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電車を乗り継いで、大花野に出かけて行った。晩秋のことで、観光客はいなかった。
野良猫が一匹寝そべって草の匂いを嗅いでいた。純粋な野良ではなく、人に飼われたことのある猫のようだった。私が近づいても逃げなかったし、接近しても、人に寄り添ってくるような人懐こさはまるで抱いていない印象だった。それなら私としても、連れ帰る責任はないわけで、気が楽だった。
その一匹の猫は、人に関心を寄せているふうもなく、寝そべって、近くに生えている冬草の匂いを嗅いだり、柔らかくて食べられそうなら、口に入れて咀嚼しているようだった。
すべてが寝たままの怠惰な動きなので、猫の気ままな性質なのかもしれなかった
私は三四枚猫のスナップを撮り、
「じゃあな、俺は帰る。元気で生き続けてくれ」
と言葉を置いて、猫から離れる動きをした。するといきなり猫は立ち上がり、私に横っ腹を見せて大きく伸びをした。猫から一声漏れた気がしたが、あるいは私の空耳であったかもしれない。
私は田舎の駅に向かって、猫は反対の山に進路を取って歩き出した。
曇天は暗さを増して、一雨きそうだった。しばらく降ったあと、みぞれか、雪になるかもしれなかった。
少し歩いて振り返ると、猫は完全に姿を消していた。
end
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