ニューズウィーク日本版 2011.6.29 にあった
記事で興味深いのがあった。
以下、その記事である。
「アラブの春」に凍るCIA
対テロ活動
民主化運動で揺れる中東諸国の米諜報員はネットワークを
失って窮地に立たされている
ひどいなりに、昔は良かった。
これが中東各国に潜むアメリカのスパイたちの正直な思い
ではないか。
独裁者たちが健在だった時代には、怪しい奴を捕まえて
彼らの国の警察に引き渡せば、いくらでも手荒な方法で
尋問してくれた。
独裁は悪だが、独裁者とは取引できた。
ノスタルジアではない。
実際に良かったのだ。
今年に入って中東各地で起きた民主化運動がもたらす
混乱に、多くの対テロ諜報員や専門家は危機感を抱い
ている。
一方でアラブ世界により大きな自由と平等、安定が生ま
れる兆しは見えない。
「民主化だと喜ぶのはばかげている」と、数十年を対テロ
活動にささげてきたある諜報員は言う。
彼らの仕事はやりにくくなっただけだ。
「何が入っているかも知らないで魔法の箱を開けてしまった
ようなもの。最悪の事態になりかねない」
確かにウサマ・ビンラディンは殺害できた。
しかしアメリカ政府は、その作戦がアルカイダなどのテロ
組織に与えた打撃を過大評価している。
ビンラディンがずっとアルカイダを指揮していたって?
どんな指揮だ?
具体的な計画は何一つ特定されていない。
「ビンラディンは殺されるべきだった。確かに死んで
よかった」と、あるベテランエ作員は言う(当然、実名
は明かせない)。
「だが正体はあんなものだ。運良く9・11テロを成功させ、
隠れ家でお粗末なテレビを見詰め、自分を重要人物に見せ
掛けようとしていた男でしかない」
途絶えた人脈と情報源
オバマ政権は最近、ニューヨーク・タイムズ紙に、イエ
メンの混乱に乗じてアルカイダ関連組織の掃討作戦を強化
しているとの情報を流した。
「権力の空白状態が続いている間に、無人機や戦闘機で武装
勢力をたたく」のだそうだ。
しかしオバマ政権は、単に虚勢を張っているでだけでは
ないのか。
「現実というより、国民向けのアピールだ」と言うのは、
かつて駐イエメン米大使を務めたバーバラ・ボディーンだ。
そんな作戦を拡大すれば、民間人が巻き添えになる可能性は
飛躍的に高まる。
「イエメン政府の協力が得られなくなったので、取りあえず
可能な限りジハード(聖戦)戦士を殺そうとしているが」と、
ジョージタウン大学のテロ対策専門家ブルース・ホフマンは
言う。
「以前ほど標的を絞り切れず、大ざっぱになっている」
本当にイスラム過激派の攻撃からアメリカや国民を守ろうと
思うなら、敵の組織にスパイを送り込むか、敵の身内の人間を
寝返らせるのが一番だ。
上空からの監視や通信傍受も役には立つが、幹部の身柄拘束や
活動の妨害には、やはり人間からの確かな情報が決め手になる。
アメリカは長い年月をかけて中東諸国の軍や諜報機関にいる
人物との関係を築き上げてきた。
しかしカーネギー国際平和財団のクリストファー・ブーセック
に言わせると、「リビアでもチュニジアでもエジプトでもイエ
メンでも、その人脈が途絶えたか途絶えつつある」。
中東勤務の長かった元CIA(米中央情報局)幹部が言うに
は、アメリカはテロリストを捕らえるための人脈構築に力を入
れるあまり、民衆の蜂起を予見することができなかった。
本来の「諜報活動はそんな事態に備えるのが目的なのに」。
元駐エジプト米大使で、現在はハミルトン大学で教えるエド
ワード・ウォーカーも「私たちは特定の人脈に依存し過ぎてい
た」と認める。
「現地の諜報機関を頼るあまり、彼らをかばう側に回ってしまっ
た」
だから中東諸国の独裁政権が目を背けていた現実は、アメリ
カにも見えてこなかった。
対テロ活動の最前線にいたCIAや国防総省、その他の政府
機関も、民衆の蜂起には不意を突かれた。
アラブ世界で民主化運動が起こり、今までの対テロ戦術が通用
しなくなる状況を予測できなかった。
アメリカの道徳的過ち
ほぼ30年間、アメリカの諜報活動はホスニ・ムバラク独裁下
のエジプトに依存していた。
なかでもキーマンは「ムハバラト」と呼ばれる情報機関のオマ
ル・スレイマン長官だった。
「彼は理性的な欧米型の教養人で、要のような存在だった」と、
前出の工作員は言う。
両国の協力が不可欠になったのは90年代、エジプトがアイマ
ン・アル・ザワヒリのテロの脅威にさらされたときだ(ザワヒ
リはビンラディンと合流してアルカイダを組織した)。
クリントン政権時代、CIAは世界に散らばるアルカイダの
メンバーを追跡・確保し、エジプトに移送。ムハバラトとCI
Aは貴重な情報を得た。
しかし、ウオーカーに言わせるとアメリカは道徳的な過ちを
犯した。
拷問しないというエジプト側の「約束」を信じるふりをしたのだ。
しかも手を汚して集めた情報をもってしても、01年のテロは阻止
できなかった。
9・11テロ後もスレイマンとの協力関係は続いた。
だがブッシユ政権は、都合のいい情報だけを引き出そうとした。
アルカイダの工作員イブン・アル・シェイク・アル・リビは
エジプトで拷問され、アルカイダとイラクのサダム・フセイン
大統領はつながっていると自白したが、真っ赤な嘘だった。
アル・リビは後に、「死ぬほど痛めつけられたから」とアメリカ
側に語ったとされる。
「何かを言うしかなかった」
1月にエジプトで起きた民衆蜂起は、ムバラクだけでなくCIA
やムハバラトにとっても不意打ちだった。
嵐の接近を捉え損なったのは、CIAだけの失敗とは言えない。
エジプト側は政府に対する国民の不満について、アメリカに調
査させなかった。
そこには「かなり明確な一線が引かれていた」と、前出の工
作員は言う。
国際的なテロ対策への協力と引き換えに、アメリカは内政には
干渉しないことになっていた。
そしてムバラクは、土壇場でスレイマンを道連れにした。
反政府デモが拡大するなか、スレイマンを副大統領に指名し、自
らの後継者に据えたのだ。
もちろん、国民がそんな茶番を受け入れるはずはなかった。
以来、スレイマンは諜報活動からも政治からも外された。
この先、誰がエジプトとアメリカをつなぐ役目を果たすのか、誰
にも分からない。
それは単なる肩書の問題ではない。
「すべての情報の連携は、人脈にかかっている」と、ホフマン
は言う。
「今までのアメリカは国際的なテロの脅威を監視し、それと戦う
人たちと接触してきた。
しかし今は、彼らも国内の脅威を注視し、自分の身を守ることに精
いっぱいだ。
アメリカに通じていると思われたら危ないと、みんな思っている」
リビアでも情報の人脈は切れた。英米の情報機関は90年代を通じて
リビア政府のスパイを束ねるムーサ・クーサと手を組んできた。
9・11テロ後はこの関係がさらに強化され、それがカダフィの
「名誉回復」にもつながった。
カダフィは自分の命を付け狙い、政権転覆を目指す国内の好戦的
なイスラム原理主義勢力をつぶそうとしていた。
アメリカも同じ集団に目を付けていた。
アフガニスタンやイラクにおけるアルカイダ戦士の多くがリビア
から来ていたからだ。
だが民衆蜂起が始まると、カダフィは突然、筋金入りのイスラム
原理主義者数百人を刑務所から解放した。
英米仏の3カ国は、蜂起した民衆を支持していた。身の危険を察
したクーサはイギリスに亡命し、欧米はリビアの情報機関における
最大の人脈を失った。
マリとアルジェリアからは、リビアの兵器庫から略奪された武器の
一部が流出し、砂漠に潜むアルカイダ系戦闘員に渡っているとの報告
もある。
盟友サウジが頼りだが
イエメンの状態も同様に不安定だ。近年、アメリカは軍事顧問を
派遣し、大統領の甥を司令官に担いで対テロ部隊の育成に取り組ん
できた。
だがイエメンでは6月3日に大統領府が砲撃され、負傷したイエメン
大統領は現在、治療のためにサウジアラビアに滞在しており、そのまま
亡命生活を続ける気配だ。
親族はまだイエメン国内にいるが、現時点で彼らが戦う相手は反政府
デモの民衆なのか、それとも敵対する部族なのか、その両方なのか、
まったく分からない。
1つだけ確実なのは、「アラビア半島のアルカイダ」と称する
過激な原理主義テロ組織と戦う気はないということだ。
このテロ組織は、イエメン国内の状況を静観している。アラブの
民衆蜂起で拡大する政治不安が、実は彼らにとって好都合なものだ
からだ。
「アルカイダが根を下ろすのは破綻国家ではない。弱い、あるいは
問題のある国だ」とブーセックは言う。
「ある程度まで機能している国でないと、彼らも生きられない。
あの連中も電気は使うし携帯電話も使う。
だから弱体化しているが崩壊していない国に潜り込む」
現時点で、中東でまともに機能している国は一部の君主制国
家だけ。
具体的にはサウジアラビアとクウェート、カタール、アラブ
首長国運邦だけだ。
だからアメリカは、重要な盟友としてサウジアラビアを頼り
にしている。
サウジアラビアは特にイエメンに多くの工作員を送り込み、
部族長に資金提供をしている。
その目的は、アメリカとほぼ同じ。
アルカイダを排除してイエメンを安定させることだ。
だが、果たしてサウジアラビアは中東政治の地殻変動を本当
に防げるだろうか。
エジプトやリビアで起きたような革命が自分の国でも起きそうな
気配を、彼らは察知できるだろうか。
そしてアメリカは?
過去の実績を見る限り、あまり期待はできそうにない。
クリストファー・ディッキー(中東総局長)
以上。
この記事を読んで、実は大変びっくりしている。
わたしたちの若かった時代だったら、この記事のような内容は
公然と発表されることはなかったのではないかと、思った
からだ。
ちょっと、レベルの低い話しだが、わたしたち一般人がスパイ
の存在と言っても、007のスパイ映画でその世界を愉しむ
だけで、実際のスパイの話しは、時折、新聞でほんのちょっと
読むだけだ。
そのため、スパイがどのようなことをしているのかということは、
まったく知らない。
しかし、今回の記事だと、そのわたしたちが全く知り得なかった
裏の世界が大っぴらになってしまったのではないか。
この記事の中に、次ぎのような文章があった。
中東勤務の長かった元CIA(米中央情報局)幹部が言うに
は、アメリカはテロリストを捕らえるための人脈構築に力を入
れるあまり、民衆の蜂起を予見することができなかった。
本来の「諜報活動はそんな事態に備えるのが目的なのに」。
以上。
わたしは、60年、70年安保の時、いざの時のために、
アメリカは、いつ介入しようかと、待ち構えていたのでは
と思ったのだが、この文章からすると、充分に考えられ
うるのだと、妙に確信してしまった。
また、こういう記事もあった。
アルカイダの工作員イブン・アル・シェイク・アル・
リビはエジプトで拷問され、アルカイダとイラクのサダム・
フセイン大統領はつながっていると自白したが、真っ赤な嘘
だった。
アル・リビは後に、「死ぬほど痛めつけられたから」とアメリカ
側に語ったとされる。
「何かを言うしかなかった」
以上。
アメリカのイラクへの戦争が、こんな情報に基づいていた
のかと思うと、なんとも喜劇としかいいようがない。
拷問を回避するための、方便でしゃべったことが、戦争の
きっかけになったとは。
歴史を振り返る時に、アメリカは何を思うのだろう。
いずにれせよ、欧米諸国がこのような活動を、やっている
のだと思うと、いろいろと考えしまう。
リビアで、民衆の隆起が起こった時に、アメリカの困惑
ぶりがニュースになったが、この記事をみると、なるほど
その動転ぶりを理解することができる。
また、無人機が登場してきた時に、かなりの恐怖感を感じた
ものだが、日常の諜報活動の成果なしには、有効に機能しな
いという実態を知り得たのも面白かった。
それにしても、この記事をアルカイダが読むとなると、
とんでもない恐ろしい情報の流出になるとも思うのだが
どうなんだろう。