Rising斬 the侍銃士

音楽のこと、時代小説、映画を中心にしていくと思います。タイトルは自分のHNの由来になったゲームから

Legend of the Galactic Heroes

2008-01-15 02:05:05 | 本と雑誌

これを読んでるせいで、司馬遼太郎も読んだ事ないような奴に馬鹿にされたこともありますし、読む側としてはSFであるがために損をする部分も多いですが、こと小説そのものは俺的には充分一流の長編小説でした。


SF好きには有名な「銀河英雄伝説」(田中芳樹/徳間書店)略して「銀英伝」、かつて後輩から薦められ、貸してもらえるはずだったが駄目になっていた長編小説。
さらに別な人にも薦められたし、長いから嫌だったが意を決して読みました。


ざっと説明すると、
人類は人口の増加により地球外での生活を始める。
その後、宇宙はルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが支配する銀河帝国、それに反発したハイネセンが建設した同盟国、その間に位置する独立国家フェザーンの三つ巴の体制となり、数百年間膠着状態。
しかし、帝国・同盟両国に天才が現れたことにより、歴史が動き出すことになる。


けっこう1巻からのシチュエーションがかなり好きです。
帝国に誕生した天才・ラインハルトが古い人間たちを黙らせ作戦を遂行させたり、同盟のヤンがせっかく立てた優れた作戦を上官にもみ消されたり、それが個人的にえらく共感できてよかった。
膠着している双方の陣営で、現状維持を望む旧世代と変革を望む新世代の対立。そういう意味では俺もまだ新世代側ですし。


そして、2巻では、でしゃばりまくってるオーベルシュタイン、彼のせいでひどいことになるのに、それを責めないラインハルトが偉いと思った。が、あんまりにもオーベルシュタインにそそのかされすぎのような。No.2への特別扱いを認めないのなら、特別扱いされる人間を増やす方にすればいいのに。


それと、ラインハルトはもっとすごい奴でもよかったかな。
欠点があるのはまた魅力ではありますけど、ちょうどこれの後に読んだ「風林火山」の山本勘助がオーベルシュタインを髣髴とさせ、でも武田信玄とラインハルトを比べると、やっぱりラインハルトは信玄には劣る。
といっても、群雄割拠の戦国時代には誰よりも優れた人間でなければ吸収されるのみだったのに比べ、銀河帝国は長く続いた体制に勇気を出してNOと言う人間の代表者になってくれる人物が求められ、それをやってのけたのがラインハルトただ一人。たとえその人物に欠点があっても代表者で居てくれるならばいくらでもフォローしますぜ的な時代背景はあったかもしれませんね。
どっかの漫画風に言えば「誰にもできないことを堂々とやる。そこにシビれる、憧れるゥ」というやつです。


書き方という点で面白いと思うのは、この時代を、さらに後の時代からの視点で描いている点です。
起きた事実に対し、後の歴史学者の見解を載せる。それが歴史小説を読んでる気分になるし、そうすることでこの小説にリアリティが生まれていると思います。
また、見解を載せている歴史家が複数おり、様々な立場から違う視点での意見を述べてくれているのもなかなか面白い。これによって読者にも同じ事実で色々な見方ができることを教えてくれていると思います。
まあ、登場人物の述懐等ありますが、「こいつの発言があるってことは死なないんだな」「あれ?そういえばあいつの発言がないな」とかは考えちゃいけないのでしょう。
といっても「後世の人々が振り返って描いた歴史小説」という形ならば、すでにどうなるかわかった上でなぜそうなったのかを楽しむというのも一つの読み方ですね。当時の人たちはオチの読みが外れてずいぶん衝撃を受けていたのでしょうけれども。


それから、これまで読んだ軍記関係で、「坂の上の雲」にも「三国志」にもあった「戦略」と「戦術」について、両者の違いを説明すると言う点では非常にわかりやすかったです。
そういった様々な点で、非常に物を書くのが上手い方だという印象は得られました。
しかし、妙に気取った表現は、俺に薦めた人の中でも長所として取り上げる人もいましたが、俺的には余計ですかね。
どうも、「たてがみのような金髪」だの、視覚的な表現で美形であることを想像させようとするのが俺には非常に不必要。作家は形容詞ではなく、事実を並べることで読者に惚れさせ、美辞麗句の形容詞は読者に考えさせて欲しいです。
俺もラインハルトは好きなんですけど、側近たちがラインハルトにが陶酔しまくる気持ちは、あそこまでは理解できないのが少し寂しく感じられます。


いい意味で読者を裏切り、「こうなって欲しかった」という展開には絶対なってくれない部分はとても好印象でした。そういう皮肉っぷりがまた感じ悪いんですけれども。


オーベルシュタインを評して、自分を嫌われさせることでラインハルトの人気を高める、というのと同様、自分もキャラをいじめ、むかつく言い方を多用して作者を嫌わせることで、小説の登場人物への愛着を増すよう促しているのかもしれません。


それと、ライトノベルだけあって恋愛描写がさすが。純愛だらけでまいりますね。ユリアンだけはちょっとどうなのかと思わせられたが。
誰かさんの「そういうところも含めて全てを好きになってしまったのです」とか、読んだ人は是非誰かに使って相手を喜ばせて欲しい。
ラインハルトのピュアっぷりもいいですね。むしろここが彼の魅力。優れたリーダーと言うより、ほっとけないタイプだから皆ついてきたのかも。
あとは、ケスラーとかね。あのロリ野郎。


そして、この小説で提示される一つの議題。
「優れた帝国主義」と「腐った民主主義」ではどちらをとるべきか?
これはなかなか面白かったです。


作者の分身と思えるヤンが常に同盟の幹部に足を引っ張られ、苦労しながら戦う点に、とても考えさせられた。
こんなにヤンを苦しめる民主主義を、なぜヤンは守ろうとするのか。
作者としては、ただ民主主義を守りつづける人々、民主主義を批判する人々、彼らの主張の根拠を示すのみで、結局本当にどちらがいいのかは気が向いた読者が個々に判断するのに委ねている感じがとても巧い。


ただ、キャラで見た場合、帝国軍の登場人物はなんか印象に残りにくいですかね。
同盟軍に比べて見劣りしないのはロイエンタールとオーベルシュタインくらい。
ミッターマイヤーが「私がいなくなってもミュラーがいます」というシーンがありましたが、これが帝国軍の層の厚さを物語るとともに、結局は誰がやっても同じと言う個々の個性の薄さも物語っているような気がしてしまいます。
同盟軍の場合、作戦を遂行する際の配置が読者が考えても同じになりそうなくらい専門分野がハッキリしていますし、犠牲が出た場合の穴埋めに非常に悩まされている。
帝国軍でも「彼がいれば…」という所はありますけどね。それもアナログな「彼みたいな奴がいれば」ではなく「彼ぐらい能力がある奴がいれば」というデジタルな感慨でしかない、といえると思います。
そういう点で、この小説だけで判断すれば、個性が発揮できる同盟の民主主義の方が上、かな。
でも、「機動戦士ガンダム」の帝国主義的な側であるジオン公国軍はえらく個性豊かですから、あんまり関係ないですね。
逆にロリ野郎のケスラーやビッテンフェルトなんかは堅真面目タイプを生かしたエピソードがあってけっこう好きです。


まあ好き嫌いで選ぶのも作者にしてみれば不本意になるんでしょうね。
アッテンボローか誰かが言っていた、帝国主義が起こるのは「民衆が楽をしたいからさ」というのがあるとおり、
そしてヤンも言っていた通り、政治が良くなろうが悪くなろうが民衆の責任、というほうが、ラインハルトだけがしっかりしていればいい世界ではなく、人々みんなが賢くなければいけない世界、というのがいいと思います。
面倒くさいし、みんなが賢くなんていつまでたっても無理かもしれないけれど、やっぱり自分の国のことは自分が責任を持つべき。ラインハルトだけがしっかりしていればいいのであれば、自分が賢くなる必要もなくなってしまう。


そういう意味では、帝国主義か民主主義かという観点だけで見るという意味では、現在日本の選挙の投票率は半分行くかどうかなんですけど、半分近くが投票しないと言うのは、半分近くが民主主義がなくなることに賛成、という意味に取られても仕方ないのではないですかね。
少なくとも、マジで帝国主義を狙っている人間にとって今の日本はすごく都合がいい国になっていないかな。そんなことを気にしてしまいます。


1 コメント

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おーい!久しぶりでやんすねー。 (春田勝盛)
2008-01-23 20:08:22
おーい!久しぶりでやんすねー。
お元気してますか?
ジャーまたね。
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