『法人税引き下げを考える』
9/24 NHKラジオ ビジネス展望 内橋克人さんのお話の要約です。
(MC)消費税率の引き上げについて、総理大臣の決断の時が迫ってきた。
その一方で、法人税率の引き下げについても、
大筋でまとまりそうな動きになってきているが?
その通りで、来年4月の8%への消費税増税について、
首相が最終の決断を下す10月1日が迫ってきた。
予定通りの増税は避けられないと思う。
ところが、ここに来て、同時に企業の法人税は減税するという、
つまり、『消費税引き上げ&法人税引き下げ』というセット論が
安倍首相の強い意向で強行される雲行きとなって来た。
むしろ、首相は、
消費税引き上げの引き換え条件のようにして、法人税引き下げを持ち出すという、
極めて強引な迫り方というふうに感じられる。
一般国民からして見ると、
『消費税は引き上げておいて、法人税を下げる』ということは
そう、やすやすと納得できるところではない。
安倍首相の主張をまとめてみると、次のような理路・理屈からなっている。
1.来年4月の消費税引き上げによって、せっかく回復しかけた景気に水を差す心配がある。
2.それを防ぐには企業の負担を減らして、つまり法人税を下げて企業収益を伸ばして
3.そして労働者の賃金を上げさせなければならない。
だから、そのためには企業の減税が必要であるのだ、というような理屈である。
このように安倍首相が重視する成長戦略の政策パッケージというのは
『まず企業の利益が増えるようにしさえすれば、賃金も上がる』と、
つまり、消費税増税によって落ち込むかもしれない景気は、こういうやり方で 防ぐことができる、
という、言ってみれば一次方程式のようなものである。
これで国民が納得できるであろうか?と、強く問いたいところである。
企業の業績が伸びても賃金は増えない、という構造が90年代半ば以降できあがっている。
少し前に『いざなぎ超え景気』とはやされた時代も、
実感なき景気回復と言われたように、労働者の賃金はむしろ減少して、
企業は利益を内部留保や株主への配当に回した。
このような構造は、例えば働く者を正規雇用と非正規雇用に分断して、
たとえ正規雇用の給与が増えても、
既に2000万人を超えた非正規雇用者の報酬をはそのまま、
あるいは最低賃金もそのまま、でというような雇用の在り方が生み出したものである。
雇用の在り方と配分方式が変わらない限り、
単なる図式に終わってしまうに過ぎないだろう。
安倍首相が前提とする『好循環論』が、循環の途中で切断されるかもしれない。
そこに手をつけないままの、消費税引き上げそして法人税引き下げ論では、
それで好循環が生まれるということは、なかなか言えるものではない。
消費税引き上げで生まれた余力を企業に回す、ということは、
これもまた、国民から企業への所得移転の手段にすぎない、
と、多くの国民から、そう受け取られかねないであろう。
(MC)法人税率の引き下げについては。これまでも経済界で長らく要求してきた経緯もあるが?
法人税引き下げと消費税増税をセットにした経済界の主張には、長い歴史がある。
今から6年以上前にもなるが、
第一次安倍政権のもとでも、経団連をはじめ経済界が揃って政府に強く求めたものであった。
例えば、2007年2月、
当時の御手洗冨士夫経団連会長が、10%の法人実効税率の引き下げを求めた事がある。
その際の記者会見で、その財源はどうするのか、と問われて、
同氏は 、2012年までに消費税を2%、2015年までに3%引き上げればよい、と答えている。
今行われようとしているのと、全く同じ構図である(税率の上げ幅は、ちょっと逆転しているが)。
安倍首相が考える法人税率引き下げの理論というのは、二段階論である。
まず第一弾として、東北大震災の復興費を負担する復興特別法人税、
これは2014年度まで法人が負担するとされていたものであるが、
これを、1年前倒しで廃止をする、つまり13年度末(来年3月)には前倒しで廃止をしてしまい、
払わなくて良いと、してしまうということである。
しかし個人の所得にかかる復興税は、
予定通り2037年末迄、25年間そのまま続けなさい、という事である。
これによって法人実効税率は、3.37%の減税になる(国・地方合計、東京都の場合)。
その穴埋めを、首相は、補正予算でやる、つまり国民の税金で負担するというわけである。
法人税減税は、14年度以降に、第二弾が続く。
これは、設備投資を行った企業などには、法人税を軽減するというようなもので、
大幅な法人実効税率の軽減(減税)が、14年度以降も続くというわけである。
『日本の法人税は、アジアやEUの企業に比べて高すぎる』というのが経済界の主張であるが
しかし、日本企業には様々な税制上の優遇措置があり、
海外で挙げた利益を税率が低い海外で運用したりして、
連結ベースでみると 15%台の負担で済ませているという実例もある。
やはり税と社会保障の一体改革という理念に立ち戻ること、
つまり消費税増税が提起された原点、にしっかりと立ち戻るということが大切である。
(MC)消費税率引き上げと、企業の法人税率はどうあるべきか?
その場合、
1.単に法人税の視点だけでなく、企業の全体的な社会的負担という視点も重要である。
例えば、ドイツ・フランスなどの企業は、
従業員の各種社会保険料を事業主が負担する割合が大きい。
法人所得税と社会保険料事業主負担を合計して(つまり企業の全体的負担)、
これを その国の対GDP比でみると、先進国の中で日本は最低である。
日本企業は、フランス企業の2/3以下にすぎない。
日本企業の社会的負担の合計は、実は少ないのである。
2.また雇用の在り方、今後の方向について根本的な再検討が必要である。
例えば今年4月、改正労働契約法が施行され、契約期間が通算5年を超えると、
その有期契約の社員には、無期雇用に転換できる権利が生まれることになったわけである。
ところがそれを嫌って、少なからぬ企業で、今突然の契約社員の雇い止めが広がっている。
非正規雇用者の雇用環境を改善するために考え出された方策が、
逆に、雇い止め・派遣切りに利用されてしまっている、というのである。
法人税減税に限らず、
今ほど、企業の社会的責任について、深くとらえ直す視点が求められている時はない。
あるべき税の制度と、あるべき雇用の制度、
これを一体的に考える社会的取り組みが今こそ欠かせない。
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