持し、又はこれに反対すること。
四  特定の内閣を支持し、又はこれに反対すること。
五  政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し、又はこれに反対すること。
六  国又は地方公共団体の機関において決定した政策(法令に規定されたものを含む。)の実施を妨害すること。
七  地方自治法 に基く地方公共団体の条例の制定若しくは改廃又は事務監査の請求に関する署名を成立させ、又は成立させないこと。
八  地方自治法 に基く地方公共団体の議会の解散又は法律に基く公務員の解職の請求に関する署名を成立させ、若しくは成立させず、又はこれらの請求に基く解散若しくは解職に賛成し、若しくは反対すること。

(政治的行為の定義)
第八十七条  法第六十一条第一項 に規定する政令で定める政治的行為は、次の各号に掲げるものとする。
一  政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用すること。
二  政治的目的のために寄附金その他の利益を提供し、又は提供せず、その他政治的目的を持つなんらかの行為をし、又はしないことに対する代償又は報酬として、任用、職務、給与その他隊員の地位に関してなんらかの利益を得若しくは得ようと企て、又は得させようとし、あるいは不利益を与え、与えようと企て、又は与えようとおびやかすこと。
三  政治的目的をもつて、賦課金、寄附金、会費若しくはその他の金品を求め、若しくは受領し、又はなんらの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与すること。
四  政治的目的をもつて、前号に定める金品を国家公務員に与え、又は支払うこと。
五  政党その他の政治的団体の結成を企画し、結成に参与し、又はこれらの行為を援助すること。
六  特定の政党その他の政治的団体の構成員となるように又はならないように勧誘運動をすること。
七  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、若しくは配布し、又はこれらの行為を援助すること。
八  政治的目的をもつて、前条第一号に掲げる選挙、同条第二号に掲げる国民審査の投票又は同条第八号に掲げる解散若しくは解職の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること。
九  政治的目的のために署名運動を企画し、主宰し、若しくは指導し、又はこれらの行為に積極的に参与すること。
十  政治的目的をもつて、多数の人の行進その他の示威運動を企画し、組織し、若しくは指導し、又はこれらの行為を援助すること。
十一  集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。
十二  政治的目的を有する文書又は図画を国の庁舎、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他政治的目的のために国の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
十三  政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し、若しくは配布し、又は多数の人に対して朗読し、若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し、又は編集すること。
十四  政治的目的を有する演劇を演出し、若しくは主宰し、又はこれらの行為を援助すること。
十五  政治的目的をもつて、政治上の主義主張又は政党その他政治的団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これに類するものを製作し、又は配布すること。
十六  政治的目的をもつて、勤務時間中において、前号に掲げるものを着用し、又は表示すること。
十七  なんらの名義又は形式をもつてするを問わず、前各号の禁止又は制限を免かれる行為をすること。
2  前項各号に掲げる行為(第三号の場合においては、前項第十六号に掲げるものを除く。)は、次の各号に掲げる場合においても、法第六十一条第一項 に規定する政治的行為となるものとする。
一  公然又は内密に隊員以外の者と共同して行う場合
二  自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人、使用人その他の者を通じて間接に行う場合
三  勤務時間外において行う場合


 これは、一般の国家公務員に比べると、大変厳しい制限となっている。
 一般の国家公務員も当然政治的行為は制限されている。
 国家公務員法の政治的行為の制限に関する条文は、

(政治的行為の制限)
第百二条  職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
○2  職員は、公選による公職の候補者となることができない。
○3  職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。


と自衛隊法とほぼ同様であり、人事院規則で定めるその「政治的目的」「政治的行為」の定義も上記の自衛隊法施行令のものとほぼ同様だが、次の太字部の記述が自衛隊法施行令にはない。

人事院規則一四―七(政治的行為)
(昭和二十四年九月十九日人事院規則一四―七)

(政治的目的の定義)
5  法及び規則中政治的目的とは、次に掲げるものをいう。政治的目的をもつてなされる行為であつても、第六項に定める政治的行為に含まれない限り、法第百二条第一項の規定に違反するものではない。
一  規則一四―五に定める公選による公職の選挙において、特定の候補者を支持し又はこれに反対すること。
二  最高裁判所の裁判官の任命に関する国民審査に際し、特定の裁判官を支持し又はこれに反対すること。
三  特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。
四  特定の内閣を支持し又はこれに反対すること。
五  政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること。
六  国の機関又は公の機関において決定した政策(法令、規則又は条例に包含されたものを含む。)の実施を妨害すること。
七  地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)に基く地方公共団体の条例の制定若しくは改廃又は事務監査の請求に関する署名を成立させ又は成立させないこと。
八  地方自治法 に基く地方公共団体の議会の解散又は法律に基く公務員の解職の請求に関する署名を成立させ若しくは成立させず又はこれらの請求に基く解散若しくは解職に賛成し若しくは反対すること。
(政治的行為の定義)
6  法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。
一  政治的目的のために職名、職権又はその他の公私の影響力を利用すること。
二  政治的目的のために寄附金その他の利益を提供し又は提供せずその他政治的目的をもつなんらかの行為をなし又はなさないことに対する代償又は報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益を得若しくは得ようと企て又は得させようとすることあるいは不利益を与え、与えようと企て又は与えようとおびやかすこと。
三  政治的目的をもつて、賦課金、寄附金、会費又はその他の金品を求め若しくは受領し又はなんらの方法をもつてするを問わずこれらの行為に関与すること。
四  政治的目的をもつて、前号に定める金品を国家公務員に与え又は支払うこと。
五  政党その他の政治的団体の結成を企画し、結成に参与し若しくはこれらの行為を援助し又はそれらの団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となること。
六  特定の政党その他の政治的団体の構成員となるように又はならないように勧誘運動をすること。
七  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。
八  政治的目的をもつて、第五項第一号に定める選挙、同項第二号に定める国民審査の投票又は同項第八号に定める解散若しくは解職の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること。
九  政治的目的のために署名運動を企画し、主宰し又は指導しその他これに積極的に参与すること。
十  政治的目的をもつて、多数の人の行進その他の示威運動を企画し、組織し若しくは指導し又はこれらの行為を援助すること。
十一  集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。
十二  政治的目的を有する文書又は図画を国又は特定独立行政法人の庁舎(特定独立行政法人にあつては、事務所。以下同じ。)、施設等に掲示し又は掲示させその他政治的目的のために国又は特定独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し又は利用させること。
十三  政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。
十四  政治的目的を有する演劇を演出し若しくは主宰し又はこれらの行為を援助すること。
十五  政治的目的をもつて、政治上の主義主張又は政党その他の政治的団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これらに類するものを製作し又は配布すること。
十六  政治的目的をもつて、勤務時間中において、前号に掲げるものを着用し又は表示すること。
十七  なんらの名義又は形式をもつてするを問わず、前各号の禁止又は制限を免れる行為をすること。


 そして、自衛隊法施行令の引用で太字により示した箇所が人事院規則にはない。

 したがって、例えば、勤務時間外においてなら、一般の国家公務員は「政治的行為」を行ったとしても法に触れることはないが、自衛隊員はそれすら許されないということになる。

 自衛隊員に対してこれほどまでに厳しい政治的自由の制限が課せられているのは、言うまでもなく、自衛隊が国家にとっての暴力装置であるからにほかならない。
 自衛隊員の内心の政治的自由はあっていい。しかし、公に政治的見解を表明することは許されない。

 自衛官OBである田母神や佐藤の講演会に現職自衛官が参加することは当然想定できる。そういった場で現職自衛官が政治的見解を公にしたり、その他政令が定める「政治的行為」に及ぶ可能性がある以上、そうした講演会が情報保全隊の監視対象となっていたとしても私には何ら不思議ではないし、問題であるとも思わない。

 では逆に、自民党が政権奪還後、自衛官が北沢現防衛相などの民主党議員に接触する動きがあったとしたら、防衛相としてはどうすべきなのか? やはり監視対象にすべきなのではないか?

 問題視されている通達にしても、では仮に、ロッキード事件やリクルート事件が騒がれた時代に、自衛隊の行事に招かれた民間人来賓が、「こんな腐敗堕落した自民党には一刻も早く下野してほしい」といった趣旨の発言をしたとしたら(幸いそのような事態は起きなかったのだろうが)、どうなっていただろうか。やはり同趣旨の通達が発出されたのではないだろうか。
 民間人にはもちろん言論の自由はある。しかしTPOは当然わきまえられてしかるべきである。

 自衛隊の情報保全というわが国の安全保障上重大な問題すらも「政権奪還」のために政争の具にしてしまう産経や佐藤の感覚を私は憂う。
 彼らはいったい何を「保守」しようとしているのか。ただ党利党略、私利私欲ばかりではないのか。

(引用文中の太字は引用者による)

(関連過去記事「田母神論文への反応に対していくつか思ったこと(1)」)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。