波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

陽炎

2015-05-11 15:56:07 | 掌編小説



◇陽炎


 別れ際ホームに陽炎立つばかり



 地元の高校を卒業した娘は、田舎の駅から父に送られて上京した。

 父はホームに立っていた。ホームには、父の他に誰もいなかった。陽炎が立ち、

父の姿さえぼかしていた。

 後になって,娘は自分の旅立ちの日を想い出すにつけ、あのとき父はホームにいなか

ったのではないかと考えるようになった。それほど父の影は薄くなっていた。

 娘に辛い思いをさせたくないから、姿を消していたのではないかと,勘ぐったりもした。

実際父は、間もなく他界してしまい、ホームでの別れが、父との最後になった。

 おしまいなら、よけいしっかり記憶に留めておきたいのに、そうならないのが、

娘はもどかしく、辛かった。