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スピリットの誕生

 ショーヴェ洞窟彼らが壁面に出現させた動物たちは、人間にとって特別の意味を持った“ものたち”でした。環境の中にある、人間にとって特に意味ある振る舞いを生み出す存在。原始の人びとがその「まとまり」をスピリットと捉えたとするならば、スピリット(精霊)が環境の中のあらゆるところに存在するのも当然といえるかもしれません。
 
風にそよぐ木の葉は、群をなして実に複雑な動きを見せます。またぎわざわと様々な音をたてます。その音が突然変化した時、それは木の葉の間を縫って敵が近づいてくる前触れかもしれません。また木々が見事な花を咲かせると、それは次にはおいしい実がなる前兆であり、彼に食べ物の在りかを示すサインとなるのです。
 
このような一連の流れは、環境の中に「意味」を生み出します。こうした「意味ある振る舞い」を目撃し、経験し、内部に意味を生み出す存在である人間は、これらを一つの「まとまりあるもの」と捉えるでしょう。
 いま私たちは知識によってこのまとまりあるものが○○という植物であることを知っています。そして植物としての成長と交配のプロセス、風という別の現象がその植物にもたらす動き等を理解しています。しかしながら野生の思考しか持ち得なかった原始の時代には、彼らは優れた観察と経験で得られたものからのみ、その一連の現象を解釈せざるをえなかったのです。そこで経験するものは、人間や熊などのように一つの「まとまり」としてわかりやすい形態を持ったものばかりではありませんでした。目に見えないものも含めたひとつの存在として、彼らにはその「まとまり」がはっきり見えていたのではないでしょうか。
 
再認のプロセスとしての記憶が、永い時間をかけて環境の中で意味を生み出す振る舞いをカテゴライズしていきました。他者への伝達としての実体を持ったイメージをつくりだしてきました。人間はのちにその「まとまり」に記号を与え、言葉を与えていったのです。
 スピリットはこうして記号や言葉が生まれる以前から、ひとつの「まとまりのある意味を生み出す存在」としてあったのです。特に人間が生存するうえにおいて重要なものがスピリットとして強く意識されていったのでしょう。
 
「美」は人間の根源的な感情と密接に関係しています。「美」という公式を、その時代の人びとの素朴な願望を反映した公式とするならば、言葉がまだ生まれていなかった太古の時代においてもそうした図式はあったのかもしれません。それはいわば「スピリット=美」という公式だったのではないでしょうか。


アルタミラ洞窟壁画(1800010000年前)
/スペイン・カンタブリア州・サンティリャーナ・デル・マル近郊
AltamiraBison

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