虚構の世界~昭和42年生まれの男の思い~

昭和42年生まれの男から見た人生の様々な交差点を綴っていきます

恩人~見せかけの努力と本物の誠実さ~

2017-06-15 18:13:30 | 小説
 彼は二重人格的な色彩が強い。彼は、週五回夕方から大手学習塾で国語を教える。そして、昼間は週に三回大学浪人生専門の予備校で
現代文を教える。その他に特別に頼まれた中学生と高校生を何人か家庭教師でかなり高額な金額で教えていた。これだけで月に40万円近くの
収入になる。

 これこそが彼を自惚れさせる最大の元凶だ。自分は「できる」といろいろな面で勘違いし、そしてナルシスト的な考えが強くなる。

将来は、小学校の教師になりたいという理想を求めているが、そのための努力はしていない。何となく高収入を得て、毎日、生徒たちにチヤホヤされるこの甘い世界に浸っていることに居心地がよくなっていた・・・・・。

 反対に彼女の看護師という仕事に対する誇りは本物だった。帰ってからも本を読んだりして勉強していた。今の病棟は勉強することがたくさんあるし
婦長さんが厳しいので、たくさん学ぶことがあると言っていた。

 彼は一度、彼女が働いている病院に友達を見舞いに行き、彼女の働いている姿を目にした。

 清潔感にあふれ、優しさに満ち溢れていた・・・。まぶしいくらいに輝いて見えた・・・。それだけでまたあの胸の苦しみが襲ってきた。
ドキドキというより、しめつけられるほどの刺激が胸を襲うのだ・・・。


 こんな人と自分がつきあってくれていると考えただけで、また、胸が苦しくなった・・・・。

 教員採用試験まであと一ヶ月を切って、彼はやっと勉強をスタートさせる。

 朝から図書館に出かけ、そこで勉強するようになった。


 しかし、それは見せかけだけの努力・・・。そうやって勉強している自分に酔っているだけだった。

「素敵な彼女がいる」「教員試験に向けて努力している」、そんなごっこ遊びのような言動に酔っているだけだった。

 彼が高校や大学受験に費やした勉強に比べれば、足元にも及ばない勉強だった。「ふり」をしている勉強・・・・・。

 それでいて、塾や予備校の教壇では、問題文から「努力」「誠実」「夢」といった背景主題に迫りながら、生徒に熱く語っていた・・・。
自分には全くできないことを彼はさも真実性のあるかのように生徒に投げかけていた。そして、自分は本物であるという錯覚に酔いしれていた。

 彼女は、「準夜勤」の時間帯を多く希望するようになった。夕方から深夜12時ぐらいまでのシフトである。理由は・・・・。


 彼といっしょにいたいから・・・。二人は深夜の居酒屋で食事をして、それから

二人で飛び込みで入ったバーによく出かけていた。

バーでは、相変わらず、下で手をつなぎながら、のんでいた・・・。


 すべてが「ふり」をして自己満足に浸っていた26歳の6月・・・。採用試験は、すぐそこまで迫っていた。