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屋根の上に繁茂する草木

 イザナキ・イザナミ系の神話には、海の彼方に尽きることのない生命の源泉があるという観念、すなわち「トコヨ(常世)の国」の観念があった*01と溝口睦子さんはいいます。さらにそこには高天原や根の国、黄泉の国、海神(わたつみ)の国など、いくつもの異界があって、多様な価値がそれぞれ独立して分散的に存在する「多神教的」世界だったというのです。そしてその世界には唯一絶対の権威をもつ絶対神は存在しませんでした。そうした絶対神の登場は「どこまでも続く広い天とその下の広い大地を対象とした、地域の枠を超えた神話」*01が必要でした。そのような神話は、唯一絶対性・至高性という点ではるかに勝っていた北方ユーラシア系の天降り神話の導入までまたなければならなかったのです。そしてそれは5世紀の日本を襲った外圧による危機的状況とそれを乗り越えるためのきわめて政治的理由によりもたらされた、と溝口さんはいいます。
 
それ以前の多神教的世界では、青々と繁茂する樹木の生命力に大いなる敬意が払われていました。原初から続く草葺き(茅葺き)の家では、年月が経るに従って、壁には蔦が絡まり、屋根には植物の芽がはえ、建物全体が次第に草木に覆われていきました。古代の人々はそうした状況をむしろめでたいことと考えていた*02と川添さんは指摘します。正殿や宝殿、瑞垣に生いつきかかる玉葛は取り払わない(そして同じように屋根に自生した草木も取り払わない)という取決めさえあったというのです。


埴輪_家/群馬県伊勢崎市八寸出土/古墳時代
/東京国立博物館蔵画像より http://www.tnm.jp/


 家型埴輪の中には、屋根の上に載る千木と堅魚木が、まるで種から芽を出した草木のように見えるものがあります。
天の神が一般化する以前、まさに屋根に繁茂する草木をこの埴輪は表現していたのではないでしょうか。

*01:アマテラスの誕生-古代王権の源流を探る/溝口睦子/岩波書店 岩波新書 2009.01.20
*02:「木の文明」の成立(上)―精神と物質をつなぐもの/川添登/日本放送出版協会 1990.11.30

 

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