秋風

アキバ系評論・創作

八月最後の週末

2009-08-29 23:32:53 | Weblog
まだ暑いのに冬コミのネット申し込みは昨日で締め切りでした。受かるといいな……
さて月下の舞姫ですが間が開いてしまいまして申し訳ないです。
毎日ブログ更新の方は本当に凄いですね。

どこが月下で舞姫なのかはもう暫くお待ち下さい。
まぁ今のところ主に夕方のから夜へかけての話で月は見えているかも知れませんが。
基本的に現実世界をベースにしていてそこにフィクションを被せていくスタイルの予定です。

だからちょっとオタクなあゆは基本的に学校の帰りに秋葉原電気街を巡回して台東区のリアル秋葉原に帰るのです。


月下の舞姫vol.5

2009-08-29 23:08:10 | Weblog
「驚き、恐れ、疑い、惑い、マイナスからのスタート」

 あゆは昨日の自宅前遭遇戦(未満)を受けて高校に進学してから初めて約半月ぶりに合気道場に来ていた。
 地下鉄千代田線湯島駅近くの住宅地一角に在ってあゆの住む台東区秋葉原からも歩いて行ける距離にある。
 しばらく来なくて敷居が高かったのでゲーセン友達(月下の舞姫vol.3)の亜里沙(ありさ)を体験入門に誘った。
 あゆ高1、亜里沙小5だが背は亜里沙の方が10㎝程高い。さすがに見比べればあゆの方が大人っぽい顔をしているがパッと見は小学生同士に見える。
 稽古前に恒例の剣道の四戒(驚、懼、疑、惑)をベースにした四戒+αを師弟が一緒に斉唱する。壁に貼ったA1の紙に大きく達筆な毛筆で書かれている。
 
 斉唱し終わり一見武道家には見えない普通の四十路サラリーマン風の師範が向き直る。午後6時から夕方の部が始まるが今は15分前で道場には師範とあゆ、亜里沙の三人しか居ない。あゆと亜里沙は学校の制服姿で師匠は道衣姿である。
「あゆ、解説して」
「はい、先生」
 ここの合気道場は学習塾愚問式も兼ねているので師匠を先生と呼ぶ。
「んん……」
 あゆが小さく咳払いしてかしこまる。
「んぎゃぁー!!」
 あゆは突然、年頃の女の子とは思えない怪鳥のような奇声を上げ亜里沙に抱き付き頬擦りをする。
「んん~すべすべしててかわいい~普段はブレザーの方が楽だけどセーラー服もいいわねー」
 亜里沙は硬直して声も出ない。師範はやれやれといった仕草で呆れている。
「びっくりした? これに全てが込められているのよ」
「な、な、何? あゆさん?」
「今の場合、突然抱きつかれて驚き、次に恐れるというか怖く思う。それから私が何考えているかと疑い、これからどうしようと戸惑うつまり惑う。分かる?」
「うん」
 あゆはまだ亜里沙に抱き付いたまま説明している。
「これが変な人に絡まれた場合、いつまでもびっくりしていないで早く立ち直って逃げないと。抱き付かれていたら振り解かないと。さ、やってみて」
「う、うん」
 亜里沙は少しジタバタするがどうにもならない。
「うわー逃げられた」(棒読み)
 あゆがわざと手を離しふたりは正対する。 
「この状態でやっとまぁ対等。空手や柔道の試合と違って街中での護身術は常に何かされてから、されそうになってからスタートするの」
「だからマイナスからのスタート?」
「そう、先手必勝、攻撃は最大の防御なり! ってのはゲームの中の話ね。ちなみにゲーム脳ってのは嘘で、」
「ああ、いいかな?」
 そろそろ夕方の部の合気道や塾の生徒がやって来たのであゆの薀蓄話を遮った。

 剣道の四戒解説は「剣道 四戒」でググると簡単に出てくるのでそちらを参照。


「ありがとうございました」
 午後8時過ぎ、道場が入っているビルの玄関で亜里沙がぺこりとお辞儀をした。
「今日はびっくりさせたね。また気が向いたらいらっしゃい」
 師範が見送る横であゆはいつものいたずらっぽい笑顔で靴を履いている。
「は、はい」
 これはどうなるかなー? と思いながら師範は手を繋いで帰るふたりを見送った。

「どうだった?」
「ん……わかんない」
 亜里沙はいつものちょっと優柔不断な応対をする。フライトシミュレーションゲーム『月下の咆哮』であゆと編隊を組んでいてもそうで物事をひとりでを決めるのが苦手なようだ。
 対地攻撃のコースに入った時、敵機襲来の時、直ちに爆装を捨てて応戦するか投弾してからそうするかではあゆの指示がないと成り行き任せでいい的にされてしまう。
 あゆはギリギリまで対地攻撃していて投弾・機関砲掃射後、極超低空で背面飛行しながら機体下部に備わっているチャフ・フレアを撒いて敵機の攻撃を交わした後ドックファイトに臨むが多くの人は真似出来ない。
http://www.wdic.org/w/MILI/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%95

「とりあえず学習塾の愚問式の方にだけでも来る? あの先生教えるの巧いよ」
「色々やっているんだ」
「元々、代々合気道と弓道の道場で、合い間に昔はソロバンかなんかも教えていたんだって。それで建物が老朽化したから一昨年ビルに立て替えたのよ」
 末広町交差点に出たところでふたりは止まり亜里沙の父親の運転する車を待つ。道場の体験入門に誘った時、亜里沙が父親に連絡しそういう段取りになった。 
 交差点にあるコンビニで飲み物やお菓子を買いあゆは再び道場の説明をする。
「今はあのビルの最上階に住んでその下が愚問式学習塾と合気道場そのもっと下は他人に貸していてパソコン教室とかが入っているね」
「あれ? 弓道道もあったっけ?」
 亜里沙はポッキーをかじりながら思い出したように尋ねる。
「……今は無いのよ、あの先生のお父さんが師範だったけどもう引退しちゃったし何よりも場所取るし安全管理も大変だし」
 あゆはドーナツをもぐもぐして嚥下してから答える。
「あゆさんは習っていたのよね?」
「うん、小学校に上がった時、多分一生他人より小柄っぽいからってお父さんに連れられて合気道を習いに来たんだ」
 亜里沙はあゆよりも5歳も年下なのに10㎝以上背が高いので何とも返答に困る。
「……気にしてないし身軽なせいかそんなに困らないけどね」
 ひょいとガードレールの上に飛び乗りすたすた歩いて見せる。
「はい、そこの女の子危ないから降りて!」
 巡回中のパトカーからスピーカーで注意されるもあゆは屈託の無い笑顔で手を振る。
「それで一緒に愚問式と弓道もやり始めたんだ」
 あゆはぱっと飛び降り何事も無かったように話続ける。

「あ、あれ、お父さんの車じゃない?」