男は、それを箱から取り出すと、手の中でもてあそびながらその重さの感触を楽しみ、おもむろに壁に立て掛けてある鏡に向かって構えをとった。頭の中は早くも架空の世界へ入り込んでしまっているかのようだ。
「うん、うん。決まっている。」
鏡の前で様々なポーズをとる事を十分に堪能すると、手にしていた『あるもの』のグリップからマガジンを抜いて本体を静かに机の上に置き、マガジンの中にある金色に輝くカートリッジを全部取り出し、両手の指先で軽く捻ると丁度真ん中辺りから二つに分離した。
空洞になっているカートリッジの中を点検すると、奥の方に紙くずがついている。その紙くずをピンセットで丁寧に取り出した後、オイルを染み込ませた綿棒で空洞の中を軽くひと拭きする。
それから9回、同じ作業を繰り返してからそれらを本体の横にまっすぐに並べ、そして横の引き出しから平玉の火薬を丁寧に取り出した。
「どうしようか。」
「やっぱり全部にしよう」
回答を見いだすと男は道具箱から取り出したカッターナイフを器用に使い、火薬部分だけを取り分ける作業に没頭する。ここで急ぐのは禁物である。手にしているのは小さくても火薬。間違っても発火させてはいけない。
1個につき4個は必要だから、全部で36個。それは一見気の遠くなるような作業に思えたが、後に控えている快感を想像すると、不思議に苦痛ではなくなってくる。
ばらばらにした火薬を先程掃除したカートリッジの末部の中に納める。火薬が動かないよう、慎重に押さえてながらリング状の詰め物をし、頭部を取り付ける。これでやっと1個完了。
9個とも完了してから、それらを再びマガジンの中に納め、これでひとまず一段落である。しばし休憩。
男はそのマガジンをそっと横に置くと、先程机の上に置いた本体を手に取り、手順よく分解を始めた。金属に模した外装をしているが、スライド部は強化プラスチックで出来ている。実はそのプラスチックのあちこちに埋め込まれている金属がウエイトとなり、重厚な重さを醸し出している。
外観こそプラスチックだが、内部パーツの殆どは鍛造金属とバネでできており、チャンバーに穴が開いていない事を除けば本物と全く同じ構成になったいる。
分解した部品のひとつひとつを床に広げた新聞の上に並べてから全体にまんべんなくシリコンオイルを吹き掛け、それをティッシュで丁寧にふき取る作業に移る。
拭き取りを終えると今度は組み立て作業に移る。とはいえその作業は慣れたもの。傍に置いてある分解図を見ることなくスムーズに組み上げられたそれを手に取ると、一連の動作確認をする。どこにも無理な力が加わらない事を確認すると、始めて笑顔が浮かんだ。
次号に続く
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